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即興ハードコアから現代アートへの転機点 毛利悠子インタビュー

即興ハードコアから現代アートへの転機点 毛利悠子インタビュー

インタビュー・テキスト
杉原環樹
撮影:相良博昭

自然か、人工か、という問い自体、そもそも二項対立ではありえないはず。こういった新しい自然観に、今とても興味があります。

―9月26日から表参道・スパイラルで開催される『スペクトラム―いまを見つめ未来を探す』展では新作展示をされるそうですが、どのような作品になりそうですか?

毛利:私は長いギャラリースペースをまるごと使わせていただけそうなので、そこに使われなくなった街路灯や空き缶を持ち込んで、インスタレーションを作りたいと考えています。最近、私の中で持続したテーマになりつつある「都市鉱山」に沿った作品になりそうです。

『スペクトラム―いまを見つめ未来を探す』展 出展作家:毛利悠子 参考作品『アーバン・マイニング──「春の祭典」のための』(2014)東京芸術劇場ホワイエ Photo:Yohta Kataoka
『スペクトラム―いまを見つめ未来を探す』展 出展作家:毛利悠子 参考作品『アーバン・マイニング──「春の祭典」のための』(2014)東京芸術劇場ホワイエ Photo:Yohta Kataoka

―「都市鉱山」とは、どういったものでしょうか?

毛利:じつは、飲み屋で偶然隣同士になったおじさんが「都市鉱山ビジネス」を経営していて、教えてもらったのがきっかけでした(笑)。(スタジオの素材置き場を案内しつつ)これが大量の空き缶をブロック状に固めたものです。あるいは、いらなくなったケーブルやコンピュータートラッシュの山とか。こういったものを「都市鉱山」と呼んでいます。

空き缶をブロック状に固めたもの
空き缶をブロック状に固めたもの

―毛利さんにとって「都市鉱山」とは、ふだん見過ごしている人工物そのものを具体的に示す言葉なんですね。

毛利:去年、青森に行った際、廃品の集積場になった山と、樹木の生い茂った普通の山の間に挟まれた道を通ったのですが、「自分たちにとっての自然(ネイチャー)とは、どっちなんだろう?」と考えさせられたんです。で、東京に帰ってきて「今、街中の古い街路灯をめちゃくちゃ切っているんです」というおじさんの話を聞いたとき、それはもはや林業みたいなものなんじゃないかと感じたわけです。むしろ、どれだけ伐採しても次から次へと生まれてくる廃品のほうが、今のわれわれにとっては「自然」なんじゃないか、と。

―たしかに資源を伐採しているわけですもんね(笑)。展覧会全体のテーマである「スペクトラム(情報を成分に分解し、一定のルールに従ってグラデーション配列したもの)」についてはいかがですか?

毛利:さっき話していた「ゴミ」と「資源」の境界の曖昧さも、一種のスペクトラムなのかな、と。自然か、人工か、という問い自体、そもそも二項対立ではありえないはずですよね。自然はどこまでも人工的であり、人工物はいつの間にか自然と化している。私はいつも、この二項のあわいの問題に向かってきたつもりです。これはおそらく新しい自然観であって、今とても興味があります。広い展示スペースを与えてもらったので、大きな規模の作品にしたいと思います。

『スペクトラム―いまを見つめ未来を探す』展 出展作家:榊原澄人 参考作品『Solitarium』(2015)イメージドローイング
『スペクトラム―いまを見つめ未来を探す』展 出展作家:榊原澄人 参考作品『Solitarium』(2015)イメージドローイング

ジャーナリストになりたいわけではないですが、さまざまなレイヤーから身のまわりの環境を見ることは大事だと思います。

―都市ということでは、ニューヨークと東京で、どんな違いを感じましたか?

毛利:ニューヨークの面白さはたくさんありますが、その1つはあちこちにインベンション(発明)があること。各部屋の暖房を一元管理するセントラルヒーティングや、それと連動したスチーム用の地下パイプなど、日本にはないシステムがたくさんある。だけど一方で、いまだに木の電信柱は立っているし、道路もボコボコだし、19世紀の建物も残っている。もちろん地震が少ないという「理由」があるんですけど、エレベーターのメンテナンスが行き届いておらず、フロアと少しズレて止まったりするのは、日本人の感覚からすると怖いですよね。詳しくは、「boidマガジン」に連載していたエッセイを読んでいただければ幸いです(笑)。

『スペクトラム―いまを見つめ未来を探す』展 出展作家:高橋匡太 参考作品『ライティングプロジェクション』(2013)豊田市美術館 Photo:Seiji Toyonaga
『スペクトラム―いまを見つめ未来を探す』展 出展作家:高橋匡太 参考作品『ライティングプロジェクション』(2013)豊田市美術館 Photo:Seiji Toyonaga

『スペクトラム―いまを見つめ未来を探す』展 出展作家:栗林隆 参考作品『INVISIBLE』(2013)Chelsea College of Art and Design, London UK
『スペクトラム―いまを見つめ未来を探す』展 出展作家:栗林隆 参考作品『INVISIBLE』(2013)Chelsea College of Art and Design, London UK

―ニューヨークでは機械仕掛けな部分がむき出しになっているんですね。東京でエレベーターに乗っていても、良くも悪くも機械の中にいることはあまり意識されません。その漂白された経験が、ニューヨークでは露出している。

毛利:そうだと思います。たとえば、ゴミの処理技術にしても、日本は非常に高度に発達していると「夢の島」(東京都江東区のゴミ埋め立て地)を見学してわかりました。夢の島の近所の人たちは長年、ゴミ処理場の悪臭に悩まされていたのですが、2001年くらいを境に明らかに臭いが減っているそうです。そういった、大量のゴミを土台として新たに埋め立てられた、いまだに番地も丁目も与えられていないアノニマスな場所が、『東京オリンピック』の会場になるというから驚きです。

―都市の表層だけを見ていたら、無機質な世界で快適に暮らしているようですが、実際には先ほどの都市鉱山の話も含め、膨大な物のサイクルや連鎖で都市が動いている。

毛利:このテーマは掘ろうと思えば、まだまだ掘れると思います。ジャーナリストになりたいわけではないのですが、さまざまなレイヤーから身のまわりの環境を見ることは大事ですよね。今回の展示も、そうした1つの視点を感じてもらえるものになればうれしいです。私も、この作品の可能性を、もっと踏み込んで考えをめぐらせているところです。

―ニューヨークでは展示もされたんですか?

毛利:グループ展に参加しました。街で集めた「モノ」で小さな装置をいくつか作って展示したのですが、面白い反応をたくさんいただけて。向こうの鑑賞者からすれば観たこともない種類の作品だったらしく、「なんでこういうことを思いついたの?」と。基本的に私の作品を肯定的な意味で「ナンセンス」だと思って観てくれたようですが、そういった思わぬ反応が心地良かったりもしました。一方で来年、ニューヨークのギャラリーで展覧会を行う予定なのですが、いつまでも「ナンセンス」と思われていても仕方ないので、作品の基盤にある考えを理解してもらうための文脈を作りなおす必要性も感じました。そう思うに至ったことが、今回の滞在の大きな収穫です。

―それが直近の課題になりそうですね。

毛利:すくすく作品を作っていくためには、ときに覚悟を持って文脈を作り出さないといけない。何年かかるかわかりませんが、これから先、のびのびとやるためにも、責任をとらなければいけない時期なのだと思っています。

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イベント情報

スパイラル30周年記念事業展覧会
『スペクトラム―いまを見つめ未来を探す』

2015年9月26日(土)~10月18日(日)
会場:東京都 表参道 スパイラルガーデン
時間:11:00~20:00
出展作家:
栗林隆
榊原澄人
高橋匡太
毛利悠子
料金:無料

プロフィール

毛利悠子(もうり ゆうこ)

1980年神奈川県生まれ。日用品と機械とを再構成した立体物を環境に寄り添わせ、磁力や重力、光など、目に見えない力を感じ取るインスタレーション作品を制作する。近年の主な展覧会に『ヨコハマトリエンナーレ2014』(横浜美術館、2014年)、『札幌国際芸術祭2014』(清華亭 / チ・カ・ホ、2014年)、『Unseen Existence』(Hong Kong Arts Centre、2014年)、『おろち』(waitingroom、2013年)など国内外多数。2015年春よりアジアン・カルチュラル・カウンシル(ACC)の招聘でニューヨークに滞在

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