特集 PR

抹殺されかけた芸術 ロシア・アヴァンギャルドポスター入門

抹殺されかけた芸術 ロシア・アヴァンギャルドポスター入門

友川綾子
撮影:永峰拓也

思い切った、ロシア・アヴァンギャルド全開の展示室

続く第2章「II:ネップ(新経済政策)とロシア・アヴァンギャルドの映画ポスター」では、革命によってロシア帝国から社会主義国家「ソビエト社会主義共和国連邦」へと移行した後のポスターを紹介しています。

展示風景

新政府の初代指導者として権力を手に入れたレーニンは、識字率の低い国民を教育する手段の1つとして、映像とともにストーリーが伝わる映画産業の国有化を推進。その結果、ソビエト国内には映画館が急増し、ハリウッド娯楽映画なども上映されることになりました。これらの娯楽映画の売り上げで、国民を教育するためのプロパガンダ映画を制作する、そんな意図もあったようです。展示室に足を踏み入れた途端、「うわあ……」というヴィヴィアンさんの溜め息が漏れます。

ヴィヴィアン:この展示室はメチャクチャカッコイイですね! 壁がナナメに入っていたり、作品がやたら高いところに展示されていたり、映画ポスター自体もカッコイイですが、それをさらに活かす展示になっています。あの赤い部分は最初からあったんですか?

展示風景

と、ヴィヴィアンさんが指を差したのは、展示室の上部に張り巡らされた赤いカーテン風の布地部分。白い展示室の壁、黒い漆塗りの作品フレームと相まって、展示室に独特の雰囲気を作り出しています。「それは……」と、取材に同席いただいた野田担当学芸員が答えてくれました。

展示風景

野田:この展示は、私を含めた美術館のスタッフで考えたのですが、単にポスターを資料のように順番に並べても、これまでの展示と代わり映えしません。せっかくのロシア・アヴァンギャルドの展示なのですから、展示方法もアヴァンギャルドにやっていこうと(笑)。ナナメに壁を通したり、天井からすぐ下の壁に作品を掛けてみたり、これまでに実現出来なかったいろんなアイデアを試すことができました。あの赤い布も、ロシア・アヴァンギャルドのイメージカラーなので、あえて入れてみたんですよ。気づいていただけて嬉しいです(笑)。

芸術の革命と社会の革命が、オーバーラップしてしまった希有な時代

ソビエト社会主義共和国連邦の時代になって、大量に生み出された映画ポスターの数々。社会主義国家というと厳しい検閲があって、自由な前衛芸術とは相反するイメージがありますが、革命を実現し、約300年も続いたロマノフ朝を覆したというテンションの高さが原因なのか、アーティストたちの前衛的表現と革命政府のプロパガンダが結びつき、大胆極まりないデザインの映画ポスターが街にあふれました。一見、映画のストーリーとどうつながっているのかもよくわからない、斬新なデザインのポスターの数々。映画評論家としても活躍されるヴィヴィアンさんの目に、これらはどのように映ったのでしょう。

展示風景

ヴィヴィアン:映画って、予告編やポスターなどの宣伝物と本編が必ずしも同じではなかったりしますよね。後のポストモダンの時代に至っては、存在しない映画の音楽やポスターなんていう作品も出てきます。だけど、ロシア・アヴァンギャルドのポスターは、映画と一心同体だったように感じるんです。「革命」と「前衛」という意味において、この時代のグラフィックデザインは、単に美術・デザインの一潮流というだけでなく、社会思想と密接に繋がっていて、ブレてない。芸術の革命と、政府の革命が合致した希有な時代だと思います。

寺山修司の演劇ポスターにもつながる、芸術の持つ「強さ」「たしかさ」「ブレなさ」とは?

抽象的なロシア構成主義的デザインと、映画の登場人物という具象性が混ぜ合わさった、当時のグラフィックデザイン。ヴィヴィアンさんは、斬新さや実験性だけでなく、現代の芸術にはあまり感じない、芯の通った「強さ」「たしかさ」「ブレなさ」を感じるといいます。

展示風景

ヴィヴィアン:今年の初めに、渋谷のポスターハリスギャラリーで『ジャパン・アヴァンギャルド―アングラ演劇傑作ポスター展』というのをやっていて、グラフィックデザイナーの戸田ツトムさんがデザインした寺山修司さんの演劇ポスターに感銘を受けたんです。あれを観ていると、寺山さんが演劇によって本気で革命を起こそうとしていたことをあらためて痛感させられました。寺山さんは単に劇場で演劇を上演するだけでなく、社会や犯罪といったものと演劇を同一に捉えることを本気で考えていた。つまり作品に社会的な必然性があったんです。これらロシアの映画ポスターにも、それに近いものを感じます。

展示風景

もちろん芸術のかたちはさまざまで、個人の内面世界や趣味的なもの、「新しさ」を追求するのが目的の作品もあります。しかし、寺山修司や当時のロシアの前衛芸術家たちが切実に表現しようとしたのは、社会と密接に繋がり、また影響を与え合うことだったと言えるでしょう。

ちなみに、この時代は写真製版も始まっていて、映画ポスターにはコラージュなどの手法も使われていましたが、あまり写真を大きく引き伸ばして印刷することはできなかったそう。なので、リアルな写真だと思ってよくよく見ると、人の顔が手描きで連続して描かれていたりするのも興味深いと、ヴィヴィアンさんはじっくりご覧になられていました。

展示風景

そして、さらに1つ奥の展示室に進むと、「リシツキー先生のアヴァンギャルド入門」なるコーナーも。ロシア・アヴァンギャルド独自のタイポグラフィーのステッカーを自由に組み合わせて、自分だけのオリジナルカードが作ることができます。これ以外にも今展覧会に関連して、AR(拡張現実)機能を搭載した無料のiPhoneアプリも間もなくリリース予定。各作品の解説だけでなく、俳優の伊勢谷友介さんと国立近代美術館フィルムセンター研究員の岡田秀則さんによる、「ロシア映画ポスター対談」が約70分にもわたって音声収録されているそうです。

Page 2
前へ 次へ

イベント情報

『松本瑠樹コレクション ユートピアを求めて ポスターに見るロシア・アヴァンギャルドとソヴィエト・モダニズム』

2014年9月30日(火)~11月24日(月・振)
会場:東京都 用賀 世田谷美術館 1階展示室
時間:10:00~18:00(入場は17:30まで)
休館日:月曜(ただし10月13日、11月3日、11月24日は開館、10月14日、11月4日は休館)
料金:一般1,000円 65歳以上・大高生800円 小中学生500円

リリース情報

『RUSSIAN POSTERS APP』

2014年11月上旬リリース予定
料金:無料
動作環境:iOS6.1以上、iPhone4s~、iPod Touch(第5世代~)、iPad(第3世代~)(Android OS未対応)

プロフィール

ヴィヴィアン佐藤(ゔぃゔぃあんさとう)

仙台市生まれ。美術家、文筆家、非建築、ドラァグクイーン、プロモーター。磯崎新事務所WS出身。ジャンルを横断していき独自の見解で「トウキョウ」を分析。自身の作品製作発表のみならず、「同時代性」をキーワードに映画や演劇など独自の芸術論で批評 / プロモーション活動も展開。野宮真貴、故山口小夜子、故野田凪、古澤巌など個性派のアーティストとの仕事も多い。2011年からVANTANバンタンデザイン研究所で教鞭をもつ。映画、美術、ファッション雑誌で多くの文章を執筆。

SPECIAL PR 特集

もっと見る

BACKNUMBER PR 注目のバックナンバー

もっと見る

PICKUP VIDEO 動画これだけは

カネコアヤノ“光の方へ”

カネコアヤノの新作『燦々』より、すでに先行配信もされている屈指の名曲“光の方へ”のスタジオライブ映像。Tシャツ一枚に素足の飾り気ない佇まいが、音源よりも強気な歌声が、遠くを見つめたり、マイクをすっと見据えたり、手元を確認したりする一瞬一瞬が、いちいちかっこいい。カネコアヤノは、常に、今が一番最高なアーティストだと思う。(山元)

  1. Suchmosの軌跡、彼らが変えた音楽シーン。夢の横浜スタジアムにて 1

    Suchmosの軌跡、彼らが変えた音楽シーン。夢の横浜スタジアムにて

  2. 綾野剛が鶴瓶の車椅子を押す、映画『閉鎖病棟』場面写真&オフショット公開 2

    綾野剛が鶴瓶の車椅子を押す、映画『閉鎖病棟』場面写真&オフショット公開

  3. カネコアヤノが背負うもの。歌は日々に添えられた花束のように 3

    カネコアヤノが背負うもの。歌は日々に添えられた花束のように

  4. 飯豊まりえが泣き叫ぶ、『シライサン』予告公開 主題歌はCö shu Nie 4

    飯豊まりえが泣き叫ぶ、『シライサン』予告公開 主題歌はCö shu Nie

  5. 『ドラゴンボールZ』のユニクロT&スウェットが登場、河村康輔とコラボ 5

    『ドラゴンボールZ』のユニクロT&スウェットが登場、河村康輔とコラボ

  6. フォーリミ・GENの本音。自らの手で時代を作るための葛藤と原点 6

    フォーリミ・GENの本音。自らの手で時代を作るための葛藤と原点

  7. 『天気の子』展が銀座で開催、背景画など約400点 気象現象の再現装置も 7

    『天気の子』展が銀座で開催、背景画など約400点 気象現象の再現装置も

  8. のん初監督映画&ドキュメンタリー『のんたれ(I AM NON)』YouTubeで公開 8

    のん初監督映画&ドキュメンタリー『のんたれ(I AM NON)』YouTubeで公開

  9. 石野卓球、曽我部恵一、野田努、cero荒内らが選ぶWarp Recordsプレイリスト 9

    石野卓球、曽我部恵一、野田努、cero荒内らが選ぶWarp Recordsプレイリスト

  10. GEZAN主催の投げ銭フェス『全感覚祭』大阪会場のタイムテーブル発表 10

    GEZAN主催の投げ銭フェス『全感覚祭』大阪会場のタイムテーブル発表