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寒川晶子×山下洋輔 現代音楽の入門編「聴いて爆笑したっていい」

寒川晶子×山下洋輔 現代音楽の入門編「聴いて爆笑したっていい」

『ロームシアター京都セレクション 寒川晶子ピアノコンサート~未知ににじむド音の色音(いろおと)~』
インタビュー・テキスト
黒田隆憲
撮影:moco.(kilioffice) 編集:矢島由佳子

1960年代後半から70年代始めというのは、壊せばよかった時代でした。(山下)

―寒川さんの場合、ピアノの音階や調律そのものを見直して、そこから表現を始めたというのは、まさにゼロからのスタートですよね。

寒川:それはもう、山下さんがもっと前に切り開いてくださった道でもあると思うんです。それこそ、1960年代の日本にすごく私は影響を受けています。

山下:確かに60年代後半から70年代始めというのは、壊せばよかった時代でした(笑)。ゲバ棒(ゲバルト棒。学生運動が盛んだった頃、デモや武力闘争に用いた武装)を持って暴れていた学生たちのあいだで、「なにか音楽でも壊している奴がいる」と噂が広がり、「じゃあ呼ぼう」ってことになって呼ばれることも多かったです。その一例が、バリケード封鎖されていた早稲田大学の一画で、大隈講堂から勝手に持ってきたピアノを演奏したりね。

寒川:その時代に生きていたかったなって、すごく思います。50年代くらいから日本が新しい時代へ向かおうとしていたと思うんですけど、その辺りからの日本がとにかく好きで。

山下:そんなふうに言ってもらえるのは、ありがたいですね。僕がフリージャズをやり始めたのが、1969年。その前にジョン・ケージには触れていて、おそらく彼の影響から「ジャズだってなにをやってもいいんだ」っていう気持ちになっていたんです。

でも、単に海外のフリージャズプレイヤーたちを真似しても仕方ないので、「日本人としての表現はどこにあるのか?」ということはすごく考えました。自分は日本人なのだから、自由にやれば、なんの真似でもないものが出てくるはずだと。そのためには、あらゆる制限を取っ払わなければならない。

左から:寒川晶子、山下洋輔

寒川:私も、「アイデンティティーはどこだ?」みたいな気持ちが少なからずあって。「自分の表現」を考えたときに、「日本」ということをものすごく意識していたときがあったんですね。でも山下さんが、「異文化同士が出会うからこその面白さがある」とよくおっしゃっていて、「ああ、そうだよなぁ」と改めて思い直したんです。

「日本」ということにとらわれて、突き詰めていってしまうと、誰とも出会わず鎖国状態になってしまう……でも、それだとつまらない。山下さんのお言葉で、自分が開かれた気分になりました。

山下:その辺はやっぱり西江先生の影響なんです。とにかく面白いことが好き。自分がわからないことは、常に好奇心を持って接する。異文化への強い関心ですよね。

小学校の授業で、水混じりの墨汁で習字を書いたのが印象に残っていて。それが「ド音ピアノ」のきっかけでもあります。(寒川)

―鍵盤を全て「ド」に調律して演奏しようという発想は、どこから生まれたのでしょうか?

寒川:小学校の頃に習字の授業があったんですけど、授業時間が限られている中、すずりで墨を擦るところから始まったんです。なかなか黒い墨汁にはならないんですけど、すずりを擦れば擦るほど透明な水が灰色になっていく。その、水混じりのグレーの墨汁で習字を書いたことが印象に残っていて。それを音でやってみたいと思ったのが、「ド音ピアノ」のきっかけでもあります。

―透明な水から墨汁のあいだのグラデーションは、実は無限にあるということで、「ド」と「ド#」のあいだの音も実は無限のグラデーションがあるはずですよね。

寒川:そうなんです。ピアノって、ある意味ではスイッチなので、「ド」の隣は「ド#」や「レ」であって、そのあいだの音は本来は出せない。そのデジタル感を「ド音ピアノ」ではなくして、グラデーションを作っていくということをやっているんです。

山下:たった2音のあいだの微分音を聴いているだけなんですけど、全然飽きないんですよね。8オクターブあるし、打鍵のニュアンスで音色に変化をつけているし。それに、半音のあいだのグラデーションを聴き分ける能力が、自分にもあるんだということに感動しました。ほんと、「ド音ピアノ」は世界的な発明だよね。

寒川:ありがとうございます。このままやり続けて、名を残せるくらいにならなきゃなっていう気持ちではあります。でも、無理やりピアノを調律したり、弦も切れそうになったりしているので、自分に凶暴なイメージが付いてしまいそうなんですよね。私は、「破壊」というより、音色の美しさを追求したくて。そこに、どこか湿気のある日本の肌を思わせるような音も創造していきたいんです。

私はショパンが好きなんですけど、彼の作る曲は「まるでピアノが歌っているようだ」と評されているんですね。それってすごく素敵だなって思うんです。今後も「ド音ピアノ」を突き詰めていくなら、ピアノを内部改造すべきなのかもしれないですが、別の楽器にしてしまっては意味がないですし。

―ピアノそのものが持っている可能性も引き出していきたいと。

寒川:そうですね。

左から:寒川晶子、山下洋輔

言葉で説明すると難しくなりがちですけど、実際にステージで繰り広げられる音は、とても身近な気がするんですよね。(寒川)

―『寒川晶子ピアノコンサート~未知ににじむド音の色音(いろおと)~』では、檜垣智也さんが演奏する音響装置「アクースモニウム」で「ド音ピアノ」を鳴らすそうですね。

寒川:そうなんです。当日は、会場に設置されているものも含めて、大小様々なスピーカーを30台くらい用意しています。ステージ上だけでなく、客席の後ろや横と、四方から音が聴こえてくる。立体空間を作るためにその場で音響操作をしていくので、「スピーカーのオーケストラ」と言われています。

―寒川さんが以前から行っていた、「空間を作る」というテーマにもつながりますね。さらに、布を織りながら音を奏でる「音の織機」を演奏する伊藤悟さんとの共演もあります。

寒川:機を織っている人の姿って、ピアニストに似ているじゃないですか(笑)。実際、織機の音を楽しむ文化が、中国の雲南省にあると聞いて。いい結婚をするために、若い女性はより一層、織るための音を磨く文化があるんですって。実際に織りあがった完成品はもちろん大事ですけど、その織っている過程も大事にしているという希少な文化を、少しでも多くの人に知っていただきたくて、伊藤さんをお迎えします。

伊藤悟
伊藤悟

山下:実際に織機が出てくるのですか? すごい! それこそまさに驚きですね(笑)。

寒川:そうなんです。コンセプトとか、言葉で説明すると難しくなりがちですけど、実際にステージで繰り広げられる音は、とても身近な気がするんですよね。

「ド音ピアノ」も、ガムランのように様々な倍音が混じり込んでいて、一種のノイズやうねりをともなっているので、「催眠術がかかったみたいな気持ちよさがある」とも言われます。ピアノは本来、倍音をなるべく排除して、鳴るべき音だけを研ぎ澄ませていく楽器ですが、「ド音ピアノ」に調律することで倍音を取り込み膨張させて、いろんな響きやうねりを生じさせる。さらに織機の音も気持ちいいので、驚きと爆笑だけでなく、安心感もある演奏会になると思います。

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イベント情報

『ロームシアター京都セレクション 寒川晶子ピアノコンサート~未知ににじむド音の色音(いろおと)~』

2016年9月24日(土)
会場:京都府 ロームシアター京都 サウスホール
出演:
寒川晶子(ド音ピアノ)
檜垣智也(アクースモニウム)
伊藤悟(音の織機)
料金:
S席 一般3,000円 学生1,500円
A席 一般2,000円 学生1,000円

プロフィール

寒川晶子
寒川晶子(さむかわ あきこ)

1982年京都市生まれ。18歳まで京都市にて過ごす。フェリス女学院大学音楽学部卒業。これまでにピアノを黒川浩氏、中川賢一氏らに師事する。音楽による空間づくりに積極的に取り組み、現代美術作品とのコラボレーションやプラネタリウムを舞台にした演奏会など、自らも創作に関わりながら演奏を行う。2010年に全鍵盤を「C」(ド)音に特殊調律したピアノを使用し各界から注目を集め、ファッションショーでの生演奏や小学校での芸術教育授業に招聘されるなど、その斬新な試みに高い評価を得た。また、2013年9月に禅と茶文化で著名な京都・大徳寺塔頭王林院にて、トイピアノによる演奏会を行うなど、日本文化を意識するようになる。2015年より現代音楽を下地にピアノと織物を繋ぐ演奏会を伊藤悟、野中淳史と展開。博多織に関わる作曲家の藤枝守氏ともピアノと織物の長期プロジェクトを計画している。女子美術大学アートプロデュース表現領域非常勤講師。

山下洋輔
山下洋輔(やました ようすけ)

1969年、山下洋輔トリオを結成、フリーフォームのエネルギッシュな演奏でジャズ界に大きな衝撃を与える。国内外の一流ジャズアーティストとはもとより、和太鼓やシンフォニーオーケストラとの共演など活動の幅を広げる。88年、山下洋輔ニューヨークトリオを結成。国内のみならず世界各国で演奏活動を展開する。99年芸術選奨文部大臣賞、03年紫綬褒章、12年旭日小綬章を受章。国立音楽大学招聘教授。演奏活動のかたわら、多数の著書を持つエッセイストとしても知られる。

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