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映画『KIKOE』大友良英(音楽家)×岩井主税(映像作家)対談

映画『KIKOE』大友良英(音楽家)×岩井主税(映像作家)対談

インタビュー・テキスト 
小林宏彰
撮影:柏井万作

自分がいま生きている環境で、音楽をやるっていうのはどういう意味なのかを考え ることからしか、本当にリアルなものって出てこない(大友)

―映像作品が編集しだいで印象がすごく変わるというのは、みなさんおっしゃいますね。

大友:これだけのものを全部彼一人で作ったわけだけど、すごいなっていうのと同時に、やっとひとりでも映画が作れる時代がきたなと実感しました。身軽になるのって、じつはすごく大事なことなんです。例えば企業がサポートしてくれるようなプロジェクトなら何人も雇えるかもしれないけど、そうではないもの、それでも一人の人間がなにかを作りたいって思ったときに、身軽でいながら、かつクオリティを落とさないようにする方法を考えないと、音楽でもなんでもダメだと思っています。

今やってる『ENSEMBLES 09 休符だらけの音楽装置』展がまさにそうで、あれは個人でやってるのではなく、何人もの人と作ってるんですが、ほとんど予算のないところで、ではどうやって身軽な組織をつくってかつクオリティを落とさずに採算を取るか。そこは大きな賭けです。よく新しいスタイルだとか、新しい音楽だとか言うけれどもそうではなくて、切実な問題としてそういうことしかできないっていうところから結果的に新しいものがでてくるんだと思います。理屈や理論から新しいものを生むってことに、そもそもものすごい懐疑的で、というかそういうものを全然信じてなくて、やっぱり信じることができるのは自分自身のリアルな生活から何を生むかですから。そういう意味では、『KIKOE』の作り方はいいなと。撮り始めるときから、完成像は描けていたの?

岩井:いや、描けていなかったですね。撮りながら考えていったところがあります。でも、すごく漠然とですが、僕が大友さんのCDを初めて聴いたときの感覚みたいなものは大切にしたいなと思っていました。

大友:Mattinがくさびのように映画の雰囲気を支配してるじゃないですか。あのライブは、どうしてクローズアップさせようと思ったの?

岩井:ひとつは、これが本当に音楽ライブなのか? という衝撃を受けたからです。 それからもうひとつは、GRID605というスペースを頻繁に映したかった。

映画『KIKOE』大友良英(音楽家)×岩井主税(映像作家)対談

―GRID605というと?

岩井:大友さんと僕が中心になって立ち上げた吉祥寺にあるイベントスペースです。大友さんを追っかけて、ニューヨークのThe STONEっていう、ジョン・ゾーンがはじめたライブハウスに行く機会があったんですよ。そのとき、二人でこういうスペースっていいよねと言い合って。日本に帰ってから大友さんはすぐにGRID605をオープンさせました。

大友:The STONEってミュージシャンが自主運営してて、入場料を取らないんだよね。楽器も自主管理している。とてもいい環境だったので、じゃあ東京でもやろうと。

でもね、オレはMattinのライブの良さは全くわかんないんだよ。中国で『KIKOE』を上映したとき、あの退屈そうなドイツ人は誰だって真っ先に質問されたよ(笑)。じつはスペイン人なんですけどね。

岩井:ロッテルダム映画祭でも同じようなことを聞かれましたよ。

大友:オレ、音楽がああいう方向でコンセプチュアルになるのには全然興味ない。文脈をつくることが音を出すことより先にくるのも苦手なら、いわゆる前衛音楽の歴史の文脈みたいなものから出てくるようなものにも今はまったく興味も希望も持てない。これは現代美術やメディアアートと呼ばれるようなものの多くがつまんないと感じる理由にも通じるんだけどね。文脈を考えること、歴史を考えることはもちろん重要なんだけど、それを作為的に作ろうとするのは幼い気がして。自分たちが置かれている場や状況から、なにが最良の選択肢なのかをさぐりつつ、音を出す行為に正面から向かうことしか未来はない・・・って愚直に思ってるんで、正直ああいうものは嫌いです。新しいことをやるっていうのは、ああいうことではない。

とはいえ、そういう違和感を感じる映像が作品に混じっているのは、ある意味面白いことではあるんだよね。特にあのライブは、ものすごく根本的なところから問いを発しているから、あたかも演出したかのようにも見えるしね。

映画『KIKOE』大友良英(音楽家)×岩井主税(映像作家)対談

岩井:GRID605で行われたリハーサルとライブなんですけどね。僕は大友さんのライブや展示を見ていて、大友さん自身が簡単にコントロールできない状況を作ろうとしている点にも、とても面白さを感じるんです。GRID605はそういう空間にしたいんだと、インタビューでもおっしゃっていましたよね。

大友:正確に言えば、あまり物事を理屈で解釈しないんですよ。もちろん好みはあるけど、イエスマンで周りを固めたくもないしね。

この撮影が終わるころから、空間に対する意識が強くなってきたんですよ。 ちょうど主税くんがついていた3年間って、いわゆる音響って呼ばれていたような、聴取をテーマにした活動から歌やジャズを手がかりに次に大きくシフトしだしたころだったと思うけど、さらに、そこからグーッと空間をテーマにする方向に僕の中で変わってきた。いわゆる音響と呼ばれたような音楽には、フォロワーもどんどん出てきて、いつのまにかこのジャンルをどう進めるかっていう話にだんだんなってきたように思えて。そんな考え方にオレ、まったく興味持てないしで、正直距離を取り出したんです。僕がやりたいのはあるジャンルをつくるとか、そのスタイルを進めるとかそういうことではない。

自分がいま生きている状況や環境で、音楽をやるっていうのはどういう意味なのかを考えることからしか、本当に自分にとってリアルなものって出てこないんです。今展示をやりだしてるのも、別に美術やサウンドインスタレーションの影響があったわけでは全然なくて、自分の中では、音楽をやってくなかで、成り行きとして、こういう方向になってしまったって感じなんです。今やってる『ENSEMBLES 09 休符だらけの音楽装置』だって正直のところ、いったいどういう文脈にはまるのかは全然わかりません。美術のことはそんなには知らないですし。ただ自分の中で、今のこの状況の中で音楽をやっていったらああならざるを得なかった・・・という切実な選択ではあるんです。

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作品情報

『KIKOE』

監督・製作・編集・撮影・インタビュー:岩井主税

出演:
大友良英
菊地成孔
大谷能生

DJスプーキー
ヤン・シュヴァンクマイエル
宇波拓
Mattin
飯村隆彦
足立正生
ジョナス・メカス
田中泯
山本精一
PHEW
ジム・オルーク
巻上公一
芳垣安洋
高良久美子
水谷浩章
植村昌弘
杉本拓
ヤマタカEYE
カヒミ・カリィ
浜田真理子
Sachiko M
フアナ・モリーナ
さがゆき
伊集加代
一楽儀光
中村達也
吉田達也
加藤英樹
ナスノミツル
灰野敬二
吉田アミ
ユタカワサキ
梅田哲也
中村としまる
秋山徹次
山内桂
イトケン
Hair Stylistics
秋田昌美
トリスタン・ホンシンガー
刀根康尚
飴屋法水
煙巻ヨーコ
江藤直子
青木タイセイ
石川高
津上研太
近藤達郎
栗原正己
宝示戸亮二
大蔵雅彦
島田雅彦
アルフレート・ハルト
アクセル・ドゥナー
ジョン・ゾーン
ビル・ラズウェル
モリイクエクリストフ・シャルル
カレン・ブルークマン・ベイリー
ブリュンヒルト・マイヤー・フェラーリ
クリスチャン・マークレー
フレッド・フリス
ボブ・オスタータグ
カール・ストーン
ジョン・ローズ
ジャジー・ジョイス
木幡和枝
椹木野衣
平井玄
副島輝人
佐々木敦
音遊びの会
Otomo Yoshihide's New Jazz Orchestra
Ground-Zero
Novo Tono
I.S.O.
COSMOS
Incapacitants
sim
Optrum
DJ TRANQUILIZER、他多数(順不同)

配給:Word Public、スローラーナー

ドキュメンタリー映画『KIKOE』とは
映像作家・岩井主税が、音楽家・大友良英の90年代から2007年までの活動を追った作品。大友と親交の深いミュージシャンや批評家など総勢100名以上のインタビューと、現在、そして過去の貴重なライブ映像などで構成される。映像は時系列に沿って並べられるのではなく、岩井独自の視点で解釈・編集されているのが特徴だ。本作はロッテルダム映画祭をはじめ、中国、ポルトガルなどでも上映され、好評を博した。

公開・関連情報

2009年7月25日(土)よりユーロスペース他、全国順次公開(予定)

初日舞台挨拶
2009年7月25日(土)21:10~ 上映前
会場:渋谷ユーロスペース
出演:大友良英×岩井主税

トークショー
映画『KIKOE』徹底バトルトーク
2009年8月2日(日)20:00~
会場:原宿Vacant
出演:大友良英×岩井主税×大谷能生
料金:1,500円+1ドリンク

大友良英『ENSEMBLES 09 休符だらけの音楽装置』展
謎だらけのインスタレーション!ゲリラ的特殊コンサート!

大友良英 / ENSEMBLES
CINRA.NET > 大友良英による展示とライブ『ENSEMBLES 09 休符だらけの音楽装置』展、今夏同時多発的開催

プロフィール

大友良英

1959年生。ONJO,INVISIBLE SONGS、幽閉者、FEN等常に複数のバンドを率い、またFilamnet,JoyHeights、I.S.O.等数多くのバンドに参加。プロデューサーとしても多くの作品を世に出している。常に同時進行かつインディペンデントに多種多様な作品をつくり続け、その活動範囲は世界中におよぶ。ノイズやフィードバックを多用した大音量の作品から、音響の発生そのものに焦点をあてた作品に至るまでその幅は広く、ジャズや歌をテーマにした作品も多い。これまでに50作品以上のサウンドトラックを手がける映画音楽家としても知られ、また近年はサウンドインスタレーションを手がける美術家としての顔も持つと同時に障害のある子どもたちとの音楽ワークショップにも力をいれている。著書に『MUSICS』(岩波書店)  『大友良英のJAMJAM日記』(河出書房新社)がある。

岩井主税

1977年生。映像/平面/立体/インスタレーションなど、手法や素材を超えて「記録/版」という現象自体に言及する制作を続けている。サンパウロのムービーフェスに入賞するなどの現代美術での動き以外にも、国内外の音楽家のプロモーションビデオや記録映像の制作を行う。テレビ番組制作参加後、'05年より開始した音楽家大友良英ドキュメンタリー映画『KIKOE』を自主制作で完成させ、現在に至る。

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