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「世界の音楽を破壊する」妄想から生まれた「ゾンビ音楽」とは

「世界の音楽を破壊する」妄想から生まれた「ゾンビ音楽」とは

『フェスティバル/トーキョー15』
インタビュー・テキスト
島貫泰介
撮影:相良博昭

ポイントになるのは、ゾンビ音楽の「できてなさ」です。うまく音が出なかったり、誤作動したり、一種のノイズが発生したとき、そこに「キャラクター」が宿る。(危口)

―先ほどの渡邊さんと危口さんからのコメントを踏まえていかがですか? 安野さん。

安野:う~ん。うまく回答できないかも……。

―2013年のトーキョーワンダーサイト渋谷での単独公演も取材させていただき、「ゾンビ音楽の音色は、ヘロヘロでしょぼい」と書きました。でも、それこそ「面白い / 面白くない」という基準で物事をジャッジしているのと同じことで……。

安野:そうそう。「ヘロヘロになる」って表現は、ヘロヘロじゃない音楽を基準にしているだけで、完全に西洋音楽の耳で聴いちゃっているんですよ。それが必ずしも正しいとは言えないはずでしょ。

安野太郎

危口:安野さんのこの論法にいつも混乱させられるんです(笑)。

安野:とはいえ、結局聴くのは人間ですからね。人の価値観に基準があるのはしょうがない。それはよくわかっています。それに、ゾンビ音楽をはじめた動機も、じつは人間的で素朴な理由だったという自覚もあるんです。コンロン・ナンカロウっているじゃないですか。

渡邊:アメリカ生まれでメキシコに亡命した作曲家です。プレイヤーピアノ(自動ピアノ)で作曲し続けた。

安野:人間には演奏できない高速スピードの音楽を一人で孤独に作り続けたような人。「メキシコで作曲やるぞ!」って言っても、現代音楽のメインストリームではない国だし、一流の演奏家もほとんどいない。そんな環境に死ぬまで籠ってわけのわからない曲を作っていたコンロンの人生に、今の僕が置かれている状況をどうしても重ねちゃうんですよ。自分の曲を演奏してもらうにはプレイヤーのスケジュールを押さえないといけないし、ギャラも払わないといけない。でも、僕にはそうやって大人数とチームワークを構築していく環境がなかったから、完全に僕の命令を聞くうえに、今までの音楽のルールとは全然違うものを実現してくれる機械を自分の手で作ることを選択した。実も蓋もないけど。

―コンロンがメキシコに亡命したのも、スペイン内戦時に共産党に入党したせいでアメリカへの帰国を拒否されたからだそうですね。複雑なバックボーンを背負ったうえで自分の音楽を続けた人で、信念の人だとは思うけれど、やっぱり変人っぽい。

安野:僕はゾンビ音楽をやっていると、悪の帝王みたいな気分になることがあります。世界中にゾンビ音楽を広めて、すべての音楽をゾンビ化してやりたい(笑)。ゾンビ音楽は二進法の原則に従ってプログラミングされている(笛の穴を押さえる、外す)ので、すべての音楽を0と1に還元する。

渡邊:「世界すべてを0と1にしてやろう……!」というのが、悪の帝王からのメッセージですね。それは本当に考えるだけで恐ろしいことです。どっちつかずの部分や、あわいの世界がないのですから。

危口:でも、そのときポイントになるのは、ゾンビ音楽の「できてなさ」ですよね。0と1のデジタル的世界かと思いきや、うまく音が出なかったり、誤作動したり、一種のノイズが発生する。僕はそこにこそ「キャラクター」が宿るのだと思います。

左から:渡辺未帆、危口統之

―洗練された完璧な機械より、レトロな佇まいがある、ちょっとマヌケな機械のほうが、たしかに愛着がわきます。

危口:性能が十全に発揮された状態から、マイナスαするとき、マイナスされた部分からキャラが立ち上がっていく。今回使うルンバなんか特に顕著で、企業が作った大量生産のプロダクトなのに、一個一個キャラが立っていて、違いが現れる。

―使っている人間の側に愛着が宿るということですか? ポチとかシロとか名前を付けてしまったり。

危口:たとえば、何の因果かわからないけど、やたら熱心に掃除するルンバもいれば、すぐに充電しに帰るルンバとかも現れるんですよ。そこで僕らは「あいつはのび太で、こいつはスネ夫」みたいな目で見はじめちゃうんですね。個々の機械の「できてなさ」が、愛おしさをこちらにもよおさせる理由は、演劇的な目から見ても面白いんです。

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イベント情報

『フェスティバル/トーキョー15』

2015年10月31日(土)~12月6日(日)
会場:
東京都 東京芸術劇場、あうるすぽっと、にしすがも創造舎、アサヒ・アートスクエア、池袋西口公園、豊島区旧第十中学校
埼玉県 彩の国さいたま芸術劇場
ほか

ゾンビオペラ『死の舞踏』
2015年11月12日(木)~11月15日(日)
会場:東京都 西巣鴨 にしすがも創造舎
コンセプト・作曲:安野太郎
ドラマトゥルク:渡邊未帆
美術:危口統之

『フェスティバルFUKUSHIMA!@池袋西口公園』
2015年10月31日(土)、11月1日(日)
会場:東京都 池袋西口公園
総合ディレクション:プロジェクトFUKUSHIMA!、山岸清之進

SPAC - 静岡県舞台芸術センター
『真夏の夜の夢』

2015年10月31日(土)~11月3日(火・祝)
会場:東京都 西巣鴨 にしすがも創造舎
演出:宮城聰
作:ウィリアム・シェイクスピア『夏の夜の夢』(小田島雄志訳)より
潤色:野田秀樹
音楽:棚川寛子

アジアシリーズ vol.2 ミャンマー特集
『ラウンドアバウト・イン・ヤンゴン』

2015年11月13日(金)~11月15日(日)
会場:東京都 浅草 アサヒ・アートスクエア
構成・出演:ティーモーナイン
演出・出演:ニャンリンテッ
音楽・出演:ターソー

地点×空間現代
『ミステリヤ・ブッフ』

2015年11月20日(金)~11月28日(土)
会場:東京都 西巣鴨 にしすがも創造舎
作:ヴラジーミル・マヤコフスキー
演出:三浦基
音楽:空間現代

『ブルーシート』
2015年11月14日(土)、11月15日(日)、12月4日(金)~12月6日(日)
会場:東京都 江古田 豊島区旧第十中学校
作・演出:飴屋法水

『God Bless Baseball』
2015年11月19日(木)~11月29日(日)
会場:東京都 池袋 あうるすぽっと
作・演出:岡田利規

富士見市民文化会館 キラリふじみ『颱風奇譚』
2015年11月26日(木)~11月29日(日)
会場:東京都 池袋 東京芸術劇場 シアターイースト
作:ソン・ギウン
演出:多田淳之介

『地上に広がる大空(ウェンディ・シンドローム)』
2015年11月21日(土)~11月23日(月・祝)
会場:東京都 池袋 東京芸術劇場 プレイハウス
作・演出・美術・衣裳:アンジェリカ・リデル(アトラ・ビリス・テアトロ)

パリ市立劇場『犀(サイ)』
2015年11月21日(土)~11月23日(月・祝)
会場:埼玉県 彩の国さいたま芸術劇場 大ホール
作:ウジェーヌ・イヨネスコ
演出:エマニュエル・ドゥマルシー=モタ

ギンタースドルファー/クラーセン
『LOGOBI 06』

2015年11月26日(木)~11月29日(日)
会場:東京都 浅草 アサヒ・アートスクエア

ゲーテ・インスティトゥート韓国×NOLGONG
『Being Faust - Enter Mephisto』

2015年11月19日(木)~11月22日(日)
会場:東京都 池袋 東京芸術劇場 シアターイースト
構成:ピーター・リー

プロフィール

安野太郎(やすの たろう)

作曲家。1979年生まれ。日本とブラジルのハーフ。DTMやエレク卜口サウンドとしてのコンピューターミュージックとは異なる軸でテクノロジーと向き合う音楽を作ってきた。代表作に『音楽映画』シリーズ、『サーチエンジン』(『第12回文化庁メディア芸術祭』)、『ゾンビ音楽』(『第17回文化庁メディア芸術祭』)、ゾンビ四重奏『Quartet of the Living Dead』(『第7回JFC作曲賞』)、CDアルバム『デュエット・オブ・ザ・リビングデッド』『カルテット・オブ・ザ・リビングデッド』(『第69回文化庁芸術祭レコード部門』)等がある。現在、日本大学藝術学部非常勤講師、研究員。

プロフィール

渡邊未帆(わたなべ みほ)

東京藝術大学大学院音楽研究科博士後期課程修了。ラジオ番組制作、雑誌や書籍の編集、執筆など。『F/T14』では『春の祭典』の音楽ドラマトゥルクを務めた。現在、早稲田大学非常勤講師。

プロフィール

危口統之(きぐち のりゆき)

悪魔のしるし主宰、演出家。1975年倉敷市生まれ。横浜国立大学工学部卒。在学中に演劇活動を開始するも卒業後ほどなくして停止、以後建設作業員として数年暮らす。2008年頃から活動再開、演劇その他を企画上演する集まり「悪魔のしるし」を組織し現在に至る。2014年度よりセゾン文化財団シニアフェロー。主な作品に『搬入プロジェクト』『わが父、ジャコメッティ』など。

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