コラム

「フジワラノリ化」論 第19回 石川遼 どうして君はそんなに優等生なのか 其の四 今日もまた、赤いパンツを履く

「フジワラノリ化」論 第19回 石川遼 どうして君はそんなに優等生なのか 其の四 今日もまた、赤いパンツを履く

武田砂鉄
イラスト:なかおみちお(TOKYOHELLOZ)
2011/07/28

其の四 今日もまた、赤いパンツを履く

石川遼の答弁には余計な脂肪分が無い。そんなこと言わなくてもいいのにとこちらが感じるようなだらし無い贅肉は、全てキレイに剥がされている。かといって、国会答弁のような情感に欠ける棒読みとも違う。拙い受け答えのまま、精一杯ひとつの正答にまとめあげていこうとする律儀さがある。その律儀さを前に、あら探しや更なる突っ込みをしようと詮索するのが躊躇われてしまう。答弁は完璧、その一方で、見てくれはどうだろう。こちらは面白いことに、突っ込みどころがあちこちから沸き立ってくる。あのチャレンジングな髪型、やたらと真っ赤なパンツ、消えぬ青春の証し・ニキビ……、どうにも落ち着いて見られない。

サッカー選手と野球選手の、いつまでも残り続ける差とは、その私服にあると思っている。目立つことを露骨に追い求めた三浦和良や中田英寿は例外的なファッションだったとしても、例えばサッカー日本代表選手を私服で引っ張り出してテレビに出させれば、まあ大抵、合格点が出そうな格好をしている。『men's non-no』を適当に開いて指差した衣服をいくつか買い揃えて身につけているようなイメージだ。一方、野球選手はどうか。サッカーに比べると、どうも野暮ったい。そして、野暮ったさからの打破がとっても下手だ。アクセントが露骨なのだ。ついつい、金のネックレスをしてしまう。ついつい、成金じみたゴージャスな時計をしてしまう。ついつい、セーターを首からかけてしまう。さすがに車高の低い外車からセカンドバッグ一つで降りてくる、カタギから遠く離れた姿形で登場する選手は少なくなったが、親しみにくさは否めない。話は変わるが、世のオジさんの、ちょっとだけちゃんとしたときのファッションの8割はゴルフウェアである、という持論がある。親戚の家を訪ねるときなんてのは、大体、ポロシャツにチノパンだ。もうそのまま、ラウンドに出られそうな格好なのだ。せめてもの冒険は、ポロシャツの襟を立てるくらいか。シャツはズボンにインしたりしなかったり。着くずしたいんだか着くずしたくないんだか、誰にもその狙いを理解されぬまま、自分で認可したゴルフウェアの私服化があちこちで進んでいく。

テンガロンハットがトレードマークになっているプロゴルファー片山晋呉は、12年連れ添った夫人がいるにもかかわらず、複数の女性と浮気関係にあった。現在、離婚調停中だと言うが、やはり思い出してしまうのはタイガー・ウッズの不倫騒動である。度重なる浮気、そして性依存症の告白と、天才ゴルファーの火遊びは蓋を開けてみれば甚だしいことこの上なかった。男女問わず、ゴルファーにはオフィシャルの顔しか見えて来ないものだ。つまり、スポーツニュースでゴルフの模様が伝えられるとき、まず間違いなく、試合の場面を放送するだけで終わりだ。試合前の練習時にキャスターがスタメン陣に軽いノリで話を聞きにいく野球や、なによりゴールを決めてそれぞれが弾けるシーンで個人のキャラクターが見えてくるサッカー選手とは異なり、ゴルファーには、イレギュラーな立ち振る舞いが少ない。『ジャンクSPORTS』は、人となりが伝わりにくいスポーツ選手の素を引っ張り出すという点で貴重な番組だったが、そのうちに、出てくる側が必要以上に玄人ぶろうとする(トークもいけます、的な)ようになり、手つかずのものをいじくりまわす面白さが消えてしまった。この構図は『恋のから騒ぎ』に似ている。さんまに、トークいけます私と、いかに出しゃばるかの争いだけが残ったのがあの番組だった。石川遼は、時たまピッチの外に出ては、バラエティに登場したりする。芸能人とのスポーツ決戦で見かけることが多いが、そこでも彼は、根っから真面目である。とんねるずの無茶ぶりにも正答で返すのだから、さすが、国民の生徒会長、である。理不尽にも強いのだ。

石川遼が赤いパンツを履くのには理由がある。2005年、史上最年少優勝を果たすこととなるマンシングウェアオープンKBSカップの最終日の前日、当時通っていた杉並学院のゴルフ部顧問とともに岡山市内の百貨店に立ち寄り、好きなズボンを選べと言われ戸惑う石川に、その大会のウィナージャケットが赤だと知っていた顧問が、赤には赤だろうと赤いズボンを勧め、購入。そして翌日、見事に優勝、赤いジャケットに赤いズボンという、直視するには目が痛い色合いで優勝カップを掲げる初々しい彼の姿が伝えられることになった。それ以来、彼は赤いパンツにこだわるようになった。赤は勝負の色と言われる。戦闘ヒーローもののど真ん中が必ず赤色であるように、赤は意志表示を強く持つ色だとされる。アメリカのロチェスター大学の心理学者、アンドリュー・エリオット氏の研究によれば、赤色を見た人間は、筋肉の反応が早くなり、その力が強まる、との結果も出ている。その色を着込めば自らを鼓舞することができる、らしい。しかしまあ、そんなものは後付けに過ぎない。派手な赤を地味な石川遼が着続けることに対する違和感は、そういった能書きとは別の次元で一定に存在する。「タイガー・ウッズ」で画像検索でもしてもらえば分かるが、彼もやたらと赤を着る。赤を着込むとなれば、あとは田原俊彦だろうか。自家発電しないとファンの熱狂がついてこなくなった彼のウェブサイトのプロフィール欄の写真をご覧頂きたい。目のくらむような赤色である。そもそも田原は、デビュー当初のイメージカラーが赤色だった。当時は知らんが、現時点での赤が、「空気読めない」感の象徴化としての赤、としか見えない。カラーセラピーの世界では、赤はステータスと恋愛に効くとされている。逆に、社交性や親切さには欠けるらしい。となると、赤は田原俊彦にピッタリ、というか、田原俊彦が目指そうとしている所にピッタリだ。タイガー・ウッズにも赤が似合う。原色系の色を好む片山晋呉も、赤色で開き直ったほうがいいかもしれない。しかし、石川遼はどうだろう。ステータスと恋愛から程遠く、むしろ社交性や親切さの固まりと思われている彼なのだ。試合外で、石川遼が赤以外の格好でテレビに登場すると、ホッとする。赤の彼は、なんだか、赤で背伸びしているように見える。中学時代、ファッション誌を読みあさってはビームスやアニエスベーを着込んで粋がる同輩を冷たい目で見ていた。あの手の背伸びを今更石川遼に感じる必要は無いのだけれど、ゴルフ界のトップにいながら、未だ背伸びしているように見えるのは、あの「赤」に原因があるのではないか。ゴルフ好きで知られているえなりかずき、彼のファッションは、ポロシャツをウエストインするクラシックスタイルである。とてつもない老成を漂わせている。ゴルフはそもそもこういたオッサン臭を丸ごとかぶってきた。そこから抜け出すのが、片山晋呉のテンガロンハットであり、石川遼の派手パンツのはずだった。しかし、これまで「えなり的ファッション」として守られてきたものから逃れようとする時、あの赤いパンツは、野球選手に置き換えれば、金ジャラネックレス&セカンドバッグほどの突出した意志として噴出してしまう。保守からの革命は際立って目立つのだ。が、しかし、意志のもと希求するからこそ革命は起きる。では、石川遼の赤いパンツにその意志はあるのか。ない。でも赤い。だから、こちらは困惑するのである。彼は、その赤で何をしたいのか。

赤を守り抜くウェアと比べ、髪型は、ここ数年を追うだけで面白いほどの変化がある。茄子のヘタのような髪型に始まり、日干ししたワカメのような髪型、大阪の商店街にいるオバちゃんがかけそうなチープなパーマを経て、「片側刈り上げ&逆サイドに髪を流し一極集中ヘア」に辿り着いた。……これだけでは終わらなかった。この原稿を書き終えて編集部に送った翌日、石川遼の髪型が、耳から下を刈り上げる「2ブロック」になったとの速報がヤフーニュースのトップページに流れた。思わず原稿を引き上げて補足しておく。本人のコメントが載っている。「タイプは違いますが瑛太さんや松田翔太さんのような感じ」だとのこと。「タイプは違いますが」に重点を置いて好意的に理解してみることにしよう。髪型と格好に制約のある高校野球児がついつい眉毛で大冒険をしてしまうのを痛々しく見ている人は多いだろうが、石川遼の髪型についても全く同じことが言える。しかも彼の場合は、本来自由であるはずの格好に自ら制約を設け、その上で、髪型に冒険心を委ねている。格好の制約はこちらの違和感を育ませるだけだったりする。その上にかぶさるこの独創的な髪型がもたらすのは、二度塗りされた違和感でしかない。二度塗りされた違和感は強固だ。彼が真面目であればあるほど、赤を守れば守るほど、自由に背伸びしていく髪型の行方が心配になってくる。2ブロックの後はどこへ行く。モヒカンやドレッドの可能性すら警戒しておく必要があるだろう。

「フジワラノリ化」論 第19回 石川遼

自分も中高時代悩まされていたが、石川遼とニキビとの闘いの歴史は長い。増えては減り、減っては増えを繰り返してきた。ちっとも慰めにならない「ニキビは青春の証し」という言葉も、今年20歳を迎える彼にはそろそろ使えなくなる。脂分が蓄積して出来るニキビは、発汗等の要因もあるが、ストレスによって起きるものでもある。松井秀喜は長年にニキビに悩まされてきたが、もともとゴジラというネーミングで親しまれてきた彼と「ハニカミ王子」で現れた彼との、ニキビの捉えられ方は異なるだろう。ニキビの問題から派生して言えば、この「王子」出身の石川遼が、どう大人化していくのか、というのは、ここから数年を見やる視点の中心になりうる。

ラサール石井がツイッターで「浅田真央ちゃんは早く彼氏を作るべき。エッチしなきゃミキティやキムヨナには勝てないよ」と書き、当然ながら非難が集中し、削除される事態となった。女性らしさが性行為体験の有無から導かれるとは愚鈍な分析だが、浅田真央を見る衆が彼女に「処女性」を見出しているのは確かだろう。念のため書き添えるが、それは実際に処女かどうかという問題ではない。これと同様のアプローチで、石川遼は「童貞性」を持っていると言える。親に丁寧に育てられ、周りの大人に親しまれてきた石川遼。「箱入り息子」に忍び寄る火遊びはこれまで皆無だった。その中で強固に育まれていく童貞性、それなのに、石川遼ったら、格好と髪型がとんでもなくどこか遠い先まで進んでしまっているのだ。片山晋呉やタイガー・ウッズのように童貞性を破棄して欲しいとは思わないが、箱入り息子と格好と髪型のチグハグさがそのまま煮込まれている現在を歯がゆく思う自分としては、この「童貞性」をどこでどうやってほぐしていくかは、これからの石川遼にとって大きなポイントとなると勝手な予測をしている。

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