コラム

「フジワラノリ化」論 第19回 石川遼 どうして君はそんなに優等生なのか 其の二 自慢の息子を語りたがる親たち

「フジワラノリ化」論 第19回 石川遼 どうして君はそんなに優等生なのか 其の二 自慢の息子を語りたがる親たち

武田砂鉄
イラスト:なかおみちお(TOKYOHELLOZ)
2011/07/22

其の二 自慢の息子を語りたがる親たち

親バカという言葉は、実際の子供の出来映えと真逆の評価を対外的に晒している場合に使われる。最も分かりやすい場面は、赤ちゃん子役のオーディション辺りだろうか。歩けるようになったかならないかくらいの子供を連れてきて、将来は世界を股にかける女優さんにと言ってのける奥様方に、陰ながら申し上げる一言、親バカ。申し添えたいのは2点。貴方の子供だけが可愛いわけではなくて押し並べて可愛い年齢なのですよ、ということ。そして、世界を股にかける前に自分で自分のお股を拭けるようになるまで黙ってしつけてから仰ってはどうですか、ということ。だが、前のめりになっている奥様方の耳には入らない。モンスター・ペアレンツが語られるようになって久しいが、これは好都合の愛情だけを子供に向け、その他を外的組織に丸投げするという豪快で珍奇な子育てがそこらじゅうに溢れたからという分析で正しいのだろうか。見てくれが物騒な私なんぞ、電車内で泣きわめく子供をほっぽらかしにする親から、「ほら、お兄ちゃんに叱られちゃうよ」と利用されたこと数知れず、その度に菩薩のように優しい顔で黙り込むのであります。

突発的に大きな活躍をしたスポーツ選手が登場する度に、マスコミはその親を追いかけ回す。このお決まりの流れはいつに始まったことなのだろう。邪推すれば、大物スポーツ選手がプロダクション系統に所属するようになった頃からではないか。これまで、芸能事務所に所属してこなかったスポーツ選手(あと、女子アナ)は、どんなスキャンダルでも自由に引っ張り放題だった。夜の三冠王、という見出しコピーを、毎週のように見かけたものだ。しかし、最近では、スポーツ選手のマネジメントを手がける会社が半ば芸能事務所と化し、インタビューするにも事前に質問内容をチェックするなんてのが増えてきた。唐突に現役を退き、自分探し目的で世界へ旅立ったあのサッカー選手の頃からの話だ。こういった体制の中、簡素にネタを作るにはどうするか、喋らせるのに最適なのは誰か。親である。長友佑都でも澤穂希でも、真っ先に親を捕まえる。例えば、長友の母から「学費のためならと自殺を覚悟したこともあった」(女性セブン2011年7月28日号)とコメントを引っ張れば、それだけで目玉記事として成り立つのである。

親バカも、子が本物になればバカではなくなる。となれば親は、本物を育てた元・親バカの話を聞きたがる。石川遼の父親・勝美氏が記した『石川遼・ゴルフのゆりかご』もその一冊に位置づけられるだろう。この手の本は、自慢と謙遜のバランスが難しい。謙遜が続くとむしろ自慢じゃん、になってしまう。しかし、この本は潔い。「人の問いかけに対して、真摯に向き合い、ときにユーモアも交えて自分を表現する。それは、なかなか一朝一夕にできることではありません」と息子を褒め、「親がその気になれば、心豊かな人格は形成されます」と自分の教育方法を信じ切る。息子のゴルフのために奔走した日々の葛藤が大げさに盛られていく。子供の夢を叶えるためには、夢を持ち続けさせてあげるだけの親の愛が必要。その愛情が結実していく。パチパチパチ。この手の本では、必ず挫折や不遇が描かれるものだが、この本での石川遼は順風満帆そのものに思える。しかし、父は冒頭にこう書く。「石川家は、決して裕福な家庭ではありませんでした」。サッカーボールをひとつ与えておくだけで事足りるサッカーと違い、ゴルフにはお金がかかる。なるほど、ここまで育てるには金銭的な苦労がおありだったのだろうと共感しながら読み進めれば、父の職業は信用金庫の支店長とある。思わず読み進めるのを止めてしまう。信金の支店長の年収はおおよそ800万〜900万円と言われているから、サラリーマンの世代別平均年収の最高値である50〜54歳の629万円(平成21年・国税庁データ)を大幅に上回っている。これでは、少なくとも「裕福でない」とは言えないだろう。ゴルフクラブを買うにも「そんなに高いのは買えないから」とわざわざ書き記すのを見つけるにつけ、いやはやそれはないだろうと平凡な突っ込みを重ねてしまった。不遇なのにうちの子はがんばった、というストーリーを提供したくなるのは分かるのだが、不遇の具合がそうでもないことが冒頭でバレている。

石川遼の受け答えの真っ当さは、スポーツニュースでのインタビューの断片を見かけるだけで分かる。とにかく余計なことを言わない。求められていることだけを重ねていく。野球選手のようにサービス精神の旺盛さが上っ面で滑ったり、サッカー選手のように「〜っす」「〜っすね」だけでぶっきらぼうに終えていくなんてことはしない。プロ初優勝を成し遂げた後の優勝者インタビューで、自分のことはさておき、父母、そして何よりキャディーに感謝をしていますと、キャディーを前に出てこさせた。互いにもらい泣きをして、ハグをする。このシーンは、石川遼の本格的な船出でありながら、優等生としての仕上げであったようにも見えた。それくらい完璧に、場を統率していた。自分で創出したこの空気、誰を巻き込もうとも、その相手には気分を害させない。優等生としての石川遼が、親のみならず、近しい大人からいかに模範生と思われているのかを知るために、日本ゴルフツアー機構副会長の諸星裕が記した『頑固論 石川遼 自分を信じる力』を開いてみる。この本、石川とそれ以外を比べるにあたっての「それ以外」の考察が極めて雑である。例えばこう書いてしまう。「現代の若者の問題行動の一つとしてよく話題になる『キレる』ということである。ちゃんとしたゴルファーはキレない。キレたらゴルフにならない」「いまどきのすぐキレる若者や、まったく自分本位な物言いしかできない『お子様』たちと、石川遼は明らかに一線を画している」。思わずキレそうになるが思うつぼなので止めておく。彼の意見には、世の中の大人の、突出した若き才能を見るにあたっての前提が偏見じみた形で滲んでいる。要するに、これだ。これが親バカのゴールなのだ。我が子が「いまどきの若者と一線を画す」誰かになってほしいのだ。

しかしまあ、「キレる若者と違って」という常套句が未だにこの手の本に刻まれていることに改めてうなだれてしまう(この本が出たのは2010年9月のこと)。こちとら「キレる若者」と長年呼ばれ続けてきた世代からすると、この辺りの雑な論旨はやっぱりそのままにしておけない。駆除しなければ気が済まない。諸星は続ける。石川遼がここまで素晴らしい青年になったのは、親の教育も去ることながら、「ゴルフというスポーツが本質的にもっている『人に自律性を求める厳しさ』」ゆえだとする。この都合の宜しい論理展開に、ほら、ボク、キレる若者だからとついつい拳を握りしめてしまう。優れた子供を育てるためのメソッドとして、石川遼と同様に斎藤佑樹の需要も高い。さすがに、ハニカミ王子とハンカチ王子として比較されただけはある。斎藤にも親による書籍が2冊(『はばたけ、佑樹』『佑樹―家族がつづった物語』)ほどあるが、そもそも高校野球でトップになった彼に対する子育てはこの段階では継続中なのであって、それなのに、こんな本を出してしまっていいのだろうかという恐縮だけが伝わってくる。恐縮を受け取って終わりである。ならば出さなければいいのに。諸星氏の本に戻って議論を続けようと思ったが、グラウンドに一礼して出ていくという石川遼に触れ、その光景を「外国人選手には柔道家や空手選手などを除くとほとんど見かけない光景である」と書いてしまう初老の戯れ言に時間を割くのはもう止めておこう。

「フジワラノリ化」論 第19回 石川遼

意地の悪いキレる世代の私は、本棚からの奥から、ある有名な子の親が書いた一冊を取り出す。その中で我が子についてこう書く。「親バカかもしれませんが、人に必要以上に気を遣うなど、繊細でやさしいところのある子でした。すぐ人を信じて傷つきやすく臆病で純粋すぎる。根がバカ正直なので、学校でも先生に思ったことをそのまま言うなど、不器用で心配になる部分があるほどでした」。誰の親が書いた一文だか分かるだろうか。石川でも斎藤でも、どの成功例にも当てはまりそうな前提である。周囲に気を配れる、そして生真面目。子供の頃から培った誰それの骨幹はプロになっても変わりませんと文章を繋げることができそうだ。この一文を我が子の幼少期の様子として書き記したのは、誰か。神戸児童殺傷事件の少年Aの父母である(『「少年A」この子を生んで……』)。

親が子を語る。石川遼が、その為の最良案件だということは分かる。しかし、その成長と現在を、成功例としてサンプル化させようとする周囲の動きには強い不信が募る。はいどうぞ、子育て完了済みの方は、全く未体験の私を嘲笑して下さって構わないが、子育てにサンプルはないはずである。子供に最良のサンプルを求めて何がどうなる。心優しい子がどこへ向かって行くのかなんて、当人にすら分からない。だったらせめて、その道幅を狭めることだけはするんじゃねえよ、と若者らしくブチキレて、認め印を押したがる大人達への苦言とさせていただく。石川遼が、いかに素晴らしくても、彼を教科書にしてはいけない。

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