特集 PR

破天荒な美術家、市川孝典。線香画の発明に至った驚きの半生

破天荒な美術家、市川孝典。線香画の発明に至った驚きの半生

市川孝典個展『grace note』
インタビュー・テキスト
麦倉正樹
撮影:豊島望 編集:宮原朋之

上っ面をかじるのが好きなんですよね。半年ぐらいはすごい熱中するんだけど、すぐにわかった気がして飽きてしまう。

―ニューヨークでは何をしていたんでしょうか?

市川:や、特に何も。別に知り合いもいないから、ただマンハッタンの街をウロウロして……そしたら、おかしな兄ちゃんたちが寄ってくるんですよね。僕もちょっとおかしな見た目だったから。で、その人に来いって言われて、何かのパーティーに連れていかれて。

―危険ですね……。

市川:でもそういうところはご飯も飲み物があるから、そこで飲んだり食べたりして、パーティーを渡り歩くみたいなことを2週間ぐらいやってたんですけど、気が付いたらポケットに入れていた日本円もないし、パスポートもなかった。仕方がないので、パーティーで知り合った人に仕事を紹介してもらって、ジャズクラブみたいなところで、住み込みのバイトをやってました。

―行き当たりばったりですね。

市川:そんな感じでニューヨークに3か月ぐらいいて、そのあとニューヨークで知り合った人に誘われてロスに移るんです。銀製品を磨いたり、バイクと車のシートを加工しているようなところで、住み込みで働きました。ホント何も考えずに、ただ流されるまま過ごしていた感じでしたね。

市川孝典

―今の絵画制作の活動はどういった経緯で始められたんでしょうか?

市川:当時は音楽をやっていたんです。ロスで知り合ったバンドのヨーロッパツアーについて行ったんですけど、僕だけスペインで離脱してしまうんです。ちょっと建築に興味を持ち始めて、サグラダ・ファミリア(スペイン、バルセロナにある大聖堂)の建設現場で働いたりしました。

―なんというか、好奇心旺盛ですね。

市川:そのままフランスに行ったり、ヨーロッパをあちこち回ったりしてました。音楽をやっていた時もそうだったんですけど、物事の上っ面をかじるのが好きなんですよね。半年ぐらいはすごい熱中するんだけど、すぐにわかった気がして飽きてしまう。もちろん、ホントは何もわかっていないんだけど。10代の頃はその繰り返しでした。

自分が描いた絵をまわりの人が「いいね」って言ってくれるんだけど、自分的には、「全然そうじゃないんだけどな」っていう気持ちがずっとあった。

―すごくスケール大きく、やりたいことを探していたんですね。

市川:ただ、その頃から表現したいことの核みたいなものは、ずっと変わってないんです。音楽でも建築でも、自分の記憶の中にある断片的なイメージを提示しようとしていました。そうすることによって、どこか安心したかったんです。

市川孝典

―手段は違えど、ずっと記憶の中のイメージを形にしようとしていたんですね。

市川:ずっとそうですね。自分の記憶の中にある、わけのわからない風景を描いていました。そのイメージが無くなるのが嫌だという強迫観念みたいなものが、子どもの頃からものすごい強くあったんです。小さい頃から、いろんなところを転々としていたからかもしれないですね。

自分がその土地を離れても、そこにいる人たちの生活が続いていくことが、すごい不安だったんですよ。その不安を無くしたいっていうのが、表現するにあたって一番根底にあるものだと思います。

untitled(wood land)/2015-2016/burnt paper,collage/H1550mmxW1050mm ©KosukeIchikawa. Photo:木奥恵三
untitled(wood land)/2015-2016/burnt paper,collage/H1550mmxW1050mm ©KosukeIchikawa. Photo:木奥恵三

―常に不安があるんですね。

市川:そうなんです。当時も不安を無くすために簡単なスケッチみたいなものは描き続けていて、まわりの人は「いいね」って言ってくれるんだけど、自分的には、「全然そうじゃないんだけどな」っていう気持ちがずっとあったんです。記憶の中のイメージを、どうも上手く表現できていないなって思っていた。

市川孝典

―表現の部分でフラストレーションがあったと。

市川:やっぱり一度、ちゃんと美術の勉強をしたいなと思って19歳の頃、日本に戻りました。鉛筆の削り方から教えてもらいたいというか、基礎をしっかり学びたかったんです。

それで学校に行ったんですけど、そこは基礎はできて当たり前っていうところだったんですよね。僕の知りたいことは全然学べなかった。なのでいろんな美術館に行って、独学でデッサンの勉強をしました。

Page 2
前へ 次へ

イベント情報

10月に都内で展覧会を開催予定
※詳細は決定次第、市川孝典ウェブサイトで発表

プロフィール

市川孝典(いちかわ こうすけ)

日本生まれ。美術家。13歳の時に、とび職で貯めたお金をもって、単独でニューヨークへ渡る。アメリカやヨーロッパ各地を遍歴する間に、絵画に出会い、さまざまな表現方法を用いて、独学で作品制作に取り組む。帰国後、その類いまれなる体験をした少年期のうすれゆく記憶をもとに、温度や太さの異なる60種類以上の線香を使い分けながら、微かな火で紙に焦げ目をつけて絵を仕立てる新しいスタイルで作品を発表。後に、「現代絵画をまったく異なる方向に大きく旋回させた「線香画」と称され、国内外から注目を浴びている。

SPECIAL PR 特集

もっと見る

BACKNUMBER PR 注目のバックナンバー

もっと見る

PICKUP VIDEO 動画これだけは

あらかじめ決められた恋人たちへ“日々feat.アフロ”

何かを我慢することに慣れすぎて忘れてしまいそうになっている「感情」を、たった10分でこじ開けてしまう魔法のようなミュージックビデオ。現在地を確かめながらも、徐々に感情を回転させていくアフロの言葉とあら恋の音。人を傷つけるのではなく、慈しみ輝かせるためのエモーションが天井知らずの勢いで駆け上がっていった先に待ち構えている景色が、普段とは違ったものに見える。これが芸術の力だと言わんばかりに、潔く堂々と振り切っていて気持ちがいい。柴田剛監督のもと、タイコウクニヨシの写真と佐伯龍蔵の映像にも注目。(柏井)

  1. ドラマ『ここぼく』が描いた日本社会のいま。危機感と真実の追及 1

    ドラマ『ここぼく』が描いた日本社会のいま。危機感と真実の追及

  2. 佐藤健とシム・ウンギョンが共演 サントリーウイスキー「知多」新動画 2

    佐藤健とシム・ウンギョンが共演 サントリーウイスキー「知多」新動画

  3. 記録映画『東京オリンピック2017』に七尾旅人らがコメント ポスター到着 3

    記録映画『東京オリンピック2017』に七尾旅人らがコメント ポスター到着

  4. スチャとネバヤン、同じ電波をキャッチしちゃった似た者同士 4

    スチャとネバヤン、同じ電波をキャッチしちゃった似た者同士

  5. 羊文学を形づくる「音」 6つの日本語曲を選んで3人で語り合う 5

    羊文学を形づくる「音」 6つの日本語曲を選んで3人で語り合う

  6. 坂口恭平が語る「死なないという勝ち方」。画狂老人・北斎に学ぶ 6

    坂口恭平が語る「死なないという勝ち方」。画狂老人・北斎に学ぶ

  7. ジム・ジャームッシュ特集上映ポスター&チラシ12種、大島依提亜がデザイン 7

    ジム・ジャームッシュ特集上映ポスター&チラシ12種、大島依提亜がデザイン

  8. 青春音楽映画『ショック・ドゥ・フューチャー』予告編、石野卓球らコメント 8

    青春音楽映画『ショック・ドゥ・フューチャー』予告編、石野卓球らコメント

  9. 自己不信や周囲の目にどう向き合う? 女性アスリートの6篇の物語 9

    自己不信や周囲の目にどう向き合う? 女性アスリートの6篇の物語

  10. ちゃんみなが経験した、容姿に基づく中傷と賛美 自らラップで切る 10

    ちゃんみなが経験した、容姿に基づく中傷と賛美 自らラップで切る