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「悲惨な演劇の状況をぶっ飛ばしたい」中屋敷法仁インタビュー

「悲惨な演劇の状況をぶっ飛ばしたい」中屋敷法仁インタビュー

インタビュー・テキスト
島貫泰介
撮影:高見知香

劇団「柿喰う客」と、それを主宰する中屋敷法仁は、現在の演劇界で1つ抜きん出た存在になりつつあると言えるかもしれない。学生演劇をスタート地点に、小劇場、パルコ劇場などでの演出、そして年末にはアニメ・漫画を原作にした2.5次元ミュージカル作品へも手を伸ばす。個性的すぎる登場人物が織りなすカオスな群像劇は、人間が持つ欲望をあぶり出し、時にそれは神話的なスケールへと物語を広げもする。多くの演劇ファンが「柿喰う客」を支持するのは、演劇という枠組みの中にある可能性をパワフルに押し広げるエネルギーに魅了されるからかもしれない。

さて、来る9月16日から始まる『天邪鬼』は、約1年半ぶりとなる待望の新作である。荒廃した架空世界で無邪気に「戦争ごっこ」に興じる子どもたちの姿を描くそうだ。安倍晋三政権の急進的な政策などによって、にわかに「戦争」や「軍隊」という言葉がリアリティーを持ち始めた今、「柿喰う客」と中屋敷はどのような戦争ごっこを提示しようとしているのだろうか。

「戦争ごっこ」をイチから勉強したい。「どうして人を倒したり、いじめたくなったりするんだろう?」とか、根源的な問いに立ち向かっていけたらと思って。

―1年半ぶりの新作『天邪鬼』を発表される中屋敷さんですが、同作はどのような内容になりますか?

中屋敷:自分の中で演出家と劇作家と「柿喰う客」の劇団代表という3つの人格がバラバラに分かれているので、丁寧に話しますね。今、劇作家の中屋敷くんに新しい戯曲をオファーするのは、演出家・劇団代表の中屋敷くんしかいないんです。本当は『岸田國士戯曲賞』を獲って「これで筆を折ります!」と断筆宣言できれば31歳の中屋敷くん的にかっこ良ったのですが、候補止まりでそれも叶わず、戯曲を依頼してくれる人もいない。もう誰も劇作家としての僕に期待しておらず、期待しているのは自分しかいない。いや、本当は自分も期待してないかもしれない……。

―いきなり、話が重いです(苦笑)。

中屋敷:逆に言えば、オーダーから動き始めるものではなく、本当に自分の劇団でしかやれないことをやるチャンスでもあるので、1年半ぶりに重い筆を上げたという感じです。『天邪鬼』というタイトルですが、そもそも僕自身がすごく天邪鬼な人間なんです。だから今回の作品は、誰にも戯曲を読ませない、上演もしないという前提で書きました。もちろん上演するわけですが、気持ちとしては未発表の戯曲を机の奥から引っ張り出すような感覚でやっています。

柿喰う客『天邪鬼』キービジュアル
柿喰う客『天邪鬼』キービジュアル

―あらすじを読む限りでは、戦争が主題になっていますね。

中屋敷:大人が出てこない話を書こうと思って、『天邪鬼』は子どもによる「戦争ごっこ」を題材にしています。どうやら、どんな国の子どもも、戦争ごっこに相当する遊びをするそうなんですよ。例えばスーパー戦隊とか、仮面ライダーごっこで遊んだ覚えがありませんか? 特に男の子は攻撃衝動を持っていて、それはきっと原始時代の狩猟生活にまで遡れるし、動物であればライオンの親子も擬似的な「狩りごっこ」から狩猟の術を学んでいる。

―たしかに言われてみれば。

中屋敷:でも僕自身は、戦争ごっこをやったことがないんです。なぜかというと、僕はずっと教室の隅っこにいるような、一緒に遊ぶ友だちのいないヤツだったから。だから、今さらこの歳で戦争ごっこをイチから勉強したい。「われわれはどうして人を倒したくなるんだろう?」とか「人をいじめたくなるんだろう?」とか。そういう根源的な問いに立ち向かっていけたらと思って書いてます。

―中屋敷さん、友だちいなかったんですか?

中屋敷:なんでみんなが赤の他人と喋れるのかわからなかったんですよ。保育園からずっと。

―でも演劇ってグループ制作の最たるものです。

中屋敷:演劇だけは別なんです。小学校の学芸会で、『ピーターパン』のフック船長役をやらされたんですよ。そしたら急にみんなが話しかけてくれるようになった。まあ、それは今考えると、話しかけてるんじゃなくて、それぞれの役の台詞を喋っていただけなんですけどね(苦笑)。

―現実と虚構の境界が……(笑)。

中屋敷:稽古が終わると僕の周囲からみんないなくなっちゃうんですけど、学芸会の時間だけはフック船長という居場所が見つかる。だから1年中、学芸会の時間が早く始まればいいなと思っていましたし、もっと言えば学芸会がずっと終わらなければいいなと思っていました。

中屋敷法仁
中屋敷法仁

―押井守監督の『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』(1984年)みたいですね。学園祭前日がループし続けるアニメ映画。

中屋敷:危険思想ですよね。「終わるなよ~終わるなよ~」と、いつも念じていました。まあそれ以来、年に1度の学芸会を生き甲斐にしているヤツというキャラが確立して、音楽の授業とか、国語の朗読とか、人前に出ること全般が好きになったんですが。困るのは小中高の思い出が学芸会しかないんですよね。同窓会に参加しても、運動会とか遠足とかまったく覚えてなくて話が噛み合わない(笑)。

―それで戦争ごっこもやったことがなかった。

中屋敷:それと、僕は生まれてから一度も自分が子どもだと思ったことがないので、いわゆるピーターパン症候群(精神的に大人になれない男性を指す言葉)というものがわからないんです。だいたい子どもって、自分のことを本気で子どもだと思ってないですよね。どこかで「自分は頭いい」と自惚れているし、あくまで大人との比較で自分は子どもだと認識するだけ。ただ逆に考えると、僕がずっと大人の気持ちでいるのは、子どもから抜けられてないだけなのかもしれないと思って。『天邪鬼』が戦争ごっこを扱っている理由は、子どもが子どもの思考のまま突き抜けていったら、どのくらい面白いことが起こるんだろう? というシンプルな興味なんです。劇中で、子どもたちが「このジャングルジムは中東ね!」「じゃあこのシーソーは北朝鮮ということにしよう!」って、ルールを決めるシーンが登場するんですが、そこに政治的な意図は何もない。ただ面白いからやっているだけなんですよ。

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