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劇伴はどうやって作られる? 『精霊の守り人』の佐藤直紀に学ぶ

劇伴はどうやって作られる? 『精霊の守り人』の佐藤直紀に学ぶ

『大河ファンタジー「精霊の守り人」オリジナル・サウンドトラック』
インタビュー・テキスト
麦倉正樹
撮影:田中一人

メインテーマは、間口を狭めるのではなく、気持ちよく作品に入っていける導入部として、かなり狙って作りました。

―ドラマ『精霊の守り人』の音楽について、もう少し話を聞かせてください。先ほどメニューの話がありましたが、全体に共通するトーンというか、その音楽性みたいなものは、どうやって決めていくのですか?

佐藤:まず原作を読んで、その後台本を読んで……でも今回は映像をかなり早くから撮っていたので、その映像をもらって、そこからイメージしていきました。映像を見る前は、どこか架空のアジアのような土地が舞台の物語なので、音楽も、たとえばちょっと独自の音階を使って、アジアっぽい音楽を作りたいよねという話を監督ともしていたんですけど、実際に映像を見てみたら、結構映像だけでその世界観が出せているように思えたんです。衣装が独特であったり、主人公の「バルサ」をはじめ登場人物の名前も変わっているじゃないですか。だから音楽までその方向でやってしまうと、やりすぎなのではないかと思ったんです。

―それは今回の作品には合わないと。

佐藤:そう。それはこの「大河ファンタジー」という、子どもから大人まで、お爺ちゃんお婆ちゃんまで見てもらいたいドラマとしては、ちょっとどうなんだろうという話をして。もちろん、その独特の世界観を出すために、民族楽器などを入れたりはしていますけど、音楽そのものがアジアに寄ってしまうのは、ちょっと危ないよねって。だから今回は、あえて音楽のクセはなくす方向にしています。

―民族的な楽器は入ってるけど、それを前面に押す方向ではないですもんね。

佐藤:そうですね。メインテーマも、音楽としてはどちらかと言うと西洋的ですし、現代的ですよね。それは、間口を狭めるのではなく、気持ちよく作品に入っていける導入部として、かなり狙って作りました。メインテーマというのは、「このドラマはこういうドラマですよ」ということを教えてあげるものなので、「『精霊の守り人』というのは、アクションや人間ドラマもあって楽しいドラマですから、どうぞ見てくださいね」っていう。まずは、そのための音楽が一番大事だと思うんですよね。

できあがる音楽は、映像から見える匂い、セット、衣装、主演をはじめとする役者さん、そのすべてから影響を受けている。

―オフィシャルのコメントでは、「綾瀬はるかさん演じる、強くて美しい“バルサ”を表現する事が多分出来たと思う」とコメントされていますが、劇伴を作る際に、演者からインスピレーションを受けることもあるのでしょうか?

佐藤:主役によって音楽は変わりますよね。今回は、先ほど言ったようにあらかじめ映像を見ることができたので、主人公に引っ張られるところがありました。僕が台本で読んだ「バルサ」という主人公は、もう少したくましくて男性っぽいイメージだったのですが、主演が綾瀬はるかさんということもあって、品というか、しなやかさというか、そういうものが映像から感じられたんですよね。彼女がどんなに顔を汚して、ぶっきらぼうな言葉遣いをしようとも、女性が持っている美しさが見えたので、そこにメロディーラインが引っ張られたのは事実です。主役が別の女優であれば、また別の曲になったと思います。それは僕が以前書いた大河ドラマ『龍馬伝』のメインテーマのときもそうで、福山雅治さんが主役じゃなければ、ああいう曲には絶対ならなかったですね。

佐藤直紀

―「一期一会」じゃないですけど、さまざまな要素によって、生まれてくる音楽も変わっていくんですね。

佐藤:そうですね。だから、できあがる音楽は、ある意味すごく奇跡に近いと思います。その作品に関わっているスタッフすべて――映像から見える匂いだったりセットだったり衣装だったり、主演をはじめとする役者さんだったり、そのすべてから影響を受けているので、誰かひとりが変わると、もう違う曲になってしまうんですよね。

―それこそ、先ほど言っていたメニューも、別の「選曲屋さん」が書いていたら、また違う音楽になっていたかもしれない?

佐藤:全然変わるでしょうね。その言い回しはもちろん、それこそメニューがどんなフォントで書かれているかによっても変わりますから(笑)。以前、連続テレビ小説『カーネーション』の音楽をやったとき、わりとシリアスな曲も必要だったんですけど、そのメニューの文字が丸文字っぽかったんです。で、それを読みながら曲を書いていると、なぜか曲がそんなに重くならないんですよね。同じ内容が書いてあったとしても、そのフォントにすら、影響されてしまうものなんです。

毎日本当につらいです。音楽が楽しいという時代は、大学で終わりました(笑)。

―お話を聞いていて、本当に繊細かつ大変な仕事だというのは理解したのですが、劇伴作曲家ならではの醍醐味はどんなところになるでしょう?

佐藤:醍醐味ですか……そう、映像に音楽がついてないときって、見づらいんですよね。だけど、それに音楽がつくことによって――先ほど2割、3割と言いましたけど、やっぱり劇的に見え方が変わるんです。映像音楽をやっていて面白いところは、多分そういうところだと思います。

―なるほど。ひとつだけ、非常に素朴な質問を。我々視聴者がサントラを買って劇伴を聴く際に、何かポイントみたいなものってあるのでしょうか?

佐藤:劇伴は「聴く」というか……これを聴いて映像を思い出してもらうためにサントラを出すわけです。聴けば絶対に映像が出てきますから。劇伴というのは、そのドラマをより面白くするための演出のひとつであって、音楽単体として聴くものではないですよね。こちらも映像ありきで音楽を書いていますから。だから、ドラマを見て気に入ってくれた人が、このCDを聴きながら、そのドラマのことを思い出してもらえたら嬉しいですね。

―完成したドラマは、いかがでしたか?

佐藤:できあがった直後の作品を客観的に見て評価することは難しいのですが、とても面白い作品になっていると思います。ただ、僕の作った劇伴に関しては、色々考えるところがありますね。それは今回のドラマに限らず、映画でも何でもそうなんですけど、試写のときは、「やっぱりこうしたほうがよかった」とか「これでいいのかな?」とか、反省点ばっかりなんですよ。それを客観的に見られるのは、とっくにDVDが出回って、テレビをつけたらたまたま僕がやった映画を放送していたぐらいのタイミングというか。その頃になってやっと客観的に、「あれで正解だったな」とか「これはちょっと違ったかな」と判断ができる。だから、今はまだ判断できないですね。

佐藤直紀

―つくづく大変なお仕事ですね……変な話、嫌になることってないんですか?

佐藤:いや、つらいですよ(笑)。曲を書いてる最中は本当につらいです。スラスラ書ければいいですけど、曲なんてスラスラ書けるわけないじゃないですか。でも、締め切りはある。今日中に1曲終わらせておかないと、あとが大変だ、という日々の繰り返しなので、毎日本当につらいです。音楽が楽しいという時代は、大学で終わりました(笑)。

―なかなか気が休まりませんね。

佐藤:あ、でも、最近楽しんで聴ける曲を1曲だけ見つけました。オリエンタルラジオの“PERFECT HUMAN”(笑)。なぜかあの曲だけは、楽しんで聴けるんですよね。

―それはなんかいい話ですね(笑)。

佐藤:(笑)。あの曲が世間で騒がれている意味はわかりますよね。単純に中毒性があって、楽しんで聴けちゃいますから。うん、あれはいい曲だと思います(笑)。

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リリース情報

『大河ファンタジー 精霊の守り人 オリジナルサウンドトラック』
『大河ファンタジー 精霊の守り人 オリジナルサウンドトラック』

2016年3月16日(水)発売
価格:3,240円(税込)
COCQ-85287

1. 精霊の守り人 メインテーマ
2. エクソダス
3. 新ヨゴ国 
4. 雪解け
5. 異界へのとばぐち
6. 誘惑
7. こころ
8. 原野を行く
9. 激突
10. 影に伏す真実
11. 因縁尽く
12. 暗闇と灯火
13. 鍛錬の日々
14. 木洩れ日
15. 陰謀
16. 血濡れた嘆き
17. さすらいの民
18. 精霊の卵
19. 戦いの終決
20. 幕切れ

番組情報

『NHK放送90年 大河ファンタジー「精霊の守り人」』

2016年3月19日(土)21:00から毎週土曜にNHK総合で放送
出演:
綾瀬はるか
小林颯
東出昌大
木村文乃
林遣都
吹越満
吉川晃司
高島礼子
平幹二朗
藤原竜也
ほか
音楽:佐藤直紀

プロフィール

佐藤直紀(さとう なおき)

1970年千葉県出身。1993年東京音楽大学作曲科を卒業後、映画、ドラマ、CM、イベント等、様々な音楽分野で幅広く活躍する。2006年『ALWAYS 三丁目の夕日』で日本アカデミー賞最優秀音楽賞を受賞。NHKでは、土曜ドラマ『ハゲタカ』、大河ドラマ『龍馬伝』、連続テレビ小説『カーネーション』などを担当している。

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