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絵が動く? トリックアートとは違う、キネティック・アートの正体

絵が動く? トリックアートとは違う、キネティック・アートの正体

内田伸一
撮影:豊島望
2014/07/24

機械仕掛けで動いたり、光を発したりする作品。また幾何学模様などによって目の錯覚や、観る側の視点の移動によって動きを感じさせる作品。20世紀前半に源流を持つ「キネティック・アート」は、作品にさまざまな「動き」を取り入れているのが特徴です。技術革新や工業化の時代とも呼応したこの潮流は、現在のメディアアート、インタラクティブアートへとつながる顔も持ちます。

1960年代のイタリアを中心に、活発な動きを見せたキネティック・アート。これらの作品を、日本で初めて本格的に紹介する展覧会が『不思議な動き キネティック・アート展 ~動く・光る・目の錯覚~』です。巨匠ブルーノ・ムナーリらイタリア作家に加え、欧州各地で活動したアーティストも加えた30余名の約90作品が集結。21世紀の今、キネティック・アートの名作群が再起動します。

ゴッホの『ひまわり』で有名なあの美術館に「動くアート」が集結

新宿の超高層ビル群を見下ろす地上42階にある、損保ジャパン東郷青児美術館。ゴッホの名画『ひまわり』(7、8月は宮城県美術館に貸出中のため展示されていません)や、昭和の美人画家・東郷青児の作品収蔵で知られるこの場所が、この夏は幾何学文様に埋め尽くされた絵画や、モーターで高速回転する作品など、「動くアート=キネティック・アート」約90点によって彩られています。

展示風景
展示風景

「キネ(kine, cine)」の語源がギリシア語の「動く / 変化する」に由来する通り、キネティック・アートとは広義の「動き」とその知覚を作品に取り入れた表現。この展覧会は4章構成で、イタリアで興ったキネティック・アートの潮流を俯瞰できる貴重な機会になります。

なぜイタリア? の謎は後ほど伺うとして、まずは案内役を引き受けてくださった同館学芸員・江川均さんと展示室へ。初めに目に飛び込んできたのは、展覧会ポスターにも使われたフランコ・グリニャーニ作『波の接合33』でした。作家名「グリニャーニ」の語感にもぴったりな(?)、曲線のストライプが織りなすイリュージョン。フラットなはずの絵の一部が盛り上がって見えたり、逆にくぼんで見えたり、眺めているだけで「動き」が脳内生成される感覚を楽しめます。

フランコ・グリニャーニ『波の接合 33』1965年 油彩・カンヴァス
フランコ・グリニャーニ『波の接合 33』1965年 油彩・カンヴァス

江川:キネティック・アートには電力や人の手などで実際に作品自体が動くものだけでなく、目の錯覚だけで動きを感じさせるものなども含まれます。この「1章 視覚を刺激する(絵画的表現)」ではまず後者。つまり作品自体は動かないけれど、観る側の視覚の中に「動き」を誘発する絵画を観ていきましょう。

人の目を錯覚させる絵画と聞くと、連想するのは「だまし絵」的な表現。いつまで登り続けても同じ階段をループするマウリッツ・エッシャーの絵画などが有名です。しかしキネティック・アートが扱う領域は、また違う傾向があるそうです。

江川:トロンプ・ルイユ(目を騙す)的な表現には、エッシャーのように具象物もよく描かれますね。でもキネティック・アートでは主に幾何学的な抽象模様を扱い、錯視で遠近の感覚をゆさぶったり、色彩対比で知覚を刺激したりする表現が特徴なんです。

ジョエル・スタイン『青と赤の大きな円筒』1973年 アクリル・カンヴァス
ジョエル・スタイン『青と赤の大きな円筒』1973年 アクリル・カンヴァス

なるほど。たしかに、ヴィクトル・ヴァザルリやジョエル・スタインの作品などは、やはり幾何学パターンを用いつつ、その色彩感覚で観る者の目を刺激します。

江川:鮮やかな青とオレンジなど、補色やグラデーションの効果も印象的です。ヴァザルリはこうした特殊な視覚効果をもたらす「オプ・アート」の父とも称されました。

色と線とのイリュージョンに没入すると目がチカチカしそうでもありますが、前述グリニャーニの精巧かつ緻密に描かれたCGのような作品は、意外にも「カンバスに油彩」という伝統的な絵画手法で描かれていたりします。当時、どうやって制作をしていたのかも興味が湧きますね。

江川:グリニャーニの絵画は、スライド映写機で原図をキャンバスに拡大投影して描いたのでは? との考察もあります。だから、キネティック・アートは20世紀の科学の発展、機械文明化に呼応して生まれたものとも言えますね。そこに想いを馳せるのも、今あらためて鑑賞する上での楽しみ方かもしれません。

ジュリオ・ル・パルク『観客の移動による仮想の形態』1969年 ミクストメディア(布地、着色した薄紙、ロードイド)、板
ジュリオ・ル・パルク『観客の移動による仮想の形態』
1969年 ミクストメディア(布地、着色した薄紙、ロードイド)、板

ほか、ミラノの女性作家・ダダマイーノによる『ダイナミックな視覚のオブジェ』は、アルミの薄板を細密に貼り付けた格子模様から、球体が浮かび上がる作品。また、パリで結成された「視覚芸術探求グループ(GRAV)」からは、平面の縞模様が湾曲した樹脂パーツに写り変化する、ジュリオ・ル・パルクの『観客の移動による仮想の形態』が展示されています。どれもタイトルが理系的というか、直球勝負なのも印象的。作品自体も、理屈を超えて知覚へダイレクトに訴えかけてきます。

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イベント情報

『不思議な動き キネティック・アート展~動く・光る・目の錯覚~』

2014年7月8日(火)~8月24日(日)
会場:東京都 新宿 損保ジャパン東郷青児美術館
時間:10:00~18:00(入館は17:30まで)
出展作家:
ジョセフ・アルバース
ヴィクトル・ヴァザルリ
フランコ・グリニャーニ
マリーナ・アポッローニオ
ダダマイーノ
ジョエル・スタイン
ジュリオ・ル・パルク
オラシオ・ガルシアロッシ
フランシスコ・ソブリノ
アルベルト・ビアージ
トーニ・コスタ
エドアルド・ランディ
エンニオ・キッジョ
マンフレド・マッシローニ
ゲトゥーリョ・アルヴィアーニ
ジョヴァンニ・アンチェスキ
ガブリエレ・デ・ヴェッキ
ジャンニ・コロンボ
ダヴィデ・ボリアーニ
グラツィア・ヴァリスコ
アントニオ・バッレーゼ
アルフォンソ・グラッシ
ジャンフランコ・ラミナルカ
アルベルト・マランゴーニ
ユーゴ・デマルコ
ナンダ・ヴィーゴ
ブルーノ・ムナーリ
エンツォ・マリ
ラファエル・ソト
フランソワ・モルレ
カルロス・クルスディエス
マルチェッロ・モランディーニ
ルートヴィヒ・ヴィルディング
料金:一般1,000円 大・高校生600円 65歳以上800円
※中学生以下無料、障害者手帳の提示により本人とその介護者1名は無料
※被爆者健康手帳をお持ちの方は本人のみ無料

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