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八代亜紀が語る、ホステスや罪人の哀しみも支えてきた歌手人生

八代亜紀が語る、ホステスや罪人の哀しみも支えてきた歌手人生

インタビュー・テキスト
武田砂鉄
撮影:中村ナリコ
2015/10/27

自分で「大スター」って言う人は「小スター」よね(笑)。私はたくさんの大スターから愛をもらってきました。

―売れなかった時期を打破したのが1972年、『全日本歌謡選手権』で10週勝ち抜きチャンピオンに輝いたことでした。

八代:逃げてたまるか、という気持ちで挑んでいましたね。でも、若者なりにけじめはつけなければいけない、という思いもありました。『全日本歌謡選手権』は、10週勝ち抜いて初めてグランプリです。80点以上取らないと勝ち抜けできず、その点に達しなければ合格者がゼロになることもある。こうなるともう、他人との戦いではないんです。私は一応プロ歌手でしたが、アマチュアと同じ土俵に立ちますから、ここで落ちたら救いがありません。最後まで勝ち抜けなかったら「八代亜紀」を捨てる覚悟でした。

―見事勝ち抜き、レコードも売れ始めます。

八代:“なみだ恋”がヒットした頃(1973年)は、徐々にアイドルの時代になってきていました。みんながルンルンとミニスカートを履いている時代に、八代亜紀はドレスを着て「夜の~」と歌ってました(笑)。当然、「あの娘、自分だけ売れてのぼせてない?」なんて言われるわけ。でも私、「それって、褒められてない?」って思うことにしたのね。私はのぼせてなんかいない、幸せだったから笑ってただけなの。でも、それが気に食わなかったのね。「こうなったら、いつまでも売れていよう」と心に決めました。

八代亜紀

―以前のインタビューで、若い人にプレッシャーを与えるような存在であってはいけない、と語られていました。このときに自分が受けた仕打ちを反面教師にされてきたのでしょうか。

八代:もちろんです。震えている後輩がいたら、背中をさすってあげる、これが私の生き様なんです。ありがたいことに今、若い歌手のみなさんは、「番組の共演者リストに、八代さんの名前があると安心します」なんて言ってくれるの。

―ご自身が石原裕次郎さんや高倉健さんなど、「大」のつくスターと共に仕事をされてきたことも大きいのでしょうね。大スターの共通項とは何でしょう。

八代:大スターは威張らないの。人が歩いているところに、決して足を出さない。

―「小スター」は?

八代:自分で「大スター」って言う人は「小スター」よね(笑)。そういう人は、足をポンって出すのね。そして、それにつまずいてコケた人を見て喜んでるの。絶対にこういう人になってはいけません。健さん、裕次郎さん、吉永(小百合)さん、王(貞治)さん、長嶋(茂雄)さん……私はたくさんの大スターから愛をもらってきました。

初めて女子刑務所への慰問に行ったとき、私は歌えませんでした。こちらも涙がこみあげてきて、なかなか歌えない。

―大きな転換点としてはやはり阿久悠さんが作られた“舟唄”ですね。歌詞を渡され、最初の2行を見ただけで「売れる」と思われたそうですね。

八代:<お酒はぬるめの 燗がいい / 肴はあぶった イカでいい>この2行を読んですぐに情景が浮かびました。レコード会社の方が阿久先生にお願いしに行ったとき、「阿久先生の世界観で女心を描いて欲しい」と言ったそうなんです。阿久先生は女心を何十曲と書かれたのですが、レコード会社の社長が「これじゃないです」「こういう曲はすでにあります」って何度も断っちゃった。そしたら、阿久先生が気分を害されて(笑)、「これはどうだ!」と出されたのが“舟唄”だったんです。寒い港町に旅行に行った男の歌、彼女を残して旅をする男が、知らない酒場で飲んでいる……。

―その情景は、ご自身が育ってきた光景とは全く違いますね。

八代:でもね、メロディーと詞が、自然に導いてくれたのね。そのまま歌えば良かったの。

―八代さんは、ご自分のことを「表現者ではなく代弁者だ」とよくおっしゃっています。とても印象的です。

八代:そう、私の歌は「代弁」なんです。「私と境遇が似ている。よし、頑張ろう」と思ってもらいたいし、「自分が幸せだってことを忘れていた。この幸せを大事にしなきゃ」とも思ってもらいたいんです。

八代亜紀

―幼少の頃、お父さまがホームレスの方を家に連れてきたそうですね。社会的に弱い立場に置かれている人たちに対する眼差しは、お父さまから学んだのですか。

八代:小学校の頃、知らないおじさんが1か月家にいましたが、父はごく自然に連れてきたんです。私は、「親戚かな?」と思って、毛布をおじさんにかけてあげたりしていたの。あとでお父さんに聞いたら「寒い中外にいたから連れて来たんだ」なんて言う。それは、決してボランティア精神ではないの。うちではそれが当たり前だった。いなくなった後で「あの人はどうしたの?」って父に尋ねたら、「住みやすいところに戻ったんだよ」って言ってましたね。

―八代さんが女子刑務所への慰問を長年続けてこられたことも、幼少期のそういった体験と無関係ではないのでしょうか。

八代:そうですね。でも、初めて女子刑務所に行ったとき、私は歌えませんでした。サンダルを履き、番号で呼ばれる彼女たちが、私を一目見て嗚咽している。こちらも涙がこみあげてきて、なかなか歌えない。初回は散々でしたけど、感情移入しているだけではいけない、それよりも支えることを徹底しないと、と思い直しました。

―長く慰問を続けていて気付かされることはありますか。

八代:慰問を始めた当初は、8割方の女性が、何がしか男性に騙されて捕まった人でした。生活苦とか、旦那さんからの暴力に耐えられなくて、とかね。残りの2割は本当に悪い人(笑)。でも、慰問を重ねていくにつれ、最近ではそれが半々になってきたのね。

―自発的な犯罪が増えてしまったということでしょうか。

八代:残念ながらそういうことなのね。でも、誰もが背中合わせなのかもしれない、とも思う。そういう状況の中で事件を起こしてしまった女性の支えになりたかったの。だって、私は歌を通して、切実な生活苦や、男性関係のわだかまりを歌い上げてきたのですから。

―みなさん、八代さんの歌に自分を投影されるわけですね。

八代:私が刑務所で歌うと、みなさん号泣されます。だから、私、必ず言うんです。「頑張って卒業してね。八代亜紀は全国各地でコンサートをしているから、卒業したら必ず訪ねてらっしゃい」って。

―実際に訪ねて来られる方もいらっしゃるそうですね。

八代:そうですね。1度、おばあちゃんが孫をおんぶしてやってこられました。そしたら、そのお孫さんのお母さんが言うの、「無事に卒業しました」と。「頑張るんだよ」と声をかけましたね。

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リリース情報

八代亜紀『哀歌-aiuta-』(CD)
八代亜紀
『哀歌-aiuta-』(CD)

2015年10月28日(水)発売
価格:3,240円(税込)
COCP-39274

1. St.Louis Blues
2. The Thrill Is Gone
3. 別れのブルース
4. フランチェスカの鐘
5. Give You What You Want
6. ネオンテトラ
7. 命のブルース
8. The House of the Rising Sun
9. 夢は夜ひらく
10. Bensonhurst Blues
11. あなたのブルース
12. Sweet Home Kumamoto

イベント情報

『AKI YASHIRO "aiuta" Special Night』

2015年11月17日(火)
[1]OPEN 17:00 / START 18:30
[2]OPEN 20:15 / START 21:30
会場:東京都 表参道 Blue Note Tokyo
料金:8,500円

プロフィール

八代亜紀(やしろ あき)

熊本県八代市出身。1971年デビュー。1973年に出世作“なみだ恋”を発売。その後、“愛の終着駅”“もう一度逢いたい”“舟唄”等、数々のヒットを飛ばし、1980年には“雨の慕情”で日本レコード大賞・大賞を受賞する。また、画家としてフランスの由緒ある『ル・サロン展』に5年連続入選を果たし、永久会員となる。近年では、メタルフェス出演、『京都音楽博覧会』への出演、学園祭にて学生ビッグバンドとのコラボレーションなども果たす。2015年10月28日、寺岡呼人プロデュースのブルースアルバム『哀歌-aiuta-』をリリース。

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