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絵を見るってどういうこと? 本物じゃないフェルメールから考える

絵を見るってどういうこと? 本物じゃないフェルメールから考える

杉原環樹
撮影:相良博昭
2015/04/30

『真珠の耳飾りの少女』のような美しい女性像や、庶民の生活を静かに描いた風俗画によって、日本にも多くのファンを持つ17世紀オランダの人気画家、ヨハネス・フェルメール。そんな彼の現存作品37点(一部、フェルメールの作か議論のある作品も含む)を一堂に会した展覧会『フェルメール 光の王国』展が、2012年より日本各地のスペースで順次開催されています。

「フェルメールの全作品が日本を巡回?」と疑問に思うのも無理はありません。実はこれ、キャンバスに印刷され、額装された「複製画」だけで構成された展覧会なのです。

このプロジェクトの発案者は、『生物と無生物のあいだ』(講談社、2007年)『動的平衡 生命はなぜそこに宿るのか』(木楽舎、2009年)などの著作で知られる生物学者の福岡伸一さん。フェルメール作品を愛する彼のもとに集まった美術や印刷のスペシャリストが、幾度もの歴史・科学検証と最新の技術を通じて、約350年前の制作当時の作品の姿に迫った「本物を超える複製画」が本展の出品作です。彼らはそれを「リ・クリエイト(再創造)」と呼びます。果たして、フェルメール作品の「複製画だけの展覧会」には、どんな狙いがあるのでしょうか。そこには、「絵画を見ること」をめぐる興味深い問いが潜んでいました。

フェルメールの作品が一同に集結!? 行方不明の作品も飾られる展覧会

取材陣が訪れたのは、東京・銀座の永井画廊。2012年に始まった『フェルメール 光の王国』展の、ここは「25番目」の会場です。行方不明の作品も含め、世界中に散ったフェルメールの作品が一箇所に集まることなど、ほとんど不可能と言ってもいい事態。たとえ「本物」ではないと分かっていても、誰もが一度は目にしたことがある絵画群が原寸大でズラリと並ぶ光景には、一瞬の目眩を覚えてしまいます。

『「フェルメール 光の王国展」~フェルメール作品に隠された3つの秘密~』展示風景
『「フェルメール 光の王国展」~フェルメール作品に隠された3つの秘密~』展示風景

同展の発案者である福岡伸一さんがフェルメール作品と初めて出会ったのは、1988年、当時留学していたニューヨークでのこと。福岡さんを驚かせたのはその絵の「公平さ」だったと、同展に携わる木楽舎の野口さんは話します。

野口:フェルメールの作品、その構図や描かれた光の粒立ちには、彼の「世界をありのままに捉えたい」という並々ならない欲望が見て取れます。彼の生きた時代には、たとえば宗教的価値観に基づいて「あるべき世界」を画面に表現する画家も多かった。けれど、19世紀に発明されるカメラに先立つかのように写実的なフェルメールの絵画には、一種の「科学者的なマインド」が感じられます。福岡さんはそこに、生物学者として世界を解明しようとする自分と重なるものを見て、共感を覚えたのだと思います。

フェルメール『牛乳を注ぐ女』(リ・クリエイト作品)
フェルメール『牛乳を注ぐ女』(リ・クリエイト作品)

一気にその作品の虜となった福岡さんは、2007年、世界中の美術館に所蔵されるフェルメール作品を巡礼する旅を開始。旅の記録をANAの機内誌『翼の王国』の連載にまとめる過程で、全作品を一度に、かつ年代順に見る機会を作れないかと考え始めます。そこで生まれたのが、「本物を超える複製画=リ・クリエイト」のアイデアでした。

歴史的名画×最先端テクノロジーで、約350年前の色彩を再現

リ・クリエイトのプロセスは、おおよそ以下のようなものです。まず、フェルメールの故郷、オランダのデルフトにあるフェルメール・センター・デルフトの協力を得て、全作品の高解像度データを入手。2010年、アムステルダム国立美術館所蔵の『青衣の女』を修復した修復家の分析記録をはじめ、数々の文献や科学検証から制作当時の作品の姿を推察し、画像データ上に反映します。そしてそれをキャンバス地に印刷し、所蔵美術館で作品に付されているのと限りなく近い額に収めるのです。印刷の指揮を執った廣済堂の木村さんは語ります。

木村:オリジナル作品は、仕上げで塗られるワニスの酸化によって、全体に黄ばんでいます。それが重厚感を醸しているのも確かですが、絵の細部を見えにくくしていることも事実です。そこで、「本物」にはなかなか施せない大胆な色調の修正を行いました。複製しか展示できないマイナス面をむしろプラスに捉えたのです。判断が難しかったのがヒビ割れです。これも経年劣化の産物ですが、すべてを埋めると画面がのっぺりした印象になってしまう。そこでヒビに関しては、たとえば『真珠の耳飾りの少女』の頬のように、立体感を損なっている箇所のみの修正に留めました。こうした細部ごとの判断で、現状考えうる一番理想的な姿を追求したのです。

フェルメール『真珠の耳飾りの少女』オリジナルの画像データ(左)と、リ・クリエイトの画像データ(右)
フェルメール『真珠の耳飾りの少女』オリジナルの画像データ(左)と、当時の色彩の再現に務めたリ・クリエイトの画像データ(右)

実際に絵画の前に立ち、少し離れて見ると、それが印刷物であると忘れさせるような質感があることに気がつきます。しかしそれでも、複製画のみの展覧会に対する違和感は拭いきれません。それに対してお二人は、複製画を積極的に展示することのメリットを語ってくれました。

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イベント情報

『「フェルメール 光の王国展」~フェルメール作品に隠された3つの秘密~』

2015年3月13日(金)~6月30日(火)
会場:東京都 銀座 永井画廊
時間:11:00~18:00
休廊日:火曜(ただし5月5日、6月30日は開廊、5月7日は休廊)
料金:大人1,000円 子ども・中学生500円

プロフィール

ヨハネス・フェルメール

1632年生まれ、1675年逝去。レンブラントと並び、17世紀のオランダ美術を代表する画家とも言われており、現在でもファンは多い。代表作に『真珠の耳飾りの少女』『牛乳を注ぐ女』『絵画芸術』など。現存する作品点数は、研究者により異同のあるもの含めて33~37点とされている。また、43年間の生涯のほとんどを、故郷デルフトで過ごした。

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