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坂本龍一が想像する、新しい時代のアート、環境、ライフ

坂本龍一が想像する、新しい時代のアート、環境、ライフ

インタビュー・テキスト
島貫泰介
インタビュー撮影:丸尾隆一

21世紀は、単に既成概念を壊すだけでは、アートが機能しない局面になりつつあるなと感じています。

―広い質問になってしまいますが、坂本さんは「アート」というものをどのように定義していますか?

坂本:うーん。僕にとってのアートというのは、20世紀の初頭から始まった考え方に沿っています。単に美を追求するのではなく、マルセル・デュシャンやジョン・ケージが始めたように既成概念を破壊すること。今風に言えば「脱構築する」ことが20世紀以降のアートの特徴だと思っています。ただ21世紀に入って、19世紀芸術のアンチとして生まれたデュシャン的なパラダイムがそろそろ終わりつつあるという感じもしています。「では、次に来るのは何か?」と問われると僕自身もはっきりは言えないんですけど……。1つは「nature(自然)」。広い意味で言えば「環境意識」と言えるでしょうか。単なる環境運動ではなく、環境とアートをつなげるということでもなく。ひょっとするとアートという概念が変わっていくのかもしれません。もちろん、これまでも芸術やアートという言葉自体が定義し直されてきたわけで、それは今後も続いていくでしょう。しかし、確実に21世紀に適応したアートが生まれつつあると思います。

坂本龍一

―それは、アート自体がより環境化されていくというイメージでしょうか? アートとそれ以外の文化を分ける境界線が溶けていって、アートの因子があらゆるところに遍在しているような。

坂本:漠然としたイメージはあるんです。地球意識っていうのかな……つまり意識の拡張だと思うんです。18世紀まではルネサンスに代表されるギリシアやローマなどへの古典回帰が目指される中で形式化されたものが、すなわち芸術だった。それが19世紀になって、次第にミクロな個の意識、主観へと向かっていく。それは革命的な出来事だったんですけど、あまりにドロドロとした情念に満ちたロマン的なものにもなってしまいました。そこで20世紀になると、アンチ19世紀ってことで「新即物主義」みたいに、個人の主観や内面を否定するような表現が現れた。デュシャンがやっていたこともその1つですよね。

―つまり、先行する歴史への反動としてアートがあった。

坂本:そのようにしてアートの歴史は移り変わってきました。しかし、今は単に既成概念を壊すだけでは、アートが機能しない局面になりつつあるなと感じています。

―それは単純に自然回帰するということではなく?

坂本:そうです。実在する自然を見ながら、同時にその内にあるデータも見ることのできる意識のありようというか。あくまでも比喩ですが、たとえばGoogle Glassを使うことで、木々に内在する情報を見ることができたりだとか。それも、ある種の意識の拡張と言える。

―その拡張には、テクノロジーは必須でしょうか?

坂本:それはもう、絶対に必須ですね。

―テクノロジー、アート、自然。これらの関わりは、まさにメディアアートが取り組んできた大きな課題でもあります。自然に内在している知覚できないものを翻訳するためにテクノロジーやアートが機能すると言えば聞こえはいいですが、そこには常に「このように自然を見たい」という人間の意図が発生してしまう。つまり私たちの都合に合わせて、自然をあえて誤読していると言えなくもない。

坂本:そうですね。そこには慎重な姿勢が求められると思います。

―とはいえ、僕たちが土や木の意識を直接に感知することができないのも事実です。そのための拡張装置や補助具として、テクノロジーやアートを実践的に使っていく方向性は、情報技術が発達し、社会全体に普及した今こそ求められていると思います。

坂本:1990年代くらいからポリティカル・コレクトネス(人種、性別などによる偏見や差別を含まない中立的な表現や用語を用いる態度)ということが、アートの世界でも言われるようになりましたが、現在それがSNSと結び付いて一種の覚醒作用を社会に与えているみたいにね。これもやはり意識の拡張だと思いますし、それをネットワークで共有する新しい方向性も起こってきている。意識の拡張にとって、ネットワークはポジティブに働くはずです。

坂本龍一

―2010年代は日本でも世界でも不穏さが一気に噴き出してきた印象がありますが、坂本さんは悲観主義者ではないんですね。人間の歴史はこれから先もずっと続いていく、という希望を持っている。

坂本:「think pessimistically act optimistically(悲観的に考えて、楽観的に行動せよ)」っていう言葉がありますけども、まあそうですね。後は「グローバルに考えてローカルに行動せよ」っていうことも非常に正しい気がします。よく例に出すんですけど、アメリカですら100年前には女性の参政権がなかったんですよ。でも、今や女性に参政権があることが当たり前と思っている人々がほとんどになりましたよね。

―ええ。

坂本:人類の歴史で考えれば100年なんて一瞬の出来事ですが、一方で僕たち個人のレベルでは、意識が変革するのにどれだけの時間がかかるのかっていうのも見えてきます。

―個人の人生は長く、人類の歴史もまた長いというか。その前提に立ってアートや社会が育っていくというのは、ごく自然なことだなと思います。

坂本:ピナ・バウシュが遺した言葉「Dance, dance, otherwise we are lost(踊りなさい。そうしなければ私たちは自らを失う)」みたいなね。それは「Art, art……」でもいいし「Music, music……」でもいい。そういうものが人間には必要だ、そういうものを頼りに生きてきた、と言ってもいいわけですよね。

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イベント情報

『坂本龍一「ART-ENVIRONMENT-LIFE」』

2013年11月1日(金)〜2014年3月2日(日)
会場:山口県 山口情報芸術センター[YCAM]スタジオB
時間:10:00〜19:00
休館日:火曜(祝日の場合は翌日)、12月29日〜1月3日
料金:無料

プロフィール

坂本龍一(さかもと りゅういち)

音楽家。1952年生まれ、米国ニューヨーク州在住。YMO散開後、数々の映画音楽を手がけ、作曲家として世界的な評価を得つつ、常に革新的なサウンドを追求している。オペラ『LIFE』以降、環境・平和・社会問題への言及も多く、2007年には「moretrees」を設立。2011年東日本大震災復興支援プロジェクトとして「こどもの音楽再生基金」「www.kizunaworld.org」など、さまざまな活動を続ける。

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