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移住して3年経つ高木正勝に訊く、里山での発見や豊かさのヒント

移住して3年経つ高木正勝に訊く、里山での発見や豊かさのヒント

『TOMORROW パーマネントライフを探して』
インタビュー・テキスト
飯嶋藍子

自分たちで村を整えていくから、暮らす地域ごと自分の家のように思えるんです。

―生活に密接したところで、人とのつながりが増えそうですね。

高木:そうですね。それに村の行事や仕事に参加すると、自分の家の範囲が広がるような感覚があるんですよ。都市部だと、家とスーパーくらいまでが自分の生活圏で、目の前にある道路や街路樹を管理してくれている人のことも知らないですよね。でも今住んでいるところは基本的に自分たちで村を整えていくから、暮らす地域ごと自分の家のように思えるんです。

村の集会に参加する高木と村の人々(提供:高木正勝)
村の集会に参加する高木と村の人々(提供:高木正勝)

―確かに生活する範囲がその人にとっての世界そのものかもしれません。でも、田舎・都市部問わず、自分がちょっとオープンになるだけで生活の幅が広がったり、思ってもみなかった発見があるのですね。

高木:都市部だと、極力、人と関わらず一人で完結してしまう生活が選べるのかもしれませんが、村ではなかなかそうはいきませんから。たとえば、景色や環境が気に入って田舎に引っ越したとしても、山や川は誰かが手をかけているから美しく成り立っているものだったりします。それに、村の雰囲気が好きだったとしても、それは一人ひとりの村人が育んできたものですから、ちょっとしたことで村全体の雰囲気が変わってしまうこともあると思うんです。

田舎に引っ越す人というのは、その地域の現状を気に入っているのでしょうし、自分が選んだその地域をどうやったら現状のまま、素朴なまま、よりよく保てるのかという視点が入ってくるんじゃないでしょうか。そうやって地域に関わっている人なら、映画『TOMORROW パーマネントライフを探して』で描かれている地域通貨の意味とか、畑の必要性とか、エネルギーや教育についても自分のこととして感じられるし、自分でも実践してみたいと思われるんじゃないかと感じました。

イギリスのブリクストンの地域通貨。デヴィッド・ボウイの顔が印刷されている / ©MOVEMOVIE - FRANCE 2 CINÉMA - MELY PRODUCTIONS
イギリスのブリクストンの地域通貨。デヴィッド・ボウイの顔が印刷されている / ©MOVEMOVIE - FRANCE 2 CINÉMA - MELY PRODUCTIONS

―確かにコンパクトな範囲で生活が完結してしまっていると、エネルギーとか教育というテーマって、自分の普段の生活と直結して考えづらいですね。

高木:畑なら個人単位でできるし少し身近ですよね。ちょっとでも畑っていいなと思っている人は、ひとまずベランダでやってみようとか、都市部でやるのは大変だから週末だけ田舎でやろうとか、映画に出てきた「インクレディブル・エディブル」(街の花壇や公共の土地に作物を植えて地域の人々と共有する取り組み)のように、街の中でもできる方法がないかって具体的に考えて、実際に始めるきっかけになるんじゃないかなと思います。

細やかな命の蠢きの交わりの上で、勝手に溢れてくるものが豊かさだと思います。

―高木さんは以前のインタビューで自然農(不耕起、不除草、不施肥、無農薬など、人の手をいれずに農作物を育てる方法)に興味があるとおっしゃっていましたよね。

高木:はい。自然農で自給自足している人に獲れたての野菜を食べさせてもらったんですが、「野菜ってこんな美味しかったんや!」ってびっくりして、自分でもやってみたいなと。僕の畑は3年目でようやく形になってきたんです。

土地を整える高木。次は田んぼに挑戦するという(提供:高木正勝)
土地を整える高木。次は田んぼに挑戦するという(提供:高木正勝)

―周りも自然農の方が多いんでしょうか?

高木:隣のおばあちゃんの畑は肥料を入れていますよ。人によってバラバラです。でも、最近はそれぞれの畑の違いに互いに興味を持ち始めて。おばあちゃんは畑に生える雑草を抜いているけど、僕は草も抜かないで土の中で自然に起こっていることに頼っている。でもどちらも収穫はできるわけで、一体何が野菜を育てているのかというのを知りたくなって。

自然農のやり方も、調べてみると、何も入れないほうがいいとか、落ち葉を入れたほうがいいとか、草を抜いちゃいけないとか、いろんなやり方がありすぎて、最初はよく分からなかったんです。でも、最近は実感としてなんとなく分かってきました。畑に落ち葉を混ぜると、それを微生物が食べて糞をして、そうして細かく細かくなって、ようやく野菜が吸収できるようになる。それって野菜だけじゃなくて、人間がものを食べるというのも、胃や腸の中で同じことが起こっていますし、暮らし全体にも同じことが言えると思ったんです。

ペリーヌ・エルヴェ=グリュイエールとシャルル・エルヴェ=グリュイエールのふたりはフランスで有機野菜を栽培している / ©MOVEMOVIE - FRANCE 2 CINÉMA - MELY PRODUCTIONS
ペリーヌ・エルヴェ=グリュイエールとシャルル・エルヴェ=グリュイエールのふたりはフランスで有機野菜を栽培している / ©MOVEMOVIE - FRANCE 2 CINÉMA - MELY PRODUCTIONS

フランスのル・ベック・エルアンにはフランスで最も成功したパーマカルチャーの農場がある。除草剤も機械も動力も使用しないが、量も質も充実した野菜が収穫される / ©MOVEMOVIE - FRANCE 2 CINÉMA - MELY PRODUCTIONS
フランスのル・ベック・エルアンにはフランスで最も成功したパーマカルチャーの農場がある。除草剤も機械も動力も使用しないが、量も質も充実した野菜が収穫される / ©MOVEMOVIE - FRANCE 2 CINÉMA - MELY PRODUCTIONS

―暮らし全体に、ですか?

高木:たとえば畑だと、僕らが手をかけられるのは、野菜の世話というより、土の中に棲んでいる微生物たちの世話なんです。土の中の生き物たちが元気に暮らせていたら、野菜たちも勝手に元気に育っていく。それと一緒で、やっぱり自分の暮らす環境を整えたら、自ずとそこから育っていくものがあると思います。

単純に何かと何かを合体させるだけだと上手くいかないというか、味気ない表層的なものしか生まれない。細やかな命の蠢きの交わりの上で、勝手に溢れてくるものが豊かさだと思います。

―音楽を作るうえでも、今の生活がかなり直接的に影響している?

高木:もちろんです。何をやっても作曲につながっています。それぞれの人生によって様々だと思いますが、僕の場合、これまで土に触れたり、命に触れたりする機会が少なかったんだと思います。それで村に引っ越して、人生のバランスを取っているのかもしれません。

自分で育てた採れたての野菜が身体に入っていくみずみずしい感覚、おじいちゃんおばあちゃんたちと交わる中で広がっていく自分の好みや考え方、山の中で自然と共に生きていく厳しさや嬉しさ。やっぱり新しい歌が出てきますよ。

イギリスの生化学博士でアグロエコロジー(伝統農業、有機農業)の専門家でもあるニック・グリーンは、アヒルを農地に放って雑草や害虫を食べてもらう有機農業を行なっている / ©MOVEMOVIE - FRANCE 2 CINÉMA - MELY PRODUCTIONS
イギリスの生化学博士でアグロエコロジー(伝統農業、有機農業)の専門家でもあるニック・グリーンは、アヒルを農地に放って雑草や害虫を食べてもらう有機農業を行なっている / ©MOVEMOVIE - FRANCE 2 CINÉMA - MELY PRODUCTIONS

―生活自体が生き物のようですね。

高木:そうですね。村と言っても、ここは本当に山なので、毎日の変化が面白いんです。最近、「美しい」っていうのはこういうことかと思って。ちゃんと生まれて、ちゃんと消えていくことが美しい。たとえば、鉄の柵は丈夫で長く保つけれど、日々変化していく木々の中に鉄の柵があると違和感があるんですね。美しくないと思ってしまう。でも、それを竹の柵に変えた途端に美しいなと。

竹だと数年で朽ちてしまうので、何度も作り直さないといけないんですけれど、その時々の朽ちていく様を見ると、この瞬間のこの形はもう手に入らないんだなと。儚くて美しいと感じるのは、それがいつかは消えて無くなると知っているからだと、最近よく思います。それは人や、その人がやること、村や自然にも通じます。

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作品情報

『TOMORROW パーマネントライフを探して』

2016年12月23日(金・祝)からシアター・イメージフォーラムほか全国順次公開
監督:シリル・ディオン、メラニー・ロラン
出演:
シリル・ディオン
メラニー・ロラン
ロブ・ホプキンス
ヴァンダナ・シヴァ
ヤン・ゲール
ほか
配給:セテラ・インターナショナル

プロフィール

高木正勝(たかぎ まさかつ)

1979年生まれ、京都出身。2013年より兵庫県在住。山深い谷間にて。長く親しんでいるピアノを用いた音楽、世界を旅しながら撮影した「動く絵画」のような映像、両方を手掛ける作家。美術館での展覧会や世界各地でのコンサートなど、分野に限定されない多様な活動を展開している。『おおかみこどもの雨と雪』やスタジオジブリを描いた『夢と狂気の王国』の映画音楽をはじめ、コラボレーションも多数。

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