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破天荒な美術家、市川孝典。線香画の発明に至った驚きの半生

破天荒な美術家、市川孝典。線香画の発明に至った驚きの半生

市川孝典個展『grace note』
インタビュー・テキスト
麦倉正樹
撮影:豊島望 編集:宮原朋之

自分のイメージに近づけるためには、いままで見たことのない新しいものを持ってこないとダメだと常に思っていた。

―今の線香を使って描くスタイルになったのは、いつ頃からですか?

市川:特に目的なく、たまたま遊びに行ったところに線香工場がいっぱいあったんですね。いろんな種類の線香があったから、匂いも違うのかなって、そのへんにあった紙を燃やしてみたんです。そうしたら、匂いもそうだけど焦げの色味もそれぞれ違ったんですよ。それがちょっと気になったから、東京に戻ってから仏具屋に行ってみたんです。

仏具屋はサンプルのお線香がいっぱいあるんですよ。燃やしてみると、やっぱりそれぞれ色味が違ったんです。それを全部買って、そこから画材として使えるんじゃないかって、いろいろ試し始めました。

市川孝典

―線香で絵を描いてみようという発想はどこから湧いたのでしょう?

市川:使えるものは何でも使いたいんですよね。アカデミックな美術教育を受けてないからか、油絵具もテンペラ(卵などの乳化作用を持つ物質を固着材として利用する絵具)もお線香も、僕の中では同じものとして見ています。

―既存の画材ではやはり不十分だったんでしょうか?

市川:不十分というよりも、普通の画材でできることは、過去の人たちがほとんど全部やってますよね。だから、過去の作品を見れば、その画材がどの程度まで表現できるかわかるというか、できあがりが想像できるんです。

そこに自分のイメージに近いものがなかったんですよね。だから、別に今までと違うことがやりたいとか、何か奇を衒ったものがやりたいとか、そういうことじゃないんです。単に、自分のイメージに近づけるためには、いままで見たことのない何か新しいものを持ってこないとダメだなって思っていました。

市川孝典

specimen(72 watches) / 2012 / burnt paper / 315mmx265mm(each size 72pieces) ©kosukeichikawa. Photo:木奥恵三
specimen(72 watches) / 2012 / burnt paper / 315mmx265mm(each size 72pieces) ©kosukeichikawa. Photo:木奥恵三

―線香の何に可能性を感じたのでしょう?

市川:線香そのものというよりは、焦げ色のほうですね。線香自体にはまったく意味がなくて、電気器具も試したんですけど、電気だと温度の上限がそんなに高くないので、紙に対するダメージが強過ぎるんです。いろいろ研究しましたけど、どんな紙を使うかも大事だったりします。あとはやっぱり表現したいと思っている記憶の中のイメージと、紙を極限まで壊すっていうことは相性が良かったんだと思います。

untitled(wood land) / 2016 / burnt paper / H2046mmxW1326mm  ©KosukeIchikawa. Photo:木奥恵三
untitled(wood land) / 2016 / burnt paper / H2046mmxW1326mm ©KosukeIchikawa. Photo:木奥恵三

untitled(wood land) / 2016 / detail ©KosukeIchikawa. Photo:木奥恵三
untitled(wood land) / 2016 / detail ©KosukeIchikawa. Photo:木奥恵三

展覧会をやることによって、作品を作り続ける理由ができ始めたのが、一番大きかった。

―作品はいつ頃から発表し始めたんでしょうか?

市川:記憶のイメージが失われることの不安を解消するために描いているようなものなので、作品を発表することは、最初まったく考えてなかったんです。完成しても、またすぐ次の作品に取り掛かる。それをずっと続けてました。

untitled(dress) 3pieces / 2011 / burnt paper / 1650mmx1300mm(each size) ©kosukeichikawa. Photo:木奥恵三
untitled(dress) 3pieces / 2011 / burnt paper / 1650mmx1300mm(each size) ©kosukeichikawa. Photo:木奥恵三

―では、発表のきっかけはどんなことからだったんでしょう?

市川:それもほとんど偶然みたいなものなんですけど、ビンテージの古着を扱っているお店の人が、僕の作品を見て、「これ、ちゃんと発表したほうがいいよ。私、好きだよ」って言ってくれて、彼女がいろんな人を紹介してくれたんです。美術業界の人だったりファッション業界の人だったり。そこからまた、いろいろ広げてくれた感じですね。

市川孝典 個展『grace note』(2017年)
市川孝典 個展『grace note』(2017年)

―作品を発表するようになって、考え方が変わりましたか?

市川:展覧会をやることで、作品を作り続ける理由ができ始めたのが、一番大きいですね。小さい頃から、そこにいてもいい理由が、ずっと欲しかったんです。たとえば、たばこを吸い始めたのも、たばこを吸っていれば、喫煙スペースに僕がいる理由がありますよね。そうやって、そこでいろんな人とお話ができる理由が欲しかったんです。

―各地を放浪してきたけど、核心にはそうした思いがあったんですね。

市川:その理由がやっとできたかなとは思っています。個展をやったらいろんな人がきてくれて、その人たちとお話ができる。そこに僕がいてもいいんだって思えたんです。

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イベント情報

10月に都内で展覧会を開催予定
※詳細は決定次第、市川孝典ウェブサイトで発表

プロフィール

市川孝典(いちかわ こうすけ)

日本生まれ。美術家。13歳の時に、とび職で貯めたお金をもって、単独でニューヨークへ渡る。アメリカやヨーロッパ各地を遍歴する間に、絵画に出会い、さまざまな表現方法を用いて、独学で作品制作に取り組む。帰国後、その類いまれなる体験をした少年期のうすれゆく記憶をもとに、温度や太さの異なる60種類以上の線香を使い分けながら、微かな火で紙に焦げ目をつけて絵を仕立てる新しいスタイルで作品を発表。後に、「現代絵画をまったく異なる方向に大きく旋回させた「線香画」と称され、国内外から注目を浴びている。

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