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坂本龍一が想像する、新しい時代のアート、環境、ライフ

坂本龍一が想像する、新しい時代のアート、環境、ライフ

インタビュー・テキスト
島貫泰介
インタビュー撮影:丸尾隆一

苦悩しながら1音ずつ書いていくような、19世紀型の芸術家のイメージから僕はなるべく離れようしてきた。ですから、「主役は自然だ」って言っちゃった方が僕にとっては自然なことなんです。

―高谷史郎さんとコラボレーションした新作『water state 1』は、無数の水滴の落下を制御しアジア地域の降水量を波紋の連なりとして視覚化した作品で、作品の周囲には巨大な石が配置されています。これまでの坂本さんや高谷さんの作品というとシンプルでモダンな印象があったので、石という力強い自然物が登場したことに驚きました。でも、今のお話を伺って「ああ、あれは庭だったんだ」と気付きました。

坂本:僕と高谷さんが一緒にやるときは、わりと人間的な欲求を抑圧して、なるべく機能的で幾何学的な方向性を目指してきました。実際、今回の作品でも水滴の落ちるパターンや展示空間に流れる音楽は、素数に基づいた数学的なアルゴリズムを使っています。でも、水は不定形なものですから、シンメトリカルではない不定形な要素を合わせてみたくなった。非常に人工的で抽象的なものと、苔が付いているような石っていう剥き出しの自然物を同時に並べてみたいという欲求があったんですね。

坂本龍一+高谷史郎『water state 1』
坂本龍一+高谷史郎『water state 1』

―近代以降のアートには生々しいものを研ぎすまして抽象化していく道筋があったと思います。ですが、昨日行われた笙(しょう)奏者の宮田まゆみさんとのコンサートでは、電子音から始まって、最後は坂本さんがほら貝を演奏する(吹くのではなく、内部に注いだ水の音を響かせるという奏法)というものでした。まるでこれまでのアートの道筋を逆行するような内容で、ある意味、展覧会のタイトル『ART-ENVIRONMENT-LIFE』を象徴しているように感じました。

坂本:そうかもしれません。昨日のライブで僕が一番驚いたのは、宮田さんが笙を演奏しながら、『Forest Symphony』の展示会場に移動したときです。インスタレーションから発せられる樹木の生体電位の音と、宮田さんが吹いている笙のアンサンブル。じつは作品の中には笙によく似た高いサインウェーブの音がたくさん入っているんです。そこに笙の音が重なって、非常に豊かな新しい倍音が発生していた。さらに、笙のピッチとインスタレーションのピッチが微妙にずれることで、音に「うねり」や「干渉音」が発生し、新たな音楽が生まれていたのには本当にビックリしちゃいましたね。息を吸ったり吐いたりしないと音が出ない笙という古い歴史を持つ楽器と、テクノロジーによるインスタレーションの音が深く呼吸して合体して……。想像以上のお土産をいただいてしまって本当に嬉しかったです。

坂本龍一

―宮田さんとのコンサートは、『LIFE–fluid, invisible, inaudible... Ver.2(以下『LIFE-fii』)』という作品の下でも行われましたね。『LIFE-fii』は、天井から宙づりにした9つの水槽内に霧を発生させ、そこに映像を投影するという作品です。しかし同作品の展示室では、昨日のコンサートの他にも野村萬斎さんの狂言なども上演され、1つの舞台美術のような使い方もされています。非常に印象的な舞台空間になっていましたが、こういった構想は当初からあったんでしょうか?

坂本:2007年に『LIFE-fii』をYCAMで作ったときから、舞踊家のピナ・バウシュに踊ってもらいたいっていう構想があったんです。2009年にピナは亡くなってしまって、実現することはできなかったけれど……。ですから、今回のような公演はずっとやりたかったことでした。萬斎さんとご一緒したときは、照明を使って橋懸かりのある能舞台を作りました。吊られた9つの水槽と光で作った能舞台が天と地で相似形になっていて、全てが宇宙空間に浮かんでいるかのような能舞台に見えてくるんですよね。宮田さんとのコンサートもそうでしたが、まるでこの日のために『LIFE-fii』が生まれたんじゃないかってくらいで、ちょっとでき過ぎだなとすら思いました(笑)。

坂本龍一+高谷史郎『LIFE-fluid, invisible, inaudible… Ver.2』
坂本龍一+高谷史郎『LIFE-fluid, invisible, inaudible… Ver.2』

―今展示では映像で、その狂言やコンサートの記録を観ることができますね。こういう風にインスタレーションを鑑賞してほしいという、坂本さんなりの提案はありますか?

坂本:たとえば『LIFE-fii』で言うと、過去に展示したときは、誰も教えていないのにお客さんたちは勝手に床に寝転んだり、思い思いに時間を過ごしていました。ですから、こっちが何か言わなくても楽しみ方を見つけることのできる作品だと思います。『water state 1』は、周りに石があるために座っちゃう方がいるのでそれだけはちょっと困るんですが(笑)。

―あの石は座ってはいけないものなんですね(笑)。

坂本:座りたくなるのも分かる作品空間ではあるのですが、それも含めて俯瞰して観て欲しい作品です。

坂本龍一

―作品ごとにフォーカスするポイントが少しずつ違いますよね。『LIFE-fii』は、空間そのものが作品ですから、音と映像を浴びるように体験できますし、『Forest Symphony』は、自然と耳に入ってくる音が作品で、自由に回遊しながら耳を傾けてもいい。一方、『water state 1』は水面の波紋に視点を集中することで、見えない地図が浮かび上がってくるようなところがある。

坂本:たとえば『water state 1』では、展示室全体をカバーするくらいの巨大プールにすることもできたと思います。でもあの箱庭的なサイズだからこそ、宇宙に開いた窓から地球を見ているような体験が生まれるんですよ。プールというグリッドの中に収まっているのは東アジアの一部分で、偏西風の動きや赤道周辺で起きる台風の発生など、天候の変化もわかります。最初は水滴がぴちゃぴちゃしているようにしか見えないけれど、だんだん観る側の意識が変わることで本当にそこに地球の一部があるように見えてくる。

坂本龍一+高谷史郎『water state 1』
坂本龍一+高谷史郎『water state 1』

―これまでのお話を伺っていると、庭や窓という要素が坂本さんにとって重要なんですね。インスタレーションを作ることは、庭師の仕事に似ているとも言えるのではないでしょうか?

坂本:『Forest Symphony』を例にとると、音のデータは本当に生の木が発しているものなので、作曲しているのは木自体なんです。そういう意味では僕はアレンジャー的な存在と言える。ですから、僕自身も庭師のようでありたいと思っています。苦悩しながら何週間もかけて1音ずつ書いていくような19世紀型の音楽家や芸術家のイメージっていまだにあるじゃないですか。そういうものから僕はなるべく離れようしてきた。ですから、「主役は自然だ」って言っちゃった方が僕にとっては自然なことなんです。

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イベント情報

『坂本龍一「ART-ENVIRONMENT-LIFE」』

2013年11月1日(金)〜2014年3月2日(日)
会場:山口県 山口情報芸術センター[YCAM]スタジオB
時間:10:00〜19:00
休館日:火曜(祝日の場合は翌日)、12月29日〜1月3日
料金:無料

プロフィール

坂本龍一(さかもと りゅういち)

音楽家。1952年生まれ、米国ニューヨーク州在住。YMO散開後、数々の映画音楽を手がけ、作曲家として世界的な評価を得つつ、常に革新的なサウンドを追求している。オペラ『LIFE』以降、環境・平和・社会問題への言及も多く、2007年には「moretrees」を設立。2011年東日本大震災復興支援プロジェクトとして「こどもの音楽再生基金」「www.kizunaworld.org」など、さまざまな活動を続ける。

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