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即興ハードコアから現代アートへの転機点 毛利悠子インタビュー

即興ハードコアから現代アートへの転機点 毛利悠子インタビュー

インタビュー・テキスト
杉原環樹
撮影:相良博昭

エリック・サティの“ヴェクサシオン”は、同じフレーズを840回繰り返すだけというクレイジーな楽曲。そこにエラーを持ち込むとどうなるんだろう?

―先ほどもエリック・サティの名前が挙がりましたが、その楽曲に着想を得た初期の代表作『ヴェクサシオン』シリーズも、学生時代の作品ですよね?

毛利:最初のドーム作品を作り終えた後、コンセプトもなく、ただ音を鳴らすだけの作品もどうかと感じはじめて、エラーやバグに関心が移ったんです。私のプログラミングは下手だから、完成だと思って実行しても、エラーがたくさん出てしまう。でも、そんなエラーの質感が面白く感じられて、コンセプトにしたのが『ヴェクサシオン』です。サティの同名曲は、同じフレーズを840回繰り返すだけというクレイジーな楽曲ですが、そこにエラーを持ち込むとどうなるんだろう? と思いついて。当時、サティが周囲で流行っていたので、「このアイデアは早くやらないと誰かが先にやってしまう!」という妙な焦りもあり(笑)、六本木の体育館を貸し切って同級生たちと実演しました。アップライトピアノの弦を思いっきり延ばして、押した鍵盤の振動を離れた体育館の壁でキャッチすることで、同じフレーズを演奏しても変化が生まれる作品です。

―その発展版が、いろんな美術館で展示された『ヴェクサシオン−c.i.p.(コンポジション・イン・プログレス)』(2005年)ですね。

毛利:はい。こちらはサティの“ヴェクサシオン”の楽譜を元にピアノで自動演奏を行い、展示室の環境音も含めてレコーディング。録音された音声データから自動的に楽譜を作り出し、それをもう一度ピアノで自動演奏する……を840回繰り返す作品です(笑)。この作品をきっかけに、山口情報芸術センター[YCAM]やICCなど、美術館での展示をさせていただきました。

『ヴェクサシオン−c.i.p.(コンポジション・イン・プログレス)』(2005年) 山口情報芸術センター[YCAM]展示風景

―そうしたコンピューターを軸にした初期のメディアアート作品から、現在の日用品を使ったインスタレーションへの移行には何があったのですか?

毛利:考え方は特に変わっていないのですが、メディアアートは機材にせよ、制作チームにせよ、とにかくお金がかかるんです(笑)。あと、鑑賞者がコンピューターに対して距離感を抱いていると感じたことも大きかった。「コンピューターのことわかりません」「エラーって何? 怖い」みたいな反応が時々あって。私は「機械が間違いを起こすことの愛らしさ」も面白いと思っていたのですが、そこがちゃんと伝えられているのか疑問に感じることがありました。

―そこで身近な材料を使って、手作業でモノを作り上げる方向に向かった。

毛利:そうです。そうやって作った装置類たちで、2010年に3つのノンプロフィット(非営利)のギャラリーや多目的スペースで立て続けに3回の個展を行いました。無名だった私のわがままをスタッフの方々が楽しんでくださったのを、今でも本当に感謝しています。とにかく自分のやりたいこと、思いついたことを全力で詰め込みました。そうしたら、この3つの個展を大友良英さんがすべて観てくださって、水戸芸術館の展覧会『アンサンブルズ2010――共振』に誘ってくれたんです。これは私も含めて10名の作家やエンジニアが集まって、200個以上の装置を空間に音を鳴らす展示。バラバラな装置がランダムに音を発しているにもかかわらず、会場全体が1つのオーケストラ的空間のように共鳴し合っていて非常に新鮮だったし、自分のやりたいことを美術館でできたという意味でも大きかった。2010年は自分にとってのターニングポイントだったと思います。

3つのノンプロフィット(非営利)のギャラリーや多目的スペースで立て続けに3回の個展を行う(2010年)

―一方で毛利さんのように、いわゆる「現象」を扱う作品には、特有の難しさがあるとも感じます。「ハタキがパタパタしている」「鐘がチーンと鳴っている」「ブラインドが開閉している」という出来事を展示しても、観る人によっては「ただそれだけのこと」に映るのではないか、と。

毛利:最近、そのことをすごく意識していて、作品を通して、ある具体的な歴史やストーリーを浮かび上がらせる手法を試したりもしています。たとえば、『札幌国際芸術祭2014』で展示した『サーカスの地中』もそうです。この作品は2会場で展示されたのですが、その1つの「清華亭」は、明治天皇が北海道を訪れた際の休憩所として建てられた歴史的な建造物。その建物が重層的に持つ意味を、インスタレーションを介して観せることで、鑑賞者の空間に対する経験のかたちを変化させようと試みました。重要なのは「清華亭」を資料的に調べるのではなく、鑑賞者それぞれが自分なりの方法で理解することです。ストーリーと作品を紐づけることで、単なる現象や知識以上の体験を感じてもらえるのでは、と思っています。

―過去のインタビューで、「世界を見る視点を作品化している」とおっしゃられていましたが、それは今の話と関係していますか?

毛利:近いと思います。作品とは、ある一般的な問いに対する特殊な解なのだと考えています。たとえば、これは個別具体的すぎるかもしれませんが、地面にお金が落ちているのを見て、「自動販売機の近くだからか」と気づいたり、ゴミの空き缶を眺めていたら発泡酒の缶が多くて、「この地区は日雇い労働者が多いからか」と気づいたり。そういった細かい経験の積み重ねが、意外と私の作品には詰まっているんです。

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イベント情報

スパイラル30周年記念事業展覧会
『スペクトラム―いまを見つめ未来を探す』

2015年9月26日(土)~10月18日(日)
会場:東京都 表参道 スパイラルガーデン
時間:11:00~20:00
出展作家:
栗林隆
榊原澄人
高橋匡太
毛利悠子
料金:無料

プロフィール

毛利悠子(もうり ゆうこ)

1980年神奈川県生まれ。日用品と機械とを再構成した立体物を環境に寄り添わせ、磁力や重力、光など、目に見えない力を感じ取るインスタレーション作品を制作する。近年の主な展覧会に『ヨコハマトリエンナーレ2014』(横浜美術館、2014年)、『札幌国際芸術祭2014』(清華亭 / チ・カ・ホ、2014年)、『Unseen Existence』(Hong Kong Arts Centre、2014年)、『おろち』(waitingroom、2013年)など国内外多数。2015年春よりアジアン・カルチュラル・カウンシル(ACC)の招聘でニューヨークに滞在

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