特集 PR

『映画の未来へ』北野武×山根貞男(映画評論家)

『映画の未来へ』北野武×山根貞男(映画評論家)

テキスト
須藤健太郎
撮影:小林宏彰

バカなヤツは嫌いっていう、それだけですね(笑)

山根:多分、いま皆さんが驚かれたと思うんですけれども、テレビの方が妥協なしで、映画が妥協の産物である、と。監督をしているわけだし、脚本まで書かれているわけですから、映画の方がむしろ妥協なしで、好きなことをやっていらっしゃるものだと勝手に思っていました。

北野:テレビは見ている人がタダでしょ? だからある程度何やってもいいと思う。でも映画はお金を払って見てもらうものだから、好き勝手にやるのはちょっと悪いなって思っちゃうんですよ。それと、よく思うんだけど、映画ってなんで一律同じ値段なんでしょうね。おれの映画なんて、700円でいいと思うんですよ。ハリウッドの大作が1800円だとすれば。だから、そういう1800円の映画もあるし、200円の映画もあるしっていう方が自然だよね。舞台のショーだったら、それぞれ値段が違うのが普通だから。

山根:自分の映画を見てくれるお客さんについて、何か具体的な観客のイメージっていうのは持っているんですか?

北野:実は、自分の映画にはいろんなことを詰め込んでいて、けっこう仕込んでるつもりなんですよ。だから「それに気づいてくれたら嬉しいな」というくらいかな。でも、それはつくる側の見せ方の腕の問題でもあるから、なかなか難しい。「何がやりたいのかわからない」って言われちゃう。

『映画の未来へ』北野武×山根貞男(映画評論家)
山根貞男

山根:もっと一般的に考えてみて、自分の映画を見てもらいたい客層って言うんでしょうか、たとえば男性であるとか、女性であるとか、あるいは中高年とか若者とか、そういう風に区分けをしていくと、どうでしょうか?

北野:基本的には、バカなやつは嫌いっていう、それだけですね(笑)。よく言ってるんですよ。「バカなヤツは見なくていい」って。でもそうしたら、現実に誰も見てくれなくなっちゃった(笑)。

山根:これは僕の勝手な思い込みかもしれないですけれど、おそらく北野監督の映画というのは高級だと思われている。難しい映画であるとか、アートであるとか、何か高尚な映画だと思われているんじゃないでしょうか?

北野:オレはせっかちだからか、映画にいろいろ詰め込んじゃうんですよ。こっち側、つくり手はその詰め込んだものをよく理解している。でも、それが伝わるかどうかはまた別の問題で。たとえばハリウッドの映画だったら、本当に丁寧に説明してくれるから、わかりやすくなっているんだけど、オレ、そういうの全部カットしちゃう。だから「何、これ?」って言われちゃうんだけど。

山根:「何、これ?」って一回言われちゃうと、次は「何、これ?」って言われないように、過剰に説明的になる……。

北野:いや、そういうことを考えて失敗しているんです。だから、そうじゃない映画、はじめっから説明的じゃない映画をつくろう、と。それで、同じ失敗を何度も繰り返す(笑)。

いま、ちょうどローテーションが1周した

山根:なるほど、いまわかりました。北野監督の映画は1本1本の表情がまるで違う。顔つきがまるで違うんです。だから、極端に言うと、同じ監督だと思えないこともあるくらいです。『みんな〜やってるか!』と『ソナチネ』が同じ監督の作品だとは、なかなか思えません。そこでお聞きしたいんですが、一つ一つ違ったものをつくろうと、これは意識してやられているんでしょうか?

北野:浅草松竹演芸場の舞台とかに立つと、10日間毎日ネタを変えなきゃいけない。昨日やった漫才を今日も同じ客には見せられないでしょっていう話なんです。同じ客の顔を見て、その都度、ネタを変えていく。そうしたら、映画だって、前のと同じだと思われるのはイヤだ、と。

山根:そういう姿勢は、20年間ずっと変わらないですか?

北野:一応そういう態度を変えずに14本目まで来たんだけど、ちょっと疲れ果てて、また原点に戻った、という感じ。今回、実はヤクザ映画を撮っているんですよ。そうしたら、おもしろくてしょうがないんだよ。だからいま最初に戻っていて、また同じローテーションで、また同じことを繰り返すかもしれないけれど、一目盛りだけでもレベルを上げていこう、と。

山根:「次にこれをやろう」って考える時なんですけれども、シナリオになる前の段階で、そのアイデアは頭の中に最初から入っているんですか?

北野:基本的にストーリーは、4コマ漫画なんですよ。「起・承・転・結」があって。最初に思いつくのは、一番最後のコマ、ラストのシーンだけで、そこから逆に、「起・承・転」までをつくる。で、今度はそこから横に広げていく。1枚の写真みたいな感じですよね。「これこれのシーンで、この映画は完成!」っていうイメージが最初ですね。たとえば、『あの夏、いちばん静かな海。』で言えば、この映画は「女の子がサーフボードを流す」っていうシーンしかないんですよ。で、いかにそこまで持っていくか。『ソナチネ』の時は、拳銃をこめかみにあてて終わるっていうイメージ。

山根:でも、たとえば『TAKESHIS'』なんかを見ると、そうなっていないんじゃないですか。あれも起承転結になっているんですか?

北野:あれは、4コマ漫画をさらにねじったり、ひっくり返したりしている。それで、あんな風になっちゃって……。

山根:『TAKESHIS'』を見た時に僕が感じたのは、ご自分で監督と主演の両方をなさっているわけですけれども、「北野武」と「ビートたけし」がいるっていう物語の中にさらにいくつもの物語があって、非常に複雑な構造になっている。「いま見ているのは一体何なのか?」「これをつくってる北野監督の頭の中ってどうなっているんだろう?」っていう疑問が湧いてくるんですよ。

北野:でも自分の頭の中では、わりと喜んでやっているんですよ。オレ、頭が意外と理工系なんですよね。たとえて言うと、因数分解しちゃってるんです。計算好きで、しっかり計算してるつもりなんだけどね。それでもやっぱり、計算間違いが多い。あんまりひねりすぎちゃって、プラスがマイナスになっちゃたり(笑)。

Page 3
前へ 次へ
『東京フィルメックス』とは
2000年より始まった、東京で毎年秋に開催される国際映画祭。「作家主義」を標榜し、アジアを中心とした各国の独創的な作品を上映する。映画祭は、審査員によって最優秀作品賞が選ばれる「コンペティション作品」、世界各国の実力派監督の作品を上映する「特別招待作品」、映画人や特定の国などの関係作品を集めて回顧上映を実施する「特集上映作品」の三部構成から成る。作品の選定眼には定評があり、東京のシネフィルを唸らせている。

プロフィール

北野武

1947年生まれ。東京都足立区出身のタレント、映画監督。明治大学工学部入学後、ジャズに熱中。次いで浅草のストリップ劇場・浅草フランス座でエレベーターボーイをはじめ、先輩の兼子二郎とツービートを結成。やがて漫才師としてブレイクした。その後、映画監督としても頭角を現し、『HANA-BI』(1998年)で第54回ヴェネツィア国際映画祭金獅子賞、『座頭市』(2003年)で第60回ヴェネツィア国際映画祭銀獅子賞を受賞するなど、国際的な名声を獲得した。また2005年4月、東京藝術大学で新設された大学院映像研究科の教授および映画専攻長に就任、学生の育成にも力を注いでいる。

山根貞男

1939年生まれ。大阪府出身の映画評論家。映画批評誌『シネマ』の編集・発行に携わり、映画関係者へのインタビュー、聞き書き、対談の仕事も多数。同じく映画評論家の蓮實重彦や山田宏一との共著もある。主な著書に『映画の貌』(みすず書房)、『日本映画時評』シリーズ(筑摩書房)などがある。

SPECIAL PR 特集

もっと見る

BACKNUMBER PR 注目のバックナンバー

もっと見る

PICKUP VIDEO 動画これだけは

BIM“Wink”

BIMの新作『NOT BUSY』より“Wink”の映像が公開。ゆるめに結んだネクタイは軽妙洒脱でも、背伸びはしない。どこか冴えない繰り返しのなかで<だって俺らの本番はきっとこれから>と、吹っ切れなさもそのままラップして次へ。BIMの現在進行形のかっこよさと人懐っこさがトレースされたようなGIFアニメが最高にチャーミング。(山元)

  1. 米津玄師“感電”が7月6日配信リリース 綾野剛×星野源『MIU404』主題歌 1

    米津玄師“感電”が7月6日配信リリース 綾野剛×星野源『MIU404』主題歌

  2. 「実際にあったクソリプ」をカードゲーム化した『クソリプかるた』発売 2

    「実際にあったクソリプ」をカードゲーム化した『クソリプかるた』発売

  3. 堺雅人と鈴木福がのび太役で登場 「ソフトバンクのドラえもん」実写化CM 3

    堺雅人と鈴木福がのび太役で登場 「ソフトバンクのドラえもん」実写化CM

  4. 蓮沼執太とRYUTist運営が語る、コロナ以降の「アイドルと楽曲」 4

    蓮沼執太とRYUTist運営が語る、コロナ以降の「アイドルと楽曲」

  5. 菅田将暉×小松菜奈 瀬々敬久監督映画『糸』の新たな公開日が決定 5

    菅田将暉×小松菜奈 瀬々敬久監督映画『糸』の新たな公開日が決定

  6. シャムキャッツが10年で作り上げた景色。気まぐれな旅路の途中で 6

    シャムキャッツが10年で作り上げた景色。気まぐれな旅路の途中で

  7. 『アングスト/不安』の怖さ。殺人が論理的答えとして導き出される 7

    『アングスト/不安』の怖さ。殺人が論理的答えとして導き出される

  8. サブスク型映像クリエイター養成コミュニティ「AOI Film Craft Lab.」始動 8

    サブスク型映像クリエイター養成コミュニティ「AOI Film Craft Lab.」始動

  9. 新垣結衣の初写真展を渋谷PARCO&オンラインで開催 未公開カットも展示 9

    新垣結衣の初写真展を渋谷PARCO&オンラインで開催 未公開カットも展示

  10. 柴田聡子の言葉の正体。油断せず、心して向き合った先で生まれる 10

    柴田聡子の言葉の正体。油断せず、心して向き合った先で生まれる