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現代アートが嫌いでもいい。大規模すぎる『大地の芸術祭』ガイド

現代アートが嫌いでもいい。大規模すぎる『大地の芸術祭』ガイド

杉原環樹
撮影:佐々木鋼平

「アーティストが真剣に作品を作る姿は、農作業にコツコツと向き合ってきた人たちと共鳴する」

現地の人たちとアーティストを結びつけるもの。それは、作品の面白さであると同時に、アーティストの「労働する姿」でもあると北川さんは言います。

北川:一見、よくわからない都市の若者であっても、彼らが真剣な顔をして作品を作る姿を見れば、住民の人たちの心は動くんですよ。そこには、コツコツと地道に大地へと向かい合う自分たちの姿と重なるものがあるからだと思います。

『大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ』 古郡弘『うたかたの歌垣』
『大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ』 古郡弘『うたかたの歌垣』

そんな圧倒的な「労力」の結晶としてあるのが、松之山エリアの「じょうもんの湯 おふくろ館」に展示された古郡弘さんの『うたかたの歌垣』。じつはこの作品、2007年に彼からある作品プランを見せられた北川さんが、その内容に満足がいかず断ったあと、6年以上の歳月をかけ、あらためて作り上げられたものだと言います。完成したのは一種の茶室ですが、驚いてしまうのはその素材。

北川:屋根は、彼が長年にわたって集め続けた無数の「カラスの羽」からできています。そして建物の壁の基礎となっているのは、紙を紐状にした「こより」。気の遠くなるような仕事ですね。じつは今日初めて完成作品を見たのですが、「やった!」という感じです。

一方、『大地の芸術祭』が掲げる「労働」に関わるもう1つの目標に、都市に集中する「労働力」を、地方へと運ぶことが挙げられます。2012年に廃校した中学校の校舎を活用する越後妻有「上郷クローブ座」は、そんな狙いが隠された施設です。

越後妻有 上郷クローブ座(改修設計:豊田恒行)
越後妻有 上郷クローブ座(改修設計:豊田恒行)

上郷クローブ座内に設置された作品 滝沢達史『時の殻』
上郷クローブ座内に設置された作品 滝沢達史『時の殻』

ここは、元体育館内に建設中の大規模な舞台を始めとして、練習場所に困る劇団やカンパニーに滞在制作の場を提供するレジデンス機能なども備えたパフォーミングアーツの拠点です。寝泊りするための部屋はもちろんのこと、元音楽室を利用した広々とした練習場、炊事室などがあり、制作に没頭できる環境が整います。

北川:しかし、ここで体験できるのは制作だけではありません。午前中には練習を行って、午後には近所の人の農作業をお手伝いする。そしてそれを、再び制作に活かしてもらうといったかたちを目指しているんです。始めは理解してもらえなかった地域の人たちも、施設ができるにつれてどんどん乗り気になっていますね。

地方だからこそ可能な体験がある。このことは、中里エリアの廃校を利用した新しい美術館「清津倉庫美術館」にも見られる側面です。

清津倉庫美術館 外観
清津倉庫美術館 外観

清津倉庫美術館 展示風景 改修設計:山本想太郎
清津倉庫美術館 展示風景 改修設計:山本想太郎

ここで展示を行うのは、青木野枝さん、遠藤利克さん、戸谷成雄さん、原口典之さんら、重厚な作品が持ち味の現代アートの巨匠たち。展示のテーマは「素材の力」だと言います。残念ながら訪れたときには、遠藤さんと原口さんの作品のみ展示されていましたが、10メートルはあろうかという巨大な木を船の形にくり抜き、さらに燃やして炭化させた遠藤さんの作品や、もともと地中に埋まっていた鉄のオブジェを移設して、ワイヤーによりギリギリのバランスで固定化した原口さんの作品など、旧体育館を目一杯に生かした圧倒的なスケールの体験ができました。こうした空間の贅沢な使用も、都市ではなかなかできない地方が持つアートへの可能性でしょう。

取材の終盤に回ったのは、ゴミの不法投棄場所を禅庭のような空間に仕立てたカサグランデ&リンターラ建築事務所の『ポチョムキン』や、シンプルな窓枠が風景の美しさをあらためて教えてくれる内海昭子の『たくさんの失われた窓のために』といった、過去数回に渡り人気を集める『大地の芸術祭』の代表的な作品群。その佇まいは、もはや土地にしっかり根付いているように感じられます。

『大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ』 カサグランデ&リンターラ建築事務所『ポチョムキン』
『大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ』 カサグランデ&リンターラ建築事務所『ポチョムキン』

『大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ』 内海昭子『たくさんの失われた窓のために』
『大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ』 内海昭子『たくさんの失われた窓のために』

「人にとってもっとも辛く寂しいことは、自分だけが知っている知恵や得意分野を失うこと。それを知ったとき、『大地の芸術祭』を何としてもやらなくては、と決意したんです」

そこで取材終了後、北川さんにあらためてお聞きしました。途方もない規模の『大地の芸術祭』を15年間にわたって続けることができた、そのモチベーションとは何だったのでしょうか?

北川:1990年代の半ばに越後妻有を訪れたとき、気付かされたことがあったんです。こうした地域に住む人だけでなく、人にとってもっとも辛いことは、自分だけが知っている知恵や得意分野を失うことなのだ、と。たとえば子どもにも教えていなかった、自分だけが知っている山野草が採れる場所を奪われたらどうか。それほど寂しいことはないでしょう。けれどこうした土地に住む人にはそんなエピソードがある。それを知ったとき、『大地の芸術祭』を何としてもやらなくては、と決意したんです。

たしかに取材の中でとても印象的だったのは、それぞれのアーティストの技術や表現力が発揮された作品であると同時に、越後妻有にもともとあった人々の知恵を「アート」としてフックアップしようとする視点の面白さでした。それは、高度に効率化・情報化された都市生活の中では忘れがちなものを、そっと示してくれます。

『大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ』のプロジェクトによって一部復田された星峠の棚田
『大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ』のプロジェクトによって一部復田された星峠の棚田

北川:『大地の芸術祭』は、観る展覧会であるよりも先に、1つの「旅」なんです。山間部に散らばる作品の間を、車で数十分もかけて移動しなくてはいけない芸術祭の体験は、まさに非効率そのもの。しかし、子どもからお年寄りまでもが一緒になって、作品について「わからないねえ」「あんなの僕でも作れるよ」と語りながら山を巡ることは、それ自体とても楽しい。本来的な意味での旅が失われている現在にあって、そんな不便すらも楽しめる場であることが、『大地の芸術祭』の大きな魅力なのだと思います。

効率性では測ることのできない何か。それは、当初は反対していた地元の人々の理解を、アートという「わけがわからないけれど面白いもの」を通して獲得してきた『大地の芸術祭』の歩みを思い出させます。今年の夏、この山に囲まれた土地の中で、参加者は何を発見することになるのか。それが楽しみになる取材でした。

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イベント情報

『大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ2015』

2015年7月26日(日)~9月13日(日)
会場:新潟県 越後妻有地域各所
料金:
前売 一般3,000円 高・専・大学生2,500円
当日 一般3,500円 高・専・大学生3,000円
※中学生以下無料

イベント情報

『大地の芸術祭 2015 YEN TOWN BAND @NO×BUTAI produced by Takeshi Kobayashi』
2015年9月12日(土)OPEN 17:00 / START 18:00
会場:新潟県 まつだい「農舞台」
料金:前売5,000円(全自由・入場整理番号付)
※『大地の芸術祭』作品鑑賞パスポートチケット付
※『大地の芸術祭』作品鑑賞パスポートをお持ちの方は別途ライブチケット(2,000円)の購入が必要

プロフィール

北川フラム(きたがわ ふらむ)

1946年新潟県生まれ。アートディレクター。東京藝術大学卒業。主なプロデュースとして、『アントニオ・ガウディ展』(1978-1979)、『子どものための版画展』(1980-1982)、『アパルトヘイト否!国際美術展』(1988-1990)など。地域作りの実践として『瀬戸内国際芸術祭』『大地の芸術祭』の総合ディレクターをつとめる。

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