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何が日本を作ってるの? 『BODY/PLAY/POLITICS』から考える

何が日本を作ってるの? 『BODY/PLAY/POLITICS』から考える

横浜美術館『BODY/PLAY/POLITICS』
インタビュー・テキスト
杉原環樹
撮影:永峰拓也 編集:野村由芽

石川竜一の写真に写る人は、一般名詞として「日本の人」と言ったときに、なかなかイメージしないような人たちなんです。

―残りの2名は、日本の作家ですね。沖縄県出身の写真家である石川竜一さんと、富山県出身で横浜とも縁が深い、アーティストの田村友一郎さんです。

木村:石川さんは沖縄を拠点に、ストリートで出会った人々のポートレートを撮り続けている写真家です。

石川竜一
石川竜一

―昨年、『木村伊兵衛写真賞』も受賞しましたね。

木村:はい。それで作品を見た方も多いでしょうが、ヤンキーからLGBTまで、多種多様な人が登場します。しかも、そこに写る人は、一般名詞として「日本の人」と言ったときに、なかなかイメージしないような人たちなんですね。

石川さんにとっては日常ですが、国内における「当たり前」とのズレが衝撃を与えます。今回は、彼が沖縄県内と県外の日本各地で撮った人々の写真を初めて混ぜて展示しますが、それはもはや「沖縄の写真」ではなく、日本に住む多国籍な人々も含めて「現在の日本のありのままを写した写真」として我々に迫ってきます。

―いわば、多くの人が抱くような「日本人像」を揺るがす仕組みになっていると。

木村:もうひとつ、彼には何年も撮り続けている被写体が何人かいて、そのシリーズも初めて公表されています。一人は「グッピー」と自称する女性で、すごくカラフルなファッションをまとっていて、お菓子しか食べないそうです。長い時間をかけた撮影は、その場限りの関係からは見えない、被写体と石川さんとの関係性を見ることでもある。彼の写真からは、そんな日本社会の主流からはこぼれてしまう人々の姿が感じられるはずです。

石川竜一《グッピー》2011-2016 年 会場での制作風景 photo:Yuri Manabe
石川竜一《グッピー》2011-2016 年 会場での制作風景 photo:Yuri Manabe

GHQが来るまで、日本人は西洋人に比べて胴長短足で、グラマラスではない自分の身体を、恥ずかしいとは思っていなかった。

―一方で田村さんは、展示場所の歴史を取材して、制作するタイプの作家ですが、今回は「ボディビルディング」がテーマだとか。なぜ、ボディビルなんですか?

木村:ボディビルは彼が長年取り組んでいるモチーフで、今回はそれをメディアの歴史と絡めて見せます。というのも、横浜とボディビルには深い関係があるんですね。

近代のボディビルは、プロイセンで19世紀末に生まれるのですが、そこで怪力ショーなどの興業として身体を見せていたのがユージン・サンドウという人だそうです。彼はアメリカに渡り、万博などで大人気になりますが、そのとき一役買ったのが「写真」です。そして広まったボディビルが、GHQを通して戦後の横浜に入ってくる。横浜にボディビルの器具が持ち込まれ、アメリカ兵が身体を鍛えているのを見て、日本人が初めて近代のボディビルディングと出会ったのだそうです。

田村友一郎《裏切りの海》2016年 会場風景 撮影:田村友一郎
田村友一郎《裏切りの海》2016年 会場風景 撮影:田村友一郎

―日本で最初にボディビルディングが始まったのが、戦後の横浜だったと。

木村:そのアメリカ兵の身体に魅せられてボディビルディングを始めたのが、現在、日本のボディビルディングの第一人者となった方です。彼は三島由紀夫の肉体訓練の師匠でもありました。三島はいわば日本戦後史の中で、日本人の身体と古代ギリシア的身体との関係を我々につきつけた人物ではないかと思うのですが、展示では三島がアメリカやギリシアなどへ向けて旅立った頃の物語を織り交ぜながら、横浜に現存する、アメリカ兵や船乗りの集まるバーの空間を模したインスタレーションを行ないます。

―日本へのボディビルディングの輸入って、意外に大きな意味があるんですね。

木村:GHQが来るまで、日本の庶民は西洋人に比べて胴長短足で、グラマラスではない自分の身体を、恥ずかしいと思うことはなかったのではないかと思います。戦後に、日本人の身体観自体が変わったのではないでしょうか。そこで大きな役割を果たしたのが、街を闊歩するアメリカ兵の身体であったというのが田村さんの作品にも語られていて、それに憧れを持つようになる人が日本に現れた。そのとき軍人の身体は、広告塔のような存在だったんじゃないか。ボディビルは象徴的な例ですが、このように身体がメディアともなることに、田村さんの関心はあるんです。

田村友一郎
田村友一郎

何か定められた標準の枠内にないと批判されるのが、いまの日本の現状ですが、違いを知らないと他者への思いやりも生まれない。

―いま僕たちは、当たり前のように西洋人の身体を「カッコイイ」ものとして見てしまいがちですが、その認識も歴史の上にあることが、感じられるわけですね。

木村:これは展示全体についてですが、観客の方に、現在の日本がどのように成立したのか、自分が身を置く状況を再確認するきっかけになるところまでいけたらといいと思っています。今日、お話しした作家の順番は、展示順でもあるのですが、遠い国から始めて日本の作家たちで終わるのも、問題の糸が徐々に身近な場所まで引っ張られてくるようにしたかったから。自分の認識や習慣をそうたらしめている歴史について、目を向けていただけたらいいなと思います。

木村絵理子

―その上で、お互いの違いが当たり前に表に出せるようになるといいですね。

木村:日本だと、自分語りをするのはどちらかというと嫌われる行為じゃないですか。でも、例えば多国籍のアメリカの小学校では、自分を主張するのは当たり前のことだった。先日、横浜の入国管理局で収容していたイスラム教徒の人に、食事として間違えて豚肉を提供してしまったというニュースを知って、非常にショックだったんです。この国では、入国管理局のような海外との窓口のような場所で、そんなことが起こるのかと。

2020年の東京オリンピックなどに向けて、こうしたほころびがこれからもいっぱい出てくるのではないかと思うのですが、むしろどんどん表面化すればいいと思います。そうやって自分の当たり前が、他の人には当たり前じゃないということ、違う習慣や思想を持った存在がいることを、身をもって知ることが大事だと思う。

―「みんな違う」ということに、日本人も馴れようと。

木村:そうです。何か定められた標準の枠内にないと批判されるのが、日本の現状ですが、違いを知らないと他者への思いやりも生まれない。そしてそこでは、自分の「当たり前」を支える歴史を知ることが重要で、今回の展示をそのきっかけにしてもらえたら嬉しいですね。

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イベント情報

『BODY/PLAY/POLITICS』

2016年10月1日(土)~12月14日(水)
会場:神奈川県 横浜美術館
時間:10:00~18:00(10月29日、10月28日は20:30まで、入館は閉館の30分前まで)
出展出品作家:
インカ・ショニバレMBE
イー・イラン
アピチャッポン・ウィーラセタクン
ウダム・チャン・グエン
石川竜一
田村友一郎
休館日:木曜(11月3日は無料開館)、11月4日
料金:一般1,500円 大・高校生1,000円 中学生600円
※小学生以下無料

プロフィール

木村絵理子(きむら えりこ)

横浜美術館主任学芸員。主な展覧会に『GOTH -ゴス-』展(2007-08 / 横浜美術館)『森村泰昌:美の教室、静聴せよ』展(2007 / 熊本市現代美術館・横浜美術館)『金氏徹平:溶け出す都市、空白の森』展(2009 / 横浜美術館)『束芋:断面の世代』展(2009-2010 / 横浜美術館・国立国際美術館)『高嶺格:とおくてよくみえない』(2011 / 横浜美術館・広島市現代美術館・鹿児島県霧島アートの森)『奈良美智:君や 僕に ちょっと似ている』(2012 / 横浜美術館・青森県立美術館・熊本市現代美術館)『Welcome to the Jungle 熱々!東南アジアの現代美術』展(2013 / シンガポール美術館との共催企画/ 横浜美術館・熊本市現代美術館)『BODY/PLAY/POLITICS』展(2016 / 横浜美術館)など。

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