YOLZ IN THE SKY インタビュー with吉田肇(PANICSMILE)

ギターウルフやDMBQなどを排出した名門インディー・レーベル、Less Than TVよりリリースされた前作『YOLZ IN THE SKY』でシーンに強烈なインパクトを残し、2008年のFUJI ROCK FESTIVALにも出演した大阪の4人組、YOLZ IN THE SKY。11月4日にfelicityよりリリースされる最新作『IONIZATON』は、独特の緊張感を持ったオルタナティブな感覚に、YMOに代表されるような無機質なテクノ感を取り込んだ、強烈なグルーヴを持ったアルバムだ。今作のサウンド・プロデュースを手掛け、彼らを「外国のバンドみたい」と評する吉田肇(PANICSMILE)にも同席してもらい、ボーカルの萩原、ギターの柴田にインタビューした。

(インタビュー・テキスト:タナカヒロシ)

ここで(歌が)入ったら目立つかなとか(笑)。

―Less Than TVからリリースした前作から約2年半、その間はどんな感じで活動していたんですか?

萩原:ライブばっかりしてましたね。ひたすらライブを(笑)。

―CD作りたいね、みたいな話は?

萩原:曲を作りながらライブをやっていた感じだったので、曲が揃い次第リリースしたいなとは思ってました。

―前作はガレージっぽいサウンドをすごくオルタナティブな形でアプローチしていておもしろかったんですけど、今回はかなりダンス・ミュージックの要素が強まりました。

柴田:前作を出して、そこからまた新しい曲を作ろうとなったときに、前作とは違う感じにはしたくて。それで、そのときに聴いていた音楽の影響とかが出て、今みたいな感じになりました。

―ダンスとかテクノとかを聴いていた?

柴田:そうですね。もう前作をリリースしたくらいの頃からよく聴いてて。

―もともとはどんな音楽に影響を受けてたんですか?

柴田:色んな音楽を聴くようにはしていて、これっていう特定の音楽を挙げるのは難しいんですけど、挙げるとしたら初期パンクとポストパンクですかね。

―曲作りはどういう感じで進めているんですか?

柴田:基本はスタジオでセッションして作り上げていきますね。

萩原:ギターとドラムが基になってることが多いです。

―それは意外ですね。リズムがどしっとあるので、ドラムとベースありきで、そこからギターとボーカルを乗せてるんじゃないかなっていうイメージがありました。

柴田:ギターとドラムで雰囲気を作って、それでベースも空気を読んで(笑)。その上からまたギターを「それだったらこういう感じかな?」って足していったり。それに合わせてまたベースも合わせたり、ドラムも合わせたり。ちょっとずつ構築していく感じですね。

―最初に楽曲の方向性を決めるキーワードがあったりするんですか?

柴田:そういうのは逆にしないんですよ。特定のアーティスト名を出したりして、それっぽくなったら嫌だし。仮に自分がやりたいイメージがあっても、口には出さないで音だけ出してみて、それをみんながどう受け止めるか反応を見るというか。

―ボーカルはどういうふうに?いわゆるメロディーを歌うボーカルとは違うスタイルですよね。歌詞も日本語だけど聴き取れないし、楽器のひとつみたいな。

萩原:ほぼ流れができてから考えだしますね。セッションしてる間は、「いまのかっこええな」「いまのはあんまやな」「どんな曲になっていくんやろ?」って考えるだけで。

―曲を聴く限り、ボーカルを入れる余地を残して作ってる感じではないですよね。

柴田:そうですね。ボーカルのことはまったく何も考えてなくて(笑)。

―何を基準にボーカルを乗せるんですか?

萩原:基準はないです。ほんまに。ここで入ったら目立つかなとか(笑)。

2/3ページ:とことんこだわり抜くのがヨルズスタイル。エフェクターが200個、アンプが20台!

「別に俺らがやらんでいいんちゃう?」みたいなのは嫌ですね。大阪人はかぶるのが嫌いやし(笑)。

―今回はPANICSMILEの吉田さんがサウンド・プロデュースをされてますけど、具体的にはどんな話を?

柴田:音的なところでは、わかりやすい例で言うとYMOの『テクノデリック』とか、 80年代の雰囲気みたいな音にしたいっていう話はしましたね。

―吉田さんは主にどんな部分にアドバイスを?

吉田:演奏とか曲とかに関しては特に口は出さず。録り音ですね。質感には執拗にこだわりました。まずリズム隊から録って、エンジニアと2人で「あーでもない、こーでもない」って言いながら、マイクの位置とか音の反射とかに徹底的にこだわって。1曲1曲のチューニング、最適なBPMとそのテンポ感に合った音、サステインによってリズム感も変わるじゃないですか。それで全部変えていったんです。

―今回のアルバムのリズムって、ある意味打ち込んだほうがよっぽど効率がいいじゃないですか。でも、人力にこだわってるわけですよね。

YOLZ IN THE SKY インタビュー with吉田肇(PANICSMILE)

柴田:まずはバンドで全部やろうと。レコーディングだけなんか足してもいいかもしれないですけど、ライブでもそのまま再現できる生っぽさを出したかった。ちょっと無機質な感じというか。

―リズム自体は無機質かもしれないですけど、グルーヴはすごく有機的ですよね。ライブを見るとそれが本当によくわかる。そこは2年半ひたすらライブをやってきた影響?

柴田:それもあるかもしれないですけど、もともとそういうのが好きっていうことのほうが大きいですね。前作でも、初期の頃でも、そういう要素はあったはずやけど、今回はそれがより顕著になったと思います。

―ギターで言えば、前作はもうちょっと不規則な感じというか、予測できない展開がおもしろかったと思うんです。でも今回は、ここでギターが入ってきてほしいというタイミングで、ある程度規則的にギターが入ってきて、前作とはまた違う形でテンションが上がります。

柴田:なんか、前作とはリズムの感じも全然違うじゃないですか。それに合わせて、自然にやってるというか。やってる本人としては、そんな頭で考えずにやってる感じですね。

―ダンス・ミュージックであること、っていうのは前提にあるんですか?

柴田:今回のアルバムはそうですね。

―次にこう来るだろうなっていうのが、ある程度予定調和的にわかるから、より踊りやすくなってると思うんです。ボーカルもそれをすごくアジテーションしてくれてるから、ステージとフロアのコミュニケーションが成立しやすいですよね。

萩原:俺的には前作も乗れるんですけど、また違う乗り方ができますよね。説明するのが難しいんですけど、数段かっこよくなってると思います。前もかっこよかったですけど、前作に比べてシュッとなってきてるというか。

―「シュッ」って(笑)。自分たちでかっこいいと思う基準ってなんですか?

萩原:うーん…、難しいですね。聴いたことがあるような曲はやりたくないとか。

柴田:「別に俺らがやらんでいいんちゃう?」みたいなのは嫌ですね。大阪人はかぶるのが嫌いやし(笑)。

いま手元に残ってるのは1軍になれたエフェクターだけです。

―そういう部分では、柴田さんのギターのサウンドは、「それほんとにギターの音?」みたいな音色も多いですよね。どうやって音作りしてるんですか?

柴田:とりあえずギターでなんでもやりたくて。エフェクターとかをいろいろ使ったりしているうちに、この感じいいなとか。機械がきっかけになってフレーズが出てくるときもけっこうあります。そこから、こういう曲を作れるんちゃうかなとか。

―エフェクターは何個くらい持ってるんですか?

柴田:多いときは、200くらい持ってました。

―え〜っ!

柴田:目についたものは買いまくってました(笑)。アンプも一時は20台くらいあったんですけど。実際、試奏くらいではわからないじゃないですか。スタジオに持っていって試してみないと。毎回違うエフェクター持っていってたよな。

萩原:とりあえず試さな気が済まない。

柴田:いま手元に残ってるのは1軍になれたエフェクターだけですけど。ギターもいろいろ買ったんですけど、いまは1本に厳選しました。エースを(笑)。

萩原:極端やな〜。

3/3ページ:都市生活者ならではの緊張感

都市生活者ならではの緊張感

―吉田さんはYOLZ IN THE SKYの魅力って、どういうところだと思います?

吉田:自分のバンドもそうなんですけど、基本は自由なんですね。でも、その自由ができるのって、メンバーがお互いを信じていないとできないと思うんですよ。誰かリーダーが統率をとらないと、他のメンバーが言うことを聞かないようなバンドは、僕はあんまり好きじゃなくて。

―YOLZ IN THE SKYは、4つの音がそれぞれ平等に鳴ってるというか。あれだけ各楽器が個性を出していて、バラバラにならないのはすごいなと思います。

吉田:みんなが平等で信用しあってるから、何が出てきても形になることの、ひとつの究極だと思うんです。自分のバンドでもそこを目指しているので、すごくシンパシーを感じたんですよ。彼らからセッションで曲を作ってますよ、っていう話を聞いたときに、それがハンパじゃない説得力を持っていたので、「これじゃ俺ら負けるわー」と思って。自分が負けると思う要素があったら好きになっちゃうんですよね。

柴田:確かにメンバーを信用してるなっていうのはありますね。もし自分が思ってる感じと違うことをされても、逆に「あんな感じって、もしかしたらいいかも!?」って考えられるというか。「あいつは変なことせんはずや」みたいな(笑)。

―僕はあの緊張感がすごく好きで。すごくアガるんだけど、圧迫感もある。だから、今回のアルバムはダンス・ミュージックでありつつも、単純にダンスとかテクノだけじゃ言い表せないと思うんですよ。

吉田:享楽的な感じではないですよね。僕は都市生活者ならではの緊張感があるんじゃないかと思います。電車を乗り継ぐルーティンな行動だったり、高速道路のスピード感だったり、インターネットとか機械で制御された感じだったり。そういうものでなんとなく命を削られていくような緊張感って、みんなあると思うんですよ。彼らはそういうものを自然に出しちゃってると思うんですよね。

―あー、その「制御された緊張感」っていうのは、すごくわかります。

吉田:それが大阪のものだからまたおもしろいと思ってて。僕は最初に彼らを見たときに、外国のバンドみたいに見えたんですけど、それは大阪に住む人の緊張感を東京で見せられているので、外国のバンドに見えて当然だと思うんですよ。東京中心のJ-POPになぞったバンドだったら、そういうふうには見えなかったと思う。大阪に住んでる彼らのリアルな都市生活のスピード感とか、緊張感みたいなものが、こういう音を出してるんだろうなって。これは僕が勝手に思ってるだけですけど。

―メンバー的には、生活感が音に反映されてると思います?

柴田:うーん…。

吉田:ないよな(笑)。無意識なことだと思うんですよ。

―今回のCDを日常で聴くことを考えたときに、電車に乗ってるときには速すぎるし、マラソンにも速すぎるんだけど、いつ聴いてもすごくドキドキして。それはなんでかなと思ったら、きっと普段生活しているときの緊張感とリンクしているからなんですね。

吉田:渋谷の街とか歌舞伎町を歩きながらヘッドフォンで聴くといいですよ。

―人混みとか雑踏は合いそう。東京だと、そういう街が大阪の空気とリンクしているのかもしれないですね。

柴田:人を待ってるときに、周りを歩いている人がブワーって過ぎてく感じというか。大阪人は歩くの速いですしね。

―今後はどういう部分を突き詰めていきたいですか?

萩原:ずっと自分らでおもろいなと思う曲ができれば。このままやってたら大丈夫かなと思うんですけど。横の比較というよりも、自分らの問題というか。世間がどういう状況かも知らないし(笑)。

―対バンしてみたいバンドとかないんですか?

柴田:極端に言うと誰でもよくて。あんま群れるんが好きじゃないんですよ。去年出させてもらった(CINRAのイベント)『exPoP!!!!!』とか、一緒にやったことないバンドが出てるイベントは好きですね。

―YOLZ IN THE SKYのグルーヴ感は、アウェイな環境だったとしても、無条件に乗せちゃう強烈なものがありますよね。見ず知らずな人たちが、体を揺らして聴いてるのは、演奏する側としても快感なんじゃないですか?

柴田:うれしいですね。でも、ぽかんと見られてるのもけっこう好きですよ(笑)。

リリース情報
YOLZ IN THE SKY
『IONIZATION』

2009年11月4日発売
価格:2,300円(税込)
felicity PCD-18600

1. OH!MY BALANCE!
2. UP SIDE DOWN
3. I READY NEEDY
4. IONIZATION
5. ONE WAY TO THE TROUBLE
6. DEAD HEAT
7. DAWN

プロフィール
YOLZ IN THE SKY

クラフトワークやNEU!に影響を受けたパンクスピリットを持った4人によるオルタナティヴロックバンド。2003年結成。2007年に「Less than TV」より1stアルバムリリース。同年『SXSW』出演を含むアメリカツアーを行う。2008年には『FUJI ROCK FESTIVAL '08』に出演。2009年11月に2ndアルバム『IONIZATION』を日本のレーベル「felicity」からリリース。



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