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40歳になっても惑う原田郁子 「大人も悩んで当然だと思う」

40歳になっても惑う原田郁子 「大人も悩んで当然だと思う」

『物語の生まれる場所 at 銀河劇場 vol.2』
インタビュー・テキスト
柴那典
撮影:豊島望

誰かに作れと言われたわけじゃなくて、自分たちのための曲が欲しかったのかもしれない。

―音楽を一緒にやるようになったのはどういうきっかけだったんでしょう?

原田:エリーは子どもの頃にバイオリンを弾いていて、もうずいぶん弾いてなかったみたいなんですけど。U-zhaanに「なんか弾いてみなよ」って言われて、タブラとバイオリンでセッションすることになって、アドリブっていうものを初めてやったみたい。何を弾いていいかわからないから、ずっと「シ」の音だけ弾いてたって(笑)。でもそれが面白かったんだって。そこから少しずついろんな人と共演するようになって、彼女が渋谷のWWWで始めた『大宮エリーの挑戦』というイベントに呼んでもらったんです。それが2012年。まだまだ震災の後の緊張の中で。時々会う友達でも良かったんですけど、二人で“変わる”という曲を作れたときに、一線を越えた感じがありますね。その曲ができたときのことを今も覚えていて。

―どんな感じだったんですか?

原田:『大宮エリーの挑戦』に出ることになったときに、私は小淵沢にある、クラムボンがいつも使っているスタジオに曲作りに入っていたんです。時間が空いたらエリーもスタジオに来て一緒に何かやらない? と言ったら、彼女は仕事を終えてから来てくれたんですよね。また当然のようにヘトヘトだったので、ひとまず温泉でも行こうということになって(笑)。エリーという人が面白いのは、イベントの出演を依頼したにもかかわらず、私が何をやっているか全然知らなかったんですよ。「クラムボンってどういう曲やってるの?」「みんなが知ってそうな曲ってどれ?」と聞かれて「えっと、“サラウンド”かなあ?」とかいろいろ説明したら、iTunesでその場で曲を買ってくれたりして(笑)。

―それくらい前知識が何もなかったんですね(笑)。

原田:翌朝エリーは帰らなきゃいけなかったので、私はこのタイミングで曲ができなくてもいいかなと思ったんですけど、彼女は「いやいや、せっかく来たんだから1曲作ろうよ」と言って、いきなりノートパソコンで文章を書き始めたんです。それがものすごい集中力と瞬発力だったので、落ち着くまでそっとしておいたんですね。しばらくして「ちょっと見てほしい」と言われて、それを見たら“変わる”の歌い出しの「変わるって決めた、その瞬間から、変わりはじめていたんだ」という文章がメロディーみたいに聞こえたので、「あ、できるかも」と思って、私もそのままピアノに向かったんです。

―譜面を書いたりはせずに?

原田:はい。そんな経験したことなかったんですけど、勝手にメロディーが出てきました。聴きながら、エリーは私の足元で犬みたいに「くう」って寝ちゃって。で、「できたかも」と思ってパッと見たら、エリーは起きてて、聴きながら泣いていて。私も歌いながら泣いてて(笑)、こんな風に涙が出るみたいに曲ができるんだって、ビックリしましたね。「これはきっと自分たちにとってすごく必要なんだろうな」と思った。誰かに作れと言われたわけじゃなくて、自分たちのための曲が欲しかったのかもしれないなって。

不器用なりに必死でやっている。そういう人たちが、ほんのちょっとだけ楽に生きられたらいいなと。

―リリースや締切みたいなものとは全く関係なく曲ができた。

原田:そういう中で作る場はそれぞれ持っているから。それはそれで命がけでやっているんだけど、この曲はもっと、内側のところからぽつんと出てきた感じで。「何だろうな」と。『大宮エリーの挑戦』で演奏したときの空気もすごく良くて「あぁ、大事にしなきゃいけない曲だな」と思いました。

―大事にしなきゃいけない、というと?

原田:反応もあったし、音源化してほしいという声も多かったんですけれど、私は「もっと熟すのを待ったほうがいい」と思ったんですよね。エリーには「え? 何で? 何で出さないの?」と言われたんですけど、「変わる」って歌うからにはね、何度もライブでやってみて、いろいろなことが起きていく中で、自分たちも変化していって、そういう時間が含まれたらいいじゃないかって。じゃないと、願望で終わってしまいそうだったから。

―そうやって“変わる”という曲ができたことで、最初は単なる友達だった二人が、コラボレーションの相手になった。

原田:うーん、でも、コラボレーションって言うのかどうかも自分ではわからなくて。みんなが、ほんのちょっとでもいいから生きやすくなったらいいなって、ただただ思っているんですよ。彼女に対してもそう。器用に見られているけれども、実は不器用で、不器用なりに必死でやっている。そういう人たちが、ほんのちょっとだけ楽に生きられたらいいなと。二人の共作としては、“変わる”のあとに“つぼみ”と“きどく”という曲ができて、それをこの前ようやく小淵沢で録音したんです。3年たって、時間をかけただけの音が録れたなと思っていて、どうやってパッケージにしようかと考えているところに、今回の銀河劇場の話がやってきた。

『物語の生まれる場所 at 銀河劇場 vol.2』チラシビジュアル
『物語の生まれる場所 at 銀河劇場 vol.2』チラシビジュアル

―なるほど。だから大宮エリーさんも「これはやるしかない!」と思ったんでしょうね。劇場ロビーでは、手作業で作られたクリスマスカラーの巾着袋に封入されたCDも限定販売されていました。これはどういう意図で制作したんでしょう?

原田:クラムボンの武道館シングルや、今まわっている会場限定販売ツアーとも同じ流れにある話なんですけど、流通を通さないで会場に来てくれた方に直接販売できるということは、パッケージもできることの幅がぐんと広がるわけで。パッと思ったのは、クラスで授業中こっそり手紙がまわってきたみたいな、ちっちゃいもの。せっかくクリスマスに時間をとって来てくださるなら、冷たいものよりあったかいもの。だったら、レコーディングで最初に録ったtake1を1曲だけ、たった1曲だけ、お守り袋みたいに1枚ずつ袋に入れて作れないかな、と思いまして。まずエリーに盤面と表紙の花の絵を描いてもらって、そこからは手分けして、ミシンがけからリボン結びからすべて手作業でやりました。

『変わる』パッケージ制作風景
『変わる』パッケージ制作風景

『変わる』パッケージ制作風景
『変わる』パッケージ制作風景

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イベント情報

『物語の生まれる場所 at 銀河劇場 vol.2』
『物語の生まれる場所 at 銀河劇場 vol.2』

『言葉と音楽 そして、クリスマスソング』
2015年12月24日(木)OPEN 18:00 / START 19:00
会場:東京都 天王洲 銀河劇場
出演:
大宮エリー
原田郁子
芳垣安洋
高良久美子
鈴木正人

『言葉と音楽 そして、ライブペインティング』
2015年12月25日(金)OPEN 18:00 / START 19:00
会場:東京都 天王洲 銀河劇場
出演:
大宮エリー
原田郁子

プロフィール

原田郁子
原田郁子(はらだ いくこ)

1975年福岡生まれ。1995年「クラムボン」を結成。歌と鍵盤を担当。ソロ活動も行っており、2004年に『ピアノ』、2008年に『気配と余韻』『ケモノと魔法』『銀河』のソロアルバムを発表。2010年5月には、妹らと吉祥寺に多目的スペース「キチム」をオープンさせる。昨年で結成20周年を迎えたクラムボンは、メジャーレーベルを離れ、自身のレーベル「トロピカル」よりツアー会場でのみ販売されるミニアルバムを発表予定。新曲を生演奏し、可能な会場すべてでサイン会を行う初の完全「手売りツアー」(全国27公演)開催中。

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