ROTH BART BARON三船の思念。今、未来に希望を描けるとしたら

2020年4月22日の夕方、ROTH BART BARON三船雅也にオンライン取材をした。<もしここを生き残れたら 僕の本当の名前をあげよう>――そんな歌い出しで幕を開けたアルバム『けものたちの名前』が後藤正文主宰の音楽賞『APPLE VINEGAR -Music Award-』の2020年度大賞を受賞したというニュースが4月の頭に舞い込んできたばかりだったが、しかしながら、やはり話は新型コロナウイルスの影響で世界中が外出自粛を余儀なくされている状況下、なにを思い、考えるのか? という話にフォーカスを絞ることとなった。

4月29日には“SPECIAL”という楽曲が新たに配信リリースされている。<生き残らなくちゃいけなんだ>と繰り返し歌うこの曲はあまりに今の状況に突き刺さってくるが、歌詞も含めて2017年には作られていた楽曲なのだという。『けものたちの名前』の歌い出しもそうだが、この数年間、三船が抱いてきた問題意識と、そのうえで放たれてきたメッセージは、誰もが「変化」を目の当たりにしている今、あまりに鮮明に響く。この時代を生きるひとりの音楽家の思考(の一部)のドキュメントとして、ぜひ読んでもらいたい。

ROTH BART BARON(ろっと ばると ばろん)
三船雅也(Vo,Gt)、中原鉄也(Dr)による東京を拠点に活動している2人組フォークロックバンド。活動は日本国内のみならずUS・アジアにも及ぶ一方、独創的な活動内容と圧倒的なライブパフォーマンス、フォークロックをルーツとした音楽性で世代を超え多くの音楽ファンを魅了している。2020年5月30日、配信ライブ『ROTH BART BARON - Live at 月見ル君想フ -』を開催する。

「近しい人たちの顔色が日々変わっていくような、昨日会えた人にも今日会えなくなるような感覚はありますよね」

―今日はオンライン取材ということで、よろしくお願いします。

三船:不思議な感じですね、いつもの取材ではスペシャの事務所で会っているのに(笑)。

―そうですよね(笑)。三船さんはご自宅からYouTubeでライブ配信もされていましたけど、それ以外で、この自粛期間中はどんなふうに過ごされていましたか?

三船:まず、今年に入ってからはずっと『けものたちの名前』のツアーを回っていたんですけど、毎日情報が変わるなか、毎公演で「やるのか? やらないのか?」っていうジャッジを迫られているような状況だったんですよね。でも、セミファイナルが終わったあとは、比較的落ち着いた感じもありました。

2020年3月22日(日)に開催された『ROTH BART BARON「けものたちの名前」Tour 2019-2020』京都 磔磔公演より / 撮影:岡村詩野

三船:結局、ミュージシャンってツアー中はいろんな街や国を飛び回るからすごくアクティブなんだけど、その反面、普段はスタジオに籠ったり、3日間外に出ないなんていうことはザラにあるんですよ。だから、あんまり変わらないっちゃ変わらないんですよね。

―なるほど。

三船:ただ、いろんな人がそれぞれの立場で影響を受けていると思うんだけど、札幌COLONYっていう僕らもお世話になったライブハウスがなくなってしまったりして。

近しい人たちの顔色が日々変わっていくような、昨日会えた人にも今日会えなくなるような感覚はありますよね。僕らも新代田FEVERがピンチだったから配信ライブを4月の頭にやろうとしたんだけど、開催発表直前で取りやめになってしまった。そういう歯がゆさはすごく感じていました。

―ご自宅での活動は、曲作りがメインですか?

三船:曲作りもしていますけど、インプットに使う時間も増えていますね。こうやってオンラインで話していること自体がそうですけど、家でできることの選択肢も増えたと思うんですよ。出版社がこの時期に限って本を無料公開していたり、映像配信サービスが無料で配信していたりするじゃないですか。暇つぶしとも違うけど、誰かが作ったものを丁寧に享受できる時間が増えたから。たくさん本を読んだり、映画を見たり、音楽を聴いたりしていました。

「どう現実的に身体を動かすかが大事」――歴史を紐解くことで今わずかに垣間見える、コロナ禍以降の人類の可能性

―音楽以外でも、この期間で出会った作品で印象的だったものはありましたか?

三船:それがねえ……。いろいろ本を読んだりするんだけど、今の時代にぴったりくるものってあまりないんですよね。

―あまりにも変わりましたからね。

三船:そう。ただ、14世紀に黒死病が流行った時代のことを調べてみると興味深くて。当時も今と同じように学校がなくなったから、ニュートンやシェイクスピアも田舎に帰らざるを得なくなったらしいんですよね。

でも、その時代に彼らが不貞腐れていたかといったら、そうじゃない。ニュートンはその頃、三角プリズムを使って光を分解する実験をやって、光にも色彩があることを発見したんだよね。その話を知ると、どんなところにもアイデアがあるし、見つけようとすればなにかが手に入るかもしれないんだなって思ったり。

この日の取材写真は、三船がセルフタイマーを使って撮影した
ROTH BART BARON“iki”を聴く(Apple Musicはこちら

三船:それは、今も同じだと思うんですよ。どう現実的に身体を動かすかが大事、というか。だって、本当に先のことがわからなすぎるし……もしかしたらこの先は、毎年冬が来ると、こうして部屋から出ずに過ごさなきゃいけないことになるかもしれないからね。

―本当にそうですよね。

三船:そうそう。そんな感じで、最近読んでいた本で言うと……そうだ、小学館が刊行している『学習まんが 少年少女 日本の歴史』が今、全巻無料になっていたから、ひたすら読んでました。そういうカジュアルな歴史漫画のほうが、今の自分の心にはしっくりきたんですよね。

―そうやって歴史を見ることで、日本という国に対して、改めて見えてくるものもありましたか?

三船:あれは有名なトピックしか扱っていないけど、日本人も結局はこの3000年間、権力争いがあって、税金に苦しむ人々がいて、打ち壊しがあって……っていう感じなんだなと思って。「この社会をどう安定させるか」っていう争いをずっと続けてきたんだって思うと、今とあんまり変わんねえなって思ったりしましたね。

「歴史」というフィルターを通してフラットな目線で語る、日本社会への違和感

―日本の歴史を振り返ったときの「変わらなさ」というのは、もう少し具体的にいうと、どんな部分で感じます?

三船:たとえば、明治維新はずっと侍の支配下にあった人たちが革命を起こしたんだって、なんとなく美談になってると思うんだけど、結局は、侍が別の侍に変わっただけでさ。本当の意味での民主化は起きていないというか。

もちろん今は選挙権もあるし、僕たちは自由に仕事をできるようになってきた歴史の末裔だけど、「結局、黒船以降の120年くらいって変わってなくね?」っていう感じもするんですよね。変わりつつあるし、変わらないといけないと思うんだけど。

―うん。

三船:みんなどことなく、上は上で勝手にやって、下は下で上のことをあんまり信用しないで勝手にやっている。その絶妙なバランス感があるんだよね。「外に『なるべく』出ないでください」っていう、やんわりした言葉に、各々が回答を出しながら生き抜かなきゃいけない、みたいなさ。

ROTH BART BARON“ウォーデンクリフのささやき (feat.優河)”を聴く(Apple Musicはこちら

三船:うちの周りのスーパーとか飲食店でも、仕入れた野菜を売って出店みたいになっている人たちもいるし、居酒屋さんが仕入れた魚を売りはじめていて。そうやって上を信用せずにギリギリのラインで生き残れる人たちは強いなって感じるし、日本ってそうやって成り立ってきたんだなって。そのバランス感がなんとも言えないなぁっていう感じかな。……あとさ、やっぱり隠すんだね、日本って。

―そうですよね。感染者数にしても、「本当なのか?」と思ってしまうし。「そもそも検査数は十分なのか?」とか。

三船:ヤバいことを「ヤバい」って言うことを恥ずかしがる民族なんだなって思う。失敗したことに対して「失敗しました。次はこうします」って言えないから、「失敗していません」って言い続ける。それはもう、70年前と同じだし、10年前にだって同じことがあったわけだし。

あと、最近、ヨーロッパやアメリカのメディアと日本のメディアを見比べているんだけど、日本はクリティカルなことを言わないようにしているなって思う。ある種、それによってパニックを防ぐことができているのかもしれないけど……でも、『The Japan Times』の英語版じゃないと、安倍さんに対する批判は見れなかったりして、「気持ち悪いくらいにコントロールされているな」ってゾワゾワする感覚はあるよね。この一糸乱れず和を乱さない感じに感嘆しつつも、「これが俺の生まれた国か。こんな世界で生きているんだ、気持ち悪いな」って思う。

ROTH BART BARON“屋上と花束”を聴く(Apple Musicはこちら

三船:今、「絶妙にお利口さんとして飼い慣らされている俺たち」っていう立場からはブレイクスルーしないといけないタイミングにきているって思いますね。もちろん、ヨーロッパが絶対に正しいわけじゃないけど、日本だけが正しいわけじゃないし。そういうことを、感情に流されずにちゃんと見続けていたいっていうのはありますよね。

―「感情に流されずに」っていうのは、本当に大事なことだと思います。

三船:ここ数年は「感情」に振り回された時代だったと思うんですよね。「メキシコ人出てけよ」とか「黒人邪魔だよ」とか、「チャイナウイルスだよ」とか、「アジア人のせいでこんなことになっているんだからバスに乗るな」とか、そういうことが平気で起きているし、それに対して、「俺を中国人と一緒にするな」って言ってしまう日本人がいる、みたいな。そういうのは本当に、感情に振り回されているなって思う。トイレットペーパーがなくなったっていうのもそうだしね。

この間の『あいちトリエンナーレ2019』もすごく炎上したけど、それも「お金は出るべきだ、出ないべきだ」とか、「これはアートなのか、アートじゃないのか」って……本当に感情の話というか。見事だったなと思うのは、津田大介さんはあれを「情の時代」と名づけていたっていう(笑)。

―たしかに(笑)。

三船:あれは本当に「情」にやられてしまったと思うんだけど。だからこそ、自分は感情に流されず、なるべくフラットに世界を見続けていたいなって思います。僕も、自分の好きなミュージシャンが死んでしまったりしてショックだったけど、今は感情的になるべき時期じゃないなと。

怒りのはけ口として「安倍辞めろ」って言うのもいいのかもしれないけど、それで本当に世界がよくなるのかどうか、一度ちゃんと考えたいですよね。本当に行動を起こすなら、メッセージの先の未来をちゃんと描いたうえでやりたいなって思う。

ROTH BART BARON“HERO”を聴く(Apple Musicはこちら

この先の未来を生き残るために。視点・立場を人間以外のものに移すことで、見えてくることがある

―自分の話をしてしまうと、4月のはじめくらいですかね、一時期、気分が暗くなってしまって、音楽を聴いたり本を読んだりするのもしんどくなってしまって。

三船:わかります、すごく。

―で、ウダウダしていたんですけど、そんなときに聴いたローラ・マーリングの新作が素晴らしくて。すごくしっくりきたんですよね。

三船:ローラ・マーリング、よかったですよね。何気ない女性の歌モノかと思いきや、奥に深いディテールと、丁寧に作り込まれた音があって。今回もミュージシャンが喜ぶような音がたくさん入っているアルバムだなと思った。

ローラ・マーリング『Song For Our Daughter』を聴く(Apple Musicはこちら

―いいアルバムでしたよね。彼女はこの状況でリリースすることを想定してあの作品を作っていたわけではないけど、でも、そういう音楽に感動できたことに自分自身が感動できたというか、安心できたというか。そんな感覚がありました。

三船:「何気ないことに喜べた」っていう感覚は、すげえわかる。最近の僕は歌のないミュージシャンたちの音源をよく聴いていましたね。ブライアン・イーノはじめ、そういう人たちのリリースラッシュの時期でもあったから、「ソングじゃない音楽」っていうのをよく聴いていたな。イーノもよかったし、ケイトリン・アウレリア・スミスっていう電子音楽家の作品もよかった。

ブライアン・イーノ『Mixing Colours』を聴く(Apple Musicはこちら

ケイトリン・アウレリア・スミス『Mosaic of Transformation』を聴く(Apple Musicはこちら

―あとで聴いてみます。このタイミングで、ソングじゃない音楽に三船さんの感覚がフィットしたのはなぜなんだと思います?

三船:今、言葉で扱えるスケールを超えたことが起こっているじゃないですか。言葉って文明の象徴だと思うんだけど、今は文明のパースペクティブでものを見たくないっていう気持ちがあったんだと思う。家から出ることができないからこそ、近所の森を見るのと同じような感覚で音楽を聴いていたというか。

こういう状況のなかでは、「人間じゃないもの」を観察していたほうがいろんなことが見えるかもしれないって思うんですよね。攻撃的な話し方になってしまうかもしれないけど、ウイルスは生きるためにただ活動しているだけでしょう? 俺たち人間側が勝手に慌てふためていているだけじゃないですか。……言ってしまえば、そもそもウイルスに対立の意思はないんだよね。ただ繁殖をして生きているだけなんだから。

―そうですね。

三船:別に、人間がいなければなにも起きなかったというか。そういう角度のものの見方を持つことが、この先を生きていくヒントになるんじゃないかって、本能的に感じているような気がします。その表れで、言葉のない音楽が自分にフィットしたんだと思う。

ROTH BART BARON“HEX”を聴く(Spotifyで聴く / Apple Musicで聴く

「人間の側でのたうち回りながら、それ以外の視点を持つほうがいい」

―「人間以外の目線」というのと無理やり繋げるようですけど、『けものたちの名前』というアルバムのタイトルは今、すごく意味深に響くなと思いました。あのタイトルには、ポジティブにも、ネガティブにも、両方のニュアンスで人間を「けもの」といっていたと思うんですけど。

三船:「ポジティブにもネガティブにも」っていうのは本当にそうで。「人間以外の視点を持つ」といっても、僕も人間を辞めるわけにはいかないし、「人間はもうダメだよね」なんていうニヒリズムにも浸りたくないから。人間の側でのたうち回りながら、それ以外の視点を持つほうがいいっていう感覚は、『けものたちの名前』にも生きていたんだと思う。

ROTH BART BARON“春の嵐”を聴く(Spotifyで聴く / Apple Musicで聴く

三船:2020年以降、世の中の価値観もまったく違うものになってしまったから、どうしても「2019年の音楽だな」っていう感じはするけど、あの当時考えていたことは今でも通用するし、どこかで、こういうことになることを覚悟していた音楽だなって思うんですよね。

―1曲目“けもののなまえ”の<もしここを生き残れたら 僕の本当の名前をあげよう>という歌い出しは、本当に今も刺さるなと思います。

三船:「どう生き抜くのか?」っていう感覚をみんなに届けることができていたのは、自分たちにとって幸運なことだったと思う。あのアルバムは今思うと、「次はどうする?」ってバトンを渡してくれるような作品だったのかなって思いますね(関連記事:ROTH BART BARON×田中宗一郎 2020年代を僕らはどう生きるか?)。

ROTH BART BARON“けもののなまえ feat. HANA”を聴く(Spotifyで聴く / Apple Musicで聴く

物理的・感覚的な隔絶を余儀なくされ、価値観がリセットされた世界では、人間にとって根源的な部分が大切になる

―ちょっと大雑把な質問になってしまいますけど、「フォークミュージック」は、この先世界にどう作用していくものなのか、三船さんのなかに予感めいたものはありますか?

三船:そうだな……でもさ、こうなると、今までの社会的なステータスは崩壊するよね。デカい家に住んでいようが、フォロワーが何万人いようが、金をたくさん持っていようが、ウイルスには犯されるわけだし。

この先は、戦争のあとの闇市みたいな、生活に価値のあるものを提供できる人たちがサバイブしていく状況になっていってもおかしくない。そういう雑多な感覚みたいなものに、フォーク性はあるような気がするんですよね。この先、人間が大事にするものって、もっと根源的なところに帰っていくような気がする。さっき言ってくれた「音楽に感動できた!」っていう喜びは、人の根源的な喜びに近いよね。

―そう思います。

三船:フォークミュージックって、そういう人間の根源的な喜びに直結している気がしている。電気もいらないしさ、人間が集団で声を合わせていくって面でもそうだと思う。最先端なファッションを先取りするヒップスターたちより、もっと人間のコアな部分、本当の意味で裸になっている素描を共有できるのがフォークだと思うし、この先の5年くらいは、そういうことがすごく大切になってくると思うんですよね。

ROTH BART BARON“Skiffle Song”を聴く(Spotifyで聴く / Apple Musicで聴く

三船:それが流行るのか、ビジネスになるのかはわからないけど、人には必要とされると思う。「人としてなにが大切なんだろう?」っていうことを音で鳴らすことはできるのが、フォークミュージックなんだと思う。

「希望を描くということは、自分が背伸びした先にある、ギリギリ手が届くくらいの未来を想像できるかどうか」

―“SPECIAL”の話も聞きたいんですけど、この曲は<生き残らなくちゃいけないんだ>っていう歌詞的を見ても、今の状況に対して作ったのかと思いきや、『HEX』の頃にはあった曲なんですね。

三船:そうなんですよ、3年前に作りました。要は、ウイルス騒動の前から狂ったことがたくさん起こっていたんですよね。

―この曲を作られた頃のことは覚えていますか?

三船:この曲はロンドンで作ったんですよ。ちょうどイギリスがEUを脱退するっていう時期で、「ヨーロッパで今、なにが起きているのか見ておかなきゃ」と思って、ロンドンに行ったんです。ただ当時も、世界は感情の時代だったから、アメリカの大統領はああなっちゃって、イギリスはEUを脱退してっていうムードが世界を覆っている感じで。

ついこの間までみんなファレル・ウィリアムスの“Happy”で踊っていたのに、今や誰もハッピーじゃない、みたいな感じに世界中がなっていたんですよね。「もう“Happy”じゃねえよ、もう“Get Lucky”じゃねえよ」みたいな(笑)。

―ははは(笑)。でも、わかります。

三船:アメリカはみんな、フランク・オーシャンとかビリー・アイリッシュでガンガンに沈んでいて。そういうアメリカの絶望と、そこに同調するヨーロッパの感覚と、逃避的に流行る日本のシティポップ、みたいな。塞ぎ込んでしまいたい、逃げてしまいたいっていう……みんながそう感じている状態っていうのはもう、その頃から起こっていたんですよね。

ROTH BART BARON“SPECIAL”を聴く(Spotifyで聴く / Apple Musicで聴く

三船:「ひとり」の無力感にすごく苛まれていたし、そのなかで希望を見出しにくい世界を身体で感じて。そういうムードのなかで、世界を描写しつつ、サウンドトラックになるような曲を作りたいと思ったんですよね。

―この“SPECIAL”もそうですけど、この数年間のロットの作品は、前提となる感覚はフランク・オーシャンやビリー・アイリッシュのような人たちが表現してきたものと通じるものがあると思うけど、アウトプットされるものの質感は全然違うというか。それは「バンドである」という側面も大きいと思うんですけど、祝祭感というか、ポジティビティが絶対にそこにある感じがするんですよね。

三船:僕自身は決して明るくてポジティブな人間ではないんだけど、音楽でだけはそういうエナジーを持ったマジックが起こすことがあるんだよね。今言ってくれた祝祭感というか、ちょっとキリスト教っぽい言い方になっちゃうけど祝福というか……そういうものを、嘘ではない形で表現したい意識はあるのかもしれない。

希望を描くということは、自分が背伸びした先にある、ギリギリ手が届くくらいの未来を想像できるかどうかだし、それを実現できる力があるかどうか、だと思う。感情に流されないで、実現可能かどうかを見極めながら、希望をどう音楽として映し出すのか。それが大事だと思うんだよね。「お前は飛べる」といって聴いている人を自殺に導くんじゃなくて、ちょっと背伸びして、想像力を活かせば辿りつける場所があるかもしれないぞっていうことを、エスケーピズムじゃない形で表現したいなって思うな。

ROTH BART BARON“Aluminium (UK mix)”を聴く(Spotifyで聴く / Apple Musicで聴く

この世界を生きるひとりの当事者としてーーROTH BART BARONが、「僕たち」と歌うという意味

―あと、“SPECIAL”の歌詞には「僕」と「僕たち」という主語が出てきますけど、このふたつが決して乖離しないというか、重なり合っている状態が、ロット的であり、フォーク的な部分なのかなって思いました。

三船:あまり意識的には書いていないし、基本的には「僕」と「君」がよく出てくるとは思うんだけど、「パーソナルな問題は、奥底では誰かにつながっている」っていう感覚が自分にはあるんですよね。

西洋人的な考え方だと、「自分の生き方は自分の生き方であって、他人は違う現象なんだ」っていう圧倒的な個人主義が強いと思うんです。でもそれに対して、日本人は「この状況で自分が家を出たら誰かに迷惑がかかるんじゃないか?」っていう本能的なブレーキがかかったりするじゃないですか。それによって「俺はこんな満員電車で会社に行っているんだから、お前も行け」みたいな足の引っ張り合いをしてしまうときもあるんだけど……。

―でも、どちらかというと三船さんは日本人的な感覚のほうが近い?

三船:いや、強いて言うなら、そういう西洋的な感覚も、日本的な感覚も、どちらも答えじゃないような気がしているんですよね。僕自身の感覚としては、こうやって話している間も、話を聞いてくれる人たちのことを圧倒的に他人で、自分の人生に関係ないとは思えないというか。

この感覚については上手く説明できないんだけど、「こいつ、嫌なやつだな」って思うやつに出会ったとしても、そいつも自分を作りだす細胞のひとつなんだっていう感覚があるんだよね。音楽に感動したりできるのも、自分の奥底にある感覚がみんなと共通しているからなんじゃないかと思うし……それは、感じたことがないものを「懐かしい」と思うことにもつながるのかもしれない。

ROTH BART BARON“焔”を聴く(Apple Musicはこちら

三船:それが遺伝子情報に刻まれているものなのか、単純に共通する感覚があるのかわからないけど、そういうものがあるから、音楽や本やSNSを通して新しいアイデアが広まっていくんだと思うし。たとえば、うちの祖母は日本人全体のことを話すとき「我々」って言うんだけど、そこに僕は全然シンクロできないんですよ。僕らは、もっと緩やかで、糸のように細いつながりを持つことができるんじゃないかと思う。

―うん、わかります。

三船:たとえば、1960~70年代的なプロテストって、「大人と子ども」の対立だったと思うんだけど、今はもうそれは成立しないよね。グレタ・トゥンベリが環境について発言しても、そこに「10代対大人」っていう構図は成立しえない。老いも若きも協力しないと世界はよくならないわけで。「僕たち」っていうもののなかで、心の奥底でつながる通奏低音はあるんじゃないかーーそういう前提があるから、パーソナルなことを歌っても、それは「僕ら」の情報なんじゃないかと思えるんだよね。

「未来について考えながら、トライ&エラーを繰り返していくしかないと思う」

―世の中的には本当にどうなるかわからない感じですけど、三船さんの活動として、次のアクションで見えていることはありますか?

三船:今、とにかく曲を作っています。新しいアルバム……アルバムになるのかもわからないけど、構想はでき上がってきていて。ちょっと忙しくなってきたなっていう感じもあります。

―次のアクションに対して、なにかしらのヒントをいただくことはできますか?

三船:さっきの話に出た「祝祭」と「祝福」っていうのは、まさに次のテーマになってくるような気がしていて。こんなに世界が暗くなってしまって、「お前、生まれてきてよかったじゃん」って、誰も責任を持って言ってくれない世界になってしまった気もするんだよね。でもさ、今日産まれてくる赤ちゃんだっているんだよ。その子に対して「お前にはこの先、絶望しかないから」なんて言っても仕方がないわけで。

結局、人間の喜びって「音楽が楽しい」とか「ごはんが美味い」とか、超シンプルなことだと思うんです。文明的なことを取っ払って、人間のコアなところで鳴らす音楽を、今の目線で作っています。そういうものがみんなに必要だと思うし、僕自身も必要としているしね。

ROTH BART BARON“MΣ”を聴く(Apple Musicはこちら

―うん、わかりました。長い時間の取材でしたけど、お話し聞けてよかったです。三船さんのフラットな視線に触れて安心できる感じもありました。

三船:何度も言うけど、感情には流されずに目の前のことに集中するしかないと思うんですよね。こういうときだからこそ、ミュージシャンのスタンスは問われると思う。社会の写し鏡としてロックミュージックやフォークミュージックはあると思うしね。

来年には5Gによって、今よりもスムーズにオンラインで喋ることができる環境になっているかもしれないっていうテクノロジーの発展も含めて、人間と自然とのバランスを保ちながら活動していくことだって、この先は可能なわけで。大変な状況の人もいるし、不謹慎な言い方かもしれないけど、今、ワクワクしている自分もいるんです。この先どれだけ遠くの海まで、どれだけ高い空まで行けるだろう……そんなことを考えていた1か月だったなって思う。……だってさ、最近、「空気きれいだな、空きれいだな」って思うことも多いんだよ。

―めちゃくちゃわかります。空気、きれいな感じしますよね。

三船:それに、もし今、俺が小学生だったら「学校ないからゲームやり放題じゃん」って思ったりすると思うんだよね(笑)。そういう人のほうが逞しいなと思ったりするし。

そもそも、年間2万人の自殺者がいたこの国で、会社に行かなくても仕事ができるとか、満員電車に乗らなくてもいいって気づけたことによって幸せになれた人だってたくさんいると思う。そう考えると、なにが正しくてなにが正義かなんて絶対にわからない。いいことと悪いことが絶対にあるから。そういうなかで、未来について考えながら、トライ&エラーを繰り返していくしかないと思うんだよね。

―最後に、三船さんの「ウイルスの目線になる」っていうスタンスとか、コミュニティー的な意識というか、全体的な感覚を持っている感じって、たとえば「博愛」という言葉にすることはしっくりきますか? というのも、前に三船さんは田中宗一郎さんと対談されていましたけど、学生の頃に『snoozer』を読んでいてよくこの言葉が出てきたなっていうのを今思い出して、質問しているんですけど(関連記事:ROTH BART BARON×田中宗一郎 終わりゆく2010年代の果てで)。

三船:タナソウは博愛が好きだよね。でも、う~ん……「博愛」ってキリスト教っぽい気がする。磔になって誰かのために死んだことによって、神になるっていう……そういう形の博愛ではありたくないというか、もっと新しいなにかを提示したいって気持ちのほうが強いかな。博愛したやつも自己犠牲的に死なずに、周りも救いながら本人も生き残るっていう第三の道を模索している最中だと思う、自分は。

でも、今の自分のなかにあるそういう感覚をなんて呼ぶのかは、よくわからない。「愛」っていう言葉もあんまり好きじゃないからね。歌詞でも一度しか使ったことがないんですよ。「愛」って、そもそも日本人が持っていなかった言葉を無理やり輸入して翻訳した感じがするじゃないですか。使いやすいから、みんな使っているんだろうけど、僕は全然使う気になれなくて。もっと、ひと言で言い表せないなにかがあるような気がする。……やっぱり、僕は第三の道を探したいかな。

イベント情報
『ROTH BART BARON - Live at 月見ル君想フ -』

2020年5月30日(土)20:00からMoonRomantic Channelで配信

料金:1,000円

リリース情報
ROTH BART BARON
『SPECIAL』

2020年4月29日(水)配信

プロフィール
ROTH BART BARON
ROTH BART BARON (ろっと ばると ばろん)

三船雅也(Vo,Gt)、中原鉄也(Dr)による東京を拠点に活動している2人組フォークロックバンド。2014年に1stアルバム『ロットバルトバロンの氷河期』をフィラデルフィアにて制作、以降カナダ・モントリオールや英・ロンドンにてアルバムを制作。2019年11月に4thアルバム『けものたちの名前』を発表し、『Music Magazine』ROCK部門第3位を始め多くの音楽メディアにて賞賛を得た。また『SUMMER SONIC』、『FUJI ROCK FESTIVAL』など大型フェスにも出演。活動は日本国内のみならずUS・アジアにも及ぶ一方、独創的な活動内容と圧倒的なライブパフォーマンス、フォークロックをルーツとした音楽性で世代を超え多くの音楽ファンを魅了している。2018年よりロットバルトバロン・コミュニティ「PALACE」を立ち上げ共にプラネタリウムでライブを開催するなど、独自のバンドマネージメントを展開。また、ASIAN KUNG-FU GENERATION・後藤正文主宰『APPLE VINEGAR MUSIC AWARD 2020』にて大賞を受賞。



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