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あの人の音楽が生まれる部屋

日本のシティポップや1980年代の米英エレクトロミュージック、ディスコなどを高次元でブレンドし、多幸感と切なさが同時に押し寄せるようなポップミュージックを奏でるtofubeatsさん。彼の待望のメジャーデビュー作、その名も『First Album』が豆腐の日(=10月2日)にリリースされました。まるで人を食ったようなタイトルが付けられた本作ですが、そこには彼の「音楽愛」がぎっしりと込められています。若くして、すでに日本を代表するトラックメイカーの1人となったtofubeatsさんですが、実はデビュー前に大きな挫折と大病を経験していました。彼の世界観や人生観に大きな影響を与えたそれらの経験は、一体どのようなものだったのでしょうか。いまも神戸を拠点として活動を続ける彼の自宅スタジオで、これまでの道のりを振り返ってもらいました。

テキスト:黒田隆憲 撮影:ハブ(夜色きかんしゃ)

tofubeats

tofubeats(とーふびーつ)

1990年生まれ。神戸で活動を続けるトラックメイカー/DJ。学生時代からインターネットで活動を行い、ジャンルを問わず様々なアーティストのリミックスを手掛ける。2013年、「水星 feat.オノマトペ大臣」を収録したアルバム「lost decade」をリリース。同年、森高千里らをゲストに迎えたEP「Don't Stop The Music」でメジャーデビュー。2014年10月2日(豆腐の日)に、豪華ゲストアーティストを招いたメジャー1stフルアルバム「First Album」をリリース。

http://www.tofubeats.com/

ねじ曲がっていた自分を変えたきっかけは
インターネットで自己表現をするようになったこと

tofubeatsの機材

神戸出身で、現在も神戸在住のtofubeatsさん。中学校へ入学したばかりの彼が、初めて購入した楽器は意外にもベースでした。当時はまだ「青春パンクブーム」の名残りがあり、「音楽をやるならバンドを組むしかない」と思った彼は、「なんとなくかっこいいから」という理由だけでベースを選んだものの、自分がやりたい音楽はそれではないということに気づきます。

tofubeats:その頃はとにかく、理屈っぽくて生意気な子どもだったと思います。根拠もなく自分のことを賢いと思ってたから、いろいろとねじ曲がっていましたね(笑)。音楽は好きでしたが、それ以外は勉強しかしてなかったです。中学受験に合格してインターネットを始めてからは、自分の考えていることを文章にするようになって、随分マトモになったと思います。本格的に音楽を始めるようになったのは、KORG ELECTRIBEを購入してからで、これがトラックメイカー兼DJであるtofubeatsにとって、最初の機材ですね。最初の3年くらいは、ずっとこれだけでビートを作っていました。

ヒップホップやシティポップに触れた中学時代
音楽を通じて学んだ他者の価値観

tofubeats

中学時代のtofubeatsさんに衝撃を与えたのは、BUDDHA BRANDやNITRO MICROPHONE UNDERGROUNDといった、日本語ヒップホップ。神戸のニュータウンで生まれ育ち、私学に入ったtofubeatsさんにとって、自分とは異なる環境にいる彼らの存在はとにかく魅力的に映りました。

tofubeats:建売住宅や団地が並び、同じような考え方の人が集まるような環境にいたから、「自分とはまったく違うレンジの人間が、世の中にはたくさんいるんだ」っていうことを、ヒップホップや他のいろいろな音楽を通して知れたことは、自分にとってはとても大きかったです。「自分とは違う価値観を認める」ということを、音楽を通して学んだ気がします。音楽的にも、サンプリングの使い方に反応しました。僕にとっては、ベースを弾くよりサンプリングする方が簡単で自分にあってたんですよ(笑)。

高校生になると渋谷系の音楽や、山下達郎などいわゆるシティポップへと傾倒していきます。昔の音楽を掘り返して光を当てる彼らの手法が、「ヒップホップにおけるサンプリングと似ている」と感じたそう。

tofubeats:結局、精神論としては、どのジャンルの音楽の人も同じことを言ってるんだなって気づいたんです。「こういうのってロックだよね」って、ロックの人たちが言ってることと、「こういうのってヒップホップだよね」って、ヒップホップの人たちが言ってることは、さして違いがないんだなって。例えば、それぞれの人たちが考えてアプローチする「リアル」の定義とか、そうですよね(笑)。それが分かったことで、いろんなスタイルの音楽をどんどん好きになれたんです。

メジャーデビュー前の挫折とは?

tofubeatsの機材

音楽に対して常に一歩引いて、俯瞰的に眺めているようにも感じられるのは、tofubeatsさんが神戸のニュータウンで生まれ育ったこと、そしていまも神戸を拠点に活動していることと、どこか通じるものがあるのかもしれません。「東京で仕事もあるのに、神戸にいたら、いろいろ不便だし不自由なんじゃない?」と聞かれることもあるそうですが、むしろ自由でいたいからこそ神戸に住んで、忙しない東京ではなく、この地でのんびり考える時間を確保しておきたいのだそう。

tofubeats:「何事にも深くコミットしたくない。退路を保っておきたい」という気持ちは常にありますね。「嫌になったらやめたらいい」って思っていれば気持ちも楽じゃないですか。そんなふうに考えるようになったのは、大学生のときに病気をしたことが大きいです。実は僕、高校の頃に某メジャーレーベルの新人育成部門に所属していたんですね。そこでプレゼンを通過するとデビューできるっていうシステムなんですけど、3回連続で失敗してしまった。その一方で、メジャーアーティストのリミックス仕事とかはいっぱいやっていたんですよ。

海外と比較したとき、ダウンロード文化への理解度は、消費者も含めていまよりさらに遅れていた日本。おそらくその当時のメジャーレーベルでは、tofubeatsさんのようにネットを駆使した音楽活動を、どのようにサポートしたらいいのか分からなかったのではないでしょうか。3度目のプレゼン落選を経験したtofubeatsさんは、デビューへの道を一度諦めることにします。それから就職活動を始め、ウェブ関係の会社から内定をもらい、「これからは、楽しく音楽をやっていければいいかな」と思っていた矢先に、倒れてしまいました。

tofubeats:自分では、メジャーデビューできなかったことはストレスだなんて意識してなかったんですけど、プレゼンにことごとく落ちてた頃から体調はどんどん悪くなっていたんですよね。大学4年の頃、イベントの途中で気を失ってしまって、病院へ行ったら胃潰瘍でした。自分ではまったく自覚症状がないまま、意識下でストレスをためて身体が悲鳴をあげたんだと思います。それで、仕事も音楽活動も一旦すべてやめて、神戸の山奥に部屋を借りてしばらく「隠居生活」を送っていました。毎日自炊してスープとか飲んで、天気のいい日には洗濯してから散歩に出掛けて。トラックメイカーって、程度の差こそあれ、一度は体調壊す方が多いんですよね……1人で音楽やっていると神経をやられちゃうのか、そもそも神経が細い人間だからこそ、1人で音楽を作っているのか……。どっちが先か分からないですけど。

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