いわさきちひろ生誕100周年 黒柳徹子が想いを語る。7作家の企画展も

2018年、いわさきちひろが生誕100周年を迎える。これを記念して、ちひろ美術館・東京、安曇野ちひろ美術館の両館では2018年の1年間を通して、現代の作家とのコラボレーション展『Life展』を開催するほか、東京ステーションギャラリーでは展覧会『生誕100年 いわさきちひろ、絵描きです。』が行なわれるなど、様々な企画が用意されている。

本日11月1日に東京都内で開催されたプロジェクトの企画発表会には、ちひろ美術館館長の黒柳徹子をはじめ、ちひろの夫である松本善明、息子の松本猛や、『Life展』の参加作家から大巻伸嗣、飛田正浩(spoken words project)、近森基(plaplax)、小原藍(plaplax)、石内都、鈴野浩一(トラフ建築設計事務所)が登壇。その模様をレポートする。

左から:いわさきちひろの息子・松本猛、ちひろ美術館・館長の黒柳徹子、いわさきちひろの夫・松本善明
左から:いわさきちひろの息子・松本猛、ちひろ美術館・館長の黒柳徹子、いわさきちひろの夫・松本善明

黒柳徹子「もっとちひろさんのことを知ってほしい」 平和への願いも受け継ぐ

55歳で逝去したいわさきちひろに会ったことはなく、「いつか自分の書いたものに、ちひろさんに絵を描いてもらえたらいいなと思っていたが、こんなに早くお亡くなりになるなんて思わなかった」と話した黒柳徹子。自伝『窓ぎわのトットちゃん』の表紙や挿絵にいわさきちひろの作品を使用していることでも知られ、ちひろ美術館初代館長の飯沢匡と共にちひろの評伝『つば広の帽子をかぶって―いわさきちひろ伝』を発表している。

黒柳はちひろの訃報を目にした時のことを振り返り、「新聞に広げてちひろさんが亡くなったという記事を読んで涙がこぼれました。お目にかかったことのない方の死を知って泣くことはめったにないんですけど、本当に子どもの味方がなくなってしまったような悲しい気持ちと不安でいっぱいでした」と明かした。ちひろは黒柳の誕生日の前日である8月8日に亡くなっており、黒柳は自身の誕生日が長崎に原爆が落とされた日であることから普段自分では祝わないが、その日は祝ってくれる人がおり、お返しにちひろの作品を渡そうと手にして家を出たところで新聞を目にしたという。

また今回の企画については「来年、生誕100周年を迎えるにあたってもっとちひろさんのことをみなさんに知っていただきたい。生誕100年をこうやって皆さまと迎えることができたこと、大変嬉しく思っています」と話した。

黒柳徹子

さらに作品に平和への願いを込めたちひろの想いに触れた。

「いま世の中はなんとなく騒然としていて、子どもたちの平和がどれだけ続くかということをみんな心配している。ちひろさんが一番心配しているのはそういうことではないか」「(報道陣に対して)戦争を知らない皆さまも平和がどんなに素晴らしいか、自由がどんなに良いかということを発信し続けてくれたら嬉しい」

夫が語るちひろ「あの戦争について考えなければ前に進めなかった」

ちひろの夫で、公益財団法人いわさきちひろ記念事業団評議員を務める松本善明はちひろとの出会いを振り返る。

ちひろは戦前から戦争反対を貫いてきた共産党に感銘を受け、のちに共産党の国会議員となった松本善明と党の会合で出会った。なぜ共産党は戦争に反対することができたのかを知りたいと長野から上京したちひろと、自身も戦争中は海軍兵学校へ行き、戦争が終わってなぜ戦争が起きたのか、海軍に行った自分は正しかったのかと自問した松本。「あの頃の青年はあの戦争について考えなければ前に進めなかった。それはちひろも同じだった」と回顧した。

左から:いわさきちひろの息子・松本猛、ちひろ美術館・館長の黒柳徹子、いわさきちひろの夫・松本善明

さらに松本は「いま日本は戦争という問題について改めて考える時期にきているのではないか」と話す。

「私たちは戦争が終わって若い頃はみんな戦争について考えた。これから戦争が起こるかもしれない。それを防がなければならないという時代に入っている中で、いわさきちひろの記者発表にこれだけの人が集まってくれて心強い」「絵だけでなくいわさきちひろという人間がどう生きたのかというのも大きな課題。絵を起点にちひろの人生や日本の歴史についてみなさんが考えていただくということを願っている」

谷川俊太郎、石内都、長島有里枝ら現代の7作家がちひろと共鳴する『Life展』

ちひろ美術館では2018年に1年間を通して「Life」をテーマに様々な企画を展開。メインビジュアルなどのアートディレクションは長嶋りかこが手掛けている。

1年間にわたってちひろ美術館・東京、安曇野ちひろ美術館の両館で行なわれる『Life展』の参加作家は、大巻伸嗣、spoken words project、plaplax、長島有里枝、石内都、トラフ建築設計事務所、谷川俊太郎の7組。いま「Life」をテーマに制作に取り組んでいる作家、いわさきちひろをインスピレーションのもととして新たな作品を生み出す作家、いわさきちひろと響き合う感性を持つ作家という基準で作家の選定が行なわれたという。

後列左から:大巻伸嗣、飛田正浩(spoken words project)、近森基(plaplax)、小原藍(plaplax)、石内都、鈴野浩一(トラフ建築設計事務所)、成相肇(東京ステーションギャラリー学芸員)
後列左から:大巻伸嗣、飛田正浩(spoken words project)、近森基(plaplax)、小原藍(plaplax)、石内都、鈴野浩一(トラフ建築設計事務所)、成相肇(東京ステーションギャラリー学芸員)

花をモチーフにした作品を制作している大巻伸嗣は、同じく花を多く描いたちひろの作品をインスピレーション源とし、五感を使って旅をするような体験を生む空間インスタレーションを発表。spoken words projectはちひろの作品からインスピレーションを受けて新たにアパレルブランドを立ち上げるほか、展覧会ではテキスタイルをメインにしたインスタレーションを展示する。

plaplaxは、ちひろの水彩技法や絵本作りを手がかりに、「あそぶ」を体現したインスタレーションを発表する予定。石内都の展示では、広島の原爆での被爆の遺品を撮影し続けている石内と、被爆した子どもたちの手記『わたしがちいさかったときに』に挿絵を提供したちひろという2人の女性作家が捉えた「ひろしま」を起点とした作品が紹介される。

長島有里枝は『作家で、母で つくるそだてる(仮)』のタイトルで展示を行なう。トラフ建築設計事務所は、ちひろの絵の中にしばしば登場する「帽子」をモチーフにちひろの世界が体感できる子どもの部屋を設計。谷川俊太郎の展示『みんないきてる』では谷川の新作の詩と共にちひろの絵が展示される。特設サイトではそれぞれの参加作家が展示に寄せたメッセージが公開中だ。

ちひろを「再発見」する回顧展『生誕100年 いわさきちひろ、絵描きです。』

また東京ステーションギャラリーでは、2018年7月14日からちひろの生誕100年を記念した『生誕100年 いわさきちひろ、絵描きです。』を開催。

画家としてのいわさきちひろがどのような歴史的文脈に位置づけられ、どのような技術を凝らしていたのか、といった視点から、一般的に知られたちひろの魅力を再認識すると共に、知られざるちひろの発見を試みる。

展覧会ではこれまでにあまり紹介されてこなかったちひろの油絵や、戦前の資料なども紹介。さらに高畑勲監修のもと、拡大した原画の中に来場者が没入できる空間を作り出す。展覧会タイトルはちひろが夫となる松本善明と初対面した時に自己紹介で発した言葉からとられているという。

いわさきちひろ生誕100年のメインビジュアルを手にする黒柳徹子
いわさきちひろ生誕100年のメインビジュアルを手にする黒柳徹子

『生誕100年 いわさきちひろ、絵描きです。』展は、京都の美術館「えき」KYOTO、福岡アジア美術館にも巡回する。

なお2018年2月からは台湾・国立歴史博物館でもちひろの原画展が開催される予定。また昨日10月31日には、ちひろの息子・松本猛によるちひろの評伝『いわさきちひろ――子どもへの愛に生きて』も刊行されている。

2018年の生誕100周年に向けたプロジェクトの詳細は今後も随時発表される。最新の情報は本日公開された特設サイトでチェックしよう。(いわさきちひろ生誕100年/Chihiro Iwasaki特設サイト



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