特集 PR

音楽を、やめた人と続けた人

『音楽を、やめた人と続けた人』〜PaperBagLunchbox 空白の5年とその後〜 第7話:なぜ音楽をやめたのか? 夢を諦めるのに必要だったことをdel.icio.usに追加 このエントリーをはてなブックマークに追加 『音楽を、やめた人と続けた人』〜PaperBagLunchbox 空白の5年とその後〜 第7話:なぜ音楽をやめたのか? 夢を諦めるのに必要だったことをlivedoorクリップに追加 『音楽を、やめた人と続けた人』〜PaperBagLunchbox 空白の5年とその後〜 第7話:なぜ音楽をやめたのか? 夢を諦めるのに必要だったことをlivedoorクリップに追加 (2011/02/23)
第7話:なぜ音楽をやめたのか? 夢を諦めるのに必要だったこと
人間というのは、生きているだけで常に選択を迫られる。お茶を飲むのか、それともコーヒーを飲むのか、なんていうどちらに転んでも心配のいらない選択もあれば、果たして自分はどんな仕事をして、どう生きたいのか、なんていう不安だらけの選択もある。20代というのは、そうした人生の選択を迫られる時期であり、それ故に悩みもする。
この連載もまさに、PaperBagLunchboxというバンドを通じて、人生の選択を迫られる20代の若者の苦悩と葛藤を、隠し事なく赤裸裸に描いてきた。テレビドラマのようにドラマチックでもなければ、そもそもエンディングの落ちすら決まっていない現在進行形の物語は、「読んで心が重たくなった」という感想をいくつもいただくほど残酷でもあったし、しかし、著名なアーティストたちのインタビュー記事を差し置いて、この半年間ずっとアクセスログの最上位に居続けてきた。書いている自分ですら予想もしなかったその反響の大きさを見て、きっと多くの人が、もがき続けるPBLの姿に、少なからず自分の影を見つけたのかもしれないと思った。
そうして続けてきた連載『音楽を、やめた人と続けた人』、始めてからこの半年間あまりにもめまぐるしく「PBL=音楽を続けた人」が動き回ってくれたお陰でなかなか書く隙間もなかったが、連載の主旨にもなっている「音楽をやめた人」について、この回で少し、書かせてもらうことにしたいと思う。
前述の通り、どんな風に生きていきたいのか、誰だって少なからず悩むはずだ。自分なりの理想や夢があって、それを思えば心は弾むけれど、我に返れば目の前には理想とかけ離れた現実があったりする。PBLを追いかけてきたぼく自身もやはり、どんな風に生きたいのか悩んだし、思い描いた夢を諦めもした。自分は誰よりも斬新で、人の心を打つ音楽が作れて、それを大勢の人々がお金を払ってでも聴きたいと思ってくれる。今考えれば赤面するようなことを本気で信じている時期もあったし、そんな風に過信する材料も少しはあった。20歳そこそこでメジャーレーベルやマネージメント事務所から連絡もきたし、テレビCMの音楽を任されたり、新人発掘系ラジオ番組のグランプリに選ばれたり、ズラリと有名プロデューサーが並ぶなか、スタジオライブをやらされたこともあった。メカネロのメンバーになってからは、トントン拍子で事務所が決まり、デビューもさせてもらった。同世代のなかでは「順調」と言っても良いくらい、自分には音楽で生きていく道が拓けているように思えた。
この連載の冒頭にも書いた通り、2006年4月、メカネロとPBLは共にツアーを回った。PBLはその2ヶ月前にファーストアルバムをリリースし、同じくメカネロも、5ヶ月前にデビューアルバムをリリースしたばかり。どちらも業界内から暖かい評価をもらい、勢いに乗っていた季節だった。そしてメカネロは、その勢いを更に加速させるべく、そのツアーの合間をぬって早くもセカンドアルバムのレコーディングをしていた。PBLが結果として5年間も生み出せなかった「因縁のセカンドアルバム」を、メカネロはその頃すでに作り上げようとしていたのだ。
その制作でぼくは、自分が担当するキーボード以外にも、そのアルバムのプロデュースとレコーディングエンジニアを兼務していた。レコーディングの準備から録音現場の仕切りまで時間の許す限りの作業を行い、ツアーをしながら、CINRAの仕事も同時進行していた。翌月には「株式会社CINRA」の立ち上げを控えていたため、PBLとツアーを回っていた頃は既に、食い扶持をCINRAとして稼がなければならない状況でもあったのだ。今振り返ってみれば、こんなに色々と抱え込んでよくもまあ出来ているつもりになっていたなと恥ずかしくなるくらい、当時のぼくは、自分で自分を見つめることができていなかった。
そうしてただ忙しいことに自己陶酔的な喜びを感じながら、自分のやりたいことに邁進していた「やめた人」がいる一方で、まさに「株式会社CINRA」が誕生したその頃、PBLにはナカノの姉の死という不幸が襲いかかり、長い迷走へのスタートを切り始めていた。メカネロの主催イベントで再び同じステージに立った両バンドは、あのツアーからたった3ヶ月しか経っていないにも関わらず、明暗がはっきりと分かれていた。順調にセカンドアルバムを作り上げ、その発売を目前に控えたメカネロに対して、PBLは、「レコーディングのためにしばらくライブを休みます」とアナウンスをしたまま、長いこと沈黙した。結局彼らのアルバム制作は頓挫し、半年間も公の活動ができなかったPBLの名前は、次第に周囲の記憶から忘れ去られ始めていた。
 
PAGE 1 > 2 > 3

「音楽を、やめた人と続けた人」連載もくじへ

SPECIAL PR 特集

もっと見る

BACKNUMBER PR 注目のバックナンバー

もっと見る

PICKUP VIDEO 動画これだけは

Mom“ひみつのふたり”

5月22日発売の2ndアルバム『Detox』から“ひみつのふたり”のMVが公開。美容室らしき場所で、彼は自身の仕上がりに終始不安げで不服そうな顔を見せつつも、最終的にはひどい有様の自分を受け入れてその場を去っていく。そんな冷静さを持っているからこそ、ふと見せる<もう一層の事 牙でも生やして / 君の肩に齧り付きたい><買い換えたばかりの携帯は / 早いとこ傷つけたくなる>といった破壊衝動にハッとさせられてしまう。(中田)

  1. BTSは愛と自信を原動力に前進する。新章『MAP OF THE SOUL: PERSONA』 1

    BTSは愛と自信を原動力に前進する。新章『MAP OF THE SOUL: PERSONA』

  2. 高畑充希×前田敦子×池松壮亮『Q10』組登場 『町田くんの世界』場面写真 2

    高畑充希×前田敦子×池松壮亮『Q10』組登場 『町田くんの世界』場面写真

  3. 長澤まさみ&夏帆がLOWRYS FARM夏ビジュアルに ディレクションは吉田ユニ 3

    長澤まさみ&夏帆がLOWRYS FARM夏ビジュアルに ディレクションは吉田ユニ

  4. 女子大生が「殺される誕生日」を無限ループ 『ハッピー・デス・デイ』予告 4

    女子大生が「殺される誕生日」を無限ループ 『ハッピー・デス・デイ』予告

  5. スガシカオが語る、アルバム名に込めた真意「幸福感は十人十色」 5

    スガシカオが語る、アルバム名に込めた真意「幸福感は十人十色」

  6. 舞台『オリエント急行殺人事件』日本初演 小西遼生、室龍太ら出演 6

    舞台『オリエント急行殺人事件』日本初演 小西遼生、室龍太ら出演

  7. トム・サックスが茶の湯の世界に目を向ける展覧会 庭や茶室、池などで構成 7

    トム・サックスが茶の湯の世界に目を向ける展覧会 庭や茶室、池などで構成

  8. ピクサーアニメの制作工程を体験&学習、『PIXARのひみつ展』六本木で開幕 8

    ピクサーアニメの制作工程を体験&学習、『PIXARのひみつ展』六本木で開幕

  9. 21世紀のプリンスを再評価。配信やセクシャリティーの先駆者 9

    21世紀のプリンスを再評価。配信やセクシャリティーの先駆者

  10. カネコアヤノのお守りみたいな歌 不安を大丈夫に変える詩の秘密 10

    カネコアヤノのお守りみたいな歌 不安を大丈夫に変える詩の秘密