アップリンク、シネマスコーレら4館に訊く、ミニシアターの現状

アップリンク吉祥寺(東京)の館内。2018年にCINRA.NET編集部が撮影

2020年5月末、映画館が再び開き始めようとしている。

新型コロナウイルスの感染拡大を受け、3月頃から全国的に多くの映画館が休業を余儀なくされてきた。その経済的・文化的大打撃をなんとかやわらげるべく、政府に対して緊急支援を求める要望書への署名を募る動きがあったことや、小規模映画館を救うためのクラウドファンディングプロジェクト「ミニシアター・エイド基金」が結果として目標額を大きく上回る3億3千万円以上を集めた事実などを、ご存知の方も多いだろう。

しかし、ただ単に自粛期間が明け、営業を再開できれば、映画館、ないし日本の映画業界は、元どおりの活動を続けることができるのだろうか? この休業期間を経て、すぐに文化施設が「コロナ以前」と同じ集客を見込めるかというと、そうではないだろう。「ミニシアター・エイド基金」を深田晃司監督と共に主導した濱口竜介監督がインタビューで「同じ暮らしが戻って来るとは全く思っていません」と語ったとおり、「コロナ以降」、これまでと全く同じ体制で文化を支えていくことを想像することが、もはや困難なのかもしれない。(参考:ミニシアターで働く人の危機で、濱口竜介が考えた「責任」

CINRA.NETでは、2020年5月中旬に各地の映画館と配給会社、制作会社、現場スタッフ、映画イベントの主催者にメールインタビューを実施。その回答を、前後編に分けて紹介する。前編では、日本各地のミニシアター関係者から届いた声を掲載。「ミニシアター・エイド基金」の目標金額達成や、緊急事態宣言の解除を受けてもなお、楽観視できない状況について、考えを巡らせたい。各地の劇場に少しずつ蓄積されてきた映画の記憶や、人々の暮らしが、これ以上危機にさらされぬように。映画館に通えない日々を経て、今どうしても、あの暗闇が恋しい。

アップリンクや新文芸坐の取り組みやメッセージ。浅井隆「とにかく生き延びて」

今回の取材に回答いただいた映画館は、アップリンク(東京・京都)、新文芸坐(東京)、シネマスコーレ(愛知)、ゆいロードシアター(沖縄)の4館。「現在の状況」「政府や行政に求めること」「映画館支援として一般ユーザーに出来ること」の3点について、可能な範囲で返答をいただいた。

アップリンク 浅井隆
<現在の状況>
アップリンク渋谷、吉祥寺は休館中。京都は開業自体が延期になりました。アップリンクは配給事業も行なっているので、自社の作品60本以上を「3ヶ月間2980円見放題パック」にしてオンライン映画館「アップリンク・クラウド」で販売、お客様からの提案もあり、寄付込みプランの取り扱いも行なっています。また、オンラインマーケットを作り、映画館が再開した際に、渋谷、吉祥寺、京都の3劇場でご利用いただける特典付き回数券を販売しています。そして、リアルな映画館が休館中ですのでオンライン映画館「アップリンク・クラウド」では、日本の独立系配給会社が結集し立ち上げた『Help! The 映画配給会社プロジェクト』の緊急アクションとして、配給会社別の見放題パックの配信も開始しました。

<政府や行政に求めること>
映画館の経営規模は様々です。アップリンクは渋谷、吉祥寺、京都と3つのサイトを運営し、計12スクリーンの規模です。休業要請に応じて休館しているのですが、都の協力金1か所50万円、アップリンクの場合2か所なので100万円、国の持続化給付金最大200万円では、月々の売り上げがゼロでもかかる家賃やリース料などに達しません。中小零細企業を3段階、中企業、小企業、零細企業に区分して事業規模に合わせた補償を考えて欲しいです。

<一般の観客に出来ること>
とにかく生き延びてください。安心して外出できるようになり映画館が再開したら、映画館に映画を観に来てください。そして、例えば2か月に1回だった映画館での鑑賞を月に1回に増やしてくださるとうれしいです。
新文芸坐 後藤佑輔
<現在の状況>
様々な支援や活動が盛んに行なわれており、ミニシアター・エイドでの国内クラウドファンディング史上最高額達成など、多くの映画人達の真摯な活動と映画ファンの心意気に感謝しております。SNSなどでも多くの励ましの声を頂いております。一刻も早く、映画館が当たり前にある日常が戻るようにしていきたいと思っております。

<政府や行政に求めること>
一方で今後営業を継続していくには資金繰りや感染症対策など多くの問題があります。特に映画館など座席数削減の影響を受ける業態にとっては深刻な問題です。明確な指針、ガイドラインの策定、収束に向けたロードマップの明示を希望します。また、小規模な事業者には継続的な財政支援が必要です。

<一般の観客に出来ること>
すでに様々な活動で大きな支援をいただいています。後は安心して映画を鑑賞できる環境とコンテンツを映画館側が提供出来るよう、頑張っていきたいと思っております。
5月26日、新文芸坐は6月1日から営業を再開することを発表した

シネマスコーレの再開に向けての動き。沖縄・ゆいロードシアターは「守る会」を発足

東京でも映画館が徐々に開き始めようとする兆しが感じられる中、一足先に緊急事態宣言が解除された地域では、再開に向けて動いている映画館もある。名古屋のシネマスコーレは、5月19日のメール取材に返答いただいたのち、5月23日に営業再開を果たした。

シネマスコーレ 坪井篤史
<現在の状況>
5月23日の復館に向けて、館独自のガイドラインの開発を連日スタッフミーティングしている次第です。ひとつ心配なのは、再開してお客様が戻ってくるかはもちろん、ガイドラインにより51席の座席が半分しか使えないことによる赤字営業が今後どう響いてくるかです。

<政府や行政に求めること>
コロナ禍が過ぎてからが厳しいガイドラインにより一番苦しい状況が続く映画館が多いので、再度補償について見直してほしいです。

<一般の観客に出来ること>
支援Tシャツの購入や映画館独自のグッズの購入ができます。また再開した際は、皆さんの記憶のどこかにミニシアターがあるような寄り添った空間を作っていきたいです。いつか遊びに来て下さい。

一方で、新型コロナウイルスの感染拡大時に、すでに取り返しのつかないダメージを負ってしまった映画館も存在する。沖縄のゆいロードシアターは、そのうちの1つだ。

ゆいシネマを守る会 竹内真弓
<現在の状況>
ゆいロードシアターは新型コロナウイルスの影響により4月12日より長期休館(再開未定)となりました。私は2018年の劇場立ち上げ時より映画上映を担当して参りましたが、数か月に及ぶ経営不振や行く末が不透明であることを踏まえて、話し合いの上3月末で解雇となりました。運営会社からは、今後劇場が再開したとしても常時の映画上映は難しいという考えをお伺いしました。たった1年8か月ではありますが、小さく守り続けてきた映画の灯が一瞬のうちに吹き消されてしまいました。10年間映画館のなかった人口5万人の石垣島において、これまでのやり方ではミニシアターの楽しさや必要性を紹介しきれなかったのだと、自分の至らなさを痛感しています。けれど、再開を望む声に背中を押され、個人的に「ゆいシネマを守る会 日本最南端の小劇場再建プロジェクト」という任意団体を立ち上げました。今後はゆいロードシアターを離れ、石垣島及び八重山での映画上映を続ける方法を模索していきます。現在クラウドファンディングにてご支援を募り、まずは石垣市内での自主上映会の開催を計画しております。最終的には日本最南端の小劇場(ミニシアター)再建を目指します。4月上旬にはミニシアターエイド運営事務局様よりゆいロードシアターへもお声をかけていただいたのですが、運営会社の方針で参加はせず、「ゆいシネマを守る会」として賛同させていただきました。

<政府や行政に求めること>
経営自粛、経営縮小を求めるならば、同時にその間にかかる必要経費の補償は必須だと思います。補償が素早く適切に成されていれば、職を失うこともなく、同じ場所でがんばれていたのになと悔しい気持ちです。今後あらゆるところで長期的に必要になるマスクや消毒液などの消耗品、ビニールシートやその他諸々の費用も全て負担してほしいです。日本の面白い街並みや文化は、代々続いた個人商店や、心ある支配人やオーナーが守ってこられた「空間」が育んできたのだと思います。日本に住む全ての人に、継続的な支援を求めます。

<一般の観客に出来ること>
劇場に心おきなく通える日までは、ご自身が大切に思っている劇場に寄り添って、無理のない形で支援を続けていただければと思います。南の島で映画の灯火を守る活動にご賛同いただけましたら、ご支援よろしくお願いいたします。

今回の件を受けて、映画館が日々どれだけギリギリの状態で運営を続けてきたかを、痛感した方も多いだろう。そしてそれは、映画館に限った話ではなく、映画にまつわる業界全体の、共通した課題なのかもしれない。後編の記事では、配給会社、制作会社、制作部、イベント関係者の声を紹介。今立ちはだかる課題に、目を向けてみよう。



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