コラム

TWICEが対峙する「欲望」の複雑さ。『Eyes wide open』が表すもの

TWICEが対峙する「欲望」の複雑さ。『Eyes wide open』が表すもの

テキスト
菅原史稀
編集:後藤美波(CINRA.NET編集部)

“Feel Special”の引用や、1stアルバムとの対比。過去作との連続性と発展

“MORE & MORE”と“I CAN'T STOP ME”の2曲間に見られるような連続性と発展は、『Eyes wide open』の収録曲とTWICEの過去作との比較からも見いだすことができる。

例えば『Eyes wide open』に収録されている“GO HARD”では、昨年リリースされた“Feel Special”の歌詞のフレーズが次のように引用されている。

<言ったでしょ / 世界がどんなに私を落ち込ませようとしても / You make me feel special>
<辛い辛い言葉が私を突き刺して傷つけても / You make me feel special>(“GO HARD”)

しかし印象的なのは、“Feel Special”の歌い出しが痛みを打ち明けるものだったのに対し、“GO HARD”では歌い出しで力強さとともにどこか孤独をまとう姿勢が打ち出されていることである。

<こんな日がある / 急にひとりぼっちだと感じる日 / どこに行っても私の居場所じゃない気がしてうなだれる日>(“Feel Special”)

<私はただ歩いていく / あの光が導くままに / 簡単にやめたりしない / 私は小さくても弱くない / なんだろうと関係ないから>(“GO HARD”)

そのためこの2曲は同じフレーズを分かち合いながら、“Feel Special”では相手へ語りかけるような、“GO HARD”では自分自身を奮い立たせるために発しているような響きをもつ点で異なったニュアンスを与える。

TWICE“Feel Special“MV

また、1stフルアルバム『Twicetagram』に収録された“JALJAYO GOOD NIGHT”は聴く者に安らぎを与え眠りへ誘う内容だったのだが、本作に収録された“UP NO MORE”は、「私」が眠れない夜に抱く不安を吐露するものとなっている。

<今日一日どうでしたか? / 辛い出来事はなかったですか? / そんな風に一日一日生きていけばいいのでしょう / もう少し頑張って 私を思って>(“JALJAYO GOOD NIGHT”)

<闇が濃く立ち込めたこの夜に一人 / 今も明るい私の一日を終われずにいる>
<こんな日がまた何か月かになって何年にもなって / 私はさらに崩れていく>(“UP NO MORE”)

作詞を手掛けたジヒョがテーマを「不眠症」であると明かしている“UP NO MORE”には、人々に夢を見せるような内容であった1stアルバムには描かれていない現実性が呈示されている。

ジヒョが作詞を担当した“UP NO MORE”のパフォーマンス

TWICEの「現在地」が示すファンへのまなざし

さて、ここで「TWICEらしさとは何か?」という問いに改めて立ち返りたい。本稿冒頭において、この問いに対する答えは一つではないことを述べたが、先に挙げた“LIKEY”及び『Twicetagram』に表されていない彼女たちの側面は、“Feel Special”に見ることができる。

詳しくは前述の本連載「笑顔だけではないTWICEの物語。“Feel Special”が歌う痛みと愛」に綴ったとおりだが、「アジアNo.1ガールズグループ」として活動するなかで背負う痛みを知らせた本楽曲は、<You make me feel special / 世の中がどれほど私たちを落ち込ませようとしても / 痛くて苦しい言葉が私たちを突き刺しても / 君がいるから私はまた歌う>と歌うことで、彼女たちとファンがこれまでに築き上げてきた特別な関係を伝えていた。

TWICEのミニアルバム『Feel Special』を聴く(Apple Musicはこちら

しかし実のところTWICEが負う痛みは、その「特別な関係」によっても生みだされるものであるということに、筆者を含むファンは気づいているように思う。日々、こちらが消化するのがやっとなほど豊富なコンテンツを生み出し続ける彼女たちに、どこまでも「あるべき姿」を望むのはいつも私たちファンであり、時にはその期待が彼女たちの肉体と精神を追い詰めてしまっているという現状があるからだ。“Feel Special”で歌われていた、TWICEを特別な存在にする<私を呼ぶ君の声>は、彼女たちを乗せる列車を止めどなく動かす危険な「欲望の力」にもなっている──そんな切実なメッセージが発せられる本作にこそ、TWICEの「現在地」がありのままに示されていると感じる。

日本で今年9月にリリースされたベストアルバム第3弾『#TWICE3』通常盤ジャケット
日本で今年9月にリリースされたベストアルバム第3弾『#TWICE3』通常盤ジャケット

前作『MORE & MORE』リリース時に行われたインタビューにて「キュートでエネルギッシュとして知られるTWICEとしての既存のイメージと、アーティストや個人としての進化が感じられる本作の新たなイメージとのバランスをどのようにとったか?」と問われたミナはこう答えている。

そのバランスは、私たち一人一人が誠実で、偽りがなく、自分らしくいるかどうかということにかかっています。TWICEはファン、そして世界と共に進化しています。私たちは私たちであり続けながら、グループの成長とともに新しい音楽、振付などに挑戦することを大切にしています。
2020年6月19日掲載「BuzzFeed」インタビューより(外部サイトを開く

TWICEがTWICEであり続けながら新たな表現に挑戦することがTWICEにとっての「誠実で、偽りがなく、自分らしくいる」ことだとすれば、『Eyes wide open』はまさにそんな彼女たちの理念を体現した、「誠実で、偽りがなく、TWICEらしい」作品だ。

そしてそこには、昨年活動を休止していたミナが、休養期間後に初めてファンの前に姿を現した場でチェヨンが明かした、次のような意志が表れているように思う。

私たちにとって、私たち自身のことを表現して伝えることはとても難しいことですし、それはどんなに長い手紙を書いても伝えることが出来ないと思います。私たちは作品やステージを通してしか、私たちのことを伝えることが出来ません。なぜなら、それが私たちの務めだから。
(昨年のデビュー4周年ファンミーティング『ONCE HALLOWEEN 2』より)

最後に、本作のカムバックショーケースにおけるラストナンバーとしてナヨンの「ONCE(TWICEファンの総称)へ、私たちの信頼と勇気を込めた曲です」という言葉とともに披露された“BELIEVER”の歌詞を紹介して本稿を締め括りたい。TWICEが『Eyes wide open』を通じて彼女たちの「軌跡」と「現在地」を伝え、勇気ある変革を遂げたいま、彼女たちを動かす危険な「欲望の力」たるファンのあり方も改めて問われているのかもしれない。

<この歓喜の中に 荒れた雨の中に / 私が愛するその無謀な夢と明るい微笑みを見せて / Cause I see the light / 君はできるよ / 私が君を信じているじゃない>

TWICE“BELIEVER”ライブ映像

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