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中村佳穂の表現の先端。配信ライブを合評とメール取材で紐解く

中村佳穂の表現の先端。配信ライブを合評とメール取材で紐解く

『LIVEWIRE「中村佳穂」』
編集
山元翔一(CINRA.NET編集部)

「音楽は魔法みたいだなって 思うことがたまにありますが、 今回色んな友の力を借りて 魔法を形にできたこと、嬉しく思います。」

9月12日に実施されたオンラインライブ『LIVEWIRE「中村佳穂」』のエンドロールで、中村佳穂は視聴者に手書きのメッセージをこう伝えた。この記事は同公演に関する3つのテキストから構成される。ひとつめは音楽ジャーナリスト・柴那典によるライブ評、ふたつめは『LIVEWIRE「中村佳穂」』が彼女の音楽活動においてどのような意味を持つのかを考えた編集部からのテキスト、そして最後は中村佳穂に実施したメールインタビュー。

この記事に、彼女の言うところの「魔法」を解き明かしてやろうなんて目的はない。しかし、あの配信ライブの舞台裏やコンセプトは中村自身の言葉で一部明かされている。本稿を通じて、一人でも多くの人の中村佳穂の音楽に対する理解を深めてくれたら、それ以上のことはない。

(メイン画像撮影:今木研志)

中村佳穂(なかむら かほ) / 撮影:今木研志<br>「手は生き物、声は祈り。」1992年生まれ、京都出身のミュージシャン。20歳から本格的に音楽活動をスタートし、音楽その物の様な存在がウワサを呼ぶ。ソロ、デュオ、バンド、様々な形態で、その音楽性を拡張させ続けている。
中村佳穂(なかむら かほ) / 撮影:今木研志
「手は生き物、声は祈り。」1992年生まれ、京都出身のミュージシャン。20歳から本格的に音楽活動をスタートし、音楽その物の様な存在がウワサを呼ぶ。ソロ、デュオ、バンド、様々な形態で、その音楽性を拡張させ続けている。
中村佳穂『AINOU』を聴く(Apple Musicはこちら

「中村佳穂が拡張させた、オンラインライブの可能性。マジックリアリズム的ライブの顛末」テキスト:柴那典

とても不思議な体験だった。音楽が持つ魔法のような力を体感する約55分。中村佳穂によるオンラインライブは、彼女にしか成し得ないような、とても越境的な映像作品だった。

椅子に腰かけ、すぅっと息を吸い「久しぶりだなあ」とつぶやく中村佳穂の声からライブは始まる。緊迫感ある暗闇の静寂から、まず映し出されたのは鍵盤をやさしくタッチする指。

『LIVEWIRE「中村佳穂」』より
『LIVEWIRE「中村佳穂」』より
『LIVEWIRE「中村佳穂」』より

「全てはここから始まる 久しぶりでドキドキする 頭の中にあるものはちゃんと 見せなきゃ誰も わからない なんて思ったから 一人でピアノを 弾いたっけな」

アドリブでピアノを奏でながら歌っていく。喋る言葉がそのまま歌になり音楽になっていく中村佳穂ならではのパフォーマンスだ。ピンと張り詰めた空気の中で、言葉が音符の上を跳ねていく。

「音楽は 音楽は 音楽は」――。そう歌い上げ、「……すべてか」と一瞬トーンを落とし「すべては魔法のようなもの」と歌い直す。この瞬間に鳥肌が立つような感覚がある。

そのまま途切れることなく“口うつしロマンス”へ。カメラはずっと中村佳穂の横顔を映し出す。ときに鍵盤を叩く指先にクローズアップし、ときに背後に回り込む。

「2020年、9月の12日」。そうつぶやき、鍵盤を叩きつけるようなダイナミックな演奏とスキャットと“GUM”の一節を経て“きっとね!”に入ったころに、気付く。これは単なるライブハウスからの配信じゃない。会場は京都のライブハウスUrBANGUILD(アバンギルド)だが、ステージの上のパフォーマンスを届けるオンラインライブの作り方とは全く違う発想で全てが組み立てられている。映像は手持ちカメラのワンショットだ。スイッチングはない。撮影はかねてから中村佳穂と交友のあった映像作家の林響太朗。彼の視点が、ピアノを弾き歌う中村佳穂の手の動きを、表情を、身振りを追う。演奏者と撮影者の一対一の関係がそこにある。いわば芸術性を持ったライブドキュメントだ。

『LIVEWIRE「中村佳穂」』より

演奏は“Rukakan Town”から“SHE'S GONE“へ。これまでソロ、デュオ、バンドなど様々な形態で演奏してきた中村佳穂だが、この日のライブは、基本、一人。そこにあるのは「没頭」の音楽表現だ。

これまで中村佳穂のライブの大きな魅力になっていたのは、いわば「呼応」としての音楽表現だった。集まったお客さんに語りかける言葉にメロディが宿ってそのまま歌になっていくようなパフォーマンスが大きな評判を呼んできた。その場で指定した数字の回数だけバンドがキメを連発する“アイアム主人公”を筆頭に、メンバーとの即応的なセッションも大きな見せ場を作ってきた。が、今回のオンラインライブではそういう場面はなかった。かと言って、型通りの歌と演奏になっているかと言えば、そういうわけでもまったくない。

『LIVEWIRE「中村佳穂」』より
『LIVEWIRE「中村佳穂」』より

“SHE'S GONE”から“シャロン”へは長いスキャットを挟み、息を呑むような演奏が繰り広げられる。即興に、自分自身との対話のような響きがある。内面ににじり寄るようなカメラワークがそれを切り取る。“忘れっぽい天使”の終盤からは椅子の上で膝を抱えてピアノを弾き語る中村佳穂を捉えながら少しずつカメラが引いていき、目で合図をすると、再びクローズアップに寄っていく。目が離せないスリリングな瞬間が続く。照明も演出もミニマムだが、固唾を飲んで見守るような時間が続く。

そして、驚きは最後に訪れた。

“You may they”を終えて破顔一笑した中村佳穂は、「疲れた!」と一声発して、水を飲む。

「音楽というものは 自分から寄っていかなければ 届かないもの」

そう歌い、イヤモニを耳にはめてピアノを奏で始めると、そこに音が重なる。オーケストラの調弦の音が響く。中村佳穂が手を叩くと、誰かの手拍子がそれに重なる。今年3月にも披露していた新曲の“アイミル”だ。ピアノにストリングス、ドラム、パーカッション、ギターが重なっていく。ダイナミックなオーケストラ編成のサウンドが鳴り響くなか、カメラは中村佳穂を切り取り続ける。包容力と多幸感に満ちた歌声が響く。

そして歌の途中で中村佳穂はピアノを離れ、マイクを握って裸足で歩き始める。フロアを自由奔放にうろついたり、絨毯の上に座ったりしながら、歌う。画面には回るコマやCG処理された光が映り込む。あたりには誰もいないが、「ドラムス!」と告げるとビートが鳴り出し、ハーモニーが追いかける。「え? え? 何が起こってるの?」と混乱する展開だ。しかし、徐々に気付く。現実と空想が折り重なっているのだ。

『LIVEWIRE「中村佳穂」』より
『LIVEWIRE「中村佳穂」』より
『LIVEWIRE「中村佳穂」』より

「君の頭の中が大事」

中村佳穂はそうつぶやく。そして、爪弾かれるアコースティックギターの演奏に乗せて、絵本を読みながら、さらなる新曲を歌い始める。石若駿による生々しいドラムのビートに、ストリングスの演奏が重なる。映像にはギタリストの西田修大の姿が映し出されるが、フロアにそれ以外のメンバーはいない。中村佳穂はペンを握り、紙を床に置いて歌いながら何かを描きつける。その背後でコマが不自然な動きで回り続ける。かなり奇妙な空間だ。

『LIVEWIRE「中村佳穂」』より
『LIVEWIRE「中村佳穂」』より
『LIVEWIRE「中村佳穂」』より

バーカウンターの壁によりかかって座り、「大事なのは そう イメージ」と歌い、「あなたのイメージも、ぜひまた聴かせてね。また会えることを本当に楽しみにしています」とカメラ目線で話しかけ、ライブは終了した。

前半は音楽の魔法への没頭のドキュメント。そして後半は現実と非現実が交錯するマジックリアリズムの世界。オンラインライブというフォーマットを新しいアートに昇華させる表現が生まれた瞬間だった。

『LIVEWIRE「中村佳穂」』は2020年9月22日(火)21:00まで見逃し配信のチケットを販売している
『LIVEWIRE「中村佳穂」』は2020年9月22日(火)21:00まで見逃し配信のチケットを販売している(詳細を見る
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番組情報

『LIVEWIRE「中村佳穂」』
『LIVEWIRE「中村佳穂」』

2020年9月12日(土)20:00~LIVEWIREで配信
料金:3,300円
※視聴用チケットは9月22日(火)21:00まで販売中

プロフィール

中村佳穂(なかむら かほ)

「手は生き物、声は祈り。」1992年生まれ、京都出身のミュージシャン。20歳から本格的に音楽活動をスタートし、音楽その物の様な存在がウワサを呼ぶ。ソロ、デュオ、バンド、様々な形態で、その音楽性を拡張させ続けている。ひとつとして同じ演奏はない。見るたびに新しい発見があるその姿は、今後も国内外問わず、共鳴の輪を広げていく。2018年11月アルバム『AINOU』を発表。2019年7・8・9月に配信シングルを発表、3曲を収録したCD(特製紙ジャケット仕様)をライブ会場・公式HP通販で販売中。

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