
『私たちのハァハァ』松居大悟と池松壮亮の親密なライバル対談
- インタビュー・テキスト
- 宇野維正
- 撮影:豊島望
22や23歳くらいのときはかなり焦ってたけど、「もういいかなぁ」って。最近は、自分はもう役者しかできないんだと腹を括っているところがあるんです。(池松)
―本当に普段から頻繁に会っているんですね。
池松:ちょくちょく会っていますね。
松居:多分、僕にとって、仕事以外で一番よく会っている人が池松くん。一緒にやる作品じゃなくても、いろいろ相談にのってもらうし、映画を観に行ったりもするし。
―学年でいうと池松さんが5つ下ですよね? そう考えると、結構な後輩感があると思うんですけど。
松居:自分のほうが結構な先輩のはずなんだけど、あらゆる局面において彼の指示を仰ぐケースが多いですね。逆に池松くんがお兄ちゃん的な存在というか(笑)。
池松:(笑)。一緒にいると楽なんですよ。お互い監督と役者で立場も違うし。そこは松居さんも同じなんじゃないかな。
松居:自分が抱えてる悩みって、なかなか他の人には理解されにくいものだったり、人によっては嫌味に思われたりするようなものかもしれないんですけど、池松くんだと素直に話せるんですよ。彼に話すことで、頭の中が整理されてくるというか、彼がボソっと言い返してくる「これってそういうことなんじゃないの?」という意見が、自分の深層心理を突いてくれるというか。だから、だいたい自分のほうが話してますね。彼はあまり自分の話をしない(笑)。で、25歳になったんだよね?
池松:そう。
―20代も後半に突入して、仕事に対する姿勢が変わってきたところはありますか?
池松:以前と比べて、あんまり焦らなくなりました。22や23歳くらいのときはかなり焦ってたけど、「もういいかなぁ」って。もうちょいのんびりやろうかなって。
松居:そうなんだ。何でそう思ったの?
池松:もともと福岡にいた頃は子役をやりながら、高校時代まで本格的に野球をやっていたんですよね。でも野球に携わる夢を諦めて、映画のために上京して数年経って。最近は、自分はもう役者しかできないんだと腹を括っているところがあるんです。松居さんが25の頃はどうでしたか?
松居:『アフロ田中』で初めて映画を撮ってた時期ですね。うーん、自分が最強になった気分というか、世界が変わるんじゃないかって思ってた(笑)。でも、26になった頃に「あんまり世界って変わらないな」と気づいて(笑)、そして尾崎(世界観)くんとか池松くんとかと出会った。その頃から、自分が信じられる人と一緒に、自分が信じられる作品を作っていこう、自分にできることを一つひとつやっていこうと思うようになりました。そうやって腑に落ちてから、僕もあまり焦らなくなった。でも、尾崎くんは今もメッチャガツガツしてるよね(笑)。
池松:ずーっとしてるね(笑)。
松居:説教とかされるもん。
「あぁ、全員の気持ちがわかるなぁ。全員かわいいなぁ」って、そう思わせてくれるところがこの作品のいいところだと思うんですよ。(池松)
―クリープハイプの尾崎さんを含めて、三人はプライベートでも仕事でも交流があるわけですが、それぞれ監督、役者、ミュージシャンとジャンルは違いつつ、それぞれの作品を観たり聴いたりしているわけですよね。そういうとき、どのように感想を言い合ったりするのかに興味があるんですけど。
松居:池松くんから作品の感想をちゃんと聞いたのは今回の『私たちのハァハァ』が初めてなんですよ。僕も彼の映画や舞台は必ず観ていますけど、これまで、あまり感想を言い合うようなことはなくて。
池松:言わないですね。
松居:尾崎くんとも、基本的にそういうことはあまり話さない。もちろんお互いの作品は意識していると思うけど。
池松:まぁ、三人の性格上、誰かが「あ、終わったな」と感じたら、スッと離れていくだけの話だと思うから。関係が続いているということは、お互いを認め合っているからだろうし。逆に、身内だからこそ厳しい目で見るってことはあると思いますしね。
―そう考えると、普段は表には出さないとしても、その根底では、とても緊張感のある関係なのかもしれないですね。
松居:それに、冷静に判断できないから言わないっていうのもあって。もちろん、友達バイアスみたいなものは抜きに作品を観たり聴いたりしているつもりですけど、それは良くも悪くも絶対影響してきてしまうものでもあるわけだから。正直、特にクリープハイプの作品については、その背景にある尾崎くんの気持ちを勝手に想像しちゃうから、もう客観的に聴けなかったりもします。
―でも、きっとそこには、それぞれ「アイツに恥ずかしくないようなものを作りたい」という思いがあるんでしょうね。
池松:あぁ、そうですね。
松居:それはメッチャあります。
―本作『私たちのハァハァ』に出てくる4人の女の子は、ムードメーカー的存在のさっつん(大関れいか)、思い込みの激しい文子(三浦透子)、すべてを達観しているような一ノ瀬(井上苑子)、実は周りに合わせているだけのチエ(真山朔)と、ちょっと乱暴に分けてしまうと4つのタイプに分かれると思うんですね。松居さんと池松さんは、自分がどのタイプに一番近いと思いましたか?
『私たちのハァハァ』 ©2015「私たちのハァハァ」製作委員会
松居:うーん……。高校生のときはわりとチエっぽいところがあったけど、今は時と場合によって使い分けているような気がするなぁ。
池松:松居さんの中には、4人全員がいると思いますよ。
松居:そっか。うん。そうだね。
『私たちのハァハァ』 ©2015「私たちのハァハァ」製作委員会
池松:僕も、4人全員の気持ちがよくわかるんですよ。これは作品を観た後に松居さんにも伝えたことなんだけど、物語で4人の主要キャラクターを描くってことになると、どうしても「この子はこう」って、登場人物の性格を描き分けていくやり方をしたくなると思うんですね。キャラクターを作るっていうのはそういうことだから。でも、そうじゃなくて、4人を演じた女の子たちが自分の中に持っているものを全部出させて、それによって4人のキャラクターが単純なベクトルに向かっていかない。「あぁ、全員の気持ちがわかるなぁ。全員かわいいなぁ」って、そう思わせてくれるところがこの作品のいいところだと思うんですよ。
作品情報
- 『私たちのハァハァ』
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2015年9月12日(土)からテアトル新宿ほか全国公開
監督:松居大悟
主題歌:クリープハイプ“わすれもの”
音楽:クリープハイプ
出演:
井上苑子
大関れいか
真山朔
三浦透子
クリープハイプ
武田杏香
中村映里子
池松壮亮
配給:SPOTTED PRODUCTIONS
プロフィール
- 松居大悟(まつい だいご)
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1985年生まれ、福岡県出身。劇団ゴジゲン主宰。09年、NHK『ふたつのスピカ』で同局最年少のドラマ脚本家デビュー。12年2月、『アフロ田中』で長編映画初監督。以降、クリープハイプのミュージックビデオから生まれた異色作『自分の事ばかりで情けなくなるよ』(第26回東京国際映画祭正式出品)や、青春剃毛映画『スイートプールサイド』など枠にとらわれない作品を発表し続け、ゴスロリ少女と時代を象徴する音楽で描いた絶対少女ムービー『ワンダフルワールドエンド』は第65回ベルリン国際映画祭ジェネレーション部門に正式出品。今作『私たちのハァハァ』は、ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2015で2冠に輝いた。
- 池松壮亮(いけまつ そうすけ)
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1990年生まれ、福岡県出身。03年、映画初出演となった『ラストサムライ』で注目を集め、『第30回サターン賞』で若手俳優賞を受賞。以降、映画『ぼくたちの家族』、NHK大河ドラマ『風林火山』、舞台など話題作品で活躍。2014年、映画『ぼくたちの家族』や『紙の月』などの演技が評価されブルーリボン賞やキネマ旬報ベスト・テンなど日本の主要映画賞で4つの助演男優賞を受賞。ドラマ『MOZU』シリーズでは双子の殺し屋の役を一人二役で演じ激しいアクションにも挑戦。第39回エランドール賞新人賞も受賞。