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寒川晶子×山下洋輔 現代音楽の入門編「聴いて爆笑したっていい」

寒川晶子×山下洋輔 現代音楽の入門編「聴いて爆笑したっていい」

『ロームシアター京都セレクション 寒川晶子ピアノコンサート~未知ににじむド音の色音(いろおと)~』
インタビュー・テキスト
黒田隆憲
撮影:moco.(kilioffice) 編集:矢島由佳子

未知のものに出会う喜び。それが今、一番必要とされているのではないでしょうか。(山下)

―現代音楽って、なんとなく堅苦しいイメージもありますが、そこで爆笑していいというのは、ひとつハードルが下がった感じがします。

山下:ハードルなんて最初からなにもない。感じたままでいい、爆笑したって当然いいんです。西江先生がおっしゃっていた「芽」、すなわち人間が幼い頃から持っている「うわあ、なんだこれ!」という素直なリアクションを、お互い尊重しつつ交換できるのが現代音楽なのではないかと、今、分かってきた(笑)。だって、端から端までドに調律をしたピアノを弾くなんて、とんでもない発想、まず、笑うしかないじゃないですか!(笑)

左から:寒川晶子、山下洋輔

―今の時代、現代音楽はどのように必要とされていると思いますか?

山下:それはもう、すごく貴重な意味があると思うんですよ。なにもかもが均一化されていくのが今の世の中の傾向だとすれば、そうではない、出会ったことのない、未知のものに出会う喜び。それが今、一番必要とされているのではないでしょうか。今の時代こそ、未知なものの存在がすごくスリリングだと思います。

寒川:もしかしたら、若い人ほど、ステージ上で生まれている新しいものに対して素直に反応できるのかなと。すでに「現代音楽」という言葉では追いつけないくらい、豊かでワクワクすることが起きている分野だというふうに認識してくださっている気がします。

山下:あ、それはあるでしょうね。「現代音楽を聴きに行く」っていうのではなく、「なにか新しいこと、未知なことを目撃して驚きたい、面白がりたい」という気持ちで観に行くと、きっと楽しめますよ。僕が「ド音ピアノ」を聴いて、微分音を感じ取る耳を開発されたように、眠っている感性を呼び起こされるはずです。

ジャズだけでは、物事が全部わからないと思ったんです。(山下)

―お二人が現代音楽やフリージャズに傾倒していった経緯を聞かせていただけますか?

寒川:山下さんは、国立音楽大学の作曲科をお受けになられたのですよね? 受験のときに、ベートーヴェンの“ピアノソナタ第6番”をお弾きになったとか。

山下:母親がピアノが好きで家にあったので、子どもの頃からピアノに触れていたんです。高校生の頃からプロのジャズミュージシャンとして活動していたのですが、音大の作曲科受験のために、付け焼刃でクラシックピアノをやりました。先生が「“6番”を弾きなさい」と提案してくださったんです。“6番”は、途中で3連音符が出てきて、僕のノリ方がジャズみたいになっちゃうんだけど、「この曲なら、スウィングしても大丈夫です」と(笑)。

寒川:そんな提案をしてくださる先生も素敵ですよね。

山下:ベートーヴェンは、スウィングしちゃってもいいんです(笑)。ジャズマンの中のジョークで、「ベートーヴェンは黒人だった」っていうのがあって(笑)。オランダ人で、ご先祖がアフリカを支配したこともある。もしかしたら、黒人がちょっと混じっていたのかも、なんてね。だからああいうシンコペーションのリズムが出てくる(笑)。

山下洋輔

―そもそも、なぜ音大を受けてクラシックをやろうと思ったのですか?

山下:やろうというより、知りたい、ですね。ジャズだけでは、物事が全部わからないと思ったんです。クラシックという音楽は、西洋の一角で生まれたものだけど、ものすごく長い歴史があって世界中に広まっている。あらゆる要素を含んでいる。これを知らないままジャズ一辺倒でいったら、一生不安だろうって思ったんです。とりあえず、一瞥でもいいからクラシック音楽というものを見てみようと。その上で、自分のやりたいことをやろうと思ったわけです。

私は、ローリン・ヒルをきっかけに自己表現に対する模索が始まり、譜面を再現する脳から変わっていきました。(寒川)

―一方、寒川さんが現代音楽にのめり込んでいったのは、ローリン・ヒルがきっかけだったと聞きました。とても意外ですね。

寒川:そうなんです。私は、実は黒人音楽から多様性を持った音楽に入っていったんです。おそらく、学校で習っていたクラシックを順に追っていただけだったら、現代音楽の世界がわからないままだったでしょうね。ローリン・ヒルというのはR&Bシンガーで、ボブ・マーリーの息子さんのお嫁さんなんですよ。

山下:おお(笑)。

寒川:最初に聴いたのが『The Miseducation of Lauryn Hill』(1998年)というアルバムで、その中の“To Zion”という曲が、とにかく違和感がすごかったんです。90年代当時、日本で流行っていたポップスとはまったく流れが違ったというか。

日本のポップスって、メロディーさえつかんでいれば、自分の頭の中で伴奏が聴こえてきて、コードをつければそこそこ様になるくらいピアノで再現できたんです。でも彼女の歌は、調性はあるのにコード感がない。ビートは循環しているのですが、その上でノイズ混じりの太い声が、節をつけながら上にいったり下にいったりする。ベースやギターもボーカルと同様、ものすごく立体的に動いていて、いわば“カノン”みたいな構造になっている。エンディングもまた唐突で、「え、こんな終わり方するの?」って。

―これまで寒川さんが聴いてきたものとは、まったく別次元の音楽だった。

寒川:ええ。確か“To Zion”はDマイナーなんですけど、いわゆる私がクラシックで知っているDマイナーとはまったく違う聴こえ方がして。「なんだこれは?」と。一体どこがサビなんだろう、聴き手としてどこにカタルシスを感じたらいいんだろうって、最初は気持ちの持っていき方がまったく分からなかったんです。でも聴いているうちに、じわじわと盛り上がって、気持ちよくなっていく感じがあって……まるで、ラヴェルの“ボレロ”みたいだなと。

山下:なるほど。

寒川:それから、同じことを繰り返しながら段々気持ちよくなっていく音楽が好きになっていったんです。大学はピアノ科を専攻したのですが、学内で作曲を学ぶクラスや授業などを見学して、ジョン・ケージや、ノイズを音楽のように扱ったりする曲を知りました。そのときには、まったく違和感なく現代音楽に入っていけるようになっていたんです。

―ローリン・ヒルを気持ちよく聴ける耳があったからこそ、現代音楽に入って行けたと。

寒川:そう、ローリン・ヒルのおかげ(笑)。

山下:それはとても興味深いなあ。ちゃんとローリン・ヒルを聴いていないで言うのもあれなんですが、もしかして「ブルーノート現象」ってやつかもしれないですね。「ブルーノート」という、独特の節回しが黒人音楽にはあって。それに西洋の和音をくっつけると、むちゃくちゃクラッシュするんだけど、かっこよくなるんです。そんなところをうまく使ったのが、ジョージ・ガーシュインの“ラプソディ・イン・ブルー”。

寒川:ああ! 確かに。

寒川晶子

山下:ジャズは、西洋音楽とアフリカ音楽、和音とメロディー、ふたつの違う原理が共存できるんですよ。右手はアフリカ、左手は西洋、みたいな。もしかしたら、ローリン・ヒルの音楽でも同じことが起きていたのかもしれないですね。これも言語に詳しい西江先生の世界です。西江先生は、ジャズの演奏を聴いて、その奏者の人種や出身国までわかってしまう。

寒川:なるほど、私もそう思います。私は、ローリンをきっかけに自己表現に対する模索が始まり、譜面を再現するクラシックの脳から作る側に変わっていきました。「一体どうやればひとつのコードだけで1曲を作れるのだろう」とか、「調性感のない音楽って、どうやって作れるんだろう」って。次第に、自分のイントネーションから音を探すようになったんです。

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イベント情報

『ロームシアター京都セレクション 寒川晶子ピアノコンサート~未知ににじむド音の色音(いろおと)~』

2016年9月24日(土)
会場:京都府 ロームシアター京都 サウスホール
出演:
寒川晶子(ド音ピアノ)
檜垣智也(アクースモニウム)
伊藤悟(音の織機)
料金:
S席 一般3,000円 学生1,500円
A席 一般2,000円 学生1,000円

プロフィール

寒川晶子
寒川晶子(さむかわ あきこ)

1982年京都市生まれ。18歳まで京都市にて過ごす。フェリス女学院大学音楽学部卒業。これまでにピアノを黒川浩氏、中川賢一氏らに師事する。音楽による空間づくりに積極的に取り組み、現代美術作品とのコラボレーションやプラネタリウムを舞台にした演奏会など、自らも創作に関わりながら演奏を行う。2010年に全鍵盤を「C」(ド)音に特殊調律したピアノを使用し各界から注目を集め、ファッションショーでの生演奏や小学校での芸術教育授業に招聘されるなど、その斬新な試みに高い評価を得た。また、2013年9月に禅と茶文化で著名な京都・大徳寺塔頭王林院にて、トイピアノによる演奏会を行うなど、日本文化を意識するようになる。2015年より現代音楽を下地にピアノと織物を繋ぐ演奏会を伊藤悟、野中淳史と展開。博多織に関わる作曲家の藤枝守氏ともピアノと織物の長期プロジェクトを計画している。女子美術大学アートプロデュース表現領域非常勤講師。

山下洋輔
山下洋輔(やました ようすけ)

1969年、山下洋輔トリオを結成、フリーフォームのエネルギッシュな演奏でジャズ界に大きな衝撃を与える。国内外の一流ジャズアーティストとはもとより、和太鼓やシンフォニーオーケストラとの共演など活動の幅を広げる。88年、山下洋輔ニューヨークトリオを結成。国内のみならず世界各国で演奏活動を展開する。99年芸術選奨文部大臣賞、03年紫綬褒章、12年旭日小綬章を受章。国立音楽大学招聘教授。演奏活動のかたわら、多数の著書を持つエッセイストとしても知られる。

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