山田智和が語る、変貌する世界への視線 映像作家が見た2020年

2020年の終わりに公開されたサントリーBossのウェブCM『365 STEPS』。ひとりの看護師の1年を、一篇のドキュメンタリーのように綴ったこのCMは、単なる「広告」ではなくこの困難な時代のひとつの「記録」であり、同時代を生きる人々に向けた「エール」だった。本作を監督したのは山田智和。新垣結衣をフィーチャーしたGMOクリック証券の一連のCMシリーズや、米津玄師、あいみょん、KID FRESINO、最近では藤井風の“青春病”や宮本浩次の“夜明けのうた”のMVなどを手がけたことでも知られる映像作家だ。

CMやMVはもちろん、ショートフィルムやスチール写真など、さまざまな方法によって「いまを生きる人間」の姿を表現してきた彼は、2020年、すべての状況を一変させた「コロナ禍」の中で、何を考えながら、どんな映像作品を生み出していったのだろうか。

「記録」と「記憶」、その狭間で溢れ出る人々の「エモーション」。それを手がかりとしながら生み出していった彼の一連の映像作品を読み解きながら、2020年という特異な1年を改めて振り返ってみることにしよう。その果てに彼は、どんな「未来」を見ているのだろうか。

映像作家・山田智和が描き出すエモーションの奥にあるもの。一人ひとりの毎日の中にも「美しさ」は宿っていることに、目をこらす

―CINRA.NETでは、2019年3月に山田監督の2018年の活動を通じて「作家性」を読み解く記事を掲載しましたが、今回もそれと同じように山田監督の活動を振り返りながら、2020年というこの特異な1年の中で監督が感じたこと、そして変化を追っていけたらと思っています(関連記事:映像作家・山田智和の時代を切り取る眼差し。映像と表現を語る)。

山田:はい、よろしくお願いします。

山田智和(やまだ ともかず)<br>映画監督、映像作家。東京都出身。クリエイティブチームTokyo Filmを主宰、2015年よりCAVIARに所属。水曜日のカンパネラやサカナクションのミュージックビデオを手がけ、徐々に頭角を現して行く。2018年にはKID FRESINO“Coincidence”や、米津玄師“Lemon”、あいみょん“マリーゴールド”、星野源“Same Thing (feat. Superorganism)”など、数々の話題となったミュージックビデオを演出する。また、NIKE、SUNTORY、GMOクリック証券、TOD'S、PRADA、GIVENCHY、Valentino × undercover等の広告映像や、ファッション誌のビジュアル撮影も行うなど、その活動は多岐に渡る。渋谷駅で行われたエキシビション『SHIBUYA / 森山大道 / NEXT GEN』にて「Beyond The City」を発表。伊勢丹にて初の写真展『都市の記憶』開催。2020年はギャラクシー賞CM部門大賞、ACCディレクター賞、MTV VMAJ 2020の『最優秀ビデオ賞
山田智和(やまだ ともかず)
映画監督、映像作家。東京都出身。クリエイティブチームTokyo Filmを主宰、2015年よりCAVIARに所属。水曜日のカンパネラやサカナクションのミュージックビデオを手がけ、徐々に頭角を現して行く。2018年にはKID FRESINO“Coincidence”や、米津玄師“Lemon”、あいみょん“マリーゴールド”、星野源“Same Thing (feat. Superorganism)”など、数々の話題となったミュージックビデオを演出する。また、NIKE、SUNTORY、GMOクリック証券、TOD'S、PRADA、GIVENCHY、Valentino × undercover等の広告映像や、ファッション誌のビジュアル撮影も行うなど、その活動は多岐に渡る。渋谷駅で行われたエキシビション『SHIBUYA / 森山大道 / NEXT GEN』にて「Beyond The City」を発表。伊勢丹にて初の写真展『都市の記憶』開催。2020年はギャラクシー賞CM部門大賞、ACCディレクター賞、MTV VMAJ 2020の『最優秀ビデオ賞 "Best Video of the Year"』を受賞している。

―まずは昨年12月23日に公開されたサントリーBossのウェブCM『365 STEPS』についてですが、あれはすごくいいCMでした。

山田:ありがとうございます。いまのような状況下で、改めて「広告とは何か? 映像にできることは何か?」ということを考えたというか、どういうメッセージを送ることができるのかってところから始まったCMでした。

―CMの中でも時間が経過していきますが、実際かなり前から撮り始めていたのですか?

山田:そうですね。撮影は自分たちでもやったんですけど、ほかにドキュメンタリーチームにも動いてもらっていて。僕らでは入ることのできないところの映像を撮ってきてもらったり、彼らでも入れないところは、実際に現場で働く看護師の方々にお願いして、スマホで映像を撮ってきてもらったり。最終的にそれらを合わせて編集していきました。

―このCMに限らず、山田監督の作品にはいつも心を強く揺さぶられるところがあって……端的に言うと「エモい」という(笑)。

山田:(笑)。そう言ってもらえるのは、むちゃくちゃ嬉しいです。悪い意味での「ファッション」的な映像にはしたくないといつも思っているので。「ファッション」ってカッコいいし、ビックリはするんですけど、ある意味表層的なものであって、根本的に人の心を動かすものではないんじゃないかって思うんです。それよりも、見てくれた人の心を揺り動かして、単純に「もう1回見たい」って思ってもらえるような映像を作りたいんですよね。

あと、いわゆる「美しさ」みたいなものについても最近考えていて。一般的に「美しい」とされているものは、本当に美しいのか。それよりも、毎日一生懸命働いている人のほうが美しいと思えたりもするわけで。特にいまのような状況では。

―山田監督の作品には、ちゃんと「人間」が映っている気がするんです。その背景に、自分のストーリーを持った「人間」というものが。だから、「エモい」と感じるのではないかと。

山田:嬉しいです。もちろん、被写体に恵まれていることも大きいと思います。その状況にちゃんと反応できる人たち――反応というのは、そのとき着ている衣装から立っている場所、その映像のテーマ、あるいはそのときの光だったり風だったり、そのすべてに対するリアクションで。そういうことができる人たちと一緒に仕事ができるのはすごく面白いし、自分たちもそれに合わせてちゃんと反応していかなきゃいけないんですよね。その繰り返しというか。

山田:だから、いわゆる「作家性」みたいなものって、僕は実はどうでもいいと思っていて。それよりも、その都度その都度、ベストだと思える映像を撮っていくことが大事で、それをあとから総体として見たときに、何か浮かび上がるものがあったら嬉しいなっていう感じなんですよね。

時代に分断を生まない映像を。2020年元旦公開で1年の幕開けを飾った、カネボウ『BRAND CONCEPT MOVIE I HOPE.』

―では、そんな山田監督の2020年の作品を振り返っていくことにしましょう。まずは、ちょうどいまから1年前、2020年の元旦から、山田監督が撮ったカネボウの『BRAND CONCEPT MOVIE I HOPE.』がオンエアされはじめした。このCMが結果的に2020年の『ギャラクシー賞』CM部門のグランプリ、および『ACC TOKYO CREATIVITY AWARDS』のフィルム部門で『ACCゴールド』を獲得するわけですが。

山田:このCMが元旦から流れることはわかっていたので、幕開け感みたいなものを表現したいなとは思っていて。あと、そこからはじまる1年に対しての「希望」みたいなものを……。

―このタイミングで改めて見直すと、ちょっと胸にくるものがあるというか。まさか、2020年がこういう1年になるとは、夢にも思ってなかったわけで。

山田:いま見直すと、別の意味を帯びてしまっている気がしますよね。でも、映像表現って、総じてそういうところがあると思うんです。時代性のようなものを、いつの間にか匂わせているところがあるというか。このCMも、そういうところがあるのかもしれないです。

山田:実は、これを撮っている頃から、2020年は表現することがちょっと難しくなっていくんじゃないかなと思っていたんですね。時代に対するカウンターのような表現が、もはや表現とは思えないような瞬間が結構あったというか、時代のカウンターであることによって、ある種マウントを取りにいくようなるところがあるのではないかと。

でもそれって、さらなる分断を生むだけだと思うんですよね。だから、そういうものではない表現を、ずっと考えていて。それはコロナ禍以降、より強く思うようになったんですけど、そういう気分みたいなものが、このCMには少し入っているような気がして。だから、2020年の一発目がこれだったのは、自分的にもよかったなって思います。

解体、再構築されて変貌する渋谷の光景を捉えて残した、あいみょん“さよならの今日に”

―そのあと2020年の2月には、あいみょんの“さよならの今日に”のMVが公開されました。このロケ地は渋谷の桜丘町ですけど、山田監督は2019年、渋谷を舞台としたアートプロジェクト『SHIBUYA / 森山大道 / NEXT GEN』に参加されるなど、「変貌する都市」……とりわけ、渋谷の再開発については、いろいろ思うところがあったのでは?

山田:そのアートプロジェクトに出した写真と、まさに同じ場所で撮影したんですけど、やっぱり当時の渋谷の光景はすごくメモリアルなものだったと思うんです。「変化」みたいなものを眼前にビジュアルとして突き付けられていて、この先何が起こるのかを想像する余地がある最後の瞬間だなって思っていて。だから、「それは絶対記録しておかなきゃ」って使命感みたいなものがあったんですよね。

―「使命感」ですか。

山田:はい。ただ、この“さよならの今日に”を撮った頃は、2019年のときの気分とは、またちょっと変わっていて……後ろ向きではなく、より前を向いているような気がするんです。

山田:それはもちろん、あいみょんの曲のおかげでもあるんですけど、変わりゆく街を目の当たりにしながら、そこで一瞬立ち止まることは悪くないけど、そこからどこに向かって進んでいくかも、また大事で。それをポジティブに捉えようという空気感みたいなものを感じたんですよね。あと、公開までちょっと時間がかかったんですけど、そのあと3月にKID FRESINOのMVの撮影もしていて。

自身の無邪気な記憶、失われていくものへの眼差しを形にした、KID FRESINO“Cats & Dogs feat.カネコアヤノ”

―5月に公開されたKID FRESINOの“Cats & Dogs feat.カネコアヤノ”のMVですか?

山田:そうです。それもあいみょんのMVと、ちょっと似たところがあって。その作品は、としまえんで撮ったんですけど、2020年の夏にとしまえんが閉園するのはもうわかっていて、それも絶対記録しておかなきゃって思ったんですよね。僕は東京出身なので、としまえんには、めちゃめちゃ個人的な思い出があるんです。そういう僕の無邪気な記憶と、フレシノとカネコさんの小動物感みたいな魅力がマッチして、ああいう映像になったと思うんです。

―ただ、そこから状況は一変して……4月7日に緊急事態宣言が出されて、世界は本格的に「コロナ禍」へと突入していきます。山田監督はその頃、どんなことを考えながら、何をしていたのでしょう?

山田:自粛期間中は自分で料理をするようにしていたんですけど、その準備のために近所のスーパーとかに行って、1日に2回料理をすると、結構1日って、あっという間に経っちゃうなって思って。それがすごく嬉しかったんですよね。

もちろん、仕事的なところで不安はありましたけど、その間にできなかったことって、極端な話、そんなに必要なことじゃないと思うんです。経済的な理由で行われていることがストップしているだけで、人の営み自体は止まってないわけだから。その中に映像があったら、それはそれでめちゃめちゃ幸せだなって思っていて。

―どういうことでしょう?

山田:たとえば、「今日はあれが食べたいからあれを作ろう」っていうのと同じように、今日はこれを映像で記録しようとか、明日は自分の身近な人を撮ろうとか。そういう感じが、いちばんの理想なのかなと思って。そういうことを、改めて自分の中で確認できたんです。つまり究極、仕事じゃなくても映像は作れると。もちろん、経済活動を止めることが、すべて正解というわけではないのですが。

『東京マラソン』やスーパームーン、大晦日の年をまたぐ瞬間といったものに目を向けてきた、山田智和自身の物語――「仕事じゃなくても、常に記録したいものがある」

―実際、何かを撮ったりしていたのですか?

山田:それこそ、緊急事態宣言が出された翌日の4月8日が「スーパームーン」っていう月が地球に最も近づく日だったんですけど、知り合いのビデオグラファーたちに声をかけて、世界各地から見たスーパームーンの映像を送ってもらって。それを僕が編集してアップロードしたりしていました。

―そんなことをされていたんですね。

山田:視聴数2000もいってない、謎の動画なんですけど(笑)。

山田:ただ、そういうことは、もともとやっていたんですよね。2014年の東京マラソンのとき、誰に頼まれたわけでもないのに、友だち10人ぐらいにカメラを渡して当日のマラソン風景を撮ってもらって、それを編集したものをアップロードしたり。あと、大晦日の夜の日付が変わる瞬間の映像をみんなに撮ってもらって、それを僕が急いで編集して元旦に公開したり。そういう遊びは以前からやっていたので、結果的にやることは変わらなかったというか。

―それは仕事とは関係なく?

山田:自分は仕事じゃなくても撮りたいものがあるというか、常に記録したいものがあるんですよね。2014年に東京マラソンを撮ったのも、その年でコスプレが終わりになるって聞いたからで(テロ対策のため、翌年の東京マラソンから、仮装しての走行は禁止になった)。世界的に見てもこんなに面白いイベントが、その年で終わるなんてもったいないし、これは記録しなきゃっていう。今年、スーパームーンをみんなで撮ったのも、そういうことなのかなって思います。

あいみょん“裸の心”のMVが捉えたもの。自粛期間中、最も制約の多い状況で作られたからこその意味

―とはいえ、5月の終わりには緊急事態宣言も解除され、徐々に仕事のほうも動きはじめていったのでは?

山田:そうですね。結構久々の現場になったのは、あいみょんの“裸の心”の現場だったかな。それは事前にものすごくいろんな企画を出しましたね。ただ「じゃあ、家でリモートで撮る?」とかいろいろ考えていたんですけど、その頃って、そういう映像ばっかり見させてられていたじゃないですか。

―そうですね。

山田:それは別に僕らはやらなくていいんじゃないかっていう。みんながそうしているからって、自分たちもそうする必要は全然ないなって思ったんですよね。それで、少人数の撮影が許されるまで待とうってことにして、スタッフの人数も最小限に絞って。あと、都内からは出ないでくれっていうのも言われていたんですよね。だから、条件的にはいろいろ厳しいところがあったんですけど。

―それが結果的に、こういう形になったと。

山田:だったらもう、ゼロでやろうよって。曲のタイトルも「裸の心」だし。で、そういう形でやりはじめて、そこに自分の好みとか、自分のテーマである「光と闇」、あるいは「水」といったニュアンスを後から足していきました。

あと、この作品は、僕が自分でカメラもやっているんですけど、あいみょんの表情とかに呼応して、思わず寄ってしまっているんですよね。でもそれがすごくいいなって。最後も、本人に近づき過ぎてシャワーの湯気でレンズが曇り出しているんですけど、そういう偶然性を取り込めたのもいいなって思うんです。やっぱり月じゃなくて、人の顔が撮りたいなって(笑)。

―(笑)。長回しのワンカットで撮っているし、ある種のドキュメンタリーですよね。ただ、その生々しさが、この曲の歌詞の世界と相まって、親しい人にも気軽に会えなかった、あの頃の記憶を呼び起こすような気もしました。

山田:あのときの感じをどこか肯定したいというか、ちゃんとポジティブな感じで残しておきたかったんです。だから、あいみょんがこのMVで賞を獲った(『MTV Video Music Award Japan 2020』で、最優秀女性アーティストビデオ賞を受賞した)のは、ひとつの象徴みたいなものだったのかなって思っています。美術とセットが綺麗で、すごく作り込まれた世界のもの、あるいはロケーションがすごいものではなく、こういうシンプルなものを選んでもらえたっていうのは、すごく2020年として意味があったというか。

どれだけの犠牲の上に、いまがあるのだろうかーー死生観を表現した、米津玄師“カムパネルラ”

―そして8月には、あいみょんと並んでもうひとり山田監督にとって重要なアーティストである米津玄師さんの“カムパネルラ”のMVが公開されましたが、これは先ほどのあいみょんのMVとは打って変わって、とても「抜け」のいい映像になりましたね。

山田:撮影したのは、夏とかでロケ撮影も許されはじめた時期だったんですけど、これは楽曲自体が宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』をモチーフにしているので、その「死生観」を全面に出したいと考えていました。その境界線の曖昧さというか、身近にある死や病を、美しさの中でうまく表現できないかなと思って。

―このタイミングで「死生観」というのも、大胆と言えば大胆ですよね。

山田:そうですね。ただ、米津さんの場合は、アルバムのレコーディングにも行かせてもらって、そこでコロナの状況下についてとか、いろいろ話すことができたんですよね。それがこのMVには反映されているかもしれないです。

―ちなみに、どんなことを話したんですか?

山田:やっぱりいまは、いろんなことを振り返る時間があって……いろんな人の思いとか、自分の大事なものとか、そういうものをどれだけ犠牲にしてきたうえで、いまの自分があるんだろうってことを話して。それこそ『銀河鉄道の夜』にもあるような、人の犠牲の上に成り立つ何かとか。そういうモチーフは、その会話の中から生まれてきたものかもしれないです。

分断を生み出さない映像表現の手がかりを見つけた、Tod's『Sounds of a Planet』

―そして、そのあとは……。

山田:その頃から結構ショートフィルムを撮ることが増えたのが、実はいちばん大きな変化で。これまでMVをしっかりやってきたつもりではあるんですけど、その表現の枠組みの中ではどうしても伝えきれないことがあるんですよね。やっぱり、MVは尺の制限があるので、尺を伸ばしたいっていう欲求が、だんだん強くなってきたというか。あと、そういうこと自体を考える時間も、今年は結構あったので、ストーリーを描くということにだんだんシフトしている時期だったと思います。

―そのショートフィルムというのは、Tod'sとPRADAのショートフィルムのことですか?

山田:そうです。ありがたいことに、ちょうどそういうお話をいただいて。Tod'sは、クラフトがすごくいい職人感のあるブランドなので、そこに僕も呼応したいなっていうところから、この『Sounds of a Planet』というのを考えました。プラネットと言いつつ、クリーニング屋が舞台で……そこに、めちゃくちゃカッコいい乾燥機が出くるんですけど、その音を聴いて、そこを宇宙船だと思っている女の子の話なんですよね。

山田:それは自粛期間中の記憶というか、乾燥機を回しながら新しい未来を想像しているような……そういう時代感と、どこか似ているような感じがあって。だから、この作品は野外のシーンが一切ないんですよね。

―言われてみれば、たしかに。

山田:あと、自粛期間中に人間の想像力の強さみたいなものを、すごく感じたんですよね。自宅のベランダで家庭菜園をはじめた友だちがいたり、新しい趣味ができて、それにまつわるクリエイションをはじめたりする人がいたりして。

それってイマジネーションの力だと思うし、それは自分が理想としているテーマのひとつというか……まだその答えを探している途中なんですけど、さっき言ったような分断を促す表現ではないもの。それはたとえば、やさしさなのかもしれない。やさしさの連鎖で、人が繋がっていく感覚というか、そういう分断の逆みたいなことを、せめて自分の映像世界の中で、できないかなって思って。それで作ったのが、この作品なんですよね。

変わらずに、新しくなっていくために。PRADA『Where is UFO?』で密かに表現された、宮下公園への弔い

―一方、PRADAのほうは……これはMIYASHITA PARKとも関係している企画だったんですか?

山田:2020年の夏にオープンしたMIYASHITA PARKにPRADAのショップが入るから、それで何か映像作品を考えてくださいって話だったんですけど……僕、「MIYASHITA PARK」になる前の「宮下公園」で、2016年に『トーキョー・ミッドナイト・ラン』っていうドラマを、コムアイと二階堂ふみさんのダブル主演で撮ったことがあって。

―渋谷が舞台の特別ドラマですよね。2016年のクリスマス前にオンエアされた。

山田:そのドラマの冒頭のシーンが宮下公園だったというか、宮下公園の入り口のところにあった公衆便所を、2人が勝手にクリスマスの飾り付けにしているシーンからはじまって。そのまま2人が宮下公園を通り抜けて、渋谷の街に繰り出していく話なんですけど、その場所がなくなって、そこに新しく建ったところから仕事の依頼がきたっていうのはすごく面白いというか、「試されてるな」って思ったんですよね。いまの自分はその場所で、どんなことを思うんだろうって。

山田:この作品の「Where is UFO?」っていうタイトルが出るシーンで、女の子が花壇に水をやっているんですけど、あれは僕なりのレクイエムというか、弔いだったりするんですよね。あと、最初はそこに、「昔はここに公衆便所があって、私は何回も助けられたことがある」っていう台詞が入っていたんですけど、それを最終的に「ここには昔公園があって、私の好きな映画のシーンにも使われていた」に変えて。

さっき話した、あいみょんの“さよならの今日に”のMVじゃないですけど、変化していく街の中で、自分自身の根本の部分は変わらないんですけど、新しくなっていきたいっていう感覚もあって。そういうひとつの機会として、この作品はすごくよかったなと思っているんですよね。

―なるほど。

山田:あと、街を測る尺度として、「お金」っていうのは、ちょっと面白いなと思って。お金の使い方って、その人の価値観が出るじゃないですか。いきなり10万円をもらったら、この主人公の女の子は、それをこの街で、どんなふうに使うんだろうかって。

―それってひょっとして、一律10万円の特別定額給付金と関係していたり?

山田:まさに、それがヒントになっていて(笑)。そのお金をどう使うかって、やっぱりパーソナリティが出るし、もっと言うなら、それを使うことが、街の楽しみ方のひとつだったりするじゃないですか。その人のセンスみたいなものが、すごく問われることでもあるわけで。

―なるほど。広告仕事とはいえ、かなり自由な作品になっているんですね。

山田:ありがたいことに。この2つのショートフィルムに関しては、僕が自分で企画して、脚本も書いて、キャスティングもやらせてもらったので。そういう意味では、割と純粋なクリエイティブワークだったと思います。

否定や排除ではなく、手放していけ。2020年の青春の記憶たちを補完して未来に繋げた、藤井風“青春病”

―そのあと、8月にはPUNPEE“Wonder Wall feat. 5lack”が、10月にはKID FRESINO“No Sun”が公開されました。

山田自身、PUNPEEと5lackをリスペクトしているそうで、「2人が一緒にいるところの空気感やバランスみたいなものを、ミニマルな形で表現したいと思った」と語った

「この曲のMVでは踊りたい」という本人の意向を尊重し、自分自身からは逃れられないということを表すべく、身体表現をフィーチャーした映像になったという

―そして、12月11日には、藤井風さんの“青春病”のMVが公開されましたが、藤井さんとは、今回が初タッグですよね?

山田:そうなんです。2020年の最後に、藤井風くんと出会えたのは本当によかったなって思っていて。最初に言ったように、分断を促すのではない表現を模索していたんですけど、それをどうやってやればいいのかわからなくて、ちょっと悩んでいた時期があったんですよね。

そんなときに、風くんの“帰ろう”って曲を聴いて、「あ、これだ。こういう概念が必要だし、こういう考えで僕もいきたい」って思って。要は、手放すってことですよね。手放すということ、そして誰も傷つけないことを、彼はずっと歌い続けているような気がして。

藤井風“帰ろう”を聴く(Apple Musicはこちら

山田:いまの時代って、いろんなものを、慌てて手に取っていくような時代じゃないですか。だけど、これからの時代はそうじゃないというか、何かを否定したり傷付けながらひとつのものを手に取っていくのではなく、それを一つひとつ手放しながら、みんなと手を取り合っていくことが大事になっていくのかもしれないって思ったんです。

―この“青春病”のMVは、どんなコンセプトで撮っていったのですか?

山田:これはタイトルどおり、もうめちゃくちゃ青春の話なんですけど……今年はコロナのせいで、みんながみんな青春できたわけじゃないですよね。そういうときに、みんなを何かひとつ青春の世界に連れていきたいというか、みんなの話の続きになりたいと思ったんです。

みんなが見たり、想像してきた青春の続きを描きたいというか、その思いをしっかりと未来に繋げられるようなものにしたかった。つまり、このMVは、過去を描いているようで、いまを生きている人に向けて、「それでいいんだぜ」って言いたかったんですよね。

「この映像はみんなが生きている世界と地続きの世界なんだよ」――藤井風“青春病”、KID FRESINO“Rondo”に共通する意識

―あと、このMVを見ていて思ったのですが、この「青春感」みたいなものって、そのあと公開されたKID FRESINOの“Rondo”にもあるような気がして……それがここ最近の変化なのかなって。

山田:たしかに。PUNPEEさんと5lackさんのMVにも、ちょっとそういう感じがあるし……いままでは、ひとりで撮っているものが多かったですよね。何でなんだろう……僕自身が、映像とかカメラのおかげで、いろんな人とコミュニケーションしたいと思うようになってきたからかもしれないです。もしカメラを持っていなかったらこんなに人と話すことができなかったかもしれない。

―そこには、あまり気軽に友だちにも会えなかった今年の状況みたいなものも関係しているのでしょうか?

山田:それはあるかもしれないです。人との繋がりというか……さっきは「犠牲」という言葉を使いましたけど、自分はどれだけの人たちのおかげで、いまここに立っているんだろうとか、そういうことを考えるようになったり。

あと、自粛期間中に散歩がてら、自分が通っていた小学校や中学校の近くを歩いてみたりとか、そういう自分のルーツみたいなものを考えたりして。そこには必然的に、当時お世話になった人たちとか、仲がよかった友だちとか……もちろん、いまの自分を支えてくれている仲間とか、そういう人たちのありがたみをすごい感じて。それが“青春病”とか“Rondo”のMVには、ちょっと反映されているのかもしれないです。いまは、みんなが感情移入できるようなものがいいんじゃないかって。

山田:抽象的なイメージや概念みたいなものも大事ですけど、いまは日常の延長にあるものに落としたいというか、「この映像はみんなが生きている世界と地続きの世界なんだよ」っていうことを、意識しはじめているのかもしれないです。その人が選んだできた道や人生と作品が上手く重なって、その人なりの答えが出るようなものがいちばん美しいと思います。

村上虹郎とともに編集者に持ち込んだ企画『虹の刻』で表現した、「言葉にならなかった感情、映画にならなかった景色」

―それこそ、最初に話した『365 STEPS』も、そういうものになっていますよね。あと、これは「写真家」としての仕事になりますが、12月24日には、村上虹郎さんとの共著というか、村上さんがモデルで山田監督が写真を担当しているフォトブック『虹の刻』が発売されました。

山田:これは2018年の1月から2020年の3月まで雑誌でやっていた写真連載をまとめた書籍なんですけど、単なるフォトブックじゃなくて、名だたる文筆家の人たちに、文章でも参加してもらっていて。

―又吉直樹さん、町田康さん、新井英樹さん、古川日出男さん、常田大希(King Gnu)さんなど、錚々たる人々が文章を書きおろしていますが、これはもともと、どんなアイデアでスタートした企画だったのですか?

山田:虹郎くんとは、もう10年近い付き合いになるんですけど、まず第一に僕は彼のことをものすごく魅力的に思っていて、何年か前に「仕事じゃないけど、写真を撮らせてほしい」って言って、一緒に九十九里まで行って写真を撮ったんですね。そのときの写真が思いのほかよくて、「どっかで発表したいよね」「だったら雑誌がいいよね」みたいな話になって、知り合いの編集者に提案させてもらって。

―2人の持ち込み企画だったんですね。

山田:そうなんです。ただ、どうせやるなら、ただの写真連載ではなく、いままでにない面白いものを作りたくて。

山田:最初の企画書に「言葉にならなかった感情、映画にならなかった景色」って僕が書いたんですけど、だったら脚本家がいてもいいというか、文章とのコラボレーションも面白いんじゃないかってみんなで話して、毎回ゲストで、僕ら好きな文筆家の方々に文章をお願いすることになったんです。

結果的に、僕らが最初思っていたよりも、すごく遠いところまで飛ばしてもらった手応えがありました。ひとつの写真もその文章によって見え方が変わるし、その文章自体も写真によって全然意味が変わってきたりして……それがすごく面白かったんですよね。そういう大きなクリエイションの渦みたいなものが、この本の中で生まれたような気がしています。

―それも先ほど言っていた、「その人が選んできた道や人生と作品が上手く重なって、その人なりの答えが出るようなものがいちばん美しい」という話と通じるところがあるのかもしれませんね。

山田:そうですね。最初からずっと、そういうことを自分はやりたいんですよね。

―そんな激動の2020年も終わり、2021年を迎えたわけですが、最後に今年の抱負を聞かせてください。不安な状況は、まだしばらく続きそうではありますが。

山田:そうですね。状況が急に変わらないように、急に新しいことはできないと思うので……BossのウェブCMじゃないですけど、これからも一歩一歩、ちゃんと積み重ねていくことが大事というか。その都度その都度、普段の生活や、身近な人の中に感じたことをちゃんと拾っていきながら、それを届けることが自分の役割な気もしているので、そういうことを丁寧にやっていくしかないのかなと。

あと、自分はやっぱり、「クリエイションの先に、次のクリエイションがある」と思っているので、一つひとつの作品としっかり向き合いながら、その歩みだけは止めないようにしたいなって思っています。

書籍情報
『虹の刻』

2020年12月24日(木)発売
著者:村上虹郎、山田智和
価格:3,080円(税込)
発行:CCCメディアハウス

プロフィール
山田智和 (やまだ ともかず)

映画監督、映像作家。東京都出身。クリエイティブチームTokyo Filmを主宰、2015年よりCAVIARに所属。2013年、『WIRED Creative Huck Award』にてグランプリ受賞、2014年、『ニューヨークフェスティバル』にて銀賞受賞。水曜日のカンパネラやサカナクションのミュージックビデオを手がけ、徐々に頭角を表していく。2018年にはヒップホップシーンのみならず幅広い世代に衝撃を与えたKID FRESINOの“Coincidence”や、YouTube再生回数が6億回以上を記録した米津玄師の“Lemon”、あいみょんの“マリーゴールド”、星野源“Same Thing (feat. Superorganism)”など、数々の話題となったミュージックビデオを演出する。また、NIKE、SUNTORY、GMOクリック証券、TOD'S、PRADA、GIVENCHY、Valentino × undercover等の広告映像や、ファッション誌のビジュアル撮影も行うなど、その活動は多岐に渡る。渋谷駅で行われたエキシビション『SHIBUYA / 森山大道 / NEXT GEN』にて「Beyond The City」を発表。伊勢丹にて初の写真展『都市の記憶』開催。



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