la la larksが知る、バンドにとって本当に意味のある利益とは

School Food Punishmentのフロントメンバーだった内村友美を中心に、同バンドのプロデューサーを務めていた江口亮(Stereo Fabrication of Youth、MIM)、さらに三井律郎(THE YOUTH、LOST IN TIME)、クボタケイスケ(SADS)、ターキー(ex.GO!GO!7188)という第一線で活躍するミュージシャンたちが集い、2012年に結成されたla la larks。昨年企画されたクラウドファンディングでは、CDの制作に対して200万円を超える投資が集まり、大きな注目を浴びた一方で、結成から3年が過ぎたいまも公式サイトすら作らず、全国流通したCDもアニメ『M3~ソノ黑キ鋼~』のエンディング曲となったシングル『ego-izm』1枚だけ。これまでの常識とは一線を画すスタンスを貫く彼らは、どのようなビジョンで音楽活動を行なっているのだろうか。過去のこと、現在のこと、未来のこと、そして約1年ぶりのリリースとなるシングル『ハレルヤ』について、内村と江口の二人に語ってもらった。

自分たちが投資すべきは、まず音だと思うんです。(江口)

―la la larksは、まず自分たちでできることをやって、必要に駆られたらCDを出す、という活動の仕方をされてきましたけど、前作『ego-izm』を出してから1年経って、そのスタンスに変化はありました?

江口(Key):特に変わってないですね。1年前にFlyingDog(ビクター内のレーベル)が活動の中心になって、それから自由にCDを出せなくなったのではと思っている人もいると思うんですけど、そんなことは全然なくて。出そうと思えば、いつでも出せるんですよ。ただ、前回出させていただいたときの制作環境がすごくよくて、それよりも劣る環境なら、CDを作る必要はないなと思ってました。

内村(Vo):ここまでブレずに来れたと思うんです。たとえば、いまだに自分たちではホームページを作らず、Twitterだけで情報発信しているんですけど、それは無理に広めようとしても、伝わる人にしか伝わらないと正直思っているからで。本当に知りたいと思ってくれる人は、自分で調べてくれるだろうという気持ちがあるからなんです。

内村友美
内村友美

江口:ホームページを作らないもう1つの理由は、どんどん技術が進化する中で、それなりのものを開設するためには最初に投資する額が多いわけじゃないですか。自分たちが投資すべきは、まず音だと思うんです。それ以外のところで、そんなにがんばりたくない。ただ情報を出すだけだったらTwitterでいいし、FlyingDogの公式サイトの中にもla la larksの専用ページがありますし。ウェブの世界の技術なんて3年も経ったらわからないから、そこに右往左往したくないんですよね。

―でも、結局活動していくには、告知が必要だとか、CDを売らなきゃとか、それは詰まるところお金のためかもしれないですけど、la la larksはそこを放棄しているわけですよね。こんなにゆっくり活動していていいのかなと思ったりもするんですけど。

江口:いまはメンバーがここでお金を稼ぎたいと思っているわけじゃないし、食わさなきゃいけないスタッフもいないんですよね。食わす人間が出てくるような規模になってきたら、それはやると思います。でも、食わす人間が出るということは、それ以上の対価がないと、その人も幸せにならないし、自分たちも幸せにならない。タイミングですよね。人件費を払ってでも上に行かなきゃいけないと思ったら、やると思います。

江口亮
江口亮

―いまはそういうタイミングではない?

江口:僕の中で、ライブだったら数千人入るような会場でワンマンをやるようになったり、CDだったら10万枚売れるようなバンドになるまでは、なんとかなるかなって。まぁ、今の時代なかなか10万枚も売れないですけど(笑)。でも、そこまでは自分たちでやらないと、本当の意味での利益は出ないと思います。

本人にあっけらかんとした自信というか、人を巻き込んでいく無責任なカリスマ感がないと、メジャーの世界ではうまくいかないのかなと。(江口)

―School Food Punishment(以下SFP)は「さぁこれからだ」というときに休止、解散した印象があるんですけど、la la larksではもっと勢いよくいきたいという欲はなかったんですか?

内村:la la larksは丁寧にやりたいと思ってますね。SFPがやってきたこと一つひとつの意味とか、どれだけの人が動いてくれていたとか、la la larksを始めてからわかったことが多くて。たくさんCDを出すことのよさもわかったし、逆に足元を踏み固めることの大事さもわかった。そういう意味で、前のバンドと比較してどうとかよりは、それを経ていまどうするのがいいのかを考えていますね。

江口:同じ船旅でも、SFPは豪華客船で、めっちゃスピードが速かったと思うんです。でも、内村は航海したくなくてやめたわけじゃなくて、その豪華客船の船長さんになることが、よくわからなかったんですよね。「めっちゃ速い、わーい!」っていう気持ちになれなくて、「なんでこんなに船が速いの?」みたいな。

内村:自分たちのペースでやれているいまは、「オールで漕ぐの大変だな、あのときすごい速かったな」みたいな(笑)。

江口:自分たちで漕ぐようになって、あのとき後ろに薪を炊いてくれてた人がいたこともようやくわかったんですよね。

左から:内村友美、江口亮

―同じようなことは、江口さんもStereo Fabrication of Youth(以下ステファブ)で体験してますよね。

江口:ステファブもメジャーでやっていた時代がありましたけど、メジャーでうまくいくバンドって、音楽だけじゃない部分が大きいんだなって思ったんですよね。根本に音楽があるとは思うんですけど。あと、本人にあっけらかんとした自信というか、人を巻き込んでいく無責任なカリスマ感がないと、そういう世界ではうまくいかないのかなと。でも、内村は生真面目で。

内村:考えに考えちゃった(笑)。

江口:それを僕は、「彼女はどっちなんだろうな?」と思ったんです。そういう意味では、la la larksのメンバーは、みんな生真面目なんですよね。

a la larks
la la larks

「一刻も早く武道館を埋めたい」とかじゃなくて、「丁寧に音楽をやって、それを喜んでくれる人が増えればいいな」ってシンプルに思っている。(内村)

―その中で、結局軸にあるのは音楽だと思うんですけど、la la larksとして音楽でやりたいことというのは?

江口:作品として、音楽として、どこにも負けたくないですよね。そう思うと、音質という部分では、クオリティーを求めるとお金がかかるということがわかっちゃったので、そこでも負けたくないからFlyingDogというパートナーを見つけて、いま一緒にやっているんです。

―クオリティーを高めるために必要なパートナーだったと。歌の内容については、いかがですか?

内村:前にも増して、自分が書きたいことじゃなくて、そのときの目的に対してどれだけ応えられるかという目線になってますね。歌詞を書いたり、音楽を作ったりする中で、何が楽しいかという意味では、自分も気に入ったものが書けて、人にも気に入ってもらえたときが一番うれしいんです。それを、「一刻も早く武道館を埋めたい」とかじゃなくて、「丁寧に音楽をやって、それを喜んでくれる人が増えればいいな」ってシンプルに思っているというか。

内村友美

―自己表現として満足できるものを作るより、聴く人が満足することで自分も満足するような?

内村:人によると思いますけど、私の場合、自分から表現したいことは、若いときに比べて少なくなったような気がするんですよね。若い頃からある程度出し続けていたら、もうたまにしか出てこなくて。何か大きな出来事があれば別ですけど、日常の中で人間が変わるような瞬間って、そう訪れないと思うんです。だから私は、アニメとか、CMとか、ラジオとか、何かお題をもらって、その枠の中でどれだけいいものを出せるかを考えることが、いまはいちばん楽しいです。

江口:それは前のバンドから変わってないよね。

内村:でも、積み重ねがあって、そう思えるようになったんだと思います。お題をもらえることって、普通はあんまりないじゃないですか。本来は、自分でお題を見つけて、書きたいことを探していかなきゃいけない。だから、ある意味楽してると思うんですけど、前のバンドからそういうことをさせてもらう機会がいっぱいあったので、それをやっていくうちに、「こっちの方が楽しいな」と思ったというか。いろんな楽しさのファクターがある中で、どれかひとつを選ぶんだったら、与えられたことに対していっぱいいっぱい応えることかなって。

江口:ドMってことだよね。

内村:3文字で表すとね(笑)。


前回のシングルを出したときに、「スタジオワークスの意味ってここだよな」っていうクオリティーのラインが見えたんですよね。(江口)

―今回、新作を出すまでになぜ1年もかかったんですか?

江口:全然タイアップの話をいただけなくて(笑)。

―やっぱり何かのきっかけありきで出したい?

江口:みんなが聴きたいと言ってくれているからと言って、たとえば曲を動画サイトにあげたりするのは、自分たちは違うかなと思っていて。それと、前回のシングルを出したときに、「スタジオワークスの意味ってここだよな」っていうクオリティーのラインが見えたんですよね。そのラインを超えるために必要な予算も改めてわかった。FlyingDogは、それを惜しみなく注いでくれるんですよ。ここ(ビクタースタジオ)も使わせてもらえるし、今回は管楽器の演奏者も呼んで生で吹いてもらえたし。

―そのクオリティーで作れる環境が整うのを待っていたと。

江口:そうですね。今回は『空戦魔導士候補生の教官』というアニメの話をいただくことができたので、書き下ろしをさせていただきました。

―曲は台本を見てから作ったんですか?

内村:原作を読んで、監督さんともお話をしてから制作に入りました。その作品には男の主人公がいるんですけど、そのまわりにいろんなキャラクターの女の子がいて、みんな彼のことを好きなんですよね。それで、女の子側の目線で、自分の気持ちを言ったら崩れてしまうような危うさとか、切なさとか、そういうのをベースにしたバラード、ないしは聴き終わったらバラードを聴いていた気持ちになるような曲をという話になって、まずはたくさんデモを作りました。

江口:デモを作っては投げ、作っては投げ。ただ、前回と一番違うのは、FlyingDogのディレクターさんがポロッと「la la larksとして、かっこいいことをやっていいよ」みたいなことを言ったんですよ。アニメのエンディングとなると、その作品の枠で考えてしまいがちなんですけど、今回はディレクターさんがそこに穴を開けてくれたことで、また違う作風のものをプレゼンできて。結果的にいい作品が作れたと思います。

「好き」だけじゃなくて、「憎い」とか「嫌だ」って気持ちも、一言で言い表せることはできないじゃないですか。(内村)

―タイトルにもなっている「ハレルヤ」という言葉には、どういう意味が込められているのでしょう?

内村:その作品の中には、女の子たちのいろんな「好き」の気持ちがあるんです。たとえば「強いて言えば好きかな」とか、一言で表せないものもあるはずで。そのことを書こうと思ったときに、どの「好き」にも共通しているのは、神様に感謝したくなるような感情だと思ったんです。

江口:宗教っぽいね(笑)。

内村:別に自分は何教でもないんですけどね(笑)。最初にそういうのを書こうと思って書きはじめたときに、サビの頭に「神様」がハマったので、「よっしゃ、サビの1行目はこれで決まったぞ!」と思って書いていたら、神聖な気持ちになったんです。そこからふと「ハレルヤ」という言葉が出てきた感じでした。普段の会話では絶対に使わないけど、そういうことを構築していったら、とても静かな気持ちになったというか。当時、自分の姉が結婚して、一緒に式場を見に行ったことも重なっていたりするのかもしれないんですけど。

左から:内村友美、江口亮

―作品に登場する女の子たちの「好き」っていう気持ちと、ちょっと神聖な気持ちが混ざって、一言で表すと「ハレルヤ」になった?

内村:そんな感じです。「好き」だけじゃなくて、「憎い」とか「嫌だ」って気持ちも、一言で言い表せないじゃないですか。自分の気持ちを正しく表したいときに、「いや、憎いっていうか、別にそんな嫌なわけじゃないんだけど、でも……」みたいな感情だってあるわけで。そのなんとも言えないものを書けるといいなって。

―前のバンドのときから、内村さんは歌詞を論理的に組み立てている印象があるんですよね。

内村:それは性格というか、癖というか……。私のようで私じゃないものを書こうとするから、主人公と私の共有項を探していくうちに、自然と論理的になるのかなとは思います。

新しいサービスが便利だって言って食いついてると、2年後くらいに後悔しそうだし(笑)。

―今作は、収録曲の3曲が全部つながっているようなアレンジになってますよね。これはどういう意図で?

江口:3曲を一括りに「la la larksの2ndシングル」という感じにしたかったんです。そこはやっぱり、自分たちがCD世代というか、作品世代であることもあって。

―せっかくCDを出すなら、1個の作品として聴いてもらえるものを作りたかった?

江口:そういう発言はよくあるじゃないですか。もう言い飽きちゃって(笑)。それより音で体現したほうがいいなと思ったんです。それで、2曲目の最後と3曲目の頭に共通する音をつけて、もともと坂本真綾さんに提供した3曲目の“色彩”も、ただ内村が歌っただけのセルフカバーにならないように、ハモは僕がやったりとか、アイデアを詰め込みました。

―実際、ちゃんと3曲続けて聴いてほしい感じになってますよね。

江口:ありがとうございます。そういうつもりです。CDを買ってほしいです(笑)。

―次はアルバムにも期待してしまうんですけど、この先のビジョンはどう考えているんですか?

江口:このままアルバムに突入できれば、みんなハッピーかなとは思ってますけどね。

内村:地に足つけて活動していれば、そのうち行くべきところに行くんじゃないかなと思うんですよね。

江口:おいしそうなものがあっても、「本当に飲み込んで大丈夫かな?」って考えながら、飲み込んでみたり、失敗したりしていきたいですね。まぁ失敗はないほうがいいですけど。新しいサービスが便利だって言って食いついてると、2年後くらいに後悔しそうだし(笑)。

内村:節操っていうのがあるからね。

左から:内村友美、江口亮

江口:かつて受けたインタビューで、「これからは着うただよ!」って言ってたことがあったみたいで、それは自分としてマジで寒いなと思ったんですよね(笑)。さすがにサービスのインフラの技術は、自分の仕事の範囲ではないじゃないですか。その一線でやるほどの人間ではないので。

内村:もう、ただただ丁寧にいくだけですね。

リリース情報
la la larks
『ハレルヤ』(CD)
価格:1,404円(税込)
VTCL-35205

1. ハレルヤ
2. Q And A
3. 色彩
4. ハレルヤ(Instrumental)
5. Q And A(Instrumental)
6. 色彩(Instrumental)

イベント情報
『la la larks presents「ハレルヤ」Release One-Man』

2015年9月4日(金)OPEN 18:30 / START 19:00
会場:東京都 渋谷 TSUTAYA O-Crest

プロフィール
la la larks (ら ら らーくす)

2012年、各々のバンドで活動をしていた内村友美(School Food Punishment)、江口亮(Stereo Fabrication of Youth , MIM)、三井律郎(THE YOUTH , LOST IN TIME)、クボタケイスケ(Sads) ターキー(GO!GO!7188)で結成。ライブを中心にインディペンデントな姿勢をキープしつつ活動。その傍ら、栗山千明への楽曲提供、AZUMA HITOMIのアルバム『フォトン』において楽曲“東京”のリミックス参加、Spangle call Lilli lineのアルバム『Since 2』にボーカル内村がfeaturing vocalとして参加するなど、活動の幅を広げている。洗練されたサウンド、ドラマチックな楽曲はミュージシャン・クリエイターなど多方面から支持が厚く、注目を集める。2014年6月に1stシングル『ego-izm』(テレビアニメ『M3~ソノ黑キ鋼~』のエンディングテーマ)でCDデビュー。2015年1月には坂本真綾が歌う“色彩”(Fate新作RPG『FATE / Grand Order』主題歌)の作曲・編曲・演奏を手がける。



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