すべての頭のネジの外れた人におくる、地獄のお悩み相談

オセロの中島知子は、悩みを打ち明ける相手を間違えた。安っぽい占い師に操られる前に、このオジー・オズボーンのお悩み相談コーナーに投稿するべきだった。

誰かに悩みを相談するとき、人は大抵、こう返してくれたらいいなと「期待する返事」を用意している。そこにピタッとはまるアドバイスが来ると、この人どうしてこんなに分かってくれるの〜、頼りになる〜と信頼を置いたり、或いは、家賃を滞納してマンションに居座ったりするようになるのだ。ロンドンの『サンデー・タイムス』の連載をまとめた、オジー・オズボーンによる人生相談本を読むと、ここに「期待する返事」は全く出てこない。ただし、妙な実用性を持つ。例えば、姑の作るご飯がおいしくない、どうすれば姑を傷つけずに済むか、に対する答えはこうだ。「犬を飼え。そうすれば、君は皿を一杯にして、さらにおかわりを求める英雄のように見せつつ……テーブルの下にいる君の四本足の友達に、マッシュポテトのかたまりをどっさり与えることが出来る」。

オジー・オズボーンのチャーミングさを伝える時に自分はいつもこの話をするのだが、ロックスターってのは、ライブの開演時間になってもなかなかステージに出て来ないもので、Guns N' Rosesのアクセル・ローズのように数時間待たせる事態など、当たり前に発生する。しかし、10年ほど前に初めて観たオジーのライブは違った。定刻通り? いやむしろ、開演時間の前に出てくるのだった。理由は「早く終えないと、眠くなっちゃうから」だそうだ。急いで会場に入ってくる観客の慌てっぷりなど知らんぷりして、挙句、ライブの盛り上がり次第で観客にブチまけるはずだったステージ脇に用意されたバケツの水を、1曲目の途中で速攻撒いてしまう。ステージ周辺は、冒頭からビショビショだ。音程は外れまくり、「ヘイッ! ヘイッ!」と手拍子を促すものの、そのかけ声自体タイミングが全くずれていて、こちらはオジーに合わせていいのか、曲に合わせていいのか分からぬまま。それらを観客は、落ち着きなく動き回る動物園のオランウータンを見るように微笑ましく眺める。

しかし、ご存じのように、オジー・オズボーンは、メタルの祖だ。あらゆるヘビーミュージックの原点だ。彼が在籍したBlack Sabbathがいなければ存在しえなかった音楽が、そこかしこで我が物顔をしている。しかし、オジーは本書の前書きで、本来誇るべき音楽的経歴を差し置いて、真っ先にこんなことを誇らしげに言う。「アメリカ軍の研究所で飼育されているネズミですら、試した化学薬品は私より少ないんじゃないかな」「私の体の中には今やIKEAの組み立て式家具より多い数の金属製のネジが入っているんだ」。不摂生の度が過ぎたオジーは、便秘で悩んでいるとの問いかけにも自分の経験を持ち出し、「(下剤を手のひら一杯服用したところ)2分後には、後方からクリスマスディナー10人分もの量を排出することになった」と注意を促す。

©HMJM

隣人トラブルの質問では、かつて自分の隣人宅が、毎晩のようにテニスコートでテニスを始め、「ウィンブルドンのセンターコートにいるような」気分になった経験を例に出す。そのとき、オジーはどうしたか。「私は庭に10億ワットのPAシステムを置いて、彼がテニスを始めた途端、そっちに向けてスラッシュメタルを流すようにしたんだ。それですぐに問題は解決さ」。さらりと、君もやったらどうだい、と勧めてくる。出来るわけがない。

彼がジムに行ってもちっとも痩せないとの質問に、途中でサンドイッチを食べているはずだ、と断定したりと、どこまでも高田純次的な回答が続く……と思いきや、死生感を問う場面ではやたら神妙になる。Black Sabbathを退き、自身でバンドを組んだオジーを救ったのは、情感豊かな若きギタリスト、ランディ・ローズだった。アルバム2枚をオジーと共にした後にランディはツアー中の飛行機事故で帰らぬ人となる。若干25歳、1982年3月19日のことだった。死して30年が経過したことになる。妻が亡くなった悲嘆に対処するためにはどうしたらいいかとの質問に、さっきまでドラッグとセックスとウンコの話ばかりしていたオジーが言葉を選んで慎重に語りかける。

「他人には突然の死に向き合い対応する手伝いは出来ない(中略)自分自身でやるしかないんだよ。まず、悲嘆は自然なプロセスであり、誰もが人生のどこかで経験するものなのだ(中略)君が受け入れなければならないのは、自分に近い人間の死から完全に立ち直ることは出来ない、ということだ。今でも、ランディと一緒に作った2枚のアルバムに入っている曲をステージでプレイすると、彼が私のすぐそばにいるように思えるんだよ」。

巻末に「楽しく長生きするための簡単な10のヒント」を残している。ここからもそのひとつを拝借しておこう。「私達はたいてい、どこかしら頭のネジがはずれているんだ。ただ、中にはそれを人よりうまく隠すことが出来る人達もいる、というだけだ。」今年、まさかのBlack Sabbath再結成+新作発表を控えるオジーからの回答集は、とっても不器用だ。でもオジーが言うように、器用というのは「うまく隠すことが出来る人」のことであって、むしろ、不器用こそ丸裸で素直なのだ。ネジが外れていて、一向に構わないのだ。免許の試験に2度も落ちてしまった息子に悩む親に、オジーは「私は19回受けた」とアドバイスする。この不器用なロックスターから、私たちはもっともっと大きな勇気をもらわなくてはいけない。

書籍情報
オジー・オズボーン、クリス・エアーズ(著)、迫田はつみ(訳)『ドクター・オジーに訊け!』

2012年2月25日発売
著者:オジー・オズボーン、クリス・エアーズ
翻訳:迫田はつみ
価格:1,680円(税込)
発行:シンコーミュージック・エンタテイメント

プロフィール
オジー・オズボーン

1948年、イングランドのバーミンガム・アストン生まれのヘヴィ・メタルミュージシャン。1969年から1978年まで活動したブラック・サバス時代と、グラミー賞にも輝いたソロ活動時代、併せて1000万枚を超えるアルバム売り上げを記録している。現在は5人の子供の父でもあり、バッキンガムシャーおよびカリフォルニアの自宅に、妻のシャロンと共に暮らしている。彼の自伝『アイ・アム・オジー』は世界的なベストセラーとなっている。



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