
「編集」ってなんだろう? 赤羽卓美インタビュー
- インタビュー・テキスト
- さやわか
- 撮影:西田香織
これから訪れるであろう未知の体験について、あらかじめ形を与えてくれるのが物語の力。
―ワークショップでは、「物語」をキーワードにお話をされていました。イシス編集学校でも物語講座を担当されているとのことですが、赤羽さんにとって物語の重要性とはどんなところにあるのでしょうか?
赤羽:僕にとって「物語」と「編集」は、ほぼ同義語なんです。人と人がコミュニケーションをとる、誰かに何かを伝える、そんなときにいずれも重要な役割を持つものでもあり、また物語は人が生きて行く上でも絶対になくてはならないものだと思うんです。
―なるほど。確かに人間はどんな文化でも、子どもに対して必ず絵本や物語を読み聞かせる習慣がありますよね。
赤羽:たとえば絵本でも、弟や妹が生まれるお話ってあるでしょう? あのように、これから子どもに訪れるであろう未知の体験について、あらかじめ形を与えてくれるのが物語の力でもあるんです。それは別に子どもに限った話ではなくて、たとえば普段あまり山に行かない人がスキーで高い山に登ったとき、濃い色の青空に包まれて、軽いパニックになってしまうことがあるんです。でも、その空の向こうに「宇宙」があるんだよ、という物語を思い出せば、その人は落ち着くことができるんですよね。
―弟や妹ができたときに感じる違和感を、物語というかたちであらかじめインプットしておくことで、その状況に遭遇しても混乱せずに済むわけですね。
赤羽:そうです。それから物語って、全て関連で出来ているんですよ。面白いのは、子どもって3歳ぐらいになった頃に爆発したように話し始める時期があるんです。ずっと喋り続ける。それはこれまでに覚えてきた言葉や記憶が繋がる時期なんですね。
―コミュニケーションにおける「物語」の重要性とは、どんなところにありますか?
赤羽:物語として伝えたからといって、それが100%相手に理解されるわけではありませんよね。物語は解釈する側が変化することによって、その印象や受け取り方も大きく変化します。つまり、人は物語を受け取った時点で、その物語を勝手に上書きしているわけです。
―確かにそうですね。
赤羽:重要なのは、自分が生まれてきてから培ってきた物語の積み重ね、そこから生まれる連想の体系というものがあり、相手にもまた違う連想の体系が存在する。そのお互いの連想の体系にアクセスしたり、共有することができれば、伝わる物語が生まれるんだと思います。松任谷由実さんが二子玉川のファミレスで隣の女子高生の会話を聞きながら作詞をしていたというエピソードがありますが、まさにそういうことなんですね。自分の伝えたいことをただ伝えるのではなく、自分の持っている感覚を他人とシェアすることが重要なんです。
―現代社会において、そんな物語の持つ力はどういった部分に有効だと思いますか?
赤羽:今は世の中がフラット化しすぎて、メリハリがなくなっているんですよね。そこで社会を動かしていく原動力になり得るのは、物語の力しかないだろうなって思うんです。
―つまり、物語を使えば社会にメリハリを生むことができる?
赤羽:そうですね。すごくダイナミックに動かしていけるし、そうしないと面白くないだろうと思います。シェイクスピアの悲劇『オセロ』のセリフで、「我々は夢を作る」というのがありますが、物語はバーチャルだけど、現実に跳ね返ってくる。そういういうものだと思います。
―たしかに最近は企業コンサルティングなんかでもシナリオプランニングとか、「物語」と呼べるような発想法を重視していますね。
赤羽:そうやって、企業の問題をどのように解決すべきか考えるなかでも、物語が必要とされてきていますよね。結局、物事を処理するプロセスをたどってみると、物語の持つ型と同じになるんですよね。イシス編集学校では、そういう思考のプロセスを理論にして、工学化しているんです。
講座情報
- 『イシス編集学校 秋講座 第32期「守」基本コース』
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2013年11月4日(月)〜3月2日(日)
料金:一般84,000円 学生割引73,500円 再受講割引73,500円