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人気漫画展が急増の理由とは?アートとしての漫画のポテンシャル

人気漫画展が急増の理由とは?アートとしての漫画のポテンシャル

『ルーヴル美術館特別展「ルーヴル No.9 ~漫画、9番目の芸術~」』
インタビュー・テキスト
萩原雄太
撮影:越間有紀子 編集:佐々木鋼平

バンドデシネは戦国時代に突入しており、読者としてとてもおもしろい時代を迎えていると思います。

―漫画とバンドデシネの「共通点 / 違い」については、さまざまな意見があるようですが、実際に読んでみると、かなり違った印象を受けることもありますね。

古永:週刊誌での掲載がベースの漫画に対して、バンドデシネは「オールカラー」「ハードカバー」の単行本が一般的です。絵本や画集のような豪華な装丁で、価格もやや高いんです。また、48ページ構成のものが多く、ストーリーを凝縮しなければならないため、吹き出しの文字数も多くなる。そのため、1コマの絵をじっくり眺める、ページをじっくり読むことが特徴ですね。

ニコラ・ド・クレシー『氷河期』 ©Futuropolis(Musée du Louvre éditions 2005)
ニコラ・ド・クレシー『氷河期』 ©Futuropolis(Musée du Louvre éditions 2005)

―日本の漫画は「コマ割」に大きな動きがあり、ストーリーを中心にサクサクとページをめくっていく印象があります。

古永:そう。漫画の特徴として、モノクロを基本とし、スピーディーな展開や記号的な描写が挙げられます。気軽な値段で買えて、あまり深く考えなくても、感覚的にアクセスしやすいメディアなんです。

―作品に対する読者の向き合い方にも、大きな違いがあるんですね。

古永:ただ、1990年代以降、さまざまなバンドデシネが登場し、モノクロの作品や長大なシリーズも生まれています。逆にバンドデシネから影響を受けたといわれる大友克洋さんや松本大洋さんのように、緻密だったり従来の枠を打ち破るような描写の漫画もたくさん登場しました。それぞれに影響を与え合いながら、ある意味戦国時代に突入しているんです。読者としては、とてもおもしろい時代を迎えていると思います。

マルク=アントワーヌ・マチュー『レヴォリュ美術館の地下-ある専門家の日記より~』 ©Futuropolis(Musée du Louvre éditions 2006)
マルク=アントワーヌ・マチュー『レヴォリュ美術館の地下-ある専門家の日記より~』 ©Futuropolis(Musée du Louvre éditions 2006)

松本大洋『ルーヴルの猫』(ビッグコミックオリジナル)
松本大洋『ルーヴルの猫』(ビッグコミックオリジナル)

―古永さんにとって、バンドデシネの魅力とは何でしょうか?

古永:バンドデシネのほうが、何が出てくるかわからない怖さがあるかもしれません。巨大な市場のなかで、編集者とともに作品作りをすることが多い漫画に比べて、バンドデシネは作家が一人黙々と何か月も、ときには数年かけてマイペースに描いていきます。編集者がいい意味でも悪い意味でも作家の仕事に介入する漫画は、結果的に「上質」な作品が生まれやすいんです。もちろん漫画にもインディペンデントな作品や魅力がありますけどね。

―日本の漫画市場は4,500億円と推定されるほど莫大なものですが、フランスのバンドデシネ市場はそこまで大きなものではありませんね。

古永:だから私は、バンドデシネの魅力を「夜釣りの怖さ」と表現しているんです。夜釣りでは、うつぼが釣れて指を噛まれるような危険もありますよね。でもそんな危険性も含めて、釣り堀よりもおもしろい。日本の漫画が物足りないという人は、バンドデシネの「怖さ」に飛び込んでみるとおもしろいかもしれません。

寺田克也『タイトル未定』 ©Katsuya Terada
寺田克也『タイトル未定』 ©Katsuya Terada

―まだまだ日本では、バンドデシネが一般的に認知されているとは言い難い状況です。

古永:日本は巨大な漫画市場があるため、そこで自足してしまう傾向にあります。質の高い作品が数多く作られており、たくさん売れるから価格も抑えられる。だから、バンドデシネをはじめとした海外のカルチャーへの関心が生まれにくいんです。ただ、『第16回 文化庁メディア芸術祭マンガ部門大賞』を受賞したブノワ・ペータースの『闇の国々』(2011年)が売れて、その後バンドデシネの翻訳ラッシュが起こったように、新しい作品に触れたいという欲求を持っている読者は少なからずいるようです。

―アーティスティックなバンドデシネは、「敷居が高い」イメージがあるのかもしれないと思いました。

古永:たしかにアーティスティックなものには「権威」「固苦しい」というイメージがありますが、一方で商業的な成功がさほど重要視されないため、表現の幅が自由に広がる側面もあるんです。漫画でいえば、同人誌には商業誌に比べて表現的な自由があると思いますが、ある意味近い部分があるかもしれませんね。

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イベント情報

『ルーヴル美術館特別展「ルーヴル No.9 ~漫画、9番目の芸術~」』

参加作家:
二コラ・ド・クレシー
マルク=アントワーヌ・マチュー
エリック・リベルジュ
ベルナール・イスレール(画) / ジャン=クロード・カリエール(作)
荒木飛呂彦
クリスティアン・デュリユー
ダヴィッド・プリュドム
エンキ・ビラル
エティエンヌ・ダヴォドー
フィリップ・デュピュイ(画) / ルー・ユイ・フォン(作)
谷口ジロー
松本大洋
五十嵐大介
坂本眞一
寺田克也
ヤマザキマリ

東京会場
2016年7月22日(金)~9月25日(日)
会場:東京都 六本木 森アーツセンターギャラリー
時間:10:00~20:00(入場は19:30まで)

大阪会場
2016年12月1日(木)~2017年1月29日(日)
会場:大阪府 グランフロント大阪北館 ナレッジキャピタル イベントラボ

プロフィール

古永真一(ふるなが しんいち)

1967年生まれ。パリ第七大学留学を経て早稲田大学文学研究科博士後期課程修了。首都大学東京准教授(表象文化論)。著書に『ジョルジュ・バタイユ─供犠のヴィジョン』(早稲田大学出版部、2010)、『BD─第九の芸術』(未知谷、2010)、訳書にバタイユ『聖なる陰謀─アセファル資料集』(共訳、ちくま学芸文庫、2006)、ティエリ・グルンステン『線が顔になるとき─バンドデシネとグラフィックアート』(人文書院、2008)、フランソワ・スクイテン+ブノワ・ペータース『闇の国々』(共訳、小学館集英社プロダクション、2011)、セバスチャン・ロファ『アニメとプロパガンダ』(共訳、法政大学出版局、2011)、グルンステン=ペータース『テプフェール─マンガの発明』(共訳、法政大学出版局、2014)などがある。

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