コラム

「フジワラノリ化」論 第19回 石川遼 どうして君はそんなに優等生なのか 其の一 国民の生徒会長・石川遼

「フジワラノリ化」論 第19回 石川遼 どうして君はそんなに優等生なのか 其の一 国民の生徒会長・石川遼

武田砂鉄
イラスト:なかおみちお(TOKYOHELLOZ)
2011/07/20

其の一 国民の生徒会長・石川遼

なでしこジャパンがワールドカップで優勝した。印象的だったのは、終了直後のインタビューで、澤選手及び佐々木監督が「震災」について触れなかったことだ。おおよそのメンバーの試合直後のコメントが羅列された速報記事を読んだが、被災地の皆さんに勇気を、と残したのはたった一人だった。むしろ、試合終了直後の渋谷駅でバカ騒ぎする面々にマイクを向ければ、彼等はお決まりのように「これで日本が復興に向けて勇気づけられる」と繰り返した。この原稿自体、決勝戦終了から数時間後に書き始めているのでその後のテレビ出演等で選手から被災地への言及が続いた可能性はあるが、予想するにその多くは、聞き手側の「これで、被災地の皆さんも勇気づけられますね」というフリに答えるものだったのではないかと思う。少なくとも、第一声としてそれがほぼ語られなかったことは、彼女らの勝利の希求、その想いの実直さが露にさせる重要なポイントだと思う。

なぜならば、東日本大震災から4ヵ月以上が経ち、何かと被災地の復興に対して言及を沿えることが通例化しているように感じられるからだ。季節の挨拶のようにそれが繰り返されることに、強烈な違和感を覚えてしまう。自分自身で発するというより、自分以外の誰かを盛り立て褒め讃える際に、必ず「これで被災地の皆さんが、」と添えられることに対する違和感。記者会見すれば、ゲスト出演すれば、ヒーローインタビューに答えれば、必ずこの設問が投げられ、お決まりの回答で締めくくられていく。冷たく聞こえるかもしれないが、エンタテイメントもスポーツも芸術も、震災のためにあるのではない。この非常事態、震災のためにそれらが活用されるのはとても有益なことだ。だがしかし、様々な事象や行動や結果を、強引に「震災化」して語っていこうとする風潮は感心できない。

ソフトバンクの孫正義が100億円の寄付、ユニクロの柳井正が10億円の寄付、その莫大な寄付行為を巡って、太っ腹だとする賛意と、売名行為に過ぎないとする反意がぶつかった。不毛な議論から逃げる為でもあるが、どちらの意見にも理解できる。そもそも被災していない自分が考えるためには、どの視点を借りるかで印象は180度変わる。易々と同情してはならないところを躊躇せずに被災地の方々の目線を借りれば、この具体的な金額は何よりも有り難い援助だろう。こちらもまた安直に借りがちなテレビコメンテーター或いは週刊誌的な文脈でいえば、この経営者達は、広告費としては安いもんだと思って寄付金をばらまいたのさと捉えてしまうだろう。どこから見るかで変わる。だからこそ、寄付の有無やボランティアに出向く・出向かないという行動の有無で、著名人の評定を定めていくのはあまり建設的ではない。かくいう自分も、震災から2ヵ月後に、とある雑誌で、こんなことを書いた。「中越地震の際に、被災地の方々を思ってと豪華衣装を封印して紅白に出場した小林幸子は、翌年から豪華衣装に戻ったわけであるが、今回も終始半泣きで被災地を訪ねてはウルウルを披露するという感動の自家発電っぷりを見せつけた」。なぜこんなことを書いたか。それは、自分が小林幸子のことを嫌いだからだ。元から嫌いだからだ。嫌いであるという前提にその嫌いを助長する行動を乗せてきたから特筆したくなっただけだ。しかし、これは本来、反則技だ。寄付を出す・出さない、被災地へ行く・行かないという選択肢が等しく用意されているのであれば、そのどちらであろうが、その判断だけで反意を向けてはならないはずだ。孫は100億なのに、柳井はどうして10億なんだという当人の外からのいちゃもんは、自分の小林幸子批判と同様に、なかなか低俗なのだ。

本稿の主役・石川遼は、東日本大震災の後、今季の国内ツアーとメジャー大会で獲得する賞金を全額寄付することを発表した。年齢の若さもあったのだろう、その英断に、20歳に満たない彼が2億円目標で寄付をするなんて……と賞賛が送られた。しかし一方で、周辺の選手に配慮が欠けるとの厳しい反応も散見された。ゴルフ選手の収入は、年俸制ではなく、試合で得た賞金に頼られる。スポンサーとの契約料もあるが、こちらが名を知らないようなプロ選手は打ちっぱなしの練習場でレッスンプロなどをしながら食い繋いでいくという厳しい世界である。つまり、調子がとことん悪ければ、年収は基本的に寂しい額となる。年俸制である野球選手が、そのうちのいくらかを寄付に回すのとは構造が違う。多くのゴルファーはその分母が定まっていないのだ。石川遼にはその分母がある。年間数億とも言われるCMスポンサー料である。言い方は悪いが、ゴルフが全くダメでも収入が約束されているのだ。今回、「金のある奴は寄付を出せ」という世の風潮が過剰に広まったこともあり、「あんなに若い石川遼が出しているのに、他の選手はどうして」という見方は周辺に派生した。しかし、他のゴルファーにしてみれば、金額が約束されていない分母から寄付金を抽出するなんて、出来るはずがないのだった。

震災後、世の中の、人物に対する評価軸が純化されすぎていると感じるのは自分だけだろうか。善い事をした人を良い人とし、ネガティブな行動や発言をした人を悪い人とする、その速度/強度がすさまじい。例えば、「(漁港を)3分の1〜5分の1集約すると言っているけど、県で(漁業者の)コンセンサス得ろよ。そうしないと我々何もしないぞ。だからちゃんとやれ。そういうのは」等々の発言で更迭された松本復興大臣。彼に対する世間の罵倒は異様なほどだった。自分は、この一連の流れを報道で知った時、「国と地方自治体が優劣の関係ではなく共に協力し合って復興に励む」という前提で会談に臨んだはずの宮城県知事がその暴言を前にしてもその場でニコニコ頷いていただけだったことのほうが気になった。良い人探しと悪い人探しが極端に進み、二分される。でも、そんなに簡単じゃない。むしろ、その二極化の波に乗せられない場面だって多かったはずなのだ。

石川遼に根付くあの優等生気質は何なのだろう、どこから来るのだろう。その成分と発生源が、前々から気になっていた。純粋培養されたあの気質は、どこでどう培われたものなのか。今回、全額寄付しますという判断を聞き、まったく相変わらず石川遼らしいなと思った。善の方向へ即断する反射神経が、彼には染み付いているからだ。しかし、彼の、その意図となると読めない。福原愛は基本的に斜に構える。浅田真央は基本的に素直に答える。斎藤佑樹は基本的に真面目を貫く。これらは、個人の性格が対応としてダイレクトに反映されたものに見える。だから、その基本がブレないのも当然だ。だがしかし、石川遼の優等生気質については、何がしか、彼の基軸を覆う別のフィルターが隠されているのではないかという、根拠のない予測があった。「全額寄付」という即断と周囲の反応を眺めていて、いよいよその予測を放っておくことができなくなってしまった。何がしか根拠を携えながら解析しなくちゃといつもながら需要の無い分析をしてみることにした。

「フジワラノリ化」論 第19回 石川遼

既に、フィルターの存在が少しばかり見えてきている。この優等生気質は天然のものではない。頑強な人工物である。そしてその頑強さは、自意識によって固められたモノではない。親の英才教育をはじめとする、周囲に象られた硬質さである。彼の優等生っぷりは自家発電ではない、どこかから与えられた電源で動いている。であれば、石川遼自身もこの優等生気質の行方、言っていればアプローチの仕方に戸惑っているのではないかと予測される。石川遼の会見やインタビューを見たことがあるだろう。その場で求められる言葉、態度、情報、仕草、それらが漏れなく詰め込まれている。どうすればあれができるのだろう。真面目だとか、天性の才能だとか、そういうものではない。真面目や才能には絶対にブレが出る。言葉遊びのようだが、漏れがないのは、「漏れがないようにしよう」と心がけているからである。中高時代の生徒会長辺りを思い出してみよう。その手の面々は、確かに元から真面目で優秀だっただろう。しかし、それ以上に、真面目で優秀であろうとする意識が内面からほとばしっていなかったか。石川遼というのは、その生徒会長気質の固まりに見える。石川遼は、デビューがセンセーショナルだっただけに、そもそも、なぜこんなに優等生なのかという考察が抜け落ちているのだ。最初から、優等生・石川遼と名刺に書いてあったのである。

この連載では、石川遼の、ゴルフの技量や功績については一切記さない。ティーショットの飛距離や、ロングパットの精度には全く興味がない。一点だけだ。なぜ、彼はこんなにも優等生なのか。ここに絞る。今年初頭、アメリカで自動車免許を取得した彼は三ヵ月以上滞在しないと免許が無効になることを知らずに日本で運転をしてしまい、無免許運転となった。うっかりミスとはいえ、反社会的行為については冷淡に罰するのがCMスポンサーだが、各企業はHPに謝罪を載せる程度で起用を継続させている。日本プロゴルフ協会に至っては、理事会決定で処分を科さないことを決めた。異例の事態である。好成績の選手だから、ではない。これがダルビッシュ有だったら、こうはいかなかっただろう。世間も許さなかっただろう。しかし、石川遼は許された。だって「彼は優等生」なのだから。

石川遼にある優等生という前提を取り除いて、彼を見てみよう。天パなのかオシャレパーマなのか分からない髪型、勘違いに気付けない晩年の田原俊彦のような真っ赤っかのパンツが目に入ってくる。石川遼=優等生、そんなに簡単に成り立つ数式は無いだろうと思い続けてきた。震災後の対応で、初めて石川遼に向かう反意の具体化を見た。これは石川遼を解くタイミングかもしれないと思い立った。生徒会長の素行を探るのはお易い御用、だって中高時代のライフワークだもの。この「国民の生徒会長」を紐解いていくことにする。

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