藤巻亮太が語る、心境変化。5年間のソロ活動を経て見えたこと

前作『日日是好日』から約1年半というスパンでリリースされた藤巻亮太のニューアルバム『北極星』。2012年2月にソロ活動をスタートし、レミオロメンでは表現できなかった初期衝動を詰め込んだ1stアルバム『オオカミ青年』をリリースして以降、その時々の心情とリンクさせた音楽を生み出してきた彼は、本作において、これまで以上にフラットな地点から、シンガーソングライターとしてのポテンシャルの高さを世に示しているように思える。SOIL&"PIMP"SESSIONSのタブゾンビや小林武史、さらにレミオロメンのメンバーである前田啓介、神宮司治など、藤巻とゆかりのある人々がクレジットに名を連ねている本作は、彼自身にとって、どんな一枚となったのだろうか。

そして、これまで以上にラブソングが多いようにも思える本作で、彼がエモーショナルに歌い上げる「愛」の行きつく先とは、果たしてどこなのか。藤巻亮太に、ソロとしての道程と、その果てに辿り着いた現在について、率直に尋ねた。

20代でレミオロメンをやって、早くにブレイクさせていただいたおかげで、多くの人が20代で経験するような苦労をすっ飛ばしていたんですよ。

—ソロとしては3枚目となるアルバム『北極星』が完成しました。前作『日日是好日』が約3年半かかったのに対して、今回は約1年半ぶりと、かなり早いペースでのリリースですね。

藤巻:1枚目の『オオカミ青年』と2枚目の『日日是好日』のあいだの3年半は、一番悩みが深かったんだと思います。それに比べると今回は、割と自然に作ることができたんですけど、それはなぜかというと、創作には「背景」が必要じゃないですか。「こういう反動があったんです」とか「こういう開き直りで作りました」とか。

—『オオカミ青年』と『日日是好日』は、その通りでしたね(インタビュー記事:藤巻亮太が語る、レミオロメンの曲もソロで歌うことを決めた思い)。

藤巻:でも、今回のアルバムは「生きていくことがそのまま歌になっていく」という感じで作れたんです。だから、背景など抜きに「これが僕のソロアルバムです」って胸を張って言えるような作品ができたと思います。

藤巻亮太
藤巻亮太

—なぜ今回、背景なしでアルバムを作れたのでしょう?

藤巻:音楽というのは、テクニックで作るものじゃないと思うんです。そうではなくて、「溢れてくる」のか、「出会う」のかわからないですけど、自然に出てくるものが僕の場合は一番よくて。それをキャッチできる状態にようやくなれたんですよね。いま、この時間を生きていることと音楽を作ることが、すごくシンクロしているというか。だから、結構自然と音楽が湧いてきます。

—つまり、ソングライターとしてこの1年ぐらいはいい状態にあったということですか?

藤巻:それまで囚われていたものがなくなってきたというか。ソロになってよかったのは、いろんな意味で、勉強できたことだと思うんです。

20代でレミオロメンをやって、早くにブレイクさせていただいて。それはすごく幸運なことですけど、多くの人に助けてもらっていたところがあるし、そのおかげで自分は、多くの人が20代で経験するような苦労をすっ飛ばしていたんですよ。だから、多くの人が20代でぶち当たるようなことを、30代になって経験しているようなところがあって。

—なるほど。

藤巻:30代でソロ活動をして感じたのは、「自分がいい方向に変わっていくことで、周りの人や物事も変わっていくんだな」ということ。自分が変われば、話すことも行動も変わるし、それによって少しずつ状況も変わったりとかして。やっぱり自分がちゃんと変わっていかなきゃいけない。いま目の前にある扉の鍵穴に対して、自分がその「マスターキー」になっていく必要があると思うんです。

藤巻亮太

—その思いから生まれたのが、今回のアルバムに収録されている“マスターキー”なんですね。

藤巻:そう。扉を開けることができるのは、やっぱり自分自身なんですよね。その鍵がどこか別の場所にあるわけではなく、自分をトランスフォームさせて、その扉を開けていけばいい。それは自分にとっての新しい「自由の概念」というか、「そういう自由もあるんだな」と思って。そう考えると、生き方がすごく楽になりました。

—まさに変化ですね。

藤巻:レミオロメンのときはなかなか考えられなかったけど、ソロになってそう思えることが、自分にとってはすごくためになっている気がします。だから、ソロ活動は僕にとって「修行」みたいなところがありますね。

—「修行」ですか?

藤巻:はい。その中で見えた景色や気づけたことが、1個1個自分の血肉になっているんです。

—なるほど。ただ、今回のアルバムを聴いてまず思ったのは、やっぱり藤巻さんはいい曲を書くし、いい歌を歌うという、すごく単純なところです。先ほど藤巻さんが仰った「アルバムが生まれる背景」の話ではないけど、そうした文脈や物語がなくても楽しめる。

藤巻:シンプルな部分でちゃんと勝負できるというか、ストレートなところで成立しているアルバムなのかもしれないですね。音楽というのは、ある意味で無根拠なもの。それを説明しなきゃいけないと思ってやっているのも、ひとつの囚われだし、思い込みなんでしょうね。

自分の人生にとって一番大きいのはレミオロメンを組んだことだと思うんです。

—表題曲“北極星”は、地元の山梨でできた曲だそうですね。

藤巻:そう。2年前の夏に、地元山梨の実家のそばの公民館を借りて……。

—それは、どういう動機だったのでしょう?

藤巻:その頃、東京で曲作りをしていたんですけど、ちょっと煮詰まりそうだったから場所を変えようと思って。「そう言えば、山梨の公民館、貸してくれるかな?」と思って相談したら、貸してくれることになったので、そこに機材を持ち込みました。

—2年前と言ったら、『日日是好日』のリリースよりも前ですよね

藤巻:そうなんです。だから『日日是好日』に入れるかどうか、ちょっと悩みました。ただ、あのアルバムは、“日日是好日”という曲が象徴的だったように、過去よりも「いま」を歌ったものが多かった。だからその中に入れるよりも、別のタイミングがあるんじゃないかっていう判断をして、今回のリード曲へと育てていきました。

公民館の窓を開けると、ぶどう畑と甲府盆地が広がっていて、南アルプスもあって……18年間見慣れた景色がありました。「ここでいろんな経験をしたし、いろんな出会いや別れがあったな」と思って。中でも、自分の人生にとって一番大きいのはレミオロメンを組んだことだと思うんです。メンバーと出会った町でもあるし、それこそ「神社時代」っていうのがあって……。

—ああ、デビュー前、地元山梨の神社の母屋で、ひたすら三人で曲を作っていたという。

藤巻:そう。それもレミオロメンにとっては原点だし、そこで培われた精神性やピュアなものは自分にとって原点なんですよね。日々、刺激を受けて、悩んで、価値観も変わりながら生きていくんだけど、当時の「ただ音楽が好きだからやっていた」という部分は、絶対に変わらない。それって理屈じゃない部分だと思うんです。

それは、さっき言ったこととも関係してくるんですけど、そういう理屈じゃない世界から立ち上がってくるようなものをやっぱり大事にしたいし、それがある意味、僕の音楽にとっての北極星、つまり「見上げたら常にずっとそこにあるもの」なんですよね。

—なるほど。

藤巻:そんなことを考えながら、メンバーのことを思い浮かべていたら、目の前の景色とともに「うわー」って思いが溢れてきて。その溢れる思いのままに作ったのが、“北極星”です。

藤巻亮太『北極星』ジャケット。この写真も山梨で撮影された
藤巻亮太『北極星』ジャケット。この写真も山梨で撮影された(Amazonで見る

—それは確かに<過去より未来より このいまが一番大事>っていう『日日是好日』のモードとはちょっと違うかもしれないですね。

藤巻:今回はひとつの節目として、次のステージに向かっていくようなアルバムかもしれないですね。『オオカミ青年』から始まって、『日日是好日』があって、この『北極星』までがワンセットになっている気がします。

雷は「電気を渡す橋」みたいなものだし、音楽もいろんな思いを繋いでいく橋になり得る。

—他の曲にもいくつか触れさせてください。10曲目“愛を”は、久しぶりにエモーショナルなラブソングで、歌い上げるタイプのラブソングになっていますよね?

藤巻:そうですね。そして、男性スタッフの共感度が半端ない(笑)。

—かつての“粉雪”のような、久々の歌い上げ系のラブソングで、新鮮でした。

藤巻:確かに、こういう「愛の叫び」みたいなものは、久しぶりかもしれないですね。歌詞で、しょうもない自分をさらけ出すっていう(笑)。

—(笑)。

藤巻:本当にしょうもないところがあって。やっぱり「愛」って実践というか、日々の行動だと思うんですよね。そういう行動が「自分に足りているのかな?」ということに、すごく向き合った時期があって。そのときに、一人でずっとスタジオにこもって、ひたすら作っていた曲ですね。

藤巻亮太

—山梨で作った曲も入れると、今回のアルバムは曲によって作ったタイミングや場所がかなりバラバラなんですね。

藤巻:“Blue Jet“なんて、チベットで作りましたから。

—チベット?

藤巻:去年チベットを旅していて、ナムツォという標高6000メートル近いところにある湖の湖畔に泊まっていたんです。そしたら夜に外が光って。窓の外を見たら、音のない雷がドワーッて光っていて幻想的だったんです。それを見た次の日に作ったのが“Blue Jet”。雷は「電気を渡す橋」みたいなもので、やっぱり音楽も、人の気持ちや、過去の思い出と未来の夢、君と僕など、いろんな思いを繋いでいく橋になり得るものだと思って。

—ここで歌われている、<ただここに生きて 橋を架けてゆく>という歌詞は、音楽のことも指しているのですね。

藤巻:そうなんです。

—ちなみに、「Blue Jet」というのは?

藤巻:「逆さ雷」のことですね。宇宙に向かってビューンと上がっていく雷。だからある意味では自分から遠ざかるイメージなんだけど、人間の心もひとつの宇宙じゃないですか。心が宇宙だとしたら、その内側に橋を架けてゆくイメージなんです。

—なるほど。チベットでそれを見たと。

藤巻:そうです。だから、甲府盆地からチベットの山奥まで、今回のアルバムは、本当にいろんな場所で書いた曲が入っていますね。

本当のところを言うと、『オオカミ青年』が終わったら、またすぐにレミオロメンを再開しようと思っていたんですよね。

—今回のアルバムを聴いてすごく印象的だったのは、音色も含めてアレンジが豊かになっていることです。今回も藤巻さんが自分でアレンジをやっているんですよね?

藤巻:ソロになってからはずっと自分でやっています。当初は「今回は、全曲いろんな人にプロデュースしてもらうのもいいな」と思っていたんですけど、デモを作り上げていく段階でディレクターが、「これは自分でやりきったほうがいい」と言ってくれて。そのアドバイスが大きかったですね。

—なるほど。

藤巻:2枚目までは、完成度よりも自分が気持ちいいほうにアレンジしていたところがあったんです。でも今回は、アンサンブルとか音色についてもう少し突き詰めたり、整理したりしてみようと思って。

自分で曲を書いて、歌詞を書いているけど、その全体像は最初なかなかわからないんです。だから「ああでもない」「こうでもない」って、音やフレーズを入れたり抜いたりしながら、一曲一曲作り上げていく……その作業は、今回すごく楽しかったですね。

藤巻亮太

—かといって、一人で全部の楽器をやるわけではなく、足りないところはゲストを呼んで録っていますね。

藤巻:「ドラムはやっぱり生がいいからお願いしよう」とか、「この曲はピアノも生で弾いてもらいたいからお願いしよう」とか、曲ごとに考えていきました。“another story”は、「小林(武史)さん、アレンジしてくれないかな?」と思って、お願いしてみたりして。

—小林さんと一緒にやるのは、すごい久しぶりですよね?

藤巻:多分、レミオロメンぶりだと思います。

—なぜその曲のアレンジを小林さんにお願いしようと思ったんですか?

藤巻:“another story”は、結構前からあった曲なんですけど、こういう堂々としたバラードに、小林さんのカウンターメロディーやピアノが入ったら幸せだなって思ってたんですよね。それでお話したら、「いいよ」って快くやってくれて。

だから、この曲はほぼ小林さんに丸投げです。ピアノの打ち込みとアコギぐらいしか入ってないものを聴いてもらって、あとのアレンジはすべて小林さんにお任せしました。そしたら、生音のチェロとバイオリンが入って返ってきて……さすが、トータルとして曲を見ていらっしゃるのが伝わってきて、すごくよかったですね。あと、相変わらず、お仕事がものすごく速い(笑)。

—今回のボーナストラックには、“3月9日”のセルフカバーが収録されています。これは「カロリーメイト」のCMのために作ったアレンジですよね。

藤巻:そうです。久しぶりにSOIL&"PIMP"SESSIONSのタブゾンビくんに会ったんですよ。昔、レミオロメンのライブでトランペットを吹いてもらったことがあって、多分それ以来ぶりだったんですけど。

そのままタブくんに“3月9日”のブラスアレンジを協力してもらって、その流れで“Blue Jet”“Have a nice day”のホーンアレンジをお願いしました。“Blue Jet”は、デモの段階から自分で緻密にアレンジを積んでいったんですけど、そこにさらにいいものをタブくんに積んでもらって。非常に実験的で、野心的なアレンジの楽曲になったと思います。

—そして、前田啓介さんと神宮司治さんが演奏に入っている曲もありますね。これは、どういう流れで実現したのでしょう?

藤巻:啓介と治が、僕のライブを観に来てくれるようになったんですよね。それで、「自分にとっても確信めいたもの、自分のソロって呼べるようないいものが、ようやくできそうなんだよね」って話したら、「じゃあ、手伝おうか?」って言ってくれて。それが本当に嬉しくて、「それぞれのプレイに合いそうな曲はどれかな」「これは治に叩いてほしいな」「これは啓介に弾いてほしいな」とか考えていきました。

治には“優しい星”と“紙飛行機”のドラムを、啓介には“Blue Jet”と“Have a nice day”のベースを弾いてもらって。そしたら、啓介が「もう1曲、弾くよ」と言ってくれたから、“マスターキー”もお願いしました。あいつが一番やる気を出してくれましたね。いま、彼はすごく本気で農業をやっているんですけど。

—そうなんですね?

藤巻:ええ。治は、本当に明るいドラムを叩いてくれましたね。もう、まさしく治って感じの(笑)。どちらのレコーディングも、すごく楽しかったです。

藤巻亮太

—リスナーや読者も気になるところだとは思うので、単刀直入に訊かせていただきますが……レミオロメンは今後どうするつもりなのでしょう?

藤巻:どうでしょうね……。

—三人全員で演奏している曲はないけれど、個別に会って一緒に音を出すところまでは、今回行ったわけで。

藤巻:あくまでも「休止中」だと僕は思っているので、「また一緒にできるタイミングがあったらいいな」とは思っています。本当のところを言うと、『オオカミ青年』が終わったら、またすぐに再開しようと自分だけで勝手に思っていたんですよね。

—そうだったんですか。

藤巻:はい。やっぱりソロの1枚目として、『オオカミ青年』は初期衝動で作ったので。アルバムを出して、ツアーまでやったときにもう想いは成就して衝動はなくなっていたんです。「もう歌いたいこと歌えたからいいや。バンドに戻ろう」と勝手に思ったんですけど、そのときにいろんなタイミングが合わなかった。だから、「タイミング」としか言えませんね。変に期待させてしまってもよくないので。

—少なくとも、その前にこれをやっておかなくてはいけないみたいなものは、藤巻さんの中にはないと。

藤巻:うん、そうかもしれないですね。今回いいアルバムができて、本当に自信作になったので、まずはそれを聴いてほしいのと、あとは、ライブが年々楽しくなってきているので、是非ライブも観に来てもらいたいなって。いま、言えるのは、その2点ですかね(笑)。

リリース情報
藤巻亮太
『北極星』初回限定盤(CD)

2017年9月20日(水)発売
価格:3,564円(税込)
VICL-64845

1. 優しい星
2. Blue Jet
3. Have a nice day
4. another story
5. マスターキー
6. 波音
7. go my way
8. 紙飛行機
9. 北極星
10. 愛を
11. Life is Wonderful
12. LIFE
13. 3月9日

藤巻亮太
『北極星』通常盤(CD)

2017年9月20日(水)発売
価格:3,240円(税込)
VICL-64846

1. 優しい星
2. Blue Jet
3. Have a nice day
4. another story
5. マスターキー
6. 波音
7. go my way
8. 紙飛行機
9. 北極星
10. 愛を
11. Life is Wonderful
12. LIFE
13. 3月9日

イベント情報
『藤巻亮太 Polestar Tour 2017』

2017年10月22日(日)
会場:大阪府 Zepp Osaka Bayside

2017年10月23日(月)
会場:愛知県 BOTTOM LINE

2017年10月27日(金)
会場:宮城県 darwin

2017年10月28日(土)
会場:新潟県 新潟市秋葉区文化会館

2017年11月5日(日)
会場:広島県 BLUE LIVE 広島

2017年11月6日(月)
会場:鹿児島県 姶良市文化会館 加音ホール

2017年11月8日(水)
会場:福岡県 イムズホール

2017年11月12日(日)
会場:山梨県 甲斐市双葉ふれあい文化館

2017年11月18日(土)
会場:東京都 昭和女子大学 人見記念講堂

プロフィール
藤巻亮太
藤巻亮太 (ふじまき りょうた)

1980年生まれ。2000年12月、小学校からの同級生3人で「レミオロメン」を結成。ほとんどの楽曲で作詞作曲を手掛けている。2003年8月、メジャーデビュー。数々のヒット曲により、3ピースバンドとしてのオリジナリティを不動のものとする。中でも、“3月9日”“粉雪”は、今でも多くの人に支持され続けている。2012年、レミオロメン活動休止を発表。ソロ活動を開始し1stシングル『光をあつめて』をリリース。最新アルバム『日日是好日』が好評発売中。初の写真集『Sightlines』発売や写真展開催など、音楽以外にも幅広く精力的に活動中。2017年3月1日、セルフカバーによる「3月9日」を配信リリースした。



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