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何が日本を作ってるの? 『BODY/PLAY/POLITICS』から考える

何が日本を作ってるの? 『BODY/PLAY/POLITICS』から考える

横浜美術館『BODY/PLAY/POLITICS』
インタビュー・テキスト
杉原環樹
撮影:永峰拓也 編集:野村由芽

アピチャッポンは詩的で抽象的な映像の話法を駆使して、固着したタイ社会をチクチク批判する。

―ちなみにイー・イランも含め、東南アジアの作家が多いのはなぜですか?

木村:東南アジアには、地域の歴史を引き受けて、それを作品化する手法に意識的な作家が多いというのがひとつ。それと、あまりに遠い国よりは、日本との接点を見つけやすいということもありますね。続くアピチャッポン・ウィーラセタクンも、タイを代表する映画監督でアーティスト。日本でも人気が高いですが、抽象的なシーンのつながりから、タイ社会の現在を浮かび上がらせる、とても詩的な映画を撮る監督ですよね。

アピチャッポン・ウィーラセタクン photograph by Chai Siris
アピチャッポン・ウィーラセタクン photograph by Chai Siris

―(日本では今年公開された)2015年の新作『光りの墓』も話題になりました。彼は日本のギャラリーでもたびたび展示をしていますが、その映画と美術作品の関係とはどんなものなのでしょう?

木村:両者にはパラレルな関係があって、映画がナラティブに物事を表現するとすれば、そこからいろんな要素を抜き取った抽象度の高いものが、美術作品だと思います。今回の映像作品も、出品作品で唯一、具体的な身体が登場せず、一番抽象的なのですが、展示コンセプトを聞いた彼が、「ぜひこれを」と提案してくれたものなんです。

アピチャッポン・ウィーラセタクン《炎(扇風機)》2016 年 会場風景 Courtesy of Apichatpong Weerasethakul photo:Yuri Manabe
アピチャッポン・ウィーラセタクン《炎(扇風機)》2016 年 会場風景 Courtesy of Apichatpong Weerasethakul photo:Yuri Manabe

―巨大な火の玉が、ゴーッとすごい勢いで燃えています。

木村:燃えているのは、じつは扇風機です。この太陽のような炎は燃え尽きそうで燃え尽きないのですが、これにはどんな意味があるのか。この作品は『光りの墓』の完成後に撮られたのですが、同作はかつての王族同士の争いが題材でした。

現在のタイの国土はその昔、タイとラオス、カンボジアなどの王朝が入れ替わり支配していて、作家の故郷の東北部は、ラオスの一部でした。それをいまのタイ王朝が支配するようになるのですが、東北部には言葉の上でも経済的にも、中央との地域間格差が残っています。あとは日本でもよく報じられる通り、現在のタイは軍事的にコントロールされ、国民を縛りつけるようになっていますよね。

―王朝批判をすると「不敬罪」で投獄されるなど、厳しい状況だそうですね。

木村:彼は抽象的な映像の話法を駆使して、それをチクチク批判しているようにも見えます。『光りの墓』に映画館のシーンがあって、タイでは映画の開始前に全員で国歌を聴くはずが、ここでは流れない。そしてその後、天井の扇風機が回って、空気が攪拌されるシーンが続くんですね。

―タイでは、映画を観る前に国歌を聴くということも知りませんでした。

木村:そうですよね。そこから今回の作品をあらためて見ると、扇風機というモチーフは、いまの厳しいタイ社会の空気を攪拌するものにも思える。『光りの墓』はタイでは上映しなかったそうですが、今回の作品が、タイの現状を知るきっかけにもなるといいですね。

「生きる戦後史」のようなベトナムの作家・グエンは、人間の発展への欲望と、それに対する対価の関係に関心を持っています。

―続いて登場するウダム・チャン・グエンは、ベトナム戦争の真っ最中の1971年に生まれたアーティストです。

木村:彼はある意味で、ベトナムの生きる戦後史のような存在です。芸術家の父親は徴兵されて戦地に行くのですが、退役後、精神的にたいへんなショックを受けて、家族で渡米することになった。つまりグエンは、ベトナムで社会主義教育を、アメリカで西側の教育を受けたわけです。冷戦の構図を、10~20代に一気に経験するんですね。

ウダム・チャン・グエン
ウダム・チャン・グエン

―現在はベトナムに戻っているのですか?

木村:はい。ベトナムにも複雑な歴史があり、フランスの植民地時代に社会主義国家となってからは旧ソ連の影響下にあり、また経済発展したいまでは、アメリカの影響も受けています。彼の映像作品に登場するのはベトナム人の主要な足であるバイクで、その群れがまるで街という体内を流れる血液のように走り回るのですが、その中でフランス植民地風や社会主義風の建物など、街がいろんな表情を見せます。

ウダム・チャン・グエン《ヘビの尻尾》2015/2016 年 会場風景 © UuDam Tran Nguyen. Courtesy of the artist. photo:Yuri Manabe
ウダム・チャン・グエン《ヘビの尻尾》2015/2016 年 会場風景 © UuDam Tran Nguyen. Courtesy of the artist. photo:Yuri Manabe

―バイクにチューブのようなものが付いていますが、これは?

木村:ビニール製のチューブで、排気ガスで膨らんだものです。言ってみれば活発な街の呼吸のようでもあるし、一方では人体に悪影響を及ぼすものでもある。同国の経済発展に対するグエンの視点は複合的で、人間の発展への欲望と、その代償との関係に関心を持っています。たとえば彼の作品にはいろんな人類の創造物のイメージが入っていて、そのひとつであるバベルの塔は、人間が天まで届く建物を作ろうとして失敗し、その結果、みんながバラバラの言葉をしゃべるようになったという神話です。

―一見すると非常にポップですが、警告的な作品でもあるわけですね。

木村:直接的に説教臭くはないんですけど、いろんなかたちで人間の発展に向けた欲望に対する批判的な視点が含まれていると思います。今回は、実際のバイク12台も展示されていますよ。

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イベント情報

『BODY/PLAY/POLITICS』

2016年10月1日(土)~12月14日(水)
会場:神奈川県 横浜美術館
時間:10:00~18:00(10月29日、10月28日は20:30まで、入館は閉館の30分前まで)
出展出品作家:
インカ・ショニバレMBE
イー・イラン
アピチャッポン・ウィーラセタクン
ウダム・チャン・グエン
石川竜一
田村友一郎
休館日:木曜(11月3日は無料開館)、11月4日
料金:一般1,500円 大・高校生1,000円 中学生600円
※小学生以下無料

プロフィール

木村絵理子(きむら えりこ)

横浜美術館主任学芸員。主な展覧会に『GOTH -ゴス-』展(2007-08 / 横浜美術館)『森村泰昌:美の教室、静聴せよ』展(2007 / 熊本市現代美術館・横浜美術館)『金氏徹平:溶け出す都市、空白の森』展(2009 / 横浜美術館)『束芋:断面の世代』展(2009-2010 / 横浜美術館・国立国際美術館)『高嶺格:とおくてよくみえない』(2011 / 横浜美術館・広島市現代美術館・鹿児島県霧島アートの森)『奈良美智:君や 僕に ちょっと似ている』(2012 / 横浜美術館・青森県立美術館・熊本市現代美術館)『Welcome to the Jungle 熱々!東南アジアの現代美術』展(2013 / シンガポール美術館との共催企画/ 横浜美術館・熊本市現代美術館)『BODY/PLAY/POLITICS』展(2016 / 横浜美術館)など。

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