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天国も地獄も表裏一体? KIKIと行く禅の宇宙『白隠展』

天国も地獄も表裏一体? KIKIと行く禅の宇宙『白隠展』

内田伸一
撮影:西田香織
2013/01/22

庶民にも禅を広めたプロデューサー的手腕

展示はさらに、禅の祖師たちを個性豊かに描き分けたものや、修行後に京都で乞食暮らしをしたという強烈キャラの先達・大燈国師を描いたものなど、独創性溢れる白隠の禅ワールドへと続きます。しかし、彼の書画は過去の歴史や偉人の姿を語り継ぐだけのものではありません。

KIKI

KIKIさんを惹き付けた2枚の掛け軸は、白隠の自画像。片方は弟子に与えたもので、フォーマルな僧衣をまとった彼がギロリと眼をむいています。弟子たちからは「虎視牛歩」(虎のような鋭い眼つきで、牛のようにのそのそ歩く)とも称された姿がリアルに想像でき、身が引き締まる思いです。確かに彼の描く達磨像にも似ていますね。

いっぽう、その隣にある作品は、一見すると限りなくゆる〜い自画像。もろ肌を脱いだ白隠さんが、大好きだった囲碁を打っています。しかしこれにも実は深い意味が。見れば碁盤にあるはずのマス目がなく、掲げた右手は碁石を持っていません。白隠が見つめる先にいる相手は、自分自身でしょうか? KIKIさんも、小学生のころ数年間、囲碁を習った経験を思い出したそうです。

『白隠囲碁』花園大学
『白隠囲碁』花園大学

KIKI:子供心にも、碁盤に向かう時間は特別な気持ちになりました。今思うと、同じ試合運びは2つとないところや、碁盤に打たれた9つの点を「星」 と呼んだり、碁ってどこか宇宙的でもあったように感じます。この白隠さんは何を、誰を見つめているんでしょうね。

白と黒で織りなす景色が、一転して入れ替わる小宇宙。それを現実世界にたとえ、さらに先の風景を見据える自画像とも言えるでしょうか。

KIKI

白隠のメッセージは僧侶たちだけに向けたものではありません。彼は自作を大名から庶民まで幅広く描き与えました。頭でっかちな学究肌ではなく、民衆に禅の教えをわかりやすく説くプロデューサー気質もあったようです。それがよくわかるのが、庶民にも親しみ深い七福神やお多福、動物などをモチーフにしたユーモラスな墨絵の数々。福寿を願ったり、悪癖を戒めたり、絵を通して禅を日常に活かすことこそ大切だと考えたのかもしれません。

『布袋解開』龍雲寺蔵(東京都)
『布袋解開』龍雲寺蔵(東京都)

こうした背景を知るとますます面白くなる白隠作品ですが、それを知らなくてもご安心を。会場の各所には、前述・山下先生による、わかりやすい解説文が添えられています。しめ縄一丁でトコトコ歩いてくるトボケたお坊さんを描いた『すたすた坊主』の解説には、KIKIさんも注目。

KIKI:お金持ちにお代をもらって代理で寺社にお参りする、こんなお坊さんが本当にいたんですね。しかもキャプションには、「白隠がつくりだしたキャラクターのなかで、これが断然、いちばんかわいい」とか、普通の解説にはありえない個人的な想いも加えられていて面白い(笑)。自分の見方で楽しめばいいんだなっていう気持ちになります。

『すたすた坊主』早稲田大学會津八一記念博物館蔵
『すたすた坊主』早稲田大学會津八一記念博物館蔵

ユーモアのみならず、しばしば辛辣な批評精神も顔を出します。時のお偉方にも容赦しなかった白隠は、大名の浪費的な暮らしぶりを戒める書物を記して発禁処分を受けたり、先人の文壇スター、『徒然草』の吉田兼好(よしだけんこう)を揶揄して、彼を猿猴(えんこう=猿)に仕立てた絵を描くなどもしています。現場主義の白隠さんは、机の前で「つれづれなるままに」思索を巡らせる隠者文学はお気に召さなかったのでしょうか。500年に一人との誉れも高い名僧の、そんな人間臭さが垣間見えて興味深いですね。

『鍾馗鬼味噌』海禅寺蔵(島根県)
『鍾馗鬼味噌』海禅寺蔵(島根県)

「動きながら考える」白隠の書が教えてくれるもの

最後のセクションには、白隠の力強い書が並びます。紙を一杯に使い、太字で一気呵成に書かれたような大書の数々。勢い余ってか、最後はスペースが足りずに字が小さくなってしまったものもあります。一瞬、小学生のとき誰もが陥るあのミス? とびっくりもしますが、実際には、若い時代にはすこぶる端正な字も書いています。技術を超えた境地に達した上での筆さばきなのでしょう。さらに、一見豪快なようで、実は輪郭を重ね書きしてあるものなど、やはり既成概念にとらわれない表現が並びます。

『暫時不在如同死人』
『暫時不在如同死人』

KIKI:私も先に資料で見たときは「こういうバランスでいいの?」と戸惑いましたが、本物を前にすると不思議と違和感がなく、むしろグッと迫ってくる力がありますね。

『動中工夫』
『動中工夫』

さらに白隠流のタイポグラフィともとれる『動中工夫』の一幅の前では、「ただ坐りながらよりも、動中になす工夫のほうが百千億倍も勝っている」というメッセージにKIKIさんも大賛成。「私自身が、動きながらしか考えられないタイプなので(笑)」。画面を縦いっぱいに貫く「中」の一字には、時空を超えて生き続けるアクティブな想いが息づいています。

KIKI

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イベント情報

白隠展 HAKUIN 禅画に込めたメッセージ

2012年12月22日(土)〜2013年2月24日(日)
※2013年1月22日(火)から、一部作品の展示替えを予定
会場:東京都 渋谷 Bunkamuraザ・ミュージアム
時間:10:00〜19:00(入館は18:30まで)、毎週金、土曜日21:00まで(入館は20:30まで)
休館日:なし
料金:
当日 一般1,400円 大学・高校生1,000円 中学・小学生700円
団体 一般1,200円 大学・高校生800円 中学・小学生500円

プロフィール

KIKI

1978年東京生まれ。モデル、女優。武蔵野美術大学建築学科在学中からモデル活動を開始。雑誌やTVCM、連載などの執筆、ラジオのパーソナリティやアートイベントの審査員など多方面で活動中。2004年、塚本晋也監督作品『ヴィタール』で女優としての活動をスタート。MBS系連続ドラマ『漂流ネットカフェ』でのヒロイン役として出演。現在は『NHK高校講座芸術-美術』の司会、日テレ系『ゆっくり私時間-my weekend house-』に出演中。近著に『山スタイル手帖』(講談社)、『美しい教会を旅して』(マーブルトロン)、『山・音・色』(山と渓谷社)など。雑誌『OZmagazine』(スターツ出版)の表紙と巻頭モデルを2009年より務めている。

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