特集 PR

田中宗一郎が断言「音楽は歴史だ」 音楽と政治の関係への見解も

田中宗一郎が断言「音楽は歴史だ」 音楽と政治の関係への見解も

SPOON『Hot Thoughts』
インタビュー・テキスト
黒田隆憲
撮影:小田部伶 編集:山元翔一 取材協力:ABOUT LIFE COFFEE BREWERS
2017/04/10
  • 839

テキサス州オースティン出身のインディーロックバンド、SPOONのニューアルバム『Hot Thoughts』がリリースされた。前作『They Want My Soul』同様、NUMBER GIRLやTHE FLAMING LIPSなど数多くのバンドを手がけるデイヴ・フリッドマンを共同プロデューサーに迎えた本作は、THE BEATLES(特にジョン・レノン)やプリンス、デヴィッド・ボウイなどを彷彿させるメロディーと、1980年代UKポストパンクや90年代USオルタナティブを通過した、ソリッドかつスリリングなバンドアンサンブル、そしてなによりブリット・ダニエルのカリスマ性あふれる歌声が魅力。様々な音楽的要素がタペストリーのように織り込まれたサウンドプロダクションは、聴くたびに新たな発見がある。

本国では揺るぎない人気を誇るSPOONだが、日本ではまだまだ知名度が低いのは歯がゆいものがある。そこで今回、音楽評論家であり、現在は「The Sign Magazine」のクリエイティブディレクターを務める「タナソー」こと田中宗一郎に、SPOONの魅力や楽しみ方について訊いた。90年代後半に音楽雑誌『snoozer』を立ち上げ、当時の音楽ファンにひとつの「指針」を示してきたタナソー。彼は今、音楽シーンをどのように捉え、どこへ向かおうとしているのだろうか。

海外のポップミュージックが日本で浸透していないという現状に関しては、いろんなレイヤーがあると思うんです。

―難解なところはなく、グッドメロディーが詰まっているSPOONが、なぜ日本と海外での評価に温度差があるか? ということを田中さんに伺いたいと思っています。まずは前提として、SPOONに限らず海外の音楽そのものが、今あまり聴かれなくなってきている問題がありますよね。

田中:SPOONが浸透していない、海外のポップミュージックが日本で浸透していないという現状に関しては、いろんなレイヤーがあると思うんです。まずひとつ、大きなレイヤーとしては、日本国内が今、政治も文化も経済も、全部内向きになっているということ。

たとえば、映画を吹き替えでしか見ないという人が普通にいる現状ですよね。それって、外国語圏から発せられた外国語ネイティブの表現に、そもそも直接アクセスする必要性も、好奇心も、欲望もないってことじゃないですか(笑)。

田中宗一郎
田中宗一郎

―昔に比べて、今のほうがよほど海外の情報や作品へのアクセスが楽になり、様々な国の文化に触れやすい状況のはずなのに、なぜそうなってしまったんでしょうね。

田中:僕らの世代が子どものころ、つまり1960年代後半から70年代前半というのは、テレビから普通にロシアやイタリアの音楽が流れていたんですよ。カンツォーネ(イタリアの大衆歌曲)やコサック的なリズムに無意識に接していた。チャンネルを回すと『万国びっくりショー』(1960年代から70年代に放送されたテレビ番組。世界各国の参加者たちが芸を披露した)のような番組がやっていたし、南米のキューバンジャズとかに当たり前に触れていたんです。

―そういえば昭和の歌謡曲にも、60年代ロックや南米音楽、ジャズやシャンソンなど世界中の音楽の要素が混じっていましたね。そういう音楽を意識せずとも聴いていたのが、後に洋楽へハマっていく下地を作っていたのかも。

田中:そう。ロックンロールのなかには、ヒルビリー(カントリー音楽の一種)もブルーズも、ラテン音楽も入っている。THE BEATLESがカバーしている“Twist And Shout”(1963年)なんかまさにそうですよね。

THE BEATLES『Please Please Me』収録曲

田中:日本の民謡やコテコテの演歌は当然のこと、テレビから流れてくる世界各国の民族音楽やクラシックよりも、THE BEATLESやパンク、ディスコ音楽を聴くほうが自分たちの日常の感覚に近かった。食から何から戦後のあらゆるアメリカ文化に浸かって、育った世代ですから。

自分の周りの限られた世界よりも、THE BEATLESやオーティス・レディングを聴いているときのフィーリングのほうが、自分にとって圧倒的にリアルだと感じる。それって、RCサクセションの“トランジスタ・ラジオ”(1980年)の世界ですよね(笑)。<ベイ・エリアから リバプールから このアンテナが キャッチしたナンバー>が、<彼女 教科書 ひろげてるとき ホットなメッセージ 空に溶けてった>って。自分が恋している少女が知るよしもない、まったく別の世界の扉がここにあるんだってことに気づかされるわけです。

以前は存在した権威や権力、パワーの、底が抜けたような現象が、いろんな局面である。

―そういう海外の音楽や文化に触れることで、「自分」というアイデンディティーを形成していったところもきっとありましたよね。

田中:今まで全く知らなかったものを見たり、聴いたり、読んだりすることで、新しい自分自身を発見できた。そういう体験が今、圧倒的に少なくなっていますよね。しかも、内向きになっているのは日本だけじゃない。全世界的な現象です。アメリカでは排外主義を掲げるトランプ政権が生まれ、イギリスはEU離脱を正式通知した。それ以上に、以前は存在した権威や権力、パワーの底が抜けたような現象が、いろんな局面であります。

田中宗一郎

―たとえば?

田中:まずマスメディア。朝日新聞へのロイヤリティーなんて、30年前と比べたら全くないと言っていい。テレビ局への信頼も地に落ちましたよね。極端な話、朝日だろうが読売だろうが、フジテレビだろうがNHKだろうが、ある程度の権威は存在したほうが「便利」じゃないですか。なぜなら、権威や権力が存在すれば、それを基準に相対的に物事を考えることができるから。

でも、今はあらゆるパワーが底抜けしている。『snoozer』という雑誌を作っていたときはわりと楽で、90年代~00年代にはメインストリームのポップというのがあって、それに対して媚びる大手のメディアという構図があった。僕たちは、それとは別の体系を「オルタナティブ」として提示しているんだということを、わりとクリアに打ち出せたんですよ。

―2003年にブッシュ政権がイラク戦争を始めたとき、皮肉にもカルチャーは盛り上がったじゃないですか。それと同様に、トランプ政権が誕生したことによりアメリカのカルチャーが活気づくこともあるんじゃないかと見ているのですが……。(コラム:トランプ大統領誕生の日に全米のアート機関がスト? 著名美術家も賛同

田中:わからないなあ。今はブッシュ時代とは社会そのものが違っているから。ただ、トランプにしても安倍にしても、言い方は悪いですけど、ヒトラーに比べたら圧倒的に小者ですよね(笑)。ああいった小者の為政者が誕生するのは、今言ったようなあらゆるシステムが瓦解して、たとえ小者だろうが、なにがしかのわかりやすいパワーを求める人たちがいるからなのかなと。そこに対する処方箋の提示の方法というのはすごく難しい気がします。分断が進むだけ、という可能性もある。

Page 1
次へ

リリース情報

SPOON『Hot Thoughts』
SPOON
『Hot Thoughts』日本盤(2CD)

2017年3月17日(金)発売
価格:2,376円(税込)
OLE-11372

[CD1]
1. Hot Thoughts
2. WhisperI'lllistentohearit
3. Do I Have to Talk You Into It
4. First Caress
5. Pink Up
6. Can I Sit Next To You
7. I Ain't The One
8. Tear It Down
9. Shotgun
10. Us
[CD2]
1. Hot Thoughts(David Andrew Sitek Remix)
2. Can I Sit Next To You(Tyler Pope of LCD Soundsystem Remix)
3. Can I Sit Next To You(ADROCK Remix)

イベント情報

『club snoozer』

2017年4月14日(金)
会場:大阪府 CLUB CIRCUS

2017年4月15日(土)
会場:愛知県 名古屋 Live & Lounge Vio

プロフィール

SPOON
SPOON(すぷーん)

1993年、ブリット・ダニエルとジム・イーノにより結成。バンド名はドイツのバンド、CANの曲名“Spoon”より命名された。1996年、「Matador」と契約し、1stアルバム『Telephono』をリリースすると、PixiesやWireを引き合いに各プレスで高い評価を獲得。以降、『A Series of Sneaks』(1998年)、『Girls Can Tell』(2001年)、『Kill The Moonlight』(2002年)とリリースを重ね、2005年にリリースした5thアルバム『Gimme Fiction』で全米44位の好セールスを記録。6thアルバム『Ga Ga Ga Ga Ga』(2007年)では全米10位、7thアルバム『Transference』(2010年)と8thアルバム『They Want My Soul』(2014年)はともに全米4位にチャートインし、名実ともにUSインディーシーンにおけるトップバンドの地位にのぼりつめる。2017年3月、共同プロデューサーにデイヴ・フリッドマンを迎えた9thアルバム『Hot Thoughts』をリリースした。

田中宗一郎(たなか そういちろう)

編集者、音楽評論家、DJ。1963年、大阪府出身。雑誌『rockin’on』副編集長を務めたのち、1997年に音楽雑誌『snoozer』を創刊。同誌は2011年6月をもって終刊。2013年、小林祥晴らとともに『The Sign Magazine』を開設し、クリエイティブディレクターを務める。自らが主催するオールジャンルクラブイベント、『club snoozer』を全国各地で開催している。

SPECIAL PR 特集

もっと見る

BACKNUMBER PR 注目のバックナンバー

もっと見る

PICKUP VIDEO 動画これだけは

edda“不老不死”

<私というバケモノが 生まれ落ち>というフレーズで始まる、不老不死の主人公の悲しみや無力感から死を願う楽曲のPV。歌うのは、その歌声に儚さと透明感を同居させるedda。ファンタジックながらもどこか暗い影を落とす楽曲世界と、ドールファッションモデルの橋本ルルを起用した不思議な温度感のある映像がマッチしている。(山元)