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鍛え抜かれた身体の価値 舞踊団Noism 金森穣インタビュー

鍛え抜かれた身体の価値 舞踊団Noism 金森穣インタビュー

インタビュー・テキスト
乗越たかお
撮影:高見知香
2013/05/14

トレーニングを積んだ舞踊家が社会にとってどんな価値があり、行政の考える芸術文化とどうつながっていくのか訴えました。

―そんな国内と海外の大きな状況の違いの中で、りゅーとぴあから舞踊部門芸術監督就任の話があったときは、どういうお気持ちで受けられたんですか。

金森:最初の話では、東京で作品を作り、ときどき新潟の人たちに見せに行く、あるいは新潟の劇場が招聘するべき舞踊公演をアドバイスする、というものでした。しかしそれでは、日本でプロフェッショナルなダンスカンパニーや舞踊家を育てることができないと思ったんです。そこで「新潟に住むので、レジデンシャルカンパニーを作りましょう」と伝えました。その理由の1つには、帰国して東京で作品を作りながら感じたこと……日本の舞踊家のレベルが低すぎて、とても世に出せるようなものではなかったということがあります。

―それは技術的なことですか?

金森:そうです。だから「作品創作以前に、まず舞踊家たちを朝から晩まで鍛える必要がある。でも彼らだって生活の保障がなければ、そんな時間は取れない。だから給与を支給して、集中してトレーニングできる環境、すなわち芸術創造のための人材育成が必要である」と交渉したんです。もちろんそのためには、トレーニングを積んだ舞踊家の存在が社会にとってどんな価値があり、舞踊の芸術性が行政の考える芸術文化とどうつながっていくのかを説明できなければいけませんでした。日本の芸術文化の歴史、劇場の成り立ち、行政のものの考え方など、様々なことを勉強して訴えました。

見世物小屋シリーズ第3弾 Noism1『Nameless Voice〜水の庭、砂の家』(2012年)撮影:篠山紀信
見世物小屋シリーズ第3弾 Noism1『Nameless Voice〜水の庭、砂の家』(2012年)撮影:篠山紀信

―それが実現したということは、Noismというカンパニーに税金が使われることを正しく理解・支持している新潟市や新潟市民の民度の高さを証明していますね。とくに新潟は2004年の新潟県中越地震などがあってもカンパニーを支え続けたわけですから。

金森:それには本当に感謝しています。Noismの公演は、新潟でも東京でも、だいたい1,500人の集客があるんですが、東京都の人口約1,300万人と新潟県の人口約237万人(いずれも2012年3月31日現在。ちなみに新潟市は約80万人)という分母の違いを考えると、これは奇跡的な動員数だと思うんですよ。たださらにこれ以上増やしていくためには、行政の協力が絶対に必要なんです。なぜなら、そもそも劇場に足を運ばない、その場所さえ知らない市民がほとんどなんですから。りゅーとぴあを一部の市民がお稽古ごとに使うただの市民ホールではなく、世界に発信する芸術文化創造の場、そして上質な芸術文化鑑賞の場にしていかなければいけません。

金森穣

―金森さんは、いちアーティストとして作品を作るだけでなく、芸術監督としてカンパニーを維持発展させる責務を負っています。先ほどから「舞台芸術と社会の関係性」についてのお話をされていますが、金森さんにとって、劇場が社会にとって有用であると思える部分はどういうところにあるのでしょうか?

金森:劇場って「真っ暗な客席の中に、見ず知らずの人間が1,000〜2,000人も詰め込まれて、何か1つの出来事を体験する」という、ものすごく非日常的な空間じゃないですか。つまり劇場という場所は、非日常的な体験をする場であり、現代社会の対称を鏡のように映し出す力があると思うんです。社会を違った角度から眺めることで、普段は見落とされている物事の価値に気がついたり、人間の存在について深く考察すること。あるいは日常生活で経験できないような感動に出会うこと。こういった個人的体験を、集団で共有できるのが劇場であり、そこで感じたことを批評したり、他者と議論したりすることで、社会生活に対して市民が主体的になること。それが舞台芸術の役割だと思っています。

―なるほど。

金森:たとえば非常にゆっくり動く、舞踏と呼ばれる日本から生まれた独特な舞踊がありますよね。日常生活において、あんな速度で動いている人はいませんが、ひょっとしたら、あの速度で生きることも可能かもしれない。そういう、社会からは否定されていたり、忘れられているようなものも、劇場に行けばある。劇場とはそうあるべきだと思います。

―当然ダンサーにも「社会の鏡」たる力量が求められますね。

金森:ただ悲しいことに、今の舞踊界には素人が蔓延しています。もちろんそうなってしまう必然性もありました。それは、かつて様々な振付家たちが新しい身体表現を模索していく中で、「専門性を突き破った素人の生身な身体」という表現に行き着いてしまったからなんです。どんな分野でも突き詰めていくと、新しさだけを追求し、表現自体がどんどん解体していってしまいますよね。

見世物小屋シリーズ第3弾 Noism1『Nameless Voice〜水の庭、砂の家』(2012年)撮影:篠山紀信
見世物小屋シリーズ第3弾 Noism1『Nameless Voice〜水の庭、砂の家』(2012年)撮影:篠山紀信

―「頭で考えた新しさ」みたいなものに嵌まって身体性が希薄になっていくと、ダンスという文化自体がどんどん痩せていくことにもなりかねませんね。

金森:でもそんな「新しさ」は舞踊界という閉ざされた世界の中だけのお話です。日常生活で普通に見ることのできる素人の身体を劇場の舞台に立たせても、「社会の鏡面」にはなれません。先ほども言いましたが、鏡像は実像と対称であるべきなんです。そこに立つのは、トレーニングを積んだ、プロフェッショナルな身体以外はあり得ない。と、同時に舞踊家たちも、常に社会と劇場との関係を考えていなければ存在意義がないと思います。自分が踊りを通して社会に何かを伝えられる舞踊家だということを証明しなければいけない。ある種の専門性や社会性が担保されていなければ、税金を使ってカンパニーを維持している意味はないでしょう。

―たしかに先端的な表現を求めるあまり社会と乖離する人は少なくありません。しかし社会との関係性を保ちながら最高の作品を作り続けていくためには、磨かれた専門性が不可欠だというわけですね。

金森:そうです。でもそういう実感は、大学などの机上の空論で「芸術とは? 劇場とは?」と考えていてもわからない。毎日劇場に行って、税金で糧を得ながら自らの限界と向き合う中で、市民の目を感じ、批評を感じ、賛同を感じ……とその身体で養っていくことが大切なんです。

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イベント情報

『ZAZA 〜 祈りと欲望の間に』

演出・振付:金森穣
出演:Noism1
第1部『A・N・D・A・N・T・E』
音楽:J.S. Bach『ヴァイオリン協奏曲 第1番 第2楽章 Andante』
第2部『囚われの女王』
音楽:J. Sibelius『囚われの女王』
第3部『ZAZA』
音楽:soundtrack by THE THE『MOONBUG』&『TONY』より抜粋
椅子・机:須長檀

新潟公演
2013年5月24日(金)〜5月26日(日)全3回公演
会場:新潟県 りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館・劇場
料金:一般5,000円 学生2,500円
※各公演後にアフタートーク有り
5月24日出演:堂本教子(衣裳デザイナー)
5月25日出演:須長檀(家具デザイナー)
5月26日出演:乗越たかお(作家・ヤサぐれ舞踊評論家)

神奈川公演
2013年5月31日(金)〜6月2日(日)全3回公演
会場:神奈川県 横浜 KAAT神奈川芸術劇場・ホール
料金:5,500円
※各公演後にアフタートーク有り
5月31日出演:宮前義之(ISSEY MIYAKEデザイナー)
6月1日出演:松永大司(映画監督)
6月2日出演:成田久(アーティスト&資生堂アートディレクター)

静岡公演
2013年7月20日(土)、7月21日(日)全2回公演
会場:静岡県 静岡芸術劇場
料金:一般大人4,000円 大学生・専門学校生2,000円 高校生以下1,000円 ほか
※各公演後にアフタートーク有り

プロフィール

金森穣

演出振付家・舞踊家。りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館舞踊部門芸術監督。Noism芸術監督。20世紀のダンスに革命を起こしたモーリス・ベジャールが創設した芸術学校ルードラ・ベジャール・ローザンヌを卒業後、世界的に有名なイリ・キリアンのネザーランド・ダンス・シアター、国立リヨンオペラ座バレエ団などで活躍し、帰国。04年に日本初の劇場専属ダンスカンパニー・Noismを立ち上げる。海外バレエ団や新国立劇場バレエ団への振付け、サイトウ・キネン・フェスでのオペラ演出など、国内外で幅広く活躍している。平成19年度芸術選奨文部科学大臣賞、平成20年度新潟日報文化賞ほか、受賞歴多数。

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