Sen Morimotoが見つめるシカゴと日本。結んだ線の延長上で

Sen Morimotoが2年ぶりとなる新作『Sen Morimoto』を完成させた。京都出身・シカゴ在住の音楽家で、ジャズとヒップホップをクロスオーバーさせるマルチ楽器奏者であるSen Morimotoは、2018年に初のフルアルバム『Cannonball!』を発表すると、88risingとのコラボが大きな話題に。新作にはシカゴのミュージシャンが多数参加するとともに、昨年の日本ツアーで交流を深めたAAAMYYYをフィーチャーした楽曲も収録されている。

今回は昨年10月の来日時のインタビューと、最新インタビューを基にして、Sen Morimotoの過去と現在に深く迫った。前編では、これまでの歩みやパーソナリティを改めて掘り下げつつ、今の時代を「アメリカと日本の音楽が双方向になりつつある」と語り、将来的には日本のミュージシャンをシカゴに紹介する役割を果たそうと考えてもいるというSen Morimotoに、現在のアメリカと日本の音楽の関係性について語ってもらった。

(メイン画像撮影:Dennis Elliott)

人とつながって、友達になって……それが旅をしながら音楽をやることの醍醐味。

―新作の制作が本格的にスタートしたのはいつ頃でしたか?

Sen:『Cannonball!』と、プロデュースを手伝ったKAINA(シカゴを拠点に活動するシンガー。2019年のMorimotoの来日ツアーにも参加)の『Next To The Sun』をリリースした後、僕は両方のバンドで2年間ツアーを続けていて。ツアー中もできるときに曲のアイデアを書き留めてはいたんだけど、自分の家を離れて音楽を完成させるのはとても難かったので、実際に曲が形になり始めたのは去年の今頃かな。

―その際、テーマやコンセプトはあったのでしょうか?

Sen:コンセプトは本当に何もなかった。ときどき自分が作っている曲を聴き返して、その中にコンセプトがすでに存在しているかどうかを考えてみたりもしたけど、曲っていうのは、ある特定の瞬間に自分がどう感じたかを歌っているだけのものだったりするからね。

Sen Morimoto(せん もりもと) Photo Credit: Dennis Elliott
京都生まれシカゴ在住のアーティスト。サックスを手にした事で始まったミュージシャン人生はピアノ/ドラム/ギター/ベースなど様々な楽器を演奏するマルチプレイヤーとして活躍。兄のYuya Morimotoと制作した”Cannonball”のPVを88risingのショーン・ミヤシロが気に入り88risingのYouTubeチャンネルからリリースされ話題となる。その後シカゴの友人でマルチ奏者NNAMDÏによるレーベルSooper Recordsよりアルバム『Cannonball!』をリリースしサマーソニック2018で圧巻のパフォーマンスを見せる。2019年には初のジャパン・ツアーを行いTempalayのAAAMYYYと競演する。2020年10月には2ndアルバム『SEN MORIMOTO』をリリース。

―昨年の日本ツアーではCINRA.NET主催の『NEWTOWN 2019』にご出演いただき、和田彩花さんとのコラボレーションを行いました。感想を聞かせてください。

Sen:あやちょ(和田彩花)はとてもクールだったよ。彼女とプレイするのは初めてだったけど、雰囲気が変わってよかった。KAINAともああいう感じのセットをやっているんだけど、ひとつのバンドが色んな人のバックでプレイするから、オープナーからスムーズにセットが運ぶ。その変化を一緒に楽しめたのもよかったね。

―和田さんとはお互いのことについて話す機会はありましたか?

Sen:いや、僕の日本語は拙いし、彼女もあまり英語が話せないから、軽い会話くらいしかできてない。でも、お互い言葉で説明しきれない相手と一緒にプレイするというのもクールなことだと思うんだ。そうなると耳だけが頼りになるからね。まあ、ホントはもっと知りたいと思うよ。それが旅をしながら音楽をやることの醍醐味だと思うし。人とつながって、友達になって……実際去年のツアーではいろんな人に会えて、とてもいい気分だった。

KAINA“Could Be a Curse Feat. Sen Morimoto”MV

音はどんなものでも、ひとつのジャンルに当てはまらないものでも、「勇気」があるものなら好きだね。

―僕の中で、和田さんとSenさんには共通点があると思っていて。和田さんはもともとグループアイドルに所属していたけど、日本のアイドルに対する「こうあるべき」という目線に疑問を抱きながら、自分らしくいることをすごく大事にしている女性で。Senさんにしても、音楽ジャンル的なことにしろ、アイデンティティに関することにしろ、カテゴライズから解き放たれて、自分らしく活動することを大事にしていらっしゃると思うので、そこは共通点なんじゃないかなって。

Sen:なるほどね、わかる気はする。彼女のやっていることや、今のポジションなんかを記事で読んだときも、彼女が自分自身の道を切り開いているところが、僕には際立って印象的だった。その世界が彼女にとってどんなものになるのか、目的意識を持って決めているところがね。そういう意味でもリスペクトできるし、一緒に仕事をしてみたい、何かやってみたいと思わせる人だったんだ。

和田彩花は、「以前、センさんと同じステージに立たせていただいたとき、ポエトリーリーディングを披露しました。同時に、私にとっての本格的な音楽体験はセンさんのライブでした。音が人の心を動かすことを知り、センさんの声が演奏の間を軽く踊りさっていくような感覚がとても素敵でした。私は音楽の詳細はわからないことが多いのですが、新しいアルバムを聞かせていただきました。今回は少しノスタルジックないつかへ立ち寄りながら、センさんの声は軽く踊りさって行きました」とコメントしている。写真は2019年のジャパンツアー時より / 撮影:小田部伶

―Senさんご自身も、目的意識を持って、自分自身の道を切り開くことを大事にしている?

Sen:何につけてもそれが一番重要なことだよ。音楽もそうだけど、クリエイティブなものを作るときは、僕はあまり細かいディテールやスキルのレベル、見映えとかを気にしない。その人の心が何をしたいと考えているのか、個性を発揮することによって、何を人に伝えたいのか……箱の中に囚われすぎないようにしないとね。音がどんなものでも、ひとつのジャンルに当てはまらないものでも、「勇気」があるものなら好きだね。

Sen Morimoto『Sen Morimoto』第1弾先行シングル“Woof”MV

―Senさんが現在に通じる音楽性の基盤を作るにあたっては、2014年にシカゴに移り住んだことが大きかったそうですね。過去のインタビューで、シカゴに移って、友達があまりいないなか、自分の音楽と向き合う時間が増えた、という話をされていたかと思うんですけど、当時のことをもう少し具体的に話していただけますか?

Sen:ホントに友達もいなくて、仕事に行くだけの毎日だった。寿司レストランとバーで働いていたんだけど、数少ない友達がルームメイトだったから、仕事に行って、帰ってきて、ルームメイトたちと少しおしゃべりして、時間があるときは一晩中ビートを作ってた。できるだけたくさんものを作るようにしていたよ。ツアー中はその時間があまりないからちょっと悲しいんだけど、それでも作業ができるときはやってる。アウトプットなしにインプットばかりというのはあり得ないから。

―普段、曲はどうやって作っているんですか?

Sen:ひとつの曲を作るのに丸一日かけて……あとでそれが駄作だと気づいて、二度と聴きたくないと思っても、次のものを作るためにはまずそれを形にしないといけない。僕はいつもそう思ってきた。毎日作るのは筋肉の部分で、それをひとつの身体にしていく感じかな。ちゃんと身体になるまで毎日作るんだ。そんな感じでビートを山ほど作ったり、サックスを吹いたりしているうちに、曲の一部がまとまりあるように感じられてきて、イメージがクリアになり始める。石から彫刻を作るような感じかな。ハンマーで色々叩いている間は色んなビートや色んなジャンルに過ぎないんだけど、だんだんひとつの作品としてまとまりができてくるというか……時間はかかるけどね(笑)。

今はシカゴの音楽をたくさん出すことに労力を注いでる。

―そうやって曲を作り続けて、最初の集大成が前作『Cannonball!』だったのかと思います。あの作品には当時感じていた不安や孤独も入っていたと思うし、徐々にそこから解放されていくような感覚も入っていたように思うのですが、Senさんにとって『Cannonball!』は、自分のどんな側面が反映されたアルバムになったと感じていますか?

Sen:多くの曲が当時自分の置かれていた立場から来たものなのは間違いない。ただ、それを語るのは難しくて……曲にする方が楽だったりするんだ。ときには答えがないものを曲の題材にすることもあるからね。問いがあって答えがある、というものというより、「クリエイティブな何か」という以外に行き場がない気持ちだったりして、誰かに話して答えが出るものでもないんだ。人生に対する不安、世界情勢、あとは自分の過去みたいに、自分ではどうにもしようがないもの、修正しようがないものもある。でも、そういうエネルギーはどこかに行かなければならない。その出口としてクリエイティブなものがあるというのはいいことだよね。自分の腹の中に溜めたままにしてしまうと、悲しくなってしまうから。

Sen Morimoto『Cannonball!』を聴く(Apple Musicはこちら

―アルバムを発表したことによって、ミュージックビデオが88risingにピックアップされたり、2年続けて来日をされていたり、活動の規模がかなり広がったのではないかと思うのですが、実際アルバムを出して以降の変化をどのように感じられていますか?

Sen:2019年は初めてフルタイムで音楽をやった年だった。僕は創作活動の他にいつも別の仕事を持っていたから。でも……究極的にはあまり変わっていないかな。自分が大切に思うものに対する気持ちも同じだし、それ以外のことはみんなボーナスみたいなもの。友達とツアーしたり、音楽を作ったりできるという状況に感謝してる。アルバムを出していなければ、Sooper Records(シカゴを拠点にするレーベル。現在は自身もオーナーを務める)や88risingとの出会いがなければ、何も起こらなかったわけで、今後どういう関係になろうと、この生業を続けていけるのであれば、一つひとつの瞬間に感謝しかないよ。

Sen Morimoto“Cannonball”MV

―88risingとは現在も定期的にやり取りがあるのでしょうか?

Sen:まずは「ひとつのプロジェクトを一緒にやろう」ってことだけ決めて、それが終わった後は「楽しかったね」「ありがとう」という感じで、未来については何もかもオープンな状態だよ。彼らとはまた一緒に何かやりたいと思うけど、まだわからない。その理由として、僕のフォーカスの対象がシフトしたというのもあって。

『Cannonball!』を出した後で、Sooper Recordsの共同オーナーになって、今はシカゴの音楽をたくさん出すことに労力を注いでるんだ。88risingとツアーできたのはすごく楽しかったし、彼らと出会えたことはとてもハッピーで、一人ひとりを知ることができたのもとてもよかった。でも、今自分が日々取り組んでいるものとは違う世界のもので、もっとシカゴ中心だからね。

Sen Morimoto『Sen Morimoto』収録曲“Jupiter”ライブ映像。今年9月にシカゴで撮影された

今は自分のコミュニティの外に共通点を見いだそうという動きがあると思う。よその国の人が自分たちと同じことで戦っていたりする。

―2019年に日本の佐々木亮介(a flood of circle)というアーティストがシカゴに行って、エルトン・チャン(チャンス・ザ・ラッパーやノーネームの作品を手掛けた『グラミー賞』受賞エンジニア)とレコーディングをして、KAINAともコラボレーションをしてるのはご存知ですか?(関連記事:a flood of circle佐々木の音楽探訪。なんでもアリな世界を求めて

Sen:ああ、彼に会ったことはないんだけど、一緒にレコーディングしている映像を見たよ。楽しそうだったし、クールなことだよね。僕の友達にはみんな会ったんじゃないかな。日本のアーティストが、「自分が好きな音楽のエンジニアをやっているのは誰だろう?」って思うなんて、すごくクールなアイデアだよね。きっとシカゴの音楽のファンなんだろうな。大抵の人はエルトンと仕事をしているから。「アーティストは誰だ?」じゃなくて、「エンジニアは誰だ?」って考えるのは、すごく賢いよね。

―シカゴを盛り上げる意味でも、日本人アーティストとの交流をより広げることを考えていますか?

Sen:ぜひやりたい。特に今は、リスナーが自分の知らない言語の音楽を聴くようになり始めているからね。例えば、必ずしもスペイン語話者ではない人たちが、スペイン語の音楽を聴いたりしてる。歌詞がわからなくても、その音楽を感じればいいということでね。今はインターネットがあるから、色んなことができるし、様々な文化の人たちが一緒になって何かに取り組むにはいい時期だと思う。KAINAのアルバムでも、英語とスペイン語と日本語で曲を作ったりしたんだ。歌っている内容が何か正確にはわからなくていい。その曲が伝えようとしていることを感じることができれば。

―なぜ人々の気持ちがそうしたミックスカルチャーに向いているのだと思いますか? インターネットの存在以外にも、何か理由があると思いますか?

Sen:そうだな……今は色んな国の人たちにとって、「怖い時代」だと思うんだよね。自分とコミュニティの政策決定者との間の差が大きいから。日本で大変な思いをしている人は、日本のお金持ちよりも、シカゴで大変な思いをしている人に通じるものがあると思う。同じ立場にいる者としての理解の方が深いというかね。それはやっぱりインターネットの影響かもしれなくて、今は自分のコミュニティの外に共通点を見いだそうという動きがあると思うんだ。

世の中にはクソみたいなことが山ほど起こっていて、よその国の人が自分たちと同じことについて戦っていたりするから、よりグローバルな基盤が人々の間にできている。それはいいことだと思うよ、間違いなく。コミュニケーションが密になればなるほど、いいことだと思う。それが音楽を通してであろうと、他のことであろうとね。

―そうですね。

Sen:だから、日本ツアーでいろんな人たちと一緒にプレイできるのがすごく嬉しいし、将来的には、日本の音楽をもっとシカゴに持っていきたい。アメリカの音楽と日本の音楽との関係が長い時間をかけて双方向になってきたというのはすごくクールなことだと思うし、その延長線上に自分たちがいることがとても重要なことだと思う。さらに前進し続けるためにもね。

Sen Morimoto『Sen Morimoto』を聴く(Apple Musicはこちら

リリース情報
Sen Morimoto
『Sen Morimoto』国内流通盤(CD)

2020年10月23日(金)発売
価格:2,420円(税込)
AMIP-0217

1. Love, Money Pt. 2
2. Woof
3. Symbols, Tokens
4. Butterflies Ft. KAINA
5. Deep Down Ft. AAAMYYY
6. Tastes Like It Smells Ft. Lala Lala, Kara Jackson, Qari
7. Save
8. Wrecked Ft. NNAMDÏ
9. Goosebumps
10. Daytime But Darker
11. The Things I Thought About You Started To Rhyme
12. The Box ft. Joseph Chilliams
13. You Come Around
14. Nothing Isn’t Very Cool
15. Jupiter

プロフィール
Sen Morimoto (せん もりもと)

京都生まれシカゴ在住のアーティスト。サックスを手にした事で始まったミュージシャン人生はピアノ/ドラム/ギター/ベースなど様々な楽器を演奏するマルチプレイヤーとして活躍。弟と制作した”Cannonball”のPVを88risingのショーン・ミヤシロが気に入り88risingのYouTubeチャンネルからリリースされ話題となる。その後シカゴの友人でマルチ奏者NNAMDÏによるレーベルSooper Recordsよりアルバム『Cannonball!』をリリースしサマーソニック2018で圧巻のパフォーマンスを見せる。2019年には初のジャパン・ツアーを行いTempalayのAAAMYYYと競演する。2020年10月には2ndアルバム『セン・モリモト』をリリース。



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