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がむしゃらに走ってきた20代。狭間の世代が語る30代の脱力論

がむしゃらに走ってきた20代。狭間の世代が語る30代の脱力論

□字ック『荒川、神キラーチューン』
インタビュー・テキスト
徳永京子
撮影:田中一人 編集:飯嶋藍子

過去の私は、がむしゃらに走ることで、誰かに自分の存在をわかってほしかったんです。(山田)

―山田さんと松居さんの「変化」の話に戻りますが、自分の性別について過剰に意識しなくなったのは、何かきっかけがあったんですか?

松居:そもそも僕は「とにかく何者かになりたい」「負けたくない、勝ちたい」という意識が強くて、そこにこだわっていたんですけど、30歳になってから、自然に肩の力が抜けてきた気がします。あと、26歳の時から3年ぐらい演劇をお休みして、自分がそれまでやってきたことを考え直したことも大きかったと思います。大学に入ってからずっと演劇だけやってきて、周りが見えていなかったので。

山田:私は中学1年の頃から戯曲を書いていたんですけど、ちゃんと書くようになったのは、劇団をやろうと思った24歳からなんです。会社を辞めて半年後に劇団を立ち上げて、それと並行してロックフェスの演劇版がやりたくて、『鬼FES.』というのも始めて。

松居:すごいね。

山田:決めたらやるタイプなので、たまに給水所を見つけても「水なんか飲むか!」という気持ちでずっと走ってきたんですよね。でも、ようやく「水を飲んでも追いつかれなきゃいいんだ」という悪知恵がついてきました。私も30歳になったら自然にそうなってきた感じですかね。……松居さん、何年生まれですか?

松居:1985年。

山田:わ、同い年だ! そういう時期なんですかねぇ。

左から:松居大悟、町田マリー、山田佳奈

―ある程度の試行錯誤が積み重なって、自信がついたり、人の意見に耳を傾けられるようになったりして余分な力が抜けたのが、結果的に30歳ぐらい、ということなんでしょうね。

山田:そうだと思います。きっと、過去の私は、がむしゃらに走ることで、誰かに自分の存在をわかってほしかったんです。誰も見て見ぬふりができないくらい頑張って走ることが、作品を作る原動力になっていたんじゃないかな。そのうちに、同じ電波の人がその頑張りをキャッチしてくれるようになったというか。以前、デリヘル嬢のお芝居を作った時に、演劇を全く観たことないデリヘル嬢の方が来てくれて、そのあと「デリヘル辞めました」という報告をくださったんです。そういう反響をもらっているうちに、自分のやっていることで誰かの人生が変わるんだとわかって、それによって自分も変えてもらったところがありますね。

山田佳奈

―走ることが、自分一人の行為ではなくなったんですね。

山田:そうなんです。本当に微々たる人数かもしれませんけど、もし私が走るのを止めたら、がっかりする人もいるのかなと思うようになって。じゃあ、途中で歩いたり水を飲んだりしながらでも、自分のいいバランスを見つけて走り続ければいいんだと考えるようになりました。

自分がイケてる瞬間がくると「私ったら、何いい気になってんだ、クソめ!」みたいな気持ちになる。(山田)

―先ほど松居さんは「ずっと何者かになりたかったのが、一回演劇を休んだ時期に周囲が見えてきた」と話されていましたが、周囲からすると、松居さんは若くして成功しているように見えていたと思います。人気アーティストのPVを次々と監督なさっているし、映画もコンスタントに撮られています。

松居:僕、悪いほうしか見ないので(笑)、演劇界では「あいつは演劇を捨てて映像に行ったヤツだ」と思われ、映像界では「演劇の変な若手が映画を撮っているぞ」と思われているって感じちゃうんですよね。どこにも居場所がない。

山田:でも、境界の真ん中にいる人こそ、売れていたりしますよね。小野寺修二さん(パントマイム、コンテンポラリーダンス、演劇で活躍する振付家、演出家、パフォーマー、俳優)も同じようなことをおっしゃっていました。「僕はダンスの人じゃないし、お芝居の人でもないから、居場所がないんだ」って。そういう人のほうが、逆にちゃんと自分だけの居場所を作るんじゃないですか。秘密基地みたいな特別な場所を知っている感じがして羨ましいですけどね。

松居:そうなのかな。演劇を作る時は現場に「さて、映像で培った経験をどう持ち込むのかな」みたいな空気が生まれて、映像では「はい、舞台で培ったノウハウを見せてください」っていう空気が……。たぶん僕の被害妄想なんですけど(笑)。

松居大悟

山田:松居さんの話を伺って思ったのは、私もそうなんですけど、イケてると思うことが恥ずかしいんですよね。自分がずっとイケてないと思ってきたから、イケてる時が来たらちょっとうれしかったりするんですけど、そう思った瞬間に「私ったら、何いい気になってんだ、クソめ!」みたいな気持ちが……。

松居:湧いてくるよね。85年生まれって、そういう世代なのかな?

山田:見た目の美しさとか、あんまり興味なくないですか?

松居:うん、うん。むしろ冷めますよね。役者さんも、上手な人にはあまり興味がない。結果的にその人が上手かったっていうのはいいんです。でもまず惹かれるのは「この人、何なんだろうな」という目が離せない感じなんですよ。

山田:わかります! いや、きれいに越したことはないんですよ。マリーさんも、見るたびに「いいな、素敵だな」と思って知らないうちに笑顔になっちゃう。でも、例えばその人が、きれいなのに人の下着をクンカクンカしているとか、そういう方向に、より魅力を感じるんですよね。

町田:あははは! 私、そういうのは大丈夫なので、任せてください。でも、映画『ワンダフルワールドエンド』(2015年 / 松居大悟監督)に出させてもらった時、松居さん、すごく自由で楽しそうで、私、心の中で「いいじゃん、いいじゃん」って思っていましたよ。

山田:そうそう、『ワンダフルワールドエンド』のマリーさんがお鍋に顔を突っ込むシーン、最高でした!

町田:うふふ、ありがとうございます。

松居:あの映画で、マリーさんには、家出した娘に強く言えない母親の役をやってもらったんですよね。優しく受け止めようと努力してたんだけど、娘がわがままを言い出して、もうどうしていいかわからなくて、溢れだす感情を沸騰する鍋にぶつけるという……。ブクブクブク~っていう音で、感情を表したんですけど。

山田:感動しました。松居さんの描き方が好きだって改めて確認したし、伏線を張っているわけではないのに、突然、鍋に顔を突っ込んだことによって、その人物の深いところまで成立させられるなんて、やっぱり松居さんもマリーさんもすごいと思って。

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イベント情報

□字ック第十一回本公演
『荒川、神キラーチューン 再演』

脚本・演出:山田佳奈
出演:
町田マリー
小野寺ずる(□字ック)
日高ボブ美(□字ック)
鬼頭真也(夜ふかしの会)
石橋穂乃香
エリザベス・マリー(CHAiroiPLIN)
大塚宣幸(大阪バンガー帝国)
傳田うに
青山祥子
とみやまあゆみ
濱田真和(Superendroller)
安川まり(さいたまネクスト・シアター)
澤田育子(good morningN゜5/拙者ムニエル)
納葉
かさいみよ
鈴村悠
田島冴香(東京タンバリン)
龍野りな
花村雅子(えうれか)

東京公演
2016年6月29日(水)~7月3日(日)
会場:東京芸術劇場シアターウエスト

豊橋公演
2016年7月9日(土)~7月10日(日)
会場:愛知県 穂の国とよはし芸術劇場PLAT アートスペース

『イヌの日』

2016年8月10日(水)~8月21日(日)
会場:東京都 下北沢 ザ・スズナリ
作:長塚圭史
演出:松居大悟

出演:
尾上寛之
玉置玲央
青柳文子
大窪人衛
目次立樹
川村紗也
菊池明明
松居大悟
本折最強さとし
村上航

プロフィール

山田佳奈
山田佳奈(やまだ かな)

神奈川県出身。□字ック(ロジック)の作家・演出・役者。レコード会社のプロモーターから演劇の世界へ。サンモールスタジオ2013年最優秀演出賞を受賞、演劇ポータルサイト「CoRich舞台芸術まつり!2014」グランプリ、2014年度サンモールスタジオ最優秀団体賞受賞。バンドのライブ総合演出や音楽界の『夏フェス』ならぬ小劇場界の『鬼フェス』を主催し、全団体の総合プロデュースを行うなどエンターテイメント業界でマルチに活躍中。また、自身が脚本・監督を務めるMOOSIC LAB2016参加作品『夜、逃げる』の上映や、カルチャーミックスフェス「オハラ☆ブレイク,16夏」(猪苗代湖岬)への参加などが、今夏控えている。

松居大悟
松居大悟(まつい だいご)

福岡県出身。劇団ゴジゲン主宰。2012年『アフロ田中』で映画監督としてデビュー。その後、『自分の事ばかりで情けなくなるよ』や『スイートプールサイド』など作品を発表し、『ワンダフルワールドエンド』でベルリン国際映画祭出品、『私たちのハァハァ』で第7回TAMA映画賞の最優秀新進監督賞受賞。ミュージックビデオ監督やコラム執筆など活動は多岐にわたる。2016年冬に監督作『アズミ・ハルコは行方不明』が公開予定。2016年8月に演出する舞台『イヌの日』が上演。

町田マリー
町田マリー(まちだ まりー)

千葉県出身。立教大学在学中に江本純子と劇団「毛皮族」を旗揚げし、看板女優として活躍。その他『日本人のへそ』、『サド侯爵夫人』、『THE BIG FELLAH ビッグ・フェラー』など客演多数。また近年はTVドラマTBS『変身インタビュアーの憂鬱』、YTV『恋愛時代』や映画『恋の罪』(園子温監督),『俺俺』(三木聡監督)、『ワンダフルワールドエンド』(松居大悟監督)などの映像作品でも活躍。そして昨年はKERA・MAP『グッドバイ』(第23回読売演劇大賞最優秀作品賞受賞)に出演するなど充実した活動をしている。

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