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『クリエイターのヒミツ基地』 Volume23 JNTHED(アーティスト)

ゲームにインスパイアされたキャラクターや風景をキャンバスに描き、国内外から高い評価を得ているJNTHED(ジェイエヌティーヘッド)さん。以前はCG技術を用いた作品をインターネット上で発表していましたが、現在では現代美術家・村上隆氏率いる「カイカイキキ」に所属し、アナログのキャンバスに向かって作品を制作しています。デジタルの人気絵師が、なぜアナログ手法を用いる画家になり得えたのか。見る者を視線の迷路に迷い込ませるキュビスム的な作風の意外なルーツも含め、JNTHEDさんにお話を伺いました。

テキスト:宮崎智之(プレスラボ)
撮影:CINRA編集部

JNTHED(ジェイエヌティーヘッド)
1980年、東京都生まれ埼玉県育ち。幼少からゲームに親しみ、高校生の頃からオンライン上でCG作品を発表。専門学校に進学後、ゲーム会社にデザイナーとして就職し、2011年から「カイカイキキ」所属のアーティストとなった。同年に「Kaikai Kiki Gallery」(東京都)で行った初個展「バイバイGAME」では、国内外から高い評価を受けた。これをきっかけに海外でもグループ展を開催している。

JNTHED(アーティスト)

インターネットこそがリアルで生きた現場だった

ゲーム的な表現に興味を持ち始めたのは、小学生の頃。シューティングゲームの背景やキャラクターを描き写し、紙の上で友達と「擬似テレビゲーム」をして遊んでいたと言います。

JNTHED:自分の世界に人を呼び込んで遊んでもらいたい、という気持ちが強かったんだと思います。イラストを描き始めたのも同じような発想で、もちろん平面なので楽しめる時間が少ないですけど、作者の葛藤とか幾何学的な法則とかを見出して、長い間、絵の中に滞在できたりもする。もともとゲームで遊ぶときもストーリー性より、見た目のきれいさばかりに吸い寄せられる子どもだったので、今思えば自然な流れだったと感じています。

ビジュアルの質にこだわるJNTHEDさんは、ファミコンよりもPCエンジン派。高校生になってからはオンライン上のコミュニティーサイトでCG作品を発表し始めました。当時は回線速度が遅く、「60KB以上の画像を上げてはいけない」などの制約があったものの、すぐにインフラが整い始め、自身でホームページを作成して作品を公開するようになっていきました。

JNTHED:作品を発表し始めて、「自分は全然イラストが上手くないんだな」ということがわかりました。小学生の頃って、クラスで漫画っぽい絵を描ける生徒が1人か2人は必ずいましたよね。それが僕だったんです。でも、オンライン上にはまったく敵わないような上手い人がたくさんいて。でもショックだったというよりは、純粋にやりがいを感じました。それ以来、周りの人との関係が希薄になるくらいにインターネットにはまっていって。僕にとってはネットの中のほうが、絵を描いてやってくうえでリアリティーがある生きた現場だったんです。

そんなJNTHEDさんが選んだ将来の道は、イラストに熱中する入口にあったゲームの世界でした。「今まで積み重ねてきた感覚を生かせる仕事をしたい」と、高校を卒業後ゲームのデザインなどを学ぶ専門学校に入学。そこで、現在の作風に大きな影響を与えている、ある着想を得ることになるのです。

ゲームのUIが作風の原点

学校では、入学からわずか半年でとあるゲーム会社の目に止まり、働きながら通学。卒業後きちんと入社してからは、取り扱い説明書の挿絵から、キャラクターやメカのデザインなど、幅広い業務を担当しましたが、特にJNTHEDさんがこだわったのが、メニュー画面のデザインだったといいます。どういうことなのでしょうか?

JNTHED:普通のユーザーさんはメニューをデザインしている人の存在を意識することはないでしょうが、存在を意識させないことこそが重要なんです。もともと自分でサイトを作っていたので、最初にユーザーが画面のどこ見て、どういう風にクリックしてもぐっていくかという導線は、演出として当たり前に考えるべきことだったんですね。特に当時のネットはまだ常時接続ではなく、繋げば繋ぐほど通信料がかかってしまっていたので、目的の場所にすぐたどりつけるような設計を必然的に考えざるを得ない。ユーザーに不快感を与えない方法を逆説的に考えてデザインするのは、ゲームのメニュー画面も同じだったんですね。

ユーザーインターフェイス(UI)のデザインにおいては、何か特徴的な引っかかりや、誰それらしいなどという印象を残さず、「当たり前に使いやすいデザイン」こそが秀逸だ、ということでしょう。高校生の時からずっとインターネット上に「謎のユーザー」としてイラストを発表し続け、当時すでにその名を馳せていたJNTHEDさんですが、仕事でUIのデザインを突き詰めていくうちにユーザーの視線を誘導し、見せたいものに導くことの大切さに気が付いたと言います。

 JNTHEDさんのスタジオ

JNTHED:「視線の誘導」の大切さに気が付いてからは、イラストや絵を見る意識も変わりました。特に絵画は、「色面が少なく単純な図形で描いているだけでも、見ていると目が動かされるのはなぜだろう」と、不思議に思ったんです。よくよく鑑賞してみると、筆のザラザラ感やノイズが目を導いているんだということに気が付き、衝撃を受けました。

さっそく、このインスピレーションを作品に反映させ、ブラシツールでザラザラ感を出したり、エンボス加工のように絵の具が浮き出す様を再現したりと、CGにおけるアナログ的な表現を追究。さらに、メニュー画面をデザインしていたときからこだわっていた幾何学的な美しさも作品に取り入れ、現在のキュビスム的な作風の原形ができあがっていったのです。

アンビバレントな現状に終止符を打つ存在に

その頃にはゲーム会社を辞め、フリーのイラストレーターとして心機一転動き出していたJNTHEDさん。次第に作品にも心境の変化が現れてきます。

JNTHED:ずっとCGこそが最新で最高のビジュアル表現だと思っていたのですが、偶然発生する絵の具の流れまでコントロールしている昔の画家たちって、半端なくすごいんじゃないかと思うようになってきたんです。CGは脳に浮かんだものをそのまま形作れるという利点はあるものの、僕はそれで絵画表現のようなザラつきやデコボコなど、さまざまな加工を行っていたため、作業にやたらと手間がかかってしまっていたんですね。つまり僕にとってCGは(キャンバスに直接描くことに傾倒するうち)、「性能が悪い絵の具」のようになってしまったんです。それで、後にCGとキャンバス両方のいいところを合わせた描き方に、作品の制作方法も変わっていきました。

そういった考えが芽生えだした頃、ちょうどユーザーとして投稿していたイラストコミュニケーションサービス「pixiv(ピクシブ)」のイベントで、「カイカイキキ」所属のアーティストMr.氏や代表の村上隆氏と出会い、スタジオに呼ばれて初めてキャンバスに向かうことに。やはり最初は表現方法の違いにかなり戸惑ったと言いますが、その後すぐ、札幌で行われた『SNOW MIKU for SAPPORO2011』での展示のために6メートル級の初音ミクを描くことになり、トントン拍子に画家として「カイカイキキ」に所属することが決まりました。

JNTHED:「キャンバスに向かう」ということは、これまでのように描こうと思ったらすぐに「新規ファイル作成」というわけにはいかず、例えば画材が用意されていなくてはならないなど、まず向き合うにあたっての大変さがあります。でも、やっぱりキャンバスに向かっているときは幸せですね。いくつもの幾何学的な形状や、筆によるテクスチャで視線のつくり込みが定まり、「鑑賞者を迷路のように作られた作品の中をきれいに誘導しきる」ように描けたときは快感です。僕の作風は、もともと好きだったシューティングゲームにも影響を受けているような気がします。あんまり単純なステージ構成だったら、ゲームはつまらない。シューティングゲームは上下にキャラを動かして敵を避ける螺旋の動きなど、美意識に基づいてデザインされている。そういう部分で快楽を感じていたんだな、ということに後から気付いたんです。

お話から「新世代のアーティスト」という印象を受けるJNTHEDさん。最後に「自分の将来像」「理想のアーティスト像」について尋ねると、少々意外な答えが返ってきました。

JNTHED:理想像はないです。というのも、僕の究極の理想はゲームだけをしている人生だったので。一時は「世界がゲームになってしまえばいい」と思っていたくらい。ゲーム会社で仕事をしてみてわかったんですが、「仕事(作業)をする面白さ」のほとんどは、ゲームに入っているんですね。だから僕みたいな人間にとってゲームは、その世界の中に閉じ込めて、現実世界に出てこられなくしてしまうほどの魔力があり、やはりそれは危ないことでした。でも、ゲームから派生した日本の表現が世界から評価されている、という側面もあって。そういったアンビバレントな現状と、どういった風に決着をつけるのか。それは誰も答えを出せていない課題だとも思うので、その最前線の部分を少しでも担えていければと思っています。それが今の欲求です。

コンピューターから筆に武器を変えても、自分のルーツである「ゲーム」への憧憬はあくまで自身のコアとして持ちながら、同時に「最前線」への表現も追求し続けるJNTHEDさん。彼が日本のアート界を担っていく日も、もしかしたらそう遠くないのかもしれません。

JNTHEDさん
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