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『映画の未来へ』北野武×山根貞男(映画評論家)

『映画の未来へ』北野武×山根貞男(映画評論家)

テキスト
須藤健太郎
撮影:小林宏彰

森繁さんみたいになりたい、
「ただ置いておけばいい」って(笑)

山根:今回、シンポジウムを開催するにあたって、一般の方に北野監督への質問を募集したんですけれども、その中に、クリント・イーストウッド監督の『グラン・トリノ』(2008年)に関する質問がありました。監督は、ご覧になりましたか?

北野:見た。ただ、グラン・トリノがあんまりいい車とは思えない。まあ、アメ車の中ではいい車なんだけど。それから、モン族の子供たちの生活がよく出てないでしょ? なんで仲良くなったのかがよくわからない。もうちょっと違うきっかけで仲良くなるべきじゃないかと思って。クリント・イーストウッドは好きですよ。

山根:そうですか。それで、一般の方からの質問なんですけれども、こういうものなんです。どうやら、イーストウッドが俳優としては『グラン・トリノ』でもう最後らしいと言われているんですが、イーストウッドは、これまでの作品では自分がバンバン殺しちゃう側だったけれども、この作品では殺されちゃう側ですよね。つまり、自分の俳優としての最後を、これまでとは逆に、殺される人間として描いた、と。北野監督は、こういうイーストウッドのやり方をどう思いますか? 北野監督もイーストウッドのように、自分で監督もして主演もしていますけれども、最後の俳優作っていうのを考えたりしますか?

『映画の未来へ』北野武×山根貞男(映画評論家)

北野:いま撮ってる作品については、何にも言えないんだけど、ちょっとドキッとするような感じもあるんですよ。いま言われたことがかなり当たっているかもしれない。でも、これに関しては、もう見てもらうしかないね。ただ、監督と役者を両方やるのはちょっと控えようかなって思っている。そのうち、森繁(久彌)さんみたいに、ただ「置いておけばいい」っていう役者になりたいなとは思うけどね(笑)。

山根:監督はこれからも続けていく。でも、監督と主演を兼ねるのは……。

北野:ちょっとつらい。あと何本かだと思う。

山根:でも、他の人の映画への出演はまだ続ける、と。

北野:ええ。「監督だけ」という方向には行かないと思うんだよね。監督って疲れるから。役者として出ていれば、失敗しても全部監督のせいにできるし、楽なんですよ。

山根:ただ、「北野武監督作」ということで、われわれはこれまで14本の映画を見てきたわけですけれども、北野監督が、自分で撮るのをやめて、他人の映画に役者として出るだけなんて、そんなことができるんだろうかという気が僕はするんですけどね。

北野:他人の映画に出て、わざと下手な演技をやって、映画をダメにしてやろうっていうね。そういう、テロリストみたいな作戦に出る(笑)。人の映画をどんどんダメにしてやって……。

シリアスな映画とそのパロディ版を同時に撮ってみたい

山根:以前にお話を伺う機会のあった時に、映画をつくる過程の中で編集がとってもおもしろいと言われておりましたけれども、それはいまも変わりませんか?

北野:いまも、おもしろいことはおもしろい。でも、これはいいのか悪いのかわからないけど、パソコンを使ってやるようになって、やっぱり変わりましたね。つまり、最初のころは、フィルムを触って、「ここからここまでオーバーラップ」って現像に出していたんだけど、それだと出来上がるまで2週間かかったんですよ。それがいまだと、現場で目の前でできちゃうから、速い。下手すると、3日間くらいで編集しちゃう。

山根:それはいいことですか、それとも悪いことですか?

北野:それは楽しいんだけど、ただあまりにも速くできてしまうので、編集マンが編集している間に考えるフリができない(笑)。いまはパッとできちゃうんで、「次、どうしますか?」と言われても、「え、ちょっと待って……」って困っちゃう。ただ、編集では、いろいろインチキもやっています。台本だと1日だったシーンを、編集の段階で2日間に延ばしちゃったり。見てる人は絶対そこまでわからないですから。「ここに睨んでる顔がほしいな」と思ったら、違うシーンから、使えそうなものを持ってきちゃったりね。

山根:僕はいまのお話を聞いてますます確信したんですけれども、北野監督の映画っていうのは、編集段階でいわば「ズレをつくっていく」、あるいは編集をしていく中で「何か異物が突然入ってきてしまう」ということをやっているんじゃないか。北野監督が言う「編集を楽しむ」っていうのは、そういうことなのかなと思いました。

北野:間違っててもいいやっていうかね。たとえばちょっといいスーツをつくった時に、いいスーツなんだけど、なんかボタンが違うぞっていうこともありますよね。じゃあ、そのボタンをどうするかっていうと、今度は違うスーツからボタンだけ持ってきちゃう。そういうことを平気でやっちゃうんですよ。もう、めちゃくちゃですよね。

山根:前に一度こういう風におっしゃられたことがあるんです。誰か他の人の撮った映画の材料があって、編集だけ自分がしてみたい。やっぱり、めちゃくちゃになりますかね。監督と大げんかになったりして……。

北野:「何するんだ!」って怒られるでしょうね。あと、興味があるのは、2本同時に撮ってみる、パロディ版を一緒に撮るっていう企画(笑)。『座頭市』をつくってる時に、もうパロディが撮りたくてしょうがなくて。結局、パロディって、ハリウッド映画とか、みんなが知っている映画のパロディでしょ? でも一番いいのは、1本目に刑事物のおっかない映画、それで同じメンバーで2本目はその映画のパロディをつくる。それで、その2本を同時に公開するっていうのが、一番いい手だと思うんですよ。

山根:それは『座頭市』をつくりながら思っていらっしゃったんですか?

北野:うん、それがやりたくてしょうがなかった。

山根:やっぱり、そういうことを考えていたからですね、『座頭市』にはそういうパロディの部分がちょっと入っていますよね。

北野:勝新太郎のスポンサーをやっていた人で、斉藤(智恵子)さんっていう人がいるんですけど、その人に「『座頭市』を撮ってくれ」って言われて、それで引き受けたんだけど、脚本を渡したら、気絶してましたね(笑)。金髪の座頭市って(笑)。

山根:その人は『座頭市』のパロディだと思ったんでしょう。でも、僕はむしろそこがこの作品のおもしろいところ、新しさかなって思いますね。

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『東京フィルメックス』とは
2000年より始まった、東京で毎年秋に開催される国際映画祭。「作家主義」を標榜し、アジアを中心とした各国の独創的な作品を上映する。映画祭は、審査員によって最優秀作品賞が選ばれる「コンペティション作品」、世界各国の実力派監督の作品を上映する「特別招待作品」、映画人や特定の国などの関係作品を集めて回顧上映を実施する「特集上映作品」の三部構成から成る。作品の選定眼には定評があり、東京のシネフィルを唸らせている。

プロフィール

北野武

1947年生まれ。東京都足立区出身のタレント、映画監督。明治大学工学部入学後、ジャズに熱中。次いで浅草のストリップ劇場・浅草フランス座でエレベーターボーイをはじめ、先輩の兼子二郎とツービートを結成。やがて漫才師としてブレイクした。その後、映画監督としても頭角を現し、『HANA-BI』(1998年)で第54回ヴェネツィア国際映画祭金獅子賞、『座頭市』(2003年)で第60回ヴェネツィア国際映画祭銀獅子賞を受賞するなど、国際的な名声を獲得した。また2005年4月、東京藝術大学で新設された大学院映像研究科の教授および映画専攻長に就任、学生の育成にも力を注いでいる。

山根貞男

1939年生まれ。大阪府出身の映画評論家。映画批評誌『シネマ』の編集・発行に携わり、映画関係者へのインタビュー、聞き書き、対談の仕事も多数。同じく映画評論家の蓮實重彦や山田宏一との共著もある。主な著書に『映画の貌』(みすず書房)、『日本映画時評』シリーズ(筑摩書房)などがある。

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