「フジワラノリ化」論 第18回 小雪「小雪の昭和史」 其の一 小雪×結婚史

其の一 小雪×結婚史

産まれた時に小雪が降っていたから小雪という名前になった。というエピソードを聞いた時に、あら、外では小雪がパラつき始めたかしらってくらいの悪寒を感じてしまった自分には、小雪の透き通るような魅力、というものが少しも分からなかった。小雪について外野からの野次が飛ぶ機会は少なくないが、それは決まって「顔」のことだ。キレイじゃない、般若顔だというのである。試しに「小雪 般若」という、血も涙も無い冒涜的検索をGoogleに委ねると約12万件がヒットする。小雪の顔がどうして般若と思われるのかは、ひとまず検索結果の上位サイトに任せるとして、般若批判の壁の向こう、小雪についての正確な論評となると、逆に一切見あたらなくなるのであった。小雪の唯一のエッセイ集『ギフト』は、ある一定量のタレント本を読み散らかしてきた自分が断言すると、その筆致と内容は、底辺に近い1冊と言える。私の特徴は一度始めたら諦めないこと……就職活動のエントリーシートでも1秒で落とされるであろうこのような宣言を、思わせぶりにあちこちに詰め込んでいる。しかし、不思議なことに、それらを群がらせると彼女のイメージは保たれるのであった。好きな言葉は一期一会です、と書けてしまう人なのだ。とてつもなく稚拙だが、稚拙なものを重ねていくだけで高尚に見えてくる、という摩訶不思議。ここを探らぬ手はない。モデルになり立ての頃、他のみんなは合コンとファッションの話ばかりしていたけれど私は1人で本を読んでいた、と自己肯定を高めていくやり方を、放置してきてしまった。いつのまにか仕上がった小雪を引きずり落とそうという気はさらさらない。むしろ、この小雪という、何の成分で浮遊しているか分からない彼女の浮力や動力を見定めながら利用して、もっと大きな脇組みをかぶせてみようと思うのだ。総タイトルを小雪×昭和史、としたい。面食らうかもしれないが続ける。小雪をテレビで見かける度、この人はモダンではない、という結論だけが頭にやってきた。トレンド最先端である女性誌でこそ表紙を飾る小雪だが、映画に出れば『ラストサムライ』『三丁目の夕日』や炭鉱映画であり、CMに出れば茶漬けに、バファリンに、ウイスキーである。小雪には、昭和の微香が漂っていると仮定すると、様々な軸足が立ち上がってきた。小雪って、言い方は悪いけども、雰囲気モノだ。具体的な熱狂よりも、通りがかりの「キレイ、この人」を集積させて象られた人材だ。その裏に昭和史を敷いてみる。敷くカテゴリは、結婚史、美人史、庶民史、スピリチュアル史、未来史である。

まずは小手調べ的に、結婚史をテーマとしよう。ご存知、小雪は松山ケンイチとの結婚を発表した。8歳年下の松山ケンイチと出会ったのは映画『カムイ伝』でのこと。演技に対する考え方などを語らい仲を深めていった2人、撮影中からすでに、小雪が松山に手作り弁当を作ってくる仲睦まじさだったという。松山自身が会見で明らかにしているが、交際を申し込む時も、プロポーズの時も、松山は小雪に「あなたみたいなひよっこで大丈夫なの?」と言われたそうだ。『恋のから騒ぎ』的文脈で言えば、年下男子を可愛がるのは、年下男子が粋がってリードしてくれる&くれるけどたまにボロが出る所であるわけだが、小雪の場合、もろにクラシックに年下男子を扱っている。「(小雪は)風呂が大好きで、1日3回入る。あっ、これ言ったら怒られちゃうかな」「よく怒られる?」「僕が自分の部屋を散らかした時に」、これが記者と松山のやりとりである。まるで、天才子役の、<テレビの前では大人びているけど、おうちでは子供なんです>とアピールする記者会見の1コマのようである。

それにしても「ひよっこ」という言葉を久しぶりに聞いた。「ひよっこ」という言葉の語源は「ひよこ(雛)」に促音「っ」を添加したもの。未熟であるという意を強めるために「っ」を入れたのだ。あなたひよっこだから、この言葉を聞いて、あるドラマを思い出した。大手新聞社のエリート記者の小雪が自宅に松本潤を「飼う」ドラマ「きみはペット」だ。自宅マンションの前の段ボールに入って震えていた松本を、昔飼っていたペットに似ているからという理由で家に連れ込み、ペットとして飼うという内容。マツジュンが上目遣いで「ニャー」と鳴いてくれるところに需要が一極集中しているようなドラマだったが、このドラマでの小雪は、マツケンを飼わんばかりの発言を晒した現在と状況がもろにかぶる。

「フジワラノリ化」論 第18回 小雪

姉さん女房はここ最近増えてきたとはいえ、まだまだ例外、と感じているかもしれない。資料にあたってみる。厚生労働省の「人口動態統計」によると、妻が夫の年齢を上回る婚姻は、第2次ベビーブームが起きる1970年に10.3%だったのに対し、2009年では23.7%と、約2倍以上に増加している。同年齢での結婚も、70年・10.1%から09年・19.9%と2倍近い増加である。となれば、数歳年上の夫と結婚するケースが減ってきているということになるが、面白いことに、「夫が5歳以上」のケースは、2000年以降、微増しているのである。つまり今という時代の婚姻状況を大雑把に分析すれば、年下男子と結婚するか、かなり年上の男性と結婚するか、婚姻を結ぶ上での「意図」としてこの2つを見つけることが出来る。年下の男か、年輩の男か、このセレクトをするのは女性だ。「ひよっこで大丈夫?」と言わせるまで餌付けを繰り返し、自分の言葉を持ち始めたのを確認したので、一人前として迎え入れてあげましょう、といわんばかり。連名でのFAXでも、2人揃っての会見でもなく、旦那に嫁の弁を一通り喋らせるやり方、話の分かるペットを扱わんばかりである。

女性の結婚報道がなされる度に、「妊娠はしていない模様です」「結婚後もタレント活動は続けていく予定です」と結ばれるのはフェミコードにひっかかるのだろうか。統計値としては95年を境に、共働き家庭が専業主婦の数を上回っていくのだが、いちいち「子供は?」「働くの?」を流すというのは、いまだに、女性が家庭に入って子供を産むことがベーシックだと信じられているからだろう。小雪とマツケンもそうだった。小雪は妊娠してるのか、仕事を続けるのかが勝手に焦点となっていった。

小雪がマツケン越しに醸し出してきた結婚の空気感は、正式な、いわゆる順風満帆な婚姻から遠いのだろうか。言葉を選ばずに言えば、この人からはこれまで、不倫臭、浮気臭がそこはかとなく漂ってきた。小雪が出演するCMの中で最も印象的なのはウイスキーのCMだろう。「飲む?」と、ホロ酔い顔で誘う小雪の立場は、奥さんというより、お家に帰ろうとするお父さんを引き止めるオンナだ。港町にある見晴らしの良い丘でいきなり「のど、乾きません?」と風に揺られるその姿は、妻にウソの出張をでっち上げた相手を転がしながら蜜月タイムを弄ぶオンナである。発泡酒でもなく、ワインでもなく、日本酒でもなく、ウイスキーというのが肝だ。若干22歳の吉高由里子がサントリートリスのCMに登場して驚かせたが、彼女の最新写真集はその名も「UWAKI」であった。その吉高と共に、ウイスキーに最もふさわしい著名人を表彰する「ウイスキー ラバーズ アワード2010」に選ばれたのが米倉涼子だったことも思い出される。自転車を直す田中裕子に若き日の大森南朋が近付いてくる「恋は、遠い日の花火ではない」なんてCMもあった。ウイスキー周辺には、どうにも、恋多きオンナの手練手管が染み込んでいる気がする。サラリーマンの火遊びの最高峰に用意されているオンナの1人に小雪がいるのではないか。発泡酒とアリナミンVのCMで登場する松下奈緒は、紛れもなく「理想の嫁」だ。小雪のウイスキーからは、どうしたって不倫臭がただよってくる。清潔だが清楚ではないのだ。単身で海外放浪に挑んだりするアクティブさを見せつける中谷美紀などは、その清潔と清楚の間を土足で行き交う大胆さをみせつけ、男性のやわな夢想をふるい落としていくわけだが、小雪はいつまで経っても、「どう?」と、どこか近くに佇んでいる。

芸能界では、結婚をすると、「(結婚しているのに)キレイ」という断り書きが女性だけにつきまとう。小雪はこれからこの枕詞とどう付き合っていくのだろうか。「きみはペット」でマツジュンを飼い、実生活でマツケンを手玉に取り、最も架空性の高いCMで、配偶されぬ女性を演じる彼女のお姉さんシップは、この後、どこへ向かうのか。30代未婚女性がいつのまにか愛人予備軍に参入してしまうケースも絶えぬ中、小雪は、個人としての声を発さずにひっそりと奥様となった。ウイスキー会社の連中はもしかしたら首を傾げているのではないか。うーん、小雪さんが結婚しちゃうと、なんかこうちょっと違うんだよなあ、なんて。「のど、乾きません?」と言わせにくくなるってもんだ。「今日もおいしいハイボールでお待ちしております」とカウンターの中にいる小雪を説明出来なくなるのだ。

小雪が小雪自身で生じさせている齟齬は、結婚だけではない。雰囲気だけで象られた空気と空気の間にいささか強引ながらも大きなテーマをふっかけて、小雪の歴史と現在をあぶり出していきたい。



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