コラム

トラヴィス・スコット×フォートナイト なぜ「歴史的」だったのか?

トラヴィス・スコット×フォートナイト なぜ「歴史的」だったのか?

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辰巳JUNK
編集:後藤美波(CINRA.NET編集部)

アーティスト側には音源売上や物販、長期的な宣伝効果も。ユーザーには「そこにいた」と思える没入感をもたらす

アーティスト側に与えた利益も莫大であった。イベントで披露されたキッド・カディとの新曲『The Scotts』はBillboard HOT100首位デビューを達成。ほか3曲もチャート復帰を果たし、2016年の旧作“Goosebumps”はアメリカにおけるストリーミング消費を385%も増やした。衣服やフィギュア、おもちゃの銃にまでわたるイベント特製マーチャンダイズに関しては「12か月分の世界ツアー興行分を10分で稼いだ」とする声もある。

『Astronomical』で披露された新曲“The Scotts”

なにより、モードによってはスマートフォンからも無料アクセス可能な『フォートナイト』の強さは、間口の広さと中長期的効果にある。今回の公演に参加した1200万以上のユーザーにはトラヴィスのファンでない人も多いはずだ。おまけに、ゲーム内で販売されたトラヴィス特製スキンやエモート(コミュニケーションツール)は今後も使用されていく。噛み砕いて言えば、月間8000万人が行き交うゲーム空間で、トラヴィスの格好をしたアバターが闊歩する世界観が今後も展開される。アーティスト側がなにもしなくても、宣伝がずっと続くのだ。

今のところ、バーチャルと現実世界のコンサートは別物だ。トラヴィスにしても、ミキシング音源を流したため、文字どおりの「live」というわけではなかった。一方で、一般的な動画視聴と異なる点は「参加者が『自分がそこにいた』と思える没入感」だろう。『フォートナイト』のイベントには、ユーザーがアバターを自分自身と捉えることによって生まれる集団体験としての機能が備わっている。自宅でもレイジやモッシュの熱狂が味わえる、そんな可能性に満ちたバーチャルコンサート市場の拡大は明らかだ。2019年にDJのKill The NoiseがバーチャルライブプラットフォームWaveで行った「ユーザーが敵を倒さないとコンサートが途中で終了してしまう」VRイベントのような、ゲーム要素を兼ね備えるポテンシャルも見逃せない。

『フォートナイト』のゲームを超えた可能性。インターネットの次の空間「メタバース」構想

『フォートナイト』が、エンターテインメントのみならずインターネットそのものの未来を切り拓く可能性もある。現在、Facebook社やGoogle社がこぞって取り組んでいると噂されるものが「インターネットの次の空間」たる「メタバース」の構築だ。メタバースとは、まだ定義は決まっていないが、ニール・スティーヴンスンの1992年のSF小説『スノウ・クラッシュ』を発祥とした概念で、スティーヴン・スピルバーグ監督映画『レディ・プレイヤー1』に登場するVRワールド「オアシス」がイメージ例に出されやすい。いわば、膨大な数のユーザーがアバターとして常時ログイン可能で、ユーザーそれぞれがクリエイティブ権を持ち、企業の垣根を超えてさまざまなコンテンツが混在し、独自の経済システムが機能する、変化を絶やさない場所……現状、これらの条件にもっとも近いプラットフォームが『フォートナイト』とされている。

スティーヴン・スピルバーグ監督映画『レディ・プレイヤー1』本編映像。「オアシス」は劇中の仮想空間

常にアップデートをつづける『フォートナイト』は、そのあまりの人気によって若者の「社交場」として機能するソーシャルネットワーク的側面も携えている。大企業とのコラボレーションも数多く、すでにマーベルやDC、ディズニー、『スター・ウォーズ』、Netflix、NFL、ナイキといった強力なIP(知的財産)ブランドが混在する場所を確立してみせた。

「フォートナイト x スター・ウォーズ」ゲームプレイトレーラー

『フォートナイト』を運営するEpic Games社は「メタバース」構築の野望を隠していない。2019年末、「『フォートナイト』はゲームかプラットフォームか?」と問われた同社CEOはTwitterでこう返答している。「今はゲームですが、12か月後、また同じ質問をしてください」。それから半年も経たないうちに行われたのが、トラヴィス・スコットのバーチャルコンサートである。ゲームに疎い人々にまで「ゲーム以上の可能性」を孕むプラットフォームであることを示すには十二分なインパクトだった。今回のパンデミック下、多くの人々がZoomや『どうぶつの森』を介してバーチャルコミュニケーションに順応したことで「メタバース」分野への関心と投資は増加していくと見られている。その先頭を走る『フォートナイト』が、我々の生活に欠かせないような仮想空間となる未来は、そう簡単に否定できるものではない。

子どもたちに夢を見せることを信念とするトラヴィス・スコット。「人生でもっとも刺激された日のひとつだった」

「子どもたちを勇気づけなきゃならない 大事な仕事だ」
「(地元ヒューストンは)台風や災害つづきで多くを失った でも団結すればどうにか乗り切れる 10歳や12歳の子達が未来を担っていく」
(Netflixドキュメンタリー『トラヴィス・スコット: Look Mom I Can Fly』よりトラヴィス・スコットの言葉)

トラヴィス・スコットの『フォートナイト』での公演『Astronomical』にも登場した、彼の顔をかたちどった金色のゲートやなどのアイテムは、トラヴィスの3rdアルバム『ASTROWORLD』と地つづきになっている。「アストロワールド」というタイトルは、2005年に閉園した彼の故郷テキサス州ヒューストンのテーマパークからとられた。子どもたちに夢を与えたこの遊園地を復活させるプロジェクトこそ、アルバム『ASTROWORLD』であり、地元で行われた自主開催音楽フェスティバル『Astroworld Festival』だったわけだ。これら企画の成功により、2019年にはヒューストン市長が新たな遊園地の設立を約束するまでの現象に至っている。

2018年にリリースされたトラヴィス・スコット『ASTROWORLD』ジャケット
2018年にリリースされたトラヴィス・スコット『ASTROWORLD』ジャケット

しかしながら、大志を叶えたトラヴィス自身も、まさかバーチャル空間にまで思い出の地を蘇らせるとは思いもよらなかっただろう。『フォートナイト』のユーザーには、現実のコンサートには入場を許されない年齢の子どもも数多い。子どもたちに夢を見せることを信念とするアーティスト、トラヴィス・スコットは、歴史的なバーチャルコンサートの担い手にふさわしかった。彼もフォートナイト公演には感銘を受けたようで、噛みしめるように「人生でもっとも刺激された日のひとつだった」「このおかしな時にレイジできる瞬間があることは素晴らしい」と胸のうちを明かしている。日々進歩するバーチャル技術は、アーティストの表現、そして子どもたちの夢をも拡張させることだろう。

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