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40歳になっても惑う原田郁子 「大人も悩んで当然だと思う」

40歳になっても惑う原田郁子 「大人も悩んで当然だと思う」

『物語の生まれる場所 at 銀河劇場 vol.2』
インタビュー・テキスト
柴那典
撮影:豊島望

エリーは、「寂しい」っていう感覚を、違うものに変換するようなことをずっとやっているんじゃないかな。

―大宮エリーさんとは普段の悩みや本音を話せる間柄と言っていましたが、学生時代からの友達ならまだしも、30歳を超えて知り合った同士がそんな関係になるのって、珍しいですよね。

原田:そうかな。なんか、放課後っぽいんですよね。違う学校に通ってるんだけど、学校終わってから、たまに遊んだり、愚痴ったり、ダラダラしたりしてるような。

―なるほど。

原田:私もエリーも、人と群れるのがあんまり得意じゃなかったから、そういう友達同士の楽しさを逃してきちゃってるようなところがあって。彼女の『物語の生まれる場所』に出てくる短編を読むと、普通は主人公にならないような主人公がたくさん出てくるんですよね。夜中の冷蔵庫とか、ボールペンとか、マグカップとか。“つぼみ”という曲になった<咲かないつぼみもあるんだよ>という文章も、読んだときにハッとしたんです。

―大宮エリーさんの物語は、普段はひっそりとしているものや目につかないものが主役になる話が多いですよね。原田さんはそれをどんな風に捉えていますか?

原田:うん、彼女はよくしゃべるし、頭もキレるし、言葉も巧みだし、それこそいろんなジャンルでいろんな人と絡んできたから、「マルチ」みたいなイメージもあると思うんですけど。ベースにあるのは「孤独」だと思う。だから、どんな表現方法でも、彼女の作るものは、誰かの孤独に向かって話しかけていて、寂しいっていう感覚を、違うものに変換するようなことをずっとやっているんじゃないかなと思うんですよね。

もういよいよ子どもじゃないから、大人でいないといけない場面も多々あるけど、そればかりだとしんどいよね。

―大宮エリーさんは「二人とも今年で40歳になった女同士で何かやろうよ、というところから今回の話が始まった」とコメントされていました。郁子さんにとって40歳という年齢は、自分がかつて10代、20代の頃に思い描いていたものと比べてどうですか?

原田:うん、もう若くはない(笑)。でも、じゃあ20代に戻りたいかと聞かれると、まったく戻りたくはない。ずっともどかしかったから。中途半端な自分が。だから、本音を言うと、早く60代ぐらいになりたい。「40かあ」ってびっくりすることもあるけど、「いや~、まだまだ中途半端」とも思う。30代はけっこうキツかったんですよね。女の人は厄年が2回来るんですけど、ほんとにガクッと体と精神のバランスが崩れた。だから今はそこをくぐりぬけて、やっと40代っていう気持ち。バンドマンがいつか皺くちゃのじいさんばあさんになって、まだやってるとしたら、どういう感じなの? ってワクワクしますよね(笑)。誰に聞けばいいのかわからないし、前例がないしね。クラムボンっていうのは、そのくらいのスパンで、元気である限り、やっていくんだろうなと思うから。

―でも“変わる”のような曲を聴くと、まだまだ揺れ動いている感じがしますよね。よく「40にして惑わず」という『論語』の表現を引用して、40歳のことを「不惑」と言ったりしますけど、むしろ40歳になっても惑っている。

原田:うん、惑う、惑う。惑うようなことが、じゃんじゃんやってくる。「トホホ」とか「あちゃー」とか「がびーーん」ってことが相変わらずありますね……。昔の人の40代と今はまた違うと思うけど、幾つになっても、迷ったり悩んだりし続けるんじゃないかな。もういよいよ子どもじゃないから、大人でないといけない場面も多々あるけど、そればかりだとしんどいよね。大人にだって、っていうか、大人にこそ、「はー」ってくつろいだり、「まあ、しゃーないか」って吹き飛ばせる場所が欲しいよね。

原田郁子

―先ほど30代はキツかったと言っていましたよね。でも、原田郁子という人には、すごく自然体で、居心地のいいナチュラルな感じで過ごしている女性というパブリックイメージがあると思うんです。だから大宮エリーさんが初対面で「天然酵母みたいだよね」と言ったわけで。でも実際のところは、いろんな葛藤がたくさんある。

原田:そうね、ある。一時期、身体がSOSを出して、これは一度止まらないとまずいなと実感したんです。私の場合は皮膚に出たんですけど、それまでは食生活もめちゃくちゃだったから、ちゃんとしなきゃって。

―悩みや不安というのは、どういうところにあったんでしょう?

原田:長く一緒にいたパートナーと別々になって、そこからしばらくちっとも定まらないっていうかね、フラフラしてたり、イジけたり、自信なくしたり、ずいぶんと荒んでたんですよね。そういうときにエリーと会って、お互いの弱っちいところを見ては、「おい! しっかりしろ!」って言い合うような感じがあったのかも。

―郁子さんがイメージする大人の女性って、どういうものですか?

原田:そうだなあ、柔らかい人かな。歳をとると、頑なになってくるところがあるじゃないですか。私もわりかし頑固なんですけど、いろんな経験をした上で、柔軟であるということは素敵だなと思いますね。発想を変えられたり、遊びがあったり、受け入れられる人。

―エリーさんはそういう部分を持ち合わせている人だと思いますか?

原田:うーん、エリーはね、ほんとに希有な生き物です(笑)。彼女には、頭の回転が速いがゆえに、足下がおぼつかないっていう妙なバランスがあって、時々えらく危なっかしいんですよね。大人の世界を渡り歩いて、バリバリ仕事していますけど、子どもみたいに無邪気なとこもあって、私はそこがいいなと思う。だから、絵を描くとか、音を鳴らしてみることで、その子どもみたいな部分が解放されたらいいんじゃないかなって。

―今回の『物語の生まれる場所 at 銀河劇場 vol.2』は、舞台や演目というよりも、お二人の生活や人となりがそのまま表れたようなステージだったと思います。終えてみて、お互いの本質的なものが見える一夜になったような実感はありました?

原田:そうですね、ライブをやるっていうより、なんかもっと別のことをやってる感じだった。いっぱいぶつかって、喧嘩もして、お互い、ある種、戦いのようでもあって。でもそれは、自分たちの脱皮っていうか、「変わる」ために避けて通れない通過儀礼みたいなものだったのかな、と。そう考えると、十字架みたいな曲を作ってしまったのかな、とも思うけど(笑)。もう少し場を整えて、いい形で音源を発表できたらいいなと思ってます。

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イベント情報

『物語の生まれる場所 at 銀河劇場 vol.2』
『物語の生まれる場所 at 銀河劇場 vol.2』

『言葉と音楽 そして、クリスマスソング』
2015年12月24日(木)OPEN 18:00 / START 19:00
会場:東京都 天王洲 銀河劇場
出演:
大宮エリー
原田郁子
芳垣安洋
高良久美子
鈴木正人

『言葉と音楽 そして、ライブペインティング』
2015年12月25日(金)OPEN 18:00 / START 19:00
会場:東京都 天王洲 銀河劇場
出演:
大宮エリー
原田郁子

プロフィール

原田郁子
原田郁子(はらだ いくこ)

1975年福岡生まれ。1995年「クラムボン」を結成。歌と鍵盤を担当。ソロ活動も行っており、2004年に『ピアノ』、2008年に『気配と余韻』『ケモノと魔法』『銀河』のソロアルバムを発表。2010年5月には、妹らと吉祥寺に多目的スペース「キチム」をオープンさせる。昨年で結成20周年を迎えたクラムボンは、メジャーレーベルを離れ、自身のレーベル「トロピカル」よりツアー会場でのみ販売されるミニアルバムを発表予定。新曲を生演奏し、可能な会場すべてでサイン会を行う初の完全「手売りツアー」(全国27公演)開催中。

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